小さなキューピッド (長編10頁)
「弟の悠人だ。よろしくな。来年度は箱学に入学予定なんだ。悠人、こちらは同じチャリ部の荒北靖友。エースアシストだよ」
新開がお互いを紹介する。
「……」
「……」
悠人と荒北はガンを飛ばし合っている。
互いに頭の先からつま先まで不躾に舐めるように観察する。
「……よろしく。靖友くん」
「荒北さん、と呼べ。それから兄貴のことは隼人くんじゃなくてお兄様、だ」
「はぁ?」
プーッ!
新開が吹き出した。
ゲラゲラと腹を抱えて笑っている。
その笑い転げている新開の胸ぐらを掴み、荒北は突っ掛かる。
「オイ!どーゆーコトだよ。オメーが正月休み退屈で退屈で仕方ないから遊びに行こうっつーからわざわざ出てきたんだぜ。子守りするなんて聞いてねーよ」
「隼人くんに乱暴するなヤンキー!」
「ンだと?ボウズ」
メンチを切り合う悠人と荒北。
「いいんだよ悠人。靖友はいつもこんなだ」
「いつもこうなのかよ!」
「悪りィなぁ、ボウズ」
ニヤリと笑う荒北。
悠人は信じられなかった。
今日は確か、兄の片想いの相手であるツンデレ美女と会ってキューピッド役を務める予定だった筈だ。
なのに、現れたのはガラの悪い、乱暴で、デレの要素の欠片も無い……男なのだ。
「隼人くん!」
悠人は新開の腕を引っ張ってヒソヒソ話をする。
「オレを騙したの?」
「騙す?いや騙してなんかいないよ」
「じゃあ……じゃあ、あれが、あの野獣が隼人くんの想い人なの?」
悠人は恐る恐る聞く。
「……うん。今日は頼りにしてるよ、悠人」
新開はポッと頬を赤らめながら言う。
悠人は青ざめた。
嘘だ。
これは夢だ。
でなけりゃ、隼人くんがあの野獣に騙されてるんだ。
そうに違いない。
許せない。
どんな手を使ってるのか知らないが、隼人くんを惑わすあの野獣から隼人くんを守らなくちゃ。
隼人くんの目を覚まさせるんだ。
なにがキューピッドだ。
オレが退治してやる!
悠人はかたく誓った。