小さなキューピッド (長編10頁)
驚く新開と荒北に向かって、悠人は大声でハッキリ言った。
「隼人くん!靖友くんも隼人くんのこと好きだって!」
「!!」
「えっ!」
荒北は声にならない悲鳴をあげて飛び上がった。
新開は息を飲む。
「靖友くんは、隼人くんがイケメン過ぎて女の子にモテるのが不満なんだって!だけど、隼人くんのダメダメなとこが凄い愛しくてたまんないんだって!」
「ゆっ!悠人!テメ……」
「……靖友」
荒北は赤面と蒼白が一緒になって顔が紫色になっている。
「“隼人”って呼ばないのは照れ臭いからなんだって!」
「ギャーーー!!」
「そうだったのか?靖友」
頭を抱えて悲鳴をあげる荒北。
「コイツ全部バラしやがっ……悠人テメェ殺す!!」
荒北は悠人に飛びかかろうとするが、新開がガシッと抱き締めて離さない。
「隼人くん!オレもうこれで帰るから!あとでちゃんと恋人同士になった証拠写真送って!じゃーね!」
悠人は笑顔で両手を振り、あっという間に駅方向へ走り去って行った。
「待てゴラ悠人ォォ!逃げンのかテメェェェ!!」
荒北は叫ぶが、もう悠人の姿は見えない。
「靖友……」
新開は荒北を抱き締めたまま尋ねる。
「悠人の言ってたこと……ホント?」
「ぐっ……」
荒北は真っ赤になって声が詰まる。
「嬉しいよ靖友。オレもずっと前からおめさんのこと……」
「……え?」
驚いて新開の顔を見る荒北。
「今日悠人を連れて来たのは、キューピッドになってもらうためだったんだ」
「……な、なんだってェ?」
予想もしていなかった展開に荒北の頭は混乱しかけている。
「靖友の本心が知れて良かった。好きだ靖友。もうオレのもんだ。絶対絶対誰にも渡さない」
「新開……」
新開は荒北をよりきつく抱き締める。
「隼人って呼んでくれよ」
「いや、それはちょっと……」
「呼んでくれるまで離さない」
「それよりオマエいい加減そのウサ耳取れ」
ピロリロリン。
帰宅した頃、悠人の携帯にメールが届いた。
新開からだった。
タイトルは〈悠人ありがとう〉。
添付画像には、二人が恋人繋ぎをしている手のアップが写されていた。
「良かった。大成功だ」
悠人はホッとした。
メール本文には、こう書いてあった。
〈今夜は泊まっていくから。母さんにそう伝えといて〉
「早っ!!隼人くん早っ!!」
悠人は爆笑した。
キューピッド役を無事完遂し、充足感で満たされる悠人。
自室のベッドに寝転がり、スズメ蜂のキーホルダーを眺めながら来年度のことを考える。
箱学に行ったら、どんな出逢いが待っているのだろう。
自分も、兄のように素敵な恋人が見つかるだろうか。
見つかるといいな。
悠人は思いを馳せるうち、瞼が重くなっていった ──。
おしまい