下着泥棒 (中編4頁)
「……ホラ」
差し出された荒北の使用済みパンツを、新開は目を輝かせて奪い取り、早速スーハーし始める。
翌日から荒北は新開に使用済みパンツを与えることにした。
下着泥棒は立派な犯罪だ。
それを止めさせたかった。
それと、この妙な性癖(?)を他人に矛先を向けたり等エスカレートさせないためだ。
新しいパンツを毎回買っていては金が勿体ないので、一晩匂いを嗅ぎまくった後はちゃんと洗濯するという約束をさせた。
見ていると、本当に自慰行為には使用していないようで、純粋に匂いを嗅いでいるだけだった。
一応チラッと確認したが、勃起もしていない。
つまり、これはよく犬や猫などペットの肉球の匂いが好きだという飼い主が一定割合いるのと同様なのだと、だんだん解ってきた。
「だからってそれがよりによってオレのパンツかよ」
荒北は幸せそうに恍惚の表情を浮かべてスーハーしている新開を眺めながら「それを黙って眺めてるオレも大概だよな」と思っていた。
そもそものきっかけは、新開が脱衣場で滑った拍子に荒北のカゴを掴んでしまい、結局カゴと一緒に転び、目の前に荒北の使用済みパンツがファサッと落ちてきて、その時に偶然匂いに目覚めたという。
「靖友」
「んあ?」
新開がパンツから顔を上げて、不満そうに声をかけた。
「最近匂いが薄い。意識的に清潔にしてるだろ」
「あ、当たり前だ!匂い嗅がれンの解ってて不潔に出来っか!」
荒北は真っ赤になって怒鳴る。
「それじゃダメだ。今度3日ぐらい履き続け「黙って嗅いでろボケナスが!!」
荒北は新開の頭をはたいた。
こんな姿、女子が知ったら幻滅どころじゃ済まないだろうに。
荒北は心配になるが、新開のこんな秘密を知っているのは自分だけだということに少し優越感を覚えていた。
しかし同時に、新開が興味があるのは自分ではなく、自分のパンツだということが少し面白くないとも感じていた。
「まさか自分のパンツに嫉妬するたァ……」
そう言いかけて荒北はハッとした。
嫉妬?
オレ何言ってんだ?
いかんいかん。
新開に毒されて、このアブノーマルな世界に引き摺り込まれかけているのだ。
気をしっかり持たねば。
荒北は首をブンブンと振った。
気付いたら新開は眠っていた。
荒北のパンツを大事そうにしっかり握っている。
幸せそうな安らかな寝顔だった。
「……」
荒北は風邪をひかないよう布団をかけてやった。
「…………」
新開の寝顔をじっと見つめる。
その無防備な頬に、そっと口づけをした。
「!!」
瞬間、ハッとなって新開から跳ね退ける。
オレ、今なにした?
なにやっちまった?
オレ、なんかおかしくないか?
荒北は慌てて新開の部屋を出て行った。