下着泥棒 (中編4頁)
「……パンツがねェ」
風呂から上がった荒北は脱衣場で途方に暮れていた。
替えの下着はあるので部屋へ帰ることに支障は無いのだが、無くなったのは……脱いだ方のパンツだった。
一応脱衣場内をゴミ箱の中までくまなく探したのだが、見付からない。
「なんかの拍子に誰かの衣類に混ざっちまったんだろうが……なんせ使用済みパンツだからなぁ」
特に名前が書いてあるわけではないので、もう戻ってくることはないだろう。
柄もよくある無難なチェックのトランクスだ。
怪しいパンツがあったとしても、荒北自身でさえ「それは自分のモノだ」と断言出来る自信はなかった。
間違えて持って行ってしまった誰かが、今後も気付かずに使用するのだろう。
「ちっ。しゃーねーか」
荒北は諦めた。
「……パンツがねェ」
このセリフを言うのは、これで3日連続だった。
明らかにピンポイントで荒北のパンツが盗まれている。
「まさかこの寮に変態がいるとはなァ。てか、オトコなんてみんな変態だけどヨ。いやしかし、野郎の使用済みパンツを盗むってのは筋金入りのド変態だよなァ」
ぶん殴ってやりたいのは山々だが、犯人を突き止めるのを躊躇する事件だ。
犯人を知るのが怖い。
相手はド変態だ。
妙な逆恨みをされたら何をされるかわからない。
誰かに相談するのも躊躇する。
その相談した相手が犯人だったら?
だが、このまま疑心暗鬼が続くのも日常生活に支障が出る。
他に被害者がいるという話も聞かない。
「……自衛するしかねェってことか」
例えば下着は部屋で脱いでから風呂へ行くとか。
いや、そんなことしたら不在中に部屋に入られたりするかもしれない。
「パンツに唐辛子でも塗ってやっかな……」
色々考えたが、なかなかウマイ自衛策が思い付かないまま、4日目を迎えた。
「……パンツがねェ、が……」
今日も使用済みパンツは盗まれていた。
が、今までと違う現象が起こっていた。
荒北の脱衣カゴに、白いビニール袋が置いてあったのだ。
学校から一番近いコンビニの袋。
その中に開封されていない新品の下着が4つ入っていた。
荒北はそのコンビニの袋を手に取り、脱衣場の床に叩き付けた。
「弁償すりゃイイってモンじゃねーだろ!」
怒りが沸いてくる。
「それともなんだ?新しいパンツはどんどん用意すっからこれからも安心してパンツ脱いでくれってかァ?オレが合意したと思ってやがンのかコイツぁ!」
荒北はコンビニの袋を足でゲシゲシ踏みつけながら罵倒する。
「コイツまさかオレのパンツ、ネットで販売とかしてねーだろうなァ」
得体の知れない不気味さを覚え、荒北はゾッとした。
もう、躊躇している場合ではない。
福富に相談しよう。
そう決断した時だった。
こんな所に落ちているはずのない物が、そこにあった。
「…………」
荒北は怒りで全身がワナワナと震え出す。
落ちていたのは、チョコバナナ味のパワーバーだった。
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