新開の悩み事 (短編2頁)





目眩が激しくなってきたので東堂は椅子を勧められて助かったと思った。

気を落ち着かせるため、わざと少し時間をかけて座った。

新開が構わず話し続けようとするので、一旦区切ろうと口を挟む。

 

「しかし隼人よ。よくあの野獣を落とすことが出来たな。どうやって口説いたのだ」

 

誰もが抱く疑問だろう。

いったいどんな甘い台詞を吐けばあの荒北をその気にさせることが可能なのか。

是非知りたいところだ。

 

新開はそれを聞かれてキョトンとした。

 

「どうやってって……おめさんエロ過ぎだろヤらせてよって言っただけだよ」

「ド直球だなオイ!」

 

東堂は目眩に加えて頭痛もしてきたが、なんとか精神を保ち質問した。

「……で、そう言われて荒北はどう応えたのだ?」

 

新開はおとといの荒北とのやり取りを思い出し、正確に答えた。

「『ハァ?何言ってんだテメー。オイ!くっついてんじゃねーよ!ちょ、待て!マジか!やめろ新開!うっ、うわああああああ!!』」

「それはレイプだ隼人よ」

 

 

 

東堂は頭を抱えた。

しかし新開はそんな東堂の気も知らず、話を続ける。

 

「済んだあと、俺気付いたんだ。ああ俺って靖友のこと好きだったんだ、って」

 

ほんのり頬を赤らめながら新開は語る。

自分の犯した事の重大さに全く自覚などない。

東堂はもう突っ込む気力も無くなっていた。

 

 

「だから翌日、ゆうべのことだけど、また靖友んとこ行って告ったんだ」

 

 

東堂はそれを聞いてハッと顔を上げた。

 

「そ、そうか!ちゃんと告白したのか!じゃあ合意なのだな!それで荒北はなんと?」

「『また来やがったのかテメー!昨日1回だけでいいっつったじゃねーか!っざけんなクソが!ばっ、やめろ!何すんだこのボケナスがぁ!うぎゃあああああああ!!』」

 

 

 

東堂は机に顔を突っ伏した。

その後頭部に向かい新開は語りかける。

 

「なあ尽八。どうやったら靖友は俺のこと好きになってくれるのかな」

「……隼人よ。貴様はまず人の話をちゃんと聞くところから始めようか」

「え?聞いてるよ俺」

「貴様のやっていることは犯罪なのだぞ」

「ん?そう?そりゃ困ったな」

「よぉ、二人で楽しそうな話してんじゃナァイ。俺も混ぜてくんねーかな」

「!」

「!」

 

二人が顔を上げると、いつの間にか校庭から戻って来た荒北が脇にサッカーボールを抱えて立っていた。

口元は笑っているが、その表情は今にも人を殺しそうなぐらい激怒していると判る。

 

「や、靖友!俺……」

「っせ!死ね!!」

怒鳴りつけられた新開は立ち上がりかけたまま固まってしまった。

 

「あ、荒北、これはな、」

「テメーも死ね!!」

「俺もか!」

東堂もショックで動けなくなってしまった。

 

荒北はサッカーボールを蹴り飛ばし、当たったドアは外れて廊下にズシャーンと派手な音を立てて倒れた。

教室にいた生徒も廊下にいた生徒も全員凍りついて荒北を見ている。

 

 

「クソが!」

荒北は倒れたドアを上から踏みつけて教室を出て行ってしまった。

 

「靖友!待ってくれ靖友!」

誰よりも一瞬早く我に返った新開は慌ててバタバタと荒北を追いかけて行った。

 

 

「……な、難問だ」

東堂は軽はずみに首を突っ込んでしまったことを後悔した。

とりあえず頭痛と目眩が酷いので、二人が戻ってこないうちに医務室へ行こうと決めた。

 

今日はもう完全に練習にならない。

福富にいったいどう説明すれば良いのか。

東堂の頭痛はさらにパワーアップしていった。

 

 

 

 

 

おしまい








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