新春企画 『貴方と共にあるということ』




カーテン越しに窓から射す光にミハエル・ブランは炬燵からのっそりと起き上った。

SMSに入隊し、新統合軍に一時身を置いてまたSMSに帰って来た銀河の誇るお姫様は、SMSの寮に入ろうが、統合軍の宿舎に住まいを変えようが、新築に引っ越そうが、この炬燵だけはいつまでも手放さないでいたのをずっと不思議に思っていたのだが、その謎もここ数カ月一緒に住むようになって至極納得がいった。
―――ぬくい。
プロトカルチャーの文化最高だね、と思いながら起き上ってテレビをつけると例のごとく季節を大切にするフロンティアのテレビ番組は特番が組まれており、途中から見ても解らない番組の内容にすぐ飽きてテレビの電源を切った。
昨日はアルトと二人で紅白歌合戦を見ていた。「最後まで見ないとお仕置きするんだからね!」と紅白のトリを仰せつかったらしい、今ではめっきり身近な存在になってしまった銀河の妖精ことシェリルに、アルトがそうしつこく言われたらしく、律儀な性格のアルトに付き合って最後まで見てしまった。
紅白の結果は言わずもがな、男性陣には散々だった。来年は熱気バサラでも連れてくればいいと思う。あれじゃあ紅白歌合戦の前から勝敗が見えていた。
ふあーと欠伸をして首を回す。実は少々眠い。
いつもはどれだけ起きていても次の日に三時間以上の睡眠が確保できればしゃっきりと起きていられるというのに、不思議な話だ。
ちらりと携帯で時計を見ると、午前9時を少し回ったところである。寝坊した、との感覚はない。
今日は鬼畜なSMSも二人してオフにしてもらった。クリスマスに働いたのだからこれくらいは許されるだろう、と申請したらあっさり許可をくれた。内心驚いたが、ランカが新年の生放送の収録で忙しくなるから家に居ても味気ない、とオズマ・リーが言っていたと隊員の一人から聞いて、彼についていきたい独身の男たちで年を明かすという、飲んだくれのお祭り騒ぎのせいらしかった。まぁそれには感謝だ。
炬燵のテーブルに懐いていると、トントントンという懐かしい音を聞いた。そう言えば、隣で寝ていたはずのアルトがいない。
「んー・・・」
起ききっていない頭で筋を伸ばすと、キッチンの方からくすくす、と笑い声が聞こえた。
「・・・やっと起きたか。」
アルトの声がいつもよりまろいので、炬燵から立ち上がってキッチンへと移動する。優秀な床はギシッとも音を立てない。二年前くらいまではいつ抜けるかはらはらした床は、今は新築の床へと切り替わった。
「おはよ。アルト。」
いつものように高い位置で結われた髪がさらりと音を立てた。こちらを振り向いたアルトを、後ろから抱き込む。
「あー・・・今日も姫はぬくい。」
「バカ言ってねぇで、髪の毛どうにかして来いよ。カニみたいになってんぞ。」
「いいの。今日はゆっくりしたい。」
「できないと思うが・・・。」
「・・・何で?」
上を向いたアルトは困ったように―――真実困っているのだろうが―――溜息を吐いた。
「お前、アイツが言ってたこと忘れたな?」
「・・・・何でございましょう。」
「今日は11時くらいからランカ連れてくるって言っただろ?二人とも収録が同じだからって。大体生が朝終わったら明日まで無いんだと。年末はそういうのの収録に追われてたからな。息抜きだとよ。」
「嘘!」
「言ってどうする。」
「あー・・・そういやルカとかも新年の挨拶に来たいとか言ってたな。ならナナセも来るよなぁ。」
「だから今料理してる。シェリルが日本料理が食べたいと抜かしたからな。」
「あー・・・良いにおい!お節か!そしてごめん!超忘れてた。」
「まぁいい。だから髪の毛どうにかしたら、お遣いに行って欲しいんだが・・・ダメか?」
「いいよ、姫のお願いなら大歓迎だ。」
「なら、なんか飲み物と、お菓子頼む。足りないだろうし。・・・店は、」
「コンビニなら開いてるだろ。無けりゃSMSの購買に行くよ。」
「すまん、頼む。・・・・あ、ミハエル!」
バスルームに向かおうとした俺にアルトは首を少し傾げて少し視線を伏せた。
「どうした?」
「ミハエル、明けまして・・・おめでとう。」
その瞬間、ボッと耳まで熱くなった俺は、アルトの方を向いた。
「明けまして、おめでとう。今年もよろしく。」
頬を少し紅に染めたアルトは、困ったように首を元に戻すと照れながら左手で横髪を掻きやった。朝日に細いシルバーリングがキラリと光った。

『今年初めての挨拶』

ちょっと・・・早く来すぎたみたいですね。
・・・そのようね。全く、この私を外で待たせるなんて・・・!
あれ?シェリルさんとランカさん、インターホン押しました?
だめ!
ランカさん?
ルカくん、今押しちゃだめ。絶対!絶対!ダメだからね!
はぁ・・・。
すみませーん!遅れてしまいました!
ナナちゃん!
ちょっとだけ早く来ようと思ったんですが、皆さんどうしたんですか?早乙女君たち居ないとか・・・?
そういうわけじゃないのよ・・・。
ならインターホン押しますね。
ああ!!

ピンポーン


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