新春企画 『貴方と共にあるということ』
行くわよ!という明るい声で叩き起こされた俺は、どこに?と言う暇もなく転がるように準備を始めた。
時間は朝の6時前。
おいおい、早朝過ぎるだろうよと思ったが、おめかしした美少女三人組を連れての神社参拝なら答えはイエスだ。
それがあの、涼宮ハルヒであっても。
美少女で、頭が良くて、神様なハルヒだが、彼女は割りと『定番』が大好きだ。
あの夏休みを思うと、とても苦い気持ちになるが、なんてことない夏休みの『定番』がひとつ、それも友達全員で宿題を終わらせるというコレが欠けただけで何万回も繰り返されたなんて思うと、ハルヒの言う『定番』には従った方が得策だと、俺を含めたSOS団のメンバーは学習してしまったのだった。
・・・そんな学習はしたくはなかったが。
とは言え、着物なんぞ持ってない俺としては少々困ったことになった。
古泉はきっと組織とやらの力で用意されそうだが、もう俺はそのままの普段着で行ってやるさ。
眠る妹を横目に階下へ降りると、母が笑いながら「あけましておめでとう」と声を掛けてきた。
「彼女?彼女と、新年にデートなの?やっだー!」
母よ、目をキラキラさせるんじゃない。
「いつも集まるメンバー。今日は着物着てくるらしい。俺は勘弁だ」
「あらー。ますます怪しい!あんた贅沢よ!?クラブの皆はみんな美人なんだからー!きゃー!うちのボンクラな息子にもとうとう春が!」
「ほっとけ。春は来てない。贅沢は言わない。俺は一般人がいい。ああ、一般人だ!」
テレビを付けると、湯気が上がったお雑煮が出てきた。
「はい、お兄ちゃんの分。お餅は少なめよ。」
今からの買い食いを見越しているな。
「古泉くんや、涼宮さんたちにもお汁粉作っておくから、参拝過ぎたら家にいらっしゃい」
「はいはい、言っとく。ありがと」
親はありがたい。顔を見ずに言ったので、母は笑いながらキッチンへ戻った。
冷蔵庫から、昨日出来上がったばかりのおせちの用意をしているので、好きな具材を残しておいてくれとお願いをするのを忘れずに。角煮ときんとんは俺のものだ。
にぎやかな新年の放送は、CMからしておめでとう、の言葉で溢れている。
今年も一年が始まった。
キラキラしい、という言葉を皆様は実感したことがあるだろうか。俺は今直視している。
「なによ。」
ぶすくれてはいるが、目の前の美少女は、紛れもなく美少女で。
「恥ずかしいです~」
涙目の美少女も、とても美少女で。
「・・・、動きにくい。」
ぼーっとした顔の美少女も美少女で。
「こんなに美しい三人と、新年になって早々に神社の参拝に行けるなんてとても光栄です。」
古泉、お前少し黙ろうか。
いや、この中に俺まざるの?
「あー・・・」
「なによ」
「あけまして、おめでとう。」
俺が頭を下げると、恥ずかしそうにしていた朝比奈さんがにこやかに笑った。
「あけまして、おめでとうございます。皆さんと、今年もこうして居られて幸せです。」
女神よ・・・!
「おめでとう、ございます?」
首を傾げた長門だが、「そこはおめでとうでいいのよ」と笑ったハルヒが皆に向き直った。
「今年も!SOS団で楽しむわよ!」
「ぜひ!」
声を上げた古泉はほっといて、
「・・・ほどほどにな。朝比奈さん、ピンクの着物似合ってます。長門、青い着物に羽の飾り、可愛い。・・・ハルヒ。」
「なっ、何よ。」
「馬子にも衣しょ」
ゴスっと脇腹に強烈なハンドバッグが入る。「ぐえッ」と声を上げるとハルヒが睨みつけたのが分かった。え、そのバック鉛でも入ってんの?
古泉の笑顔が怖いが許してくれ。もう少し。呻きながら手を上げる。
「でも、今年1番だ」
きゃあ!と朝比奈さんが声を上げて、長門と古泉の目がまん丸になる。
柄にもないことは解っているが、三が日は古泉を働かせる訳にはいかない。
今年一年は三が日で決まると俺は真面目に信じているので。
な、神様。
目の前の神様は顔をゆでダコのように赤くすると、くるっと器用に後ろを向いた。
「さぁ!全員集まったから、目指すは神社よ!」
お前は合戦にでも行くつもりか?
そのままスタスタ歩くハルヒを見て、朝比奈さんと長門が後を追った。
「一時はどうなるかと思いましたが、」
「おーお前もきまってるぞその紺の着物。」
「ありがとうございます。キョン君は・・・着ないんですね。」
「持ってないからな。」
「言っていただけたら組織で手配をしましたのに。」
「大丈夫だろ。」
「根拠は。」
「朝早くに連絡してきたからだ。」
「それはそれは。事前連絡無しだったのですね?僕たちには冬休み前に言ってましたが。」
「俺は聞いてないから、これで正解なんだ。」
「・・・相変わらず、あなた方の信頼関係は面白いです。今年も、よろしくお願いします。」
「それは神様にお願いしてくれ。」
歩きが遅い俺たちを、ハルヒは仁王立ちで「遅いわよー!」と声を上げる。
「行きましょう。」
ゆっくり近づくと、「二人で何か企んでるわね?」とジト目で言われたので、そんな顔をするんじゃないと注意した。
「母さんが皆にお汁粉をふるまいたいそうだ。参拝が済んだら家に来ないか?」
と声を掛けた。
4人が4人とも嬉しそうに笑うので、母は偉大だと痛感する。
メールで全員家に連れていくと送ると、秒でオッケーの絵文字が返ってきた。
混んだ境内は色々な匂いがする。イカ焼きとか、わたあめとか、炭火の匂いだ。何食べようかと思案していたら最前列にやってきた。
二礼二拍手一礼。
『今年も、隣にいる神様の機嫌が良いままでありますように』
皆で引いたおみくじは末吉。
神様、俺は今年もそこそこに幸せで、でもへとへとになる一年になるということなんだな。
・・・勘弁してくれ。
嘘でもいいから大吉をお願いします。
合掌
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