その他のお礼小説


ふらふら~ふらふら~と左右に揺れながら廊下を歩くその人物を見て僕は“やってしまった”と目頭を押さえる。
・・・そういえばここ数日彼は僕に近寄って来なかった。前回の『食事』から早一ヶ月強。いくらなんでもこのままだとよろしくない。僕は消火器にぶつかってよろけた彼の右腕をぐっと掴んだ。
「今日の学校はここまでです。・・・文芸部室に行きましょう。」
昼休み終了七分前。彼の手には飲みかけのトマトジュース。
「平気だ。」
僕を映した瞳が真紅に染まる。出てきた言葉と反して限界だ、と告げる体。
「平気な訳ないでしょう、行きますよ。」
力の入らない体を半ば強引に引きずって部室に向かう。その道中、僕はひたすら後悔していた。
「お腹が空いたら、言って下さいって何度も言ったでしょうに!」





――――突然な話で大変申し訳ないのですが、彼・・・キョン君は吸血鬼です。
僕が彼のこの特性を知ってしまったのは、キョン君に超能力者であることをカミングアウトした日で、差し込む光の中彼はトマトジュースを飲みながらぼやきました。
『・・・古泉。お前は今“俺は一般人だ”とそう言ったが、それは間違いだぞ。』
視線を下に言う彼が酷く疲れているように見えた僕は、彼のその言葉を促しました。
『僕の機関の調べではあなたは一般人ですよ。・・・それ以外に理由がおありですか?』
質問した僕に彼は笑うと『じゃあ、その理由を聞いたらお前は俺に協力するな?』と逆に質問を返しました。
今考えると、そのときの彼はとても切羽詰まっていたのでしょう。そして僕は、機関の調査を掻い潜った彼の秘密が知りたくて、ひとつ頷きました。
そこで知ったのがこの事実だったのです。



昼休みが終わるチャイムの音が鳴る頃に、僕達は部室に着きました。誰もいない部室塔を歩く最中、キョン君が倒れかけたので僕は彼の片腕を持って支えています。

*****


「キョン君、部室に着きましたよ。ご飯にしましょう。」
彼はコクン、と頷くと僕にそろそろ~っと手を伸ばしてきました。首に腕を回されるのと同時に僕は自分のネクタイを緩めます。彼は僕の耳元で「すまん」と小さく言った後、小さく口を開き僕の首をペロ、と舐めました。続いて小さな痛み。
「・・・ん」
ちゅう――――と首から血液が吸われることに慣れてしまったのはここ最近のこと。コクコクと彼の咽が僕の血を嚥下することに安堵する。・・・仲間うちでも彼は少々困った人のようで、『いつも自分の限界に達しないと食事をしないのよ!』と妹さんが言っていたのを
おぼろげだが思い出します。だから僕は、限界に近づくと飲み始めるトマトジュースを、彼なりのSOSだと思っている。わかりやすいですよね、トマトジュース。
ペロペロと首を舐める感触で我に返ると、彼が申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「・・・もう、いいんですか?」
「あぁ。もう十分だ。」
「もう少し飲んだらどうです?あなたのことだ、どうせまた一ヶ月くらい我慢するんでしょう?」
「・・・そのときはまたもらうからいい。」
僕はため息を吐くと、キョン君を抱きしめた。やはりというかなんというか、前回よりも細くなっている気がする。あーあ、ただでさえ細いのに。
「・・・トマトジュース、そんなに美味しいとは思えないんですが。」
彼の茶色い髪の毛を撫でながら、抱き上げてパイプ椅子に座る。向かいあう形で座って、彼の背中をぽんぽん叩くと、彼の目がトロンっと下がった。
「あんま、美味くない。」
「なら、毎週金曜日に僕の家に来てください。・・・トマトジュースよりお腹いっぱいにして差し上げますよ。」
彼はスリスリと僕に擦り寄ると、「でも迷惑だろ・・・?」とつぶやいた。声がもう眠たくてたまらない、と言っている。
「迷惑ではありません。」
「・・・でも」
「じゃあ、貴方がご飯を作ってください。交換条件です。」
「わかった。」
彼は、はにゃんと笑うと僕の腕の中で眠りに落ちた。空腹に苛まれる期間は、眠ってもすぐに起きてしまって、眠れないことが多いのだ。と、いつぞや彼が言っていた。果たして彼は何日眠ってなかったのだろうと考えて、やめた。きっと一週間は確実に寝ていない。
「こうなる前に来てもらいたいんですが。」
スースーと眠る彼の髪の毛を撫でながらそんなことを思う。額に口付けを落とすと、彼はムニャムニャと口を動かした。



「トマトジュースなんかより、僕にしてください。絶対お得ですよ。」

僕は部室の机の上に置かれた飲みかけのトマトジュースを睨み付けながら呟いた。・・・野菜ジュースは当分の間は飲みたくないな、と思いながら。

End


キョンは、三年前から吸血鬼~ではなく生まれつきです。
古泉はその契約者で、キョンは古泉の血しか飲めない設定です(入れられなかった駄目設定)
キョンは古泉にあう前まで、繁華街のヤンキーを蹴って殴って記憶飛ばしてからご飯にありついていました。物騒ですね!



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