パロディ
讃えるべきはその叡知。
尊ぶべきはその美貌。
敬うべきはその気高さ。
彼に不要な部分などありはしない。
戴国の麒麟は人間嫌いで有名だった。
戴国の麒麟は、紫眼に艶やかな黒髪の黒麒として生を受けた。
髪が金色でないのは、出来損ないである、と生まれた当時は多くの者に言われたが、しかし彼はそれを撥ね退け、前例に無いほど優秀な麒麟となった。
彼を守っていた女怪は、歴代の女怪の中でも人型に近く、人語を発する事が出来、そして美しかった。
彼は女怪を真実“母”と慕い、女怪もまた“息子”としていたく可愛がった。
泰麒はしばらくは平和な世界を生きたがある日、母と慕っていた女怪を人間に撃ち殺されてからその性格は一変した。
必要以上の人間は一切近付けず、荒々しくなり、人は例外なく警戒し、疑う。
誰にも気を許さない泰麒を、人々は泰麒は王を立てないのではないかと噂した。
そんな泰麒を癒したのは宝山の近隣にすむ小さな少女だった。
彼女はナナリーという名前で、両目とも目が見えず、病弱で、また両足とも動かすことが出来なかった。
優しい彼女と話すことにより泰麒は癒え、そして泰麒は彼女に膝を着く事を決心した。
しかし、時は既に遅かった。
思い立った次の日、泰麒が単身で彼女の元に行ったとき、彼女は前の日に出た高熱に耐えきれず息絶えたあとだった。
王にと決めた少女が逝った事により、泰麒は全てになげやりになってしまった。呆然と毎日を過ごし、少女の元に行きたいと女官の目を盗んでは自傷行為を繰り返した。
そんな折りに、景麒が蓬莱から流されてくる。流されて来た景麒はまだ子供だった。
それなのに全身が痣だらけで裂傷が目立ち、顔色が悪く、肋骨が皮膚の上から触れる程にやつれ、また痩せていた。
景麒は何日も起きる気配を見せず、要領が悪く忙しい女官に代わって泰麒―――ルルーシュは看病することにした。
眠る景麒の体はつけられた暴力の痕が生々しく、そっと体を拭く度に歪められる顔が酷く痛々しかった。
景麒が目を覚ましたのは、彼が宝山に流されて来てから八日経った日の事だった。
彼ははじめルルーシュを拒絶していたが、かいがいしく世話を焼くルルーシュにいつの間にか懐き、泰麒のあとをヒヨコの様にひょこひょこ着いて回るようになった。
よたよた、と歩幅が若干大きい自分の後ろを、怪我を負った足で着いて回る綱吉に、最初ルルーシュは『じっとしていろ』とよく言った。しかしそう言うと綱吉は、ルルーシュが戻った後部屋の隅で膝を抱えてしくしく泣いている事が多かったので、ルルーシュは自分が出かけるときは必ず綱吉も連れて行くことにした。
ルルーシュはまるで弟にするように綱吉を可愛がった。
そんな中、泰麒は一人の青年に逢う。
機嫌良く出かけた森で、運悪く罠に引っ掛かってしまった時、青年は朗らかに笑って罠をといた。
下心は見えず、正義感に溢れ、はっきり言って好感が持てた。
彼の名は枢木スザク。後に137代目の泰王になる男だった。
「あんの体力バカが!」
大きな宮を泰麒は足早に進む。華奢な腕に乗せられて居るのは重要書類ばかりだ。
そんな彼を見た使令の一人がルルーシュに近寄る。
「なになに~どうしたんです?主。」
世にも珍しい麒麟以外での一角獣、それも人型がとれて人語を解す使令にルルーシュは眉を吊り上げた。
「ロイド!あのバカを見なかったか?」
ロイド、と呼ばれた使令はむむむっと考えると「庭に寝てると思います」と言ってにんまぁと笑った。
左目に大きく縦に入った傷が前髪から覗く。
ルルーシュは悲しい顔を見せると、やわらかくその傷に触れた。
「気になります?これ。なんなら眼帯でも・・・」
ロイドはルルーシュに瞳を向けると、そう言った。ルルーシュは頭を横に振る。
「嫌だ。お前の瞳が見れなくなるじゃないか。せっかく綺麗な空色をしているのに。」
眼鏡をルルーシュはロイドからはずす。ロイドはルルーシュのその動作に目を細めた。
「こんな傷、たいした事ありませんよ。」
ロイドは、己よりも少しだけ低い身長のルルーシュを抱き寄せると、少しだけ屈んで彼の左目に口付けを落とした。
「ロイド!」
いきなりの使令の行動に、ルルーシュは顔が真っ赤にまった。ロイドは、そんなルルーシュの顔を満足げに見ると、彼が手にしていた眼鏡を取り返して微笑んだ。
ロイドの目に入った傷は、ルルーシュを守ったときにできた傷だった。
彼の母親とも呼ぶべき存在・・・女怪が死んだとき、ルルーシュはその場所にいた。殺したのは壮年の男で恰幅がよく、茶色い髪の毛をまるでロールケーキのようにグルグルと巻いていた。
男は、女怪の血に濡れて動けない麒麟に切りかかった。その時に男が手に持っていた剣を、ロイドが自らの角で弾いたのだ。
男の剣は後方に弾け、ロイドはさらに男の腹に一発お見舞いした。男に二発目を食らわそうとロイドが突進したとき、男が隠し持っていた小刀で切りつけられたのだ。
けれど隻眼になってもロイドは怯まず、男が気絶するまで攻撃を続けた。
男が戦闘不能になって倒れてやっと、ロイドは死んだ女怪と気を失ったルルーシュを抱え、宝山に戻ってきて、それから倒れた。
それは、ルルーシュの数多くの使令の中でも一番の働きだった。
だからルルーシュはロイドに絶対の信頼を置いている。
「そう、見せ付けないでくれるかなぁ。ロイドさん。」
木の陰から出てきたのは、泰王その人である。
緑の湖面を思い起こさせる瞳に、四方八方にくるくるとはねた髪の毛。肌は少し日に焼けていて体の造りはまだ発展途上の感じが抜けない。
泰王は武王である。
戦略に長け、頭脳を最大限に駆使し、物事を理知的に考えるルルーシュ・・・泰麒とは違い、彼は考えるよりも先に体が動くタイプだった。
人々はそれを体力馬鹿という。
だがこの体力馬鹿、超がつくほどのお人好しでもあった。・・・幾分か黒い部分もあるが。
「ロイドさん、僕のルルーシュにセクハラ紛いのことはしないでくださいよ。」
スザクが溜め息混じりにそうつぶやくと、ロイドはうふふ、と気持ち悪く笑った。
「セクハラなんてしてませんよ?これは、主とスキンシップをとってるんです。あは☆うらやましぃんですか?」
「こらロイド!・・・すいません主上。」
ロイドが言ったことに対してルルーシュが謝る。
「ルルーシュ。いいんだよ、君のせいじゃないだろ?問題は、そこの銀髪なんだから。」
にっこり。
「あのねぇ君。この世の中『銀髪』なんてたぁーくさんいるんだよ?それに僕の主はこの髪の毛も気に入って下さっていますし、褒め言葉ですよ?それ。」
そういうとロイドは自分の髪の毛をくるくると指に絡めた。
ワナワナワナと震える自国の王に、ルルーシュは額を押さえた。
・・・まったくこの人は。
「・・・主上。」
ルルーシュが泰王を呼ぶと、スザクは顔をあげる。うるうると瞳が今にも泣きそうだ。
「ルルーシュ。」
「政務がお済になられていないですから、直ちに部屋に帰って書類に判子を押して下さい。このままでは我が国の経済が恭に負けてしまいますよ。」
「・・・それはごめん。」
「まったく。先ほどまで何処をほっつき歩いてたんだ。」
ルルーシュが問いただすと泰王はしゅん、と小さくなって「市井に行ってました」と答えた。ルルーシュは額に手を当てる。
「はぁ。市井に何かありました?」
ルルーシュが溜め息混じりに聞くと、泰王は真剣な目つきで言った。
「慶の噂を聞いた。」
その言葉にルルーシュが黙る。
「慶が、どうかなさったんですか。」
慶はルルーシュにとっては弟の様な存在がいる国。彼は今、景王と共に執政についているはずだ。
「王が、謀反によって殺された。」
「・・・!綱吉はっ」
「麒麟は生きているが、そうとうな重傷だそうだ。蝕を引き起こしたそうだから、もしかしたら余波が来るかもしれない。」
「そんな。」
「ルルーシュ、」
「主上。」
「我が国も起ったばかりだからこんなことが起こるかもしれない。・・・一人にはならないほうがいい。ロイドさん。」
「はぁい?」
「ルルーシュのこと、見ててね。」
ロイドは、「はぁい。」と手を上げた。
去って行った王の背を見送って、それにしても、とロイドはルルーシュの背にに垂れかかって口を開いた。
「自国を庇護してくれる王と麒麟を害するって、そいつらよっぽど死にたいって事なんですかねぇ。」
「それだけ頭がないんだろう。」
「ルルーシュ様にかかったらみぃんな脳無しですって。」
「・・・綱吉が心配だ。人間がッ!麒麟に手を出すとは。」
「慶王が新しく取り立てた側近が先ず許さないでしょう。彼らは麒麟には絶対に危害は加えない。でもきっと景は荒れるでしょうね。」
「こんな形で主を失うなど。あの子は慶王に逢ってようやく笑うことができたというのに!」
「台輔、どうなさいます?」
「現状を見に景まで。その後は、宝山だ。あの子が心配すぎる。」
「解りました、お供します。」
「頼む。」
人が死ぬのは嫌だと思う。
自分の母であった女怪が殺されたときに、それを強く感じた。スザクが悪を行った者を仕方なく処罰するときでさえ、そうすることが当然だと思っているのに、体が竦んで動けなくなり、身を切る悲しみが体を支配する。
あの赤い液体は体の自由を奪って思考を澱ませ、ただ此処に自分があるのかないのかすら解らなくさせるのだ。
ルルーシュは目を瞑った。そして考える。
その赤い液体を出しているのが、スザクだったら、と。
考えて、そして首を振る。そんなの到底考えられない。否、考えたくない。特殊な事例だが、ルルーシュは一度、王に決めた人物を亡くしている。
多くを望まなかった少女。
指先まで透き通った白い肌をしていて、その膝もとには温かな慈愛にあふれていた。
失った時はまるで半身を千切り取られたように痛くて。そして自分を果てしなく呪った。
『なぜ、もっと早くに。』
今想像したように、血を出して動かないスザクを自分が見たら今度こそ心臓が止まるのではないだろうか、と思う。
自分はきっと、彼以上の王を見つけることが出来ないと本気で思っている。
だから必要以上に目を光らせて、政治的には甘い武王を立ててきた。自分にできることはこれくらいしかないからである。傍にいることを許されたのなら、できうる限りのことはしたかった。それが生きている理由。
相手が居なくなるなんて考えられない。
だが、景麒はそんな目に遭ってしまったのだ。
一面焼け野原になってしまった、見渡す限りの荒野を、ルルーシュは空から見下ろしていた。ところどころで燻っている火はあるものの、消火に向かっている。
これが綱吉の引き起こした蝕か、とルルーシュは唇を噛んだ。小さくて幼い景麒が如何に酷い悲しみにさらされたのかがわかる。
優しくて、穏やかな子だった。苛烈な自分より余程麒麟らしかったのに。慶王と並び立った様子は、我が事のように誇らしかった。
焼け野原を見下ろすルルーシュに、ロイドは口を開いた。
「仮朝は、うまく機能しているみたいだ。」
「側近がしたんだろう。だがやはり王がいる。」
「国は王と麒麟で成り立ちますからねぇ。」
「貴族の館から多く火が上ってるな。大方、無能の仕業か。」
「そう考えるのが妥当ですね。」
「行くぞ。」
「もう良いのですか?」
「いい。どうせ仮朝はうまくいっている。泰に影響はなさそうだ。あとは、綱吉だ。」
ルルーシュはユニコーンに変わっているロイドの背に乗って角を触れる。笑った気配のロイドに眉を下げて宝山に行くよう、指示した。
ロイドは笑って頷くと、一気に走りだした。
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尊ぶべきはその美貌。
敬うべきはその気高さ。
彼に不要な部分などありはしない。
戴国の麒麟は人間嫌いで有名だった。
戴国の麒麟は、紫眼に艶やかな黒髪の黒麒として生を受けた。
髪が金色でないのは、出来損ないである、と生まれた当時は多くの者に言われたが、しかし彼はそれを撥ね退け、前例に無いほど優秀な麒麟となった。
彼を守っていた女怪は、歴代の女怪の中でも人型に近く、人語を発する事が出来、そして美しかった。
彼は女怪を真実“母”と慕い、女怪もまた“息子”としていたく可愛がった。
泰麒はしばらくは平和な世界を生きたがある日、母と慕っていた女怪を人間に撃ち殺されてからその性格は一変した。
必要以上の人間は一切近付けず、荒々しくなり、人は例外なく警戒し、疑う。
誰にも気を許さない泰麒を、人々は泰麒は王を立てないのではないかと噂した。
そんな泰麒を癒したのは宝山の近隣にすむ小さな少女だった。
彼女はナナリーという名前で、両目とも目が見えず、病弱で、また両足とも動かすことが出来なかった。
優しい彼女と話すことにより泰麒は癒え、そして泰麒は彼女に膝を着く事を決心した。
しかし、時は既に遅かった。
思い立った次の日、泰麒が単身で彼女の元に行ったとき、彼女は前の日に出た高熱に耐えきれず息絶えたあとだった。
王にと決めた少女が逝った事により、泰麒は全てになげやりになってしまった。呆然と毎日を過ごし、少女の元に行きたいと女官の目を盗んでは自傷行為を繰り返した。
そんな折りに、景麒が蓬莱から流されてくる。流されて来た景麒はまだ子供だった。
それなのに全身が痣だらけで裂傷が目立ち、顔色が悪く、肋骨が皮膚の上から触れる程にやつれ、また痩せていた。
景麒は何日も起きる気配を見せず、要領が悪く忙しい女官に代わって泰麒―――ルルーシュは看病することにした。
眠る景麒の体はつけられた暴力の痕が生々しく、そっと体を拭く度に歪められる顔が酷く痛々しかった。
景麒が目を覚ましたのは、彼が宝山に流されて来てから八日経った日の事だった。
彼ははじめルルーシュを拒絶していたが、かいがいしく世話を焼くルルーシュにいつの間にか懐き、泰麒のあとをヒヨコの様にひょこひょこ着いて回るようになった。
よたよた、と歩幅が若干大きい自分の後ろを、怪我を負った足で着いて回る綱吉に、最初ルルーシュは『じっとしていろ』とよく言った。しかしそう言うと綱吉は、ルルーシュが戻った後部屋の隅で膝を抱えてしくしく泣いている事が多かったので、ルルーシュは自分が出かけるときは必ず綱吉も連れて行くことにした。
ルルーシュはまるで弟にするように綱吉を可愛がった。
そんな中、泰麒は一人の青年に逢う。
機嫌良く出かけた森で、運悪く罠に引っ掛かってしまった時、青年は朗らかに笑って罠をといた。
下心は見えず、正義感に溢れ、はっきり言って好感が持てた。
彼の名は枢木スザク。後に137代目の泰王になる男だった。
「あんの体力バカが!」
大きな宮を泰麒は足早に進む。華奢な腕に乗せられて居るのは重要書類ばかりだ。
そんな彼を見た使令の一人がルルーシュに近寄る。
「なになに~どうしたんです?主。」
世にも珍しい麒麟以外での一角獣、それも人型がとれて人語を解す使令にルルーシュは眉を吊り上げた。
「ロイド!あのバカを見なかったか?」
ロイド、と呼ばれた使令はむむむっと考えると「庭に寝てると思います」と言ってにんまぁと笑った。
左目に大きく縦に入った傷が前髪から覗く。
ルルーシュは悲しい顔を見せると、やわらかくその傷に触れた。
「気になります?これ。なんなら眼帯でも・・・」
ロイドはルルーシュに瞳を向けると、そう言った。ルルーシュは頭を横に振る。
「嫌だ。お前の瞳が見れなくなるじゃないか。せっかく綺麗な空色をしているのに。」
眼鏡をルルーシュはロイドからはずす。ロイドはルルーシュのその動作に目を細めた。
「こんな傷、たいした事ありませんよ。」
ロイドは、己よりも少しだけ低い身長のルルーシュを抱き寄せると、少しだけ屈んで彼の左目に口付けを落とした。
「ロイド!」
いきなりの使令の行動に、ルルーシュは顔が真っ赤にまった。ロイドは、そんなルルーシュの顔を満足げに見ると、彼が手にしていた眼鏡を取り返して微笑んだ。
ロイドの目に入った傷は、ルルーシュを守ったときにできた傷だった。
彼の母親とも呼ぶべき存在・・・女怪が死んだとき、ルルーシュはその場所にいた。殺したのは壮年の男で恰幅がよく、茶色い髪の毛をまるでロールケーキのようにグルグルと巻いていた。
男は、女怪の血に濡れて動けない麒麟に切りかかった。その時に男が手に持っていた剣を、ロイドが自らの角で弾いたのだ。
男の剣は後方に弾け、ロイドはさらに男の腹に一発お見舞いした。男に二発目を食らわそうとロイドが突進したとき、男が隠し持っていた小刀で切りつけられたのだ。
けれど隻眼になってもロイドは怯まず、男が気絶するまで攻撃を続けた。
男が戦闘不能になって倒れてやっと、ロイドは死んだ女怪と気を失ったルルーシュを抱え、宝山に戻ってきて、それから倒れた。
それは、ルルーシュの数多くの使令の中でも一番の働きだった。
だからルルーシュはロイドに絶対の信頼を置いている。
「そう、見せ付けないでくれるかなぁ。ロイドさん。」
木の陰から出てきたのは、泰王その人である。
緑の湖面を思い起こさせる瞳に、四方八方にくるくるとはねた髪の毛。肌は少し日に焼けていて体の造りはまだ発展途上の感じが抜けない。
泰王は武王である。
戦略に長け、頭脳を最大限に駆使し、物事を理知的に考えるルルーシュ・・・泰麒とは違い、彼は考えるよりも先に体が動くタイプだった。
人々はそれを体力馬鹿という。
だがこの体力馬鹿、超がつくほどのお人好しでもあった。・・・幾分か黒い部分もあるが。
「ロイドさん、僕のルルーシュにセクハラ紛いのことはしないでくださいよ。」
スザクが溜め息混じりにそうつぶやくと、ロイドはうふふ、と気持ち悪く笑った。
「セクハラなんてしてませんよ?これは、主とスキンシップをとってるんです。あは☆うらやましぃんですか?」
「こらロイド!・・・すいません主上。」
ロイドが言ったことに対してルルーシュが謝る。
「ルルーシュ。いいんだよ、君のせいじゃないだろ?問題は、そこの銀髪なんだから。」
にっこり。
「あのねぇ君。この世の中『銀髪』なんてたぁーくさんいるんだよ?それに僕の主はこの髪の毛も気に入って下さっていますし、褒め言葉ですよ?それ。」
そういうとロイドは自分の髪の毛をくるくると指に絡めた。
ワナワナワナと震える自国の王に、ルルーシュは額を押さえた。
・・・まったくこの人は。
「・・・主上。」
ルルーシュが泰王を呼ぶと、スザクは顔をあげる。うるうると瞳が今にも泣きそうだ。
「ルルーシュ。」
「政務がお済になられていないですから、直ちに部屋に帰って書類に判子を押して下さい。このままでは我が国の経済が恭に負けてしまいますよ。」
「・・・それはごめん。」
「まったく。先ほどまで何処をほっつき歩いてたんだ。」
ルルーシュが問いただすと泰王はしゅん、と小さくなって「市井に行ってました」と答えた。ルルーシュは額に手を当てる。
「はぁ。市井に何かありました?」
ルルーシュが溜め息混じりに聞くと、泰王は真剣な目つきで言った。
「慶の噂を聞いた。」
その言葉にルルーシュが黙る。
「慶が、どうかなさったんですか。」
慶はルルーシュにとっては弟の様な存在がいる国。彼は今、景王と共に執政についているはずだ。
「王が、謀反によって殺された。」
「・・・!綱吉はっ」
「麒麟は生きているが、そうとうな重傷だそうだ。蝕を引き起こしたそうだから、もしかしたら余波が来るかもしれない。」
「そんな。」
「ルルーシュ、」
「主上。」
「我が国も起ったばかりだからこんなことが起こるかもしれない。・・・一人にはならないほうがいい。ロイドさん。」
「はぁい?」
「ルルーシュのこと、見ててね。」
ロイドは、「はぁい。」と手を上げた。
去って行った王の背を見送って、それにしても、とロイドはルルーシュの背にに垂れかかって口を開いた。
「自国を庇護してくれる王と麒麟を害するって、そいつらよっぽど死にたいって事なんですかねぇ。」
「それだけ頭がないんだろう。」
「ルルーシュ様にかかったらみぃんな脳無しですって。」
「・・・綱吉が心配だ。人間がッ!麒麟に手を出すとは。」
「慶王が新しく取り立てた側近が先ず許さないでしょう。彼らは麒麟には絶対に危害は加えない。でもきっと景は荒れるでしょうね。」
「こんな形で主を失うなど。あの子は慶王に逢ってようやく笑うことができたというのに!」
「台輔、どうなさいます?」
「現状を見に景まで。その後は、宝山だ。あの子が心配すぎる。」
「解りました、お供します。」
「頼む。」
人が死ぬのは嫌だと思う。
自分の母であった女怪が殺されたときに、それを強く感じた。スザクが悪を行った者を仕方なく処罰するときでさえ、そうすることが当然だと思っているのに、体が竦んで動けなくなり、身を切る悲しみが体を支配する。
あの赤い液体は体の自由を奪って思考を澱ませ、ただ此処に自分があるのかないのかすら解らなくさせるのだ。
ルルーシュは目を瞑った。そして考える。
その赤い液体を出しているのが、スザクだったら、と。
考えて、そして首を振る。そんなの到底考えられない。否、考えたくない。特殊な事例だが、ルルーシュは一度、王に決めた人物を亡くしている。
多くを望まなかった少女。
指先まで透き通った白い肌をしていて、その膝もとには温かな慈愛にあふれていた。
失った時はまるで半身を千切り取られたように痛くて。そして自分を果てしなく呪った。
『なぜ、もっと早くに。』
今想像したように、血を出して動かないスザクを自分が見たら今度こそ心臓が止まるのではないだろうか、と思う。
自分はきっと、彼以上の王を見つけることが出来ないと本気で思っている。
だから必要以上に目を光らせて、政治的には甘い武王を立ててきた。自分にできることはこれくらいしかないからである。傍にいることを許されたのなら、できうる限りのことはしたかった。それが生きている理由。
相手が居なくなるなんて考えられない。
だが、景麒はそんな目に遭ってしまったのだ。
一面焼け野原になってしまった、見渡す限りの荒野を、ルルーシュは空から見下ろしていた。ところどころで燻っている火はあるものの、消火に向かっている。
これが綱吉の引き起こした蝕か、とルルーシュは唇を噛んだ。小さくて幼い景麒が如何に酷い悲しみにさらされたのかがわかる。
優しくて、穏やかな子だった。苛烈な自分より余程麒麟らしかったのに。慶王と並び立った様子は、我が事のように誇らしかった。
焼け野原を見下ろすルルーシュに、ロイドは口を開いた。
「仮朝は、うまく機能しているみたいだ。」
「側近がしたんだろう。だがやはり王がいる。」
「国は王と麒麟で成り立ちますからねぇ。」
「貴族の館から多く火が上ってるな。大方、無能の仕業か。」
「そう考えるのが妥当ですね。」
「行くぞ。」
「もう良いのですか?」
「いい。どうせ仮朝はうまくいっている。泰に影響はなさそうだ。あとは、綱吉だ。」
ルルーシュはユニコーンに変わっているロイドの背に乗って角を触れる。笑った気配のロイドに眉を下げて宝山に行くよう、指示した。
ロイドは笑って頷くと、一気に走りだした。
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