パロディ

その慈愛に満ちた眼差しは、常に民達に注がれる。


慶麒は、一言も喋らないことで有名だった。
いや、喋らない、のではなく喋れない、が正しい。

慶麒は胎果だった。
運悪く流された蓬莱で、彼は「ダメな子」として育つ。幼い頃からそう接され続けられた彼は、彼の歳が七つになる頃にはもう既に己に自信がない子供になってしまった。
そして小学校二年生の一学期に彼はクラスメイトからの執拗ないじめに遇い、それに耐えかね蝕を引き起こした。そして本来自分が居るべき世界に戻って来た。・・・心に傷を負った状態で。
だから景麒は宝山に帰って来ても、彼は永いこと王を定めなかった。


――――人が信じられなかったのだ。


ひたすらに膝を抱え、頑に人との接触を拒み続ける子供に、後の128代目景王は嫌がる景麒に近付き、強かに殴った後、思いっきり抱き締めた。
呆然とする景麒に景王は、「一人じゃない、抱えるなら王と抱えなよ」と説き、それをきっかけに、景麒は少しずつだが回りに心を開くようになった。

128代目景王に選ばれた男、雲雀恭弥は絶対的な王意に溢れた、正しく『王』だった。
乱れた政を良しとせず、民に優しい政治・治安を初勅とし、それを妨げる者は片っ端から排除していく。排除した人材の補充は、新たに科挙制度を定め、民衆から優秀な者を次々に登用した。
景王は、私利私欲に走ることはなく、自らは生活費を削ってでも民の為に傾いた国を建て直す為に尽力した。


民の、王への信頼は絶大だった。



景麒は仁王を立てた、と人々から受け入れられ、また景王はやっとはにかんで笑う事を覚えた景麒をいたく可愛がる。
景麒は、たどたどしくも甘える事を覚え、景王もそれを優しく甘受した。
景麒は少しずつだが幸せを感じる様になった。
子供らしく学び、元気よく庭を走り回る。朗らかに笑う。民に慈悲を与え、景王と並び立つその姿は輝かしく、真に麒麟と言えた。

だが平穏は長くは続かない。

景王は賢君だった。しかしそれ故高潔過ぎた。
悪は許さず、特に政に関わる者達には自分と同じだけの厳しさを要求した。「お前、いらない」と言うのが彼の口癖。
排除された者の復帰は難しく、科挙制度によって無能な貴族達はやがて政から退けられた。


王は、貴族達に疎まれるようになる。


景王が立って十六年目。ついに貴族達の間で王を殺す為の反乱が起こる。
弱い景麒は角を封じられ貴族達に連れ去られた。
景麒は散々なじられ、また暴力を受けた。
景王は景麒をなんとか取り戻そうと力を尽したが、裏切った多くの貴族達に同時に斬り付けられてしまった。
王が景麒の所までようやく辿りついた時には彼はもう既に、息も絶え絶えだった。
血にまみれた王は、麒麟にとって『毒』そのものだったが、しかし景麒は目を反らさず、王の最期を受け入れた。
128代景王は、十数年連れ添った麒麟に「すまない」と一言だけ遺し、抱き寄せた後、逝った。
貴族は王自身の攻撃によってほぼ壊滅。
王は死に、麒麟は唯一を喪った痛みに絶叫し蝕を引き起こし国は荒れた。
民は貴族達を呪い、主を永遠に喪った麒麟を憐れに思った。


仮朝を起こした男は、雲雀から新たに登用された民衆の出だった。


男は、景麒と同じ胎果だった。
傷だらけの(それこそ心も体も)景麒を優しく介抱し、次の王が立つまでは・・・と男は宝山に連れて行った。
仮朝はこの上なく上手く機能する。
雲雀を偲び、雲雀の政治方針のもと、国民・国家はひとつになった。
やがて二年月日が経ち、宝山に旗が上がった頃。
男――――山本武は宝山に登った。
列に並んでやっと会えた麒麟は、出会って触れた時の様に血にまみれては居なかったが、いつか見た景王と並び立った時のような輝かしい生き物ではなくなっていた。
目は虚ろに淀み、腕は自分が少し力を入れただけで簡単に壊れてしまいそうに華奢で、そして何より、ずっと聞いていたかった慈愛に溢れた声が、失せていた。




「―――――ツナ。」
景王、山本武の一言に、綱吉・・・景麒はバッと振り返った。
大きく開かれた窓の外には煌々と明るい市井が見下ろせる。
「ん?市井を見てたのか。」
聞けば、真っ暗な部屋の中コクンッと綱吉は頷いた。
現在は夜である。


景麒は喋ることが出来ない。その小さな唇が紡ぐ事が出来るのは、頼りなくヒューヒューと空気が抜ける音だけになってしまった。
最後に蝕を起こした時・・・雲雀が死んだ時から綱吉は喋ることができなくなったのだ。
精神的なもの、ということは理解している。
しかし、景麒はいつもすまなそうに目を伏せる。
それが129代目景王にとっては堪らなく悲しかった。


スル・・・と軽い衣ずれの音がして、腹に温かいものが触れる。
「ツナ。」
ぎゅっとしがみついて、ぐりぐりと腹に額を擦り付ける綱吉に、山本武はフッ・・・と笑った。

―――――愛しい。

「どーかしたか?ツナ。」
再度問掛けると、煌々と明かりの付いた市井を指差し、その後で綱吉は時計を見た。
「ん?あぁ、大丈夫。人権に反した労働はさせてない。ソレはやってない。禁止してる。」
言うと、ツナはホッと息を吐いた。
「今日はお祭りだかんな。」

バーン!音がして、花火が打ち上げられる。
景麒の華奢な体は一瞬ビクッと震えたが、夜に咲く花を見て、目をキラキラと輝かせた。

「な?」
山本武はそう麒麟に確認をとると、景麒はとても嬉しそうに笑った。
それが愛らしかったので、山本武は景麒をそのまま抱き上げた。
元野球選手の彼は何て事ない動作だ。抱き上げた綱吉の体は細く、軽い。
グンと高くなった視界に景麒はきょとんと山本を見下ろす。

外からは祭の賑やかな音が聞こえる。
「――――行くか?」
山本は聞くと、綱吉はふるふると首を横に振った。

綱吉は、まだ多くの人と会うのが怖いらしい。

まぁ無理もないか。と山本は考えて抱き上げたまま柔らかい褥に綱吉を運んだ。
「夜風に当たりすぎた?少し熱い。」
ゆっくりと下ろして布団を掛けてやると、綱吉は目をトロン・・・と閉じた。
「辛くないか?」
聞くと、綱吉は首を縦に振る。ベッドに腰掛け、安堵の溜め息を吐いたら、コンコンッと扉を叩く軽快な音が鳴った。
「入れ。」
「失礼しまーす。」
入って来たのは、髪の毛を高い位置で結っている女官、三浦ハルだった。
「ハルですよー。ツナさーん、大丈夫ですかー?」
彼女は小さな桶を抱えて、ベッドに近付いた。
「ハル、どうかしたのか?」
山本が聞くと、手拭いを絞りながら彼女は笑った。
「了平さんがですね、昼間に捕ってきた猪をツナさんに自慢しちゃって。お熱が出るかもしれないですから。・・・遅かった、もう既に少し熱いですね。」
彼女は絞った手拭いを綱吉の額に当てる。
「獄寺は?」
「隼人さんは今、了平さんに説教をしています。」
「相変わらず、だな。」
「えぇ。皆さんツナさんが大好きで、可愛いんです。」
山本は、腰掛けていたベッドからサッと立ち上がると、ハルを見た。
「後、頼む。」
ハルは笑って頷いた。
「分かりました・・・主上。」



******


景麒の居る部屋を出ると、景王は足早に会議室に向かった。
「山本!」
立ち上がったのは、経理大臣の獄寺隼人。
「台輔のご容態は。」
山本はそれに笑って椅子に座った。
「少し熱は出ていたが、大丈夫だろ。――――京子、ハルも居るけど一応ツナについててくれ。」
「はい。」
京子は朗らかに笑み、サッと立ち上がると衣を翻しながら出ていった。
「うぬ・・・スマン。」
了平が謝る。
「ハルから喜ばせようとしたことは、聞きました。大丈夫、わかってます。」
「おい山本。」
声を発したのはリボーンだ。
「ん?どーした坊主。」
リボーンは、山本に溜め息混じりに言う。
「雲雀といい、お前といい、景王は何時んなったら俺の名前を覚える・・・まぁいい。貴族間、特に西家が裏でコソコソ何かやってんぞ。」
リボーンの一言に、その場の全員が固い表情になる。獄寺が不安げに山本を見た。
「ツナには今、コロネロとバジルがついてる。まぁ、京子とハルは気付かねぇだろーけど。」
「リボーンさん。」
獄寺が、安堵の声を漏らすと、クフフと笑い声がした。
「余程死にたいんですかね・・・貴族連中は。」
綱吉くんの温情があって生き延びられているのに。
言いながら国防長官の六道骸は優雅にお茶をすする。
「ザンザス、どう思う?」
山本は法政大臣のザンザスに意見を仰ぐ。
「カスには例外なく死だ。」
「ディーノさんは?」
文部大臣のディーノは、眉間に皺を寄せて、「首謀者だけ」と答えた。
山本は「ふむ。」と考えて笑った。
「んじゃ明日西家の当主、呼びだすか。文句があるなら直に俺に言ってもらう。ツナは・・・ツナには指一本触れさせねぇ。」
その一言に全員が力強く頷いた。
「俺ら使令、アルコバレーノも加勢する。ツナを守る為だ。」
先程リボーンと呼ばれた赤ん坊が言った。
「同感だ。アレは二度と起ちゃならねぇ。」
ザンザスと呼ばれた顔に大きな傷のある男は拳を握りしめた。
「決まりだな。じゃあ明日の―――」
山本が言いかけた時、バタバタッと足音がしてバーン!と会議室の扉が開いた。
「主上!」
入って来たのはハルだ。
慌てた様子に、山本と獄寺が直ぐ様立ち上がる。
「どうした!?ハル!」
「ツナさんが・・・」
言い淀んだハルに、山本は駆け出した。

後ろでリボーンが大臣達に指示を出しているのが山本の耳に入って来た。


「ツナ!」
バタンッと扉を乱暴に開けると、出した声に反応した景麒が駆けてきた。
「・・・ツナ。」
綱吉は、山本の着物をぎゅぅぅっと握ってしがみつく。
布が濡れる感触がし、泣いていることが伺えた。
布にしがみつく指をほぐして抱き上げると、今度は首にぎゅぅぅっと腕を回される。
抱き締めたその体が嫌に熱い。
「ツナ・・・どうした?」
背中を撫でると、山本の首辺りで綱吉はイヤイヤと首を振った。
ぽんぽん、と背中を優しく叩く手をそのままに、あとから同じく走ってきたハルに顔を向けると、ハルは悲しそうに顔を伏せた。

「いなくなる、夢を見たみたいです・・・。」

途端にビクッと震える腕の中の存在に、『誰が?』とはきけない。
さらに力を込めて抱きついてくる姿が可哀想でならない。
景王は、安心させるようにさらに抱き締めた。
部屋に居た京子は他の女官を呼んで、部屋に明かりを灯し、テキパキと乱れた褥や溢れた桶の水を片付け始めた。
「ツナさん、」
ハルは、ガタガタと震え続ける恐慌状態の景麒の小さな背中をずっと撫でていた。
「台輔!」
扉を開けてすぐに獄寺が言う。
山本はそれに振り返った。
「無事だ。」
綱吉の背を山本が撫でる。
「台輔が無事ならそれで」
獄寺がほっと息を吐いたその時だった。
部屋の中を京子と一緒に片付けていた女官の一人が、鋭利な刃物を持って突進してきた。
「死ね!」
獄寺が入り口から駆け出すも、間に合わない。
景麒を抱えた山本は反応出来ず、綱吉を守る様に抱き締める。
「・・・ッ!主上!」
ハルがとっさに山本に覆い被さった。
グサッと言う音に、綱吉の瞳が限界まで開かれる。
山本は自身に痛みが来ない事に顔を上げると、ハルが崩れ落ちた。
「・・・ハルッ!」
それを見た獄寺は、女官に素早く近付くと、女官が持っていた刃物を手刀で叩き落とし、拘束する。獄寺はさらに、片付け終わっていた桶の中のおしぼりを女官の口に詰め込んだ。
「三浦殿!」
外からバジルが入ってくる。
「バジル、シャマル呼んで来い!早急にだ!」
獄寺が指示を出す。
「・・・ッ!分かりました。」
バジルが走って部屋の扉を開けたのと同じく、骸が入って来た。
「綱吉君!」
景王は静かに綱吉を床に下ろすと、骸に言った。
綱吉は力なく座り込んでハルの手を握った。眉は悲しげに寄せられ、大きな瞳から涙が溢れる。肩が悲しく上下する。
「骸。ディーノに直ぐ貴族長全員を呼んでくるよう通達しろ。それからザンザスに全宮の扉、特に台輔が居る宮の扉を通る人員を制限させろ。対象は、女官・官吏全て。女官は台輔と宝山を降りてきたハルと、京子、髑髏、花だけ。官吏は大臣と、アルコバレーノ。それ以外は全員例外なく外につまみ出せ、と伝えろ。それからお前に。」
「何でしょう。」
「そこの女がどの家の手の者か聞き出せ。お前の正義に反しなければどんな聞方をしても構わん。連れていけ。」
「貴方がそこまで言うのでしたら。いいでしょう。千種、犬。居るのでしょう?その女を独房にでも放り込んでおいてください。」
骸がそう言って出ていった後、帽子を被った男と顔に傷のある男が女を引きずって行った。
山本がハルを横抱きにするとハルは山本に視線を会わせた。
「主・・・上。」
「喋るなハル。傷が、」
「ツナさんの、部屋を・・・血で・・・」
「何言ってる。部屋ならいくらでもある。・・・すまない、助かった。」
腹部から血がとめどなく出てくる。
「アホ女。しっかりしろ、今シャマルが来る。」
獄寺がハルを覗き込んで言った。
綱吉が山本の袖を引っ張り、褥を指したときシャマルが入って来た。



シャマルは部屋に入ると素早くハルの手当てを始めた。
「大丈夫。必ず助ける。」
シャマルは心配そうに隣に佇む綱吉を見た。
山本はサッと踵をかえした。
「主上。」
獄寺が止め、綱吉が山本の服を急いで握った。
「今から会議なんだ。ツナ、」
ふるふる、と首を振る綱吉に、山本は「大丈夫」と答えた。
「獄寺。ツナの使令とバジルをここに集めて、ここを警護するよう伝えろ。・・・ツナはここに居てくれ。」
綱吉はゆっくりと顔を縦に振る。それを見た山本は穏やかに笑った。



山本が朝議を行う部屋に入った時には既に貴族長達―――――高官が並んでおり、山本に対し頭を垂れた。
山本は中央に位置する段上を登り、玉座に座す。
彼を中心にして大臣達が一列に並んでいる。
パタンッと扉が閉まり、獄寺が最後尾に並んだ。

「主上におかれましては」
高官の中で最も老齢の男が顔を上げた。
「口上はいい。お前達は何故私に呼ばれたか解るか?」
ザワッと高官達が口々に声を出し始める。
「わからないか。では質問を変えよう。お前達は何故生きていると思う?」
その場の空気が一気に凍結する。山本は更に続けた。
「前に言ったように、俺は殺戮が趣味ではない。出来うる限り人の命は奪わないようにしているつもりだ。だが王として、一国の民を率いる者としては絶対に赦せない事が、ひとつだけある。」
王の隣で骸がクフフ、と笑った。
「この国そのものである麒麟を害される事だ。」
何人かの男がハッと息を飲んだ。
「先に何故お前達が生きているか問うたな。綱吉が望んだからだ。謀反をした人間であっても、雲雀を殺した人間でも、この国の民をこよなく愛する綱吉は、殺す事を良しとしなかった。俺はお前達を全て排するつもりだったが、綱吉は頑として否定した。“人がこれ以上死ぬのは嫌だ”と、声が出ない喉を酷使し、泣きながら。だから俺はお前達を生かしている。だが、綱吉を害する者を俺は赦せない。赦せる筈がない。」
山本はそう言うと息を吐いた。
雲雀を手にかけた何人かが震える。


「俺に対して暴力を振るうなら、まだ赦せる。何故なら俺は抵抗する術を持っているからだ。だが抵抗もできない、暴力を極端に恐れる台輔に害をなす事は止めろ。
・・・今日お前達をここに呼んだのはその事だ。
・・・骸。」
「ハイ。」
骸は心得たように踵をかえした。獄寺が入ってきた方とは逆の扉に手をかけ、重い扉をゆっくりと開く。
そして“何か”を掴むと、ソレを中央に投げ出した。
ドサァ・・・と地面と布を擦る重い音がし、先程景麒を襲った女官がゆっくりと顔を上げる。
「この者が先程台輔に謀反をしようとしたんです。」
クフフ、と骸は笑い、床に倒れたままの女の顔を爪先で上げ、そして辺りを見回しながら声高に言った。
「さぁ誰です!?君を差し向けたのは!?」
女は傷だらけの顔を上げ、官吏のひとりを見上げた。
「へぇ、彼ですか。」
骸は足で持ち上げた女の顔を離す。ドサッと音がして女官が床に転がった。
「貴方ですか。綱吉くん・・・台輔に害をなそうとしたのは。」
顔を向けられた男は、みるみる顔面蒼白になっていった。――――リボーンの言った通り、西家の男だ。
「そうか。」
景王は立ち上がり、腰の剣を抜く。と同時にバタンッと扉が開く音がした。
全員の視線が其所に集まる。

「――――ツナ!」

山本は驚いた。綱吉は肩を大きく上下させて必死に山本に走り寄った。
「――――・・・ッ!」
ヒュウ、ヒュウ、と喉が引き攣れる音がする。反逆者の前に座り込み、頭を下げた。熱が出ている体は全体的に赤みを帯び、フラフラと今にも倒れそうだ。
小さな背中に反逆者を庇う様に、山本は眉間に皺を寄せた。
「そこを退け、ツナ。」
綱吉は首を横に激しく振った。
「―――・・・ッ!」
唇が“殺さないで”と形作る。大きく開いた瞳から、透明な雫が伝った。
「台輔、そこを退け!」
綱吉は尚も頑なに首を横に振る。
「そこを「台輔、申し訳ありませんでした!」」
山本が再度綱吉に言おうとしたとき、西家の男が膝を付き、土下座した。
綱吉は後ろを振り向き西家の男に首を横に振ると、相手に駆け寄ろうとした。
「行くんじゃねぇ。」

ザンザスが綱吉の腕を乱暴に引っ張った。綱吉は西家の男と引き離され、ザンザスの腕の中に納まる。
綱吉はひくり、と痙攣して固まった。
「ザンザス」
ディーノが咎め、骸がザンザスの腕の中から綱吉を引き離し、抱き上げる。
「全く。相変わらず乱暴な人ですね。・・・綱吉くんが泣いてしまうじゃないですか。」
骸は抱き上げたまま、綱吉を山本のところまで連れていく。
「で?どーすんだ山本。」
リボーンが山本を睨みつける。使令であるアルコバレーノは、綱吉を傷付ける人間を、片っ端から排除していく。「まさかこのままじゃあねーよな。」と言う目が山本を威圧する。
山本はそれに頷くと、男を見下ろした。
「その男を牢に入れ、十日以内に西家は都からの退去を命じる。」
ザワザワと高官達が騒ぐ。
「これは勧告である。次にこのような事があれば、その時は俺は容赦はしない。貴族全てを滅ぼす。いいな。」
山本はそう言うと、部屋を後にした。綱吉もそれに着いて行った。


長い廊下を無言で進む景王に、綱吉は後ろから助走を付けて腰に抱きついた。
「うぉ!」
山本は、勢いに前のめりになるが踏み止まる。
「こら、ツナ。」
振り返って腰の辺りを見ると、綱吉がにこっと笑った。山本はそれに目を丸くさせると、綱吉を抱き上げる。
「コイツめ!」
抱き締めて頬擦りをすると、綱吉はクスクスと笑った。
綱吉は山本の首にしがみつく。そして顔を上げると口を開いた。
「・・・ァ・・・リ・ァ」
少しだけ、僅かに出る空気を震わせる音。
綱吉は必死に呼吸をしながら喃語を繰り返す。
「ツナ、ゆっくり。ゆっくりでいいから。」
山本は綱吉を抱き締める腕に力を入れた。
「ァ・・・リア・オ・・・ウ」
綱吉はにこっと笑う。
山本は、少し熱っぽい綱吉の体を更に抱き締めた。
「ツナ、声が!」
山本の瞳から涙が溢れる。
もう聞けないと思っていた。雲雀が死んだ傷は永遠に癒える事は無いのだと。
だから自分は綱吉が少しでも安心できる環境を作らねばならないと。
そう、思っていた。
「タ、ケ、シ?」
涙を溢す景王に、景麒が首を傾げる。
「何でもない、ツナ。嬉しいんだ。」
山本はそう言うと、ハルが居る綱吉の部屋に向かった。




目を醒ましたハルは、自らが守り慈しんできた景麒が「大丈夫?」と僅かだが声を発した事に涙を流して喜んだ。彼の使令達は、自分の名前を呼ぶその小さな存在に愛想を崩した。
大臣達の喜びは凄まじいものがあり、一人は涙を滝の様に流して喜び、一人は綱吉を抱き締めて離さず、一人は綱吉の好物(パイン)を呆れる程贈り、一人はハルと一緒に“よかったです”と笑った。
自然に開かれた宴は一週間続く事となり、後に慶を代表するお祭り行事となった。
慶の民達は声を僅かだが出せる様になった景麒を心から祝福した。
また貴族達は自らを襲った反逆者を身を呈して庇った景麒の慈愛に涙を流し、もう二度と謀反を起こすことは無かった。


129代目景王に即位した男、山本武は民衆の意見を聞き、決してワンマンな態度は取らずいつも思慮深い政治をしてみせた。
その隣にはいつも幼い姿をした麒麟が座っていた。

その慈愛に満ちた視線は常に国民に注がれ、慶は景王と景麒の庇護のもと、他国も目を見張るスピードで繁栄していく事になる。


END.

官吏が大臣制なのは、山本が日本人だからです。
大方、リボーンあたりが官吏の説明をしているくらいに、「なぁ、面倒だから、新しい部署名にしていいか?」とか言ったんだと思います(笑)

綱吉はみんなから愛されていればいいわ~♪とか思って書き始めた十二国記パロですが、なんかもう甘々ですね。
ちなみに綱吉の身長は140前後のおチビさんです。
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