鬼滅


『宇髄さんの恨み言と、お空の住人の掛け合い』







「お前らなんてなぁ、今頃あっちで酒盛りしてんだろ、俺一人を置いていきやがって。ちくしょうめ。」

『あぁ、こりゃまた飲みすぎだァ』
『そのようだ。宇髄は存外、寂しがりだからな。』
『奥方を三人も侍らしてなんというか・・・。いつ拝見しても凄く派手ですね。』
『おお!もうじき子が生まれるのか!これはめでたい!祝ってやれぬのが残念だ!』
『あらあら、何かお話したいようですよ?』

「やい煉獄ぅ、お前だよお前。何カッコつけやがって。嫁の一人もこさえないでよ、見ろ、俺は三人もいるぞ。皆美人だ。気立てもいい。今度子どもも生まれるんだ。羨ましかろう。お前の名前頂戴するからな。あっちで悔しがれこの馬鹿たれが。」

『ぬ!俺か!?カッコつけたつもりはない!そうだな、いち早く此方へ来てしまったからな。かたじけない!
うむ、子に俺の名前か?杏寿郎は煉獄の名だからな。そうだ、お前も煉獄になれ!』
『意味わかんねェこと言うな、煉獄。名前を子につけるとしたら杏の字だろうよォ。』
『・・・とてもめでたい。あと三年頑張っていれば抱けたのか。少し悔しいな、不死川。』
『まぁ命の期限だった二十五を過ぎて六年も生きれたんだから大往生だァ。儲けだ儲け。』

「あーあ。始まった。」

『きゃあ!善逸君やさしいわ!宇髄さんの肩に羽織をかけてあげるなんて!』
『そういえば、意外にも気が利いたなあの男。』

「悲鳴嶼さん、こないだそっちに冨岡と不死川行ったんで、ちょっと賑やかになったんじゃねぇっすか?あの二人、犬猿の仲とか思ってたら知らない間にすっかり出来上がっててよ、多分そっちでも花飛ばしながらイチャイチャするだろうから伊黒あたりがうっとおしがるだろうけど、良しなにしてやってください。」

『・・・すでに困っている。空気がなま温かい。どうにかしてほしい。』
『同感だ。』
『・・・イチャイチャはしてねぇ。・・・ハズだァ。』
『冨岡さーん、なんとか言ったらどうなんです?』
『ほっとけ、しのぶ。』
『あら、仲がいいことはとてもいいことだわ。だって、犬猿だったふたりがこんなに仲良しになるなんて私、驚いたもの。嬉しいわ!』
『カナエ、頼むから黙ってくれ。顔から火がでそうだ。』
『冨岡さんあなた、そんな顔もできたんですね・・・。ちょっと気持ち悪いです。』

「やい胡蝶。胡蝶姉妹。お前らもだぞ。なんで十代で勝手にそっちに行ったんだ。俺の許しもなくよぉ。特にお前だ、しのぶ。」

『あらあら、私に飛び火ですか?』

「しのぶお前、体に毒を仕込んで鬼に食わせるなんて酷いこと考えつきやがって。カナヲがどんなに悲しんだか。」

『宇髄さん』

『考えなかったわけないですよ。でもあのクソ鬼を倒さないと、私の妹までまたあのクソ鬼の餌食になるかと思ったら、いてもたってもいられなかったんです。
私は、大切なカナヲが生きてくれたらそれで良かったので。まぁ、これは私の我が儘なんですが。』

「いや、これだけは言わせろカナヲ。こいつらわかっちゃいないんだ。
お前ら姉妹がどんな思いだったか解ってるつもりだが、解りたくねぇ。
そんな覚悟なんて要らなかった。そんな、鬼に喰われに行くような覚悟なんざクソ喰らえだ。
お前なんかさっさと嫁に行っていっぱい幸せになれば良かったんだ。相手はいっくらでも居ただろ。
甲斐性のある旦那五人くらいはできたはずだ。
でも、でもな。お前のおかげで勝てた。上弦の弐だ。よくやった。
流石は蟲柱だ。
でも遺されたカナヲのこと考えたことあったか?辛くなかったわけねぇ。悲しくなかったわけねんだよ。
お前、そこら辺抜けてんだよ。人の機敏が解っちゃいねぇ。
俺がそっちに行ったら説教してやる。だから後百年そっちで待ってろ、いいな。」

『旦那様は五人もいりません。身が持ちません。』
『あら、私は見たかったわよ?しのぶの花嫁さん姿。』
『お姉ちゃん・・・来世に期待してください。あと、百年後くらいになりそうですけれど。』
『説教は受けるのね・・・。』
『私が道に逸れた形で死んでしまったのは本当ですし、宇髄さんには恩があるので甘んじて待ちます。』
『じゃ、私も一緒に待とーっと!』

「え、あんたの年齢にプラス百年ってどんだけ生きる気なのよ!?」

『ふふ、優しいわねぇ金髪の彼。』
『雷の呼吸の使い手で、無限城で一番早く上弦を斬った人だね。炭治郎といつもいる、うるさい人。』
『無一郎君、知ってるの?』
『柱稽古のときに、逃げ出そうとしてたから、弱い奴かと思ってシメたから。』
『・・・やりすぎはよくない。』
『悲鳴嶼さんにだけは言われたくないなぁ。』

「善逸ぅ。お前は俺を看取るの!」
「無理じゃない!?」
「お前馬鹿!善逸!」

「お前、何長生きしないとか言っちゃってんの?」

『『『『いや、無理だろ』』』』
『完全にキレてますねぇ。』
『うふふ、凄い理不尽!酔っ払い楽しい!』

「理不尽な絡み!そりゃあ長生きしたいですよ!?でも流石に百三十以上は無理ですって!頑張っても八十そこらでしょうよ!」
「なにお前、俺の言うことが聞けないってか・・・!?できるとかできないとかじゃねぇんだよ。やんの!呼吸と一緒だ。」

『宇髄、呼吸はそこまで万能ではない。』
『義勇、相手は酔っ払いだァ。』
『全身筋肉の考えることは理解できん。そこはまだ百歳で死んどけ。』
『ふふ、伊黒さんそれでも百歳なのね。』
『・・・長生きはしてほしいのでな。』

「嘘すぎない!?ねぇ脳味噌まで筋肉で出来てんの!?今から百年は無理!現実を見て!」

『我妻に同意。』
『我妻、酒で阿呆になってる男にとどめをさしてやるな。気の毒になる。』
『伊黒さんも優しいわ。そうね、宇髄さん一人にさせちゃったから、寂しいわよね。』

「まぁまぁまぁ。宇髄さん、お酒がすぎてますよ。お茶飲んでください。」

『うむ・・・竈門少年はまた少し痩せてしまったな。』
『俺らの晩年もあんくらい痩せたから、もうすぐだなァ。見てると嫌んなるわァ。炭治郎お前こっち来んなよ。』

「炭治郎、お前よぉ。可愛くないこと言って!まだ呑むの!
お前もだぞ、お前もあと百年生きるんだぞ。俺たちと、楽しい思いしてあと百年。・・・頼むから。頼むから。後生だから。」

『でたぞ、寂しがり。』
『宇髄は素直ではないからな。』
『宇髄さん可愛い!キュンキュンしちゃう!』
『へー、宇髄くんこんな性格なの?もっとお話しとけば良かった。』
『駄目よお姉ちゃん。四番目の奥さんになるかもしれないじゃない!』
『やだ、しのぶが可愛い!あ。可愛いのは前からだった!』
『他所でやれェ。』
『酒を飲んだ宇髄の説教、あれはとても長くなる。』
『理不尽だしなァ。話ぽんぽんとぶしなァ。』
『・・・』

「俺が向こうに行ったら皆さんに言伝てしますね。宇髄さんがとても寂しがってたって。」

『『『『炭治郎、お前はまだ来るな。』』』』

「馬鹿野郎、そんなの。言伝て?まだある。」
「あるんかい!?」

『突っ込みがすげぇ早い。』

「甘露寺と伊黒の祝言の為の式辞も用意してた。神がかって鈍感な二人の為にな。
甘露寺には桜の打掛もだ。伊黒は自分で用意しろ。」

『え、えー!宇髄さんありがとうございます!そんな物を用意してくれてたなんて!嬉しいです!』
『用意しろもなにも、俺は紋付き袴と白無垢を準備していた。まぁ、意気地無しだったから蜜璃には伝えられずに最終決戦になってしまったが。』
『ご用意してましたねぇ。私、ちょっと危ない人かもと思ってしまいました。』
『勘弁してくれ、胡蝶。』
『伊黒さん嬉しい。ありがとうございます!いつか着ましょうね。』

『・・・どうやって?』
『突っ込むな時透。』

「時透お前は酒はだめだ。百年早い。お前、たった十五だった。
体半分斬られて、それでも刀を握ったまま上弦の壱に一矢報いた。
柱三人がかりで死に物狂いでやっと倒せる強い鬼だった。
お前が、文字通り死んでも日輪刀を離さなかったから、諦めなかったから勝てた。とても立派だった。
不死川があの時のお前は本当に凄い柱だったと何度も褒めてた。
だがな、俺は認めない。お前、まだしたりないこと沢山あったろ。
お前も俺の説教待ちだ。胡蝶姉妹の後だからな。正座して待ってろ。
色恋や酒の味を覚える前に逝きやがって。お前も大馬鹿野郎だ。」

『あの時は本当に死に物狂いだったから、あんまり覚えてなくて。
・・・でも不死川さんに認められたのは嬉しい。しのぶさん、カナエさん、僕も説教待ちみたい。』
『じゃあ一緒に宇髄くん待ちましょ!』
『というか、皆待つつもりだろう?』
『やだ、冨岡さんが鋭い!』
『そうだな、皆で宇髄を待とう!あと百年!』
『長げェなぁ。』
『長ければ長い方が、いいな。』

「煉獄、説教から逃げる奴らがいないか見張ってろよ。あと、お前にも説教するからな。お前が一番はじめにそっちに行ったんだから。
それから、炭治郎がそっちに行きかけたら殴ってもいいから追い帰せよ。
お前にしか頼めないからな。
俺らの言うことなんざ聞かないこの頑固者は、お前の言うことなら聞くだろうから。」

『うむ、承知した!竈門少年が此方へ来たら叩き帰そう!』
『お前が言うと含蓄あるよなァ。』

「宇髄さんの言うこともちゃんと聞きますよ。」

『いや炭治郎。お前は兄弟子の俺の言うことも聞かなかった。それを宇髄は知っている。』
『お前も苦労してたんだなァ。』
『何にも考えてないと思ってた。』
『心外!』

「・・・頼むから長生きしろ。」

『一年でも、二年でも長生きしてほしいわね!』
『健やかであってほしいが、それはもう難しかろう。』
『難しくてもそれは皆の願いだ。せめてもう少し、を繰り返してほしい。』

「はい。」
「煉獄が炭治郎をあっちから追い帰してくれたら、お前の仏前に芋羊羹おいてやる。」

『俄然やる気がでたぞ!わっしょい!』

「それは兄上がとても喜びそうです。私も焼き芋、置きますね。」

『これはこれは、大変な任務になりそうだな!必ず成功させなければ!』

「千。」
「お酒が過ぎると思いますので、お茶を用意しましたよ。」
「あのすげー苦いやつ?」

『あれは、死ぬほどマジィ。』
『一度飲んだ時は毒を仕込まれたかと思った。』
『すまんな。父上はお茶を煎れるのが不得意なのだ。』
『え、あの茶ァ槇寿郎さんが煎れたやつなのォ!?』
『そうだが?』
『・・・っふ、ふふ』
『胡蝶、腹を抱えて笑うな。』
『・・・てっきり、千寿郎さんが仕置きで煎れてるのかと思ってましたよ。』
『あの味は何故か父上にしか出せないのだ。どんなに千寿郎が似せようとしてもなかなか。』
『それ、罰に使ってる千も千だァ。』

「そうです。宇髄さんにはお仕置きです。お酒を飲みすぎると、長生きできませんからね。
あと、百年は生きていただかないと。もちろん、有言実行ですよね、祭りの神は。」

『千寿郎は怖い男になった。』
『いや、昔と寸分違わんよ。千寿郎はもともと怖い男だ。そこは、父上と母上の良いとこ取りだと俺は思っている。』
『お館様も、千寿郎もどんな教育すりゃあ、あんな風になるのか知りたかったが、そうか、必要に刈られたからだなァ。』
『そうなる。幼少より煉獄家の奥向きの采配をしていたからな。』
『マジ?』
『マジだ。』
『・・・煉獄は、しなかったのか?』
『出来ると思うか?』
『やろうと思えば出来るのではないか?』
『冨岡、俺はとても不器用だ。』
『・・・?』
『つまり、料理は消し炭にしかならん!』
『それ・・・は。』
『だから煉獄の家の賄いは全て千寿郎が作っていた。弟が頼もしくて、俺は嬉しい!』
『お前の弟自慢は、酒を飲みながら聞きたいところだ。そろそろ、こちらもお開きにするか。』
『悲鳴嶼さん、肴あります?』
『あらあら、二次会?妹自慢なら負けてないわよ!』
『私も!弟妹自慢しますっ!』
『ではそろそろ。』


「皆、長生きしろよ!長生き!あと、お前らは皆正座してまってろよ!」


『宇髄、まだ言ってらァ。』
『じゃあ、あと百年待ちますか。』
『皆で酒を飲みながらなァ。』

END

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