リボーン

『まるで花弁のように』

 たとえば昔僕が言っていたように、世界が真っ白になったとして、・・・まぁそれはそれで美しいと思うんですが、でも少しだけ考えてみたんです。
そこには抗争だとか、恐怖だとかないんですよ。え?それを目指してる?
冗談!
君、僕の話。聞いてました?
そうです。そうそう。ないんですよ、君を守るための抗争だとか、恐怖だとか。まぁ恐怖なんてものは僕は持ち得ないんですけれどね。で、そういうのが無い世界は、とても、非常に、


「不幸だと思うんですよ。」


いきなり現れて、ベッドに腰かけた男はそう言いながら俺の唇に唇を落とした。
「・・・骸、帰ったの?」
唇を離されて体をベッドから起こすと、霧の守護者は少しだけ愛好を崩した。
「えぇ。つい先ほど。相手のファミリーのあっけなかったこと!ええ。ええ、一網打尽にしてやりましたよ。だからご褒美に綱吉君をください。滅多に帰って来ることなんかないんです、それくらいの我が儘、言ったって罰は当たりませんよね?ボンゴレ。」


・・・。


「どうして、俺の守護者はこう、女の子に興味がないのかなぁ。まぁ隼人と良平さんは心配してないけど。」
「おや、お気づきで無い?」
「何が?」
「君が如何に魅力的な存在であるか、です。大体、男が男に“抱きたい”といって“はい、いいですよ”なんて答える男がどこにいるんです?まぁ僕ら守護者は全員がストレートですから当てはまりませんがね。
でも、どうしても繋ぎ止めておきたくなるんです。君はまるで風のようだ。
いけすかないあの鳥だって君の指図には従うでしょう?優しさなんかじゃないですよ。極上の報酬目当てです。」
「鳥とか・・・雲雀さんの前で言うなよ?」
「さて、どうでしょう。」
「骸。」
「・・・しょうがないですね。心にとどめておきましょう。―――さて、僕はこれ以上にないメインディッシュを目の前に、今にも口から涎が垂れそうなんですが。・・・キスをしても?」
「今更聞くなよ。」
「では失礼。」

触れ合った唇を確かめながら霧の守護者の、幾分か伸びた後ろ髪を手に梳く。
目を閉じると、頭を掴まれて深く口づけられた。その間にスルリと右手が寝巻きの下を探るように這う。
唇を離されて、息を乱していると骸は俺の目もとに唇を落とした。


「貴方がいなくなるなんて、もう考えられないんですから、僕がいないところでみすみす死なないでくださいね?」

笑った顔はまるで花弁のようだ。



あーもう、どうしてうちの守護者ってこう、顔が良いんだか!逆らえないじゃん!



END

*****

『ti amo』


その一言は、中々言えない。


「明日はバレンタインですよねー。」
ほややんとした雰囲気で綱吉はそう言った。その一言で俺の思考回路が停止する。
「バレンタイン?綱吉、誰かからもらう予定があるのか?」
立ち止まって肩を揺さぶる。
「ちょっ・・・と、ゆすら、ないで。」
相変わらず肩が頼りない。俺が少しでも力を入れたら折れてしまいそうだ。揺すっていた肩を離して綱吉を見るとほんのりと頬が赤くなっていた。

・・・やりすぎたか。

「違いますよ!貰う予定なんてないですって。・・・ただ、ランボが昨日から騒いでて。だから何か作ろうかなって・・・ザンザスさんは、甘いもの好きですか?」
上目遣いで聞いてくる綱吉に、俺の頭の中はとにかくパニックを起こし始める。
いつもの超直感が悲鳴をあげ始め、表情が作れない。
きっと俺は今、最も恥を見せたくない相手の目の前で、最悪の形で固まっている。

「ザンザスさん・・・?」

潤む瞳、不安をたたえる細い肩。それは無条件で俺の庇護対象になる。・・・むしろ、むしゃぶりつきたい。
「ザンザスさん・・・?甘いもの嫌い?」
綱吉が再度聞いてくる。甘いものは苦手か、苦手でないかと聞かれたら、もちろん俺は苦手な部類に分類される。
あの真っ白な生クリームは、どんな薬物よりも回避したい。ルッスーリアやベルは喜んで食べていそうだが。

だが・・・だが・・・

「嫌いではない。」
そう答えると、綱吉の顔がほころぶ。
・・・苦手は苦手だ。だがそれは綱吉を悲しませてまで貫き通さなくてはならない概念ではないのだ。

「良かった。ザンザスさんに渡そうっておもってたから。」
頬がほころぶ綱吉は犯罪級に可愛い。おずおずと腕を絡めてきて、「迷惑じゃない?」と聞かれた。

迷惑なわけない!!!(力説)

顔の筋肉が動かないことを、コレほどまでに憎く思ったことはない。迷惑でない意図を綱吉の頭を撫でることで分かってもらう。

実際、俺たちの間で言葉と言うのはあまり必要ない。なぜなら相手が今何を考えているのかを粗方直感してしまうからだ。
そしてそれは99パーセントの確立で当たってしまう。超直感とは恐ろしいものではあるが、こういうことに使うと何かと便利である。
だが綱吉はこの超直感をあまりあてにしない。常に人と会話し、心を開いてくれるように努力する。俺には出来ない芸当だ。綱吉に言わせると、「俺の超直感はあんまりあてにならないから」とのことらしい。
・・・謙遜だ。
ふと、視線に気づいて下を見ると綱吉俺を見ていた。
「どうした?」
聞けば、「ごめんなさい、見とれてたんです。」とはにかんで笑った。

・・・愛しい。

「なぁ、綱吉。知ってるか?」
俺は商店街の花屋を思い浮かべながら綱吉に話し掛けた。綱吉はきょとんとしたまま首をかしげる。
「本場のバレンタインっつーのは、男が女にプレゼント渡して愛をささやくんだぜ?」
綱吉は、ボッと火が着きそうなくらい頬を赤く染めた。
「明日、お前の家に行く。」
耳元でささやくと、恥ずかしいのか俯いた綱吉に、少し虐めすぎたか・・・と思ったが気分は良かった。
きっとあのサディストの家庭教師や、忠犬が騒ぐだろうが、
「たまにはいい」

大輪の薔薇の花束を持ってお前の家に。そして誰に憚ることなく言うのだ。

ti amo!

END

*****

『おはよう』


朝。

実は俺は朝が苦手だ。
何故なら俺は低血圧だから。鳥がチュンチュン煩く鳴くと、それだけで俺は持ってるダイナマイトを投げてやりたくなる。イヤ、今までの俺なら確実にやってた。だが最近はしてない。


・・・どっかの野球馬鹿は、朝練とか言うのが好きらしい。
十代目はそれを聞いて、「頑張ってるね。」とお誉めになっていたが、あの馬鹿にはもったいないお言葉だ。そもそも朝練習して、授業中寝てたら意味、ねーし。
近頃俺の朝はとても輝かしい。
それは。


「獄寺君、おはよう。」


彼のこの言葉から一日が始まるからだ。
「おはようございまっす!十代目!今日も十代目のお心のような清々しい朝っすね!」
ニカッと笑い、腰を九十度曲げて朝の挨拶。
きっと、控え目な貴方は俺の挨拶に苦笑するのだろうけど。

そんな貴方も愛しいんすよ?

「ヤだなぁ。そんな大袈裟な。」
眉を片方だけ器用に上げて、貴方は俺の言葉に可愛く反論。
「・・・でも、ホント良い天気だね。」


流れる雲は、風を纏って早く早く流れる。
太陽はぽかぽかとアスファルトの道路を燦々と照らす。
水を含んだ葉が重く垂れ下がる。

鳥達の声。

・・・隣に居る、貴方。
貴方が居れば、世界はこんなにも優しく、当たり前にゆっくり過ぎていく。

「獄寺君、今日の体育何すると思う?俺、バスケだけはやだなぁ。」
「大丈夫ですよ!十代目は何でもお出来になるじゃないっすか。」
「俺なんかてんで駄目だって。何せあだ名は駄目ツナだし。」
「十代目は駄目なんかじゃねぇっス!言ったヤツぁ誰ですか?片っ端から果たしますんで、教えて下さい!」
すると貴方は、真っ青になって手を横に振る。
「いいよ~そんなの。止めてよ。騒ぎは起こさないで。」
「十代目!十代目は全然駄目なんかじゃねぇっす!貴方は、貴方には、とても素晴らしいところが沢山あるんです。解んねぇヤツはほっとけばいい。貴方はそのままでいいんです。」
そう。貴方は十分素晴らしい。
朝、鳥が鳴く度にダイナマイトを投げていた俺。
『おはよう』とか挨拶など家族にも・・・姉貴にさえ言った事などない。
朝は低血圧も手伝って昼近くまで起きない日もあった。

それを貴方が変えた。

一分、一秒だって優しい空気を持つ貴方と共にいたい。
貴方は気付いていないでしょうが、あの野球馬鹿だって、貴方の側ではホッとしたように気が緩む。
雲雀の野郎だって、貴方を目でとらえた瞬間から、少しだけ空気が柔らかく変わる。
パイナップルなんか気も緩む顔も緩む。
何よりあのリボーンさんが、貴方の側か貴方の部屋でしか眠らないんすよ?

十代目は十分凄いッス。

だから、俺は貴方の右腕になりたい。
こんなに気が休まる場所など、もう何処にも無いんです。守りたい。守らせて下さい。守れるような男になりたい。

世界がこんなに優しくて穏やかなこと。
ゆっくりとゆっくりと変化していくこと。
大空がこんなに蒼いこと。


みんな、全部貴方が教えてくれた。


「獄寺君?どうかした?」
「何でもないです。十代目!いやぁ、ホント良い天気ッスねー。こういう日は、一服したいですね!」
「煙草!?やめときなよ!獄寺君の体に悪いよ!」
「今更ですって。」
「ダーメッ!百歩譲って、仕事の時はいいよ?でも普段はダメ。わかった?」
「分かりました。十代目がそう仰るなら。」

俺がニカッと笑ったところで、予鈴のチャイムが鳴った。
「ヤバッ雲雀さんに捕まっちゃう!獄寺君、走ろう!」
「はい!十代目!」


蒼い空、白い雲、少し黒ずんだ校舎
そして、駆け出す貴方。
駆け出す自分。

おはよう。
また俺の一日が始まった。
end

*****

『忍たまを見てた』


一体何しに来たの!あんた達!

今日は、イタリアからディーノさんと、ザンザスさんが我が家に来ている。
どうやら泊まり込みで、ボス同士の対談があるらしい。
帰宅した俺は、いつもより早めにお風呂に入った。
会議の途中で抜け出してザンザスさんに殺されるのだけは避けたいからだ。
短時間で風呂に入り、出てきた時間は、夕飯の匂いが恋しい六時ちょっと過ぎだった。

「ツッ君!お夕飯もうちょっとかかりそうだから、ディーノ君達とテレビでも見てて?」

母がそうすまなさそうに言って、俺は了承の返事を返した。
今思えば、この時から嫌な予感はしていたのだ。


テレビがある部屋に入ると、ディーノさんとザンザスさんが画面に釘付けになっていた。
俺の足元でイーピンはともかくとして、ランボがおとなしくしていることを不気味に思い、テレビの画面を覗き込んだ。


てっきり俺は、ディーノさんとザンザスさんが見ているモノだから、六時のニュースかな?と思っていた。

N○Kだろうと。

だが、それは馴染みに馴染みまくったあの曲の出現で見事に粉砕した。

コレは・・・その、『○たま乱太郎』!?

N○Kだ。確かにN○Kだが、Nの前に『教育』と言う名がつく。
きっと日本人なら誰もが知っている。
いつも騒動を起こす三人組を!
誰もが目にしている!
水色の忍装束を着た彼らを!
そして流れる軽快なサビを!
百パーセント勇気♪は、もはや○源氏から何代目が歌っているのか!?・・・っていうか、
「ディーノさん!?何で泣いてんの!?」
画面を見ながらディーノさんはえぐえぐと泣いて、ハンカチで瞼を拭いている。

待って、何そのハンカチ!?その柄何!
『全力で拭け!』!?
何ソレ、何そのハンカチ!
「デ、ディーノさん?」
とりあえず彼を刺激しないように問う。
「だってよぉーツナ、」
えぐえぐ、と彼はまたおかしなハンカチで瞼を拭う。
「な、何でしょう。」
「土井センセーの煉り物嫌いは、ちくわで亡くなった友達がいるからだろ?それって悲しいよー」

そこなの!?

「綱吉。」
「は、はいっ!」
わぁーあんまりにも静かだったからザンザスさんの存在忘れてた!
「なっ何でしょう。」
ザンザスさんは、画面から視線をそらさずに俺に言った。


「日本の暗殺部隊は、水色だのピンクだのでちゃんと仕留められるのか?俺としては、黒とかに変えた方が・・・」

そっちの心配!?

っていうか、彼等まだ学生だから!忍者のたまごだから!
「ちげーよ、ザンザス。乱太郎達はまだ学生だから、そんなもの着ないんだぜ。その代わり、先生達はみんな黒装束だろ?」
「・・・そうか?」

え、ディーノさん何かやたら詳しくない?

「お前詳しいな。」

言ったー!ザンザスさん言っちゃった!

「だって俺日本のテレビ好きだもん。」
ディーノさんがニカッと笑ったところでエンディングが流れる。
「綱吉、座れよ。」
ずっと立ったままだった俺に、ザンザスさんが言った。
俺は遠慮なく彼らの後ろに座り込む。

「それにしても、ツナ。お前いい感じに萌えだな。」

・・・はぃ?

俺は、頭の中が最大分間風速だ。
「モエ・・・?何だそれは。」
あぁ、突っ込まなくていいのに・・・!
「何だよザンザス、萌えねーの?」
ちょっと!ちょっとちょっと!
「だから、それは何だと聞いてる!」
「えー説明はちとむずいんだがな、「俺はメイド萌えだぞ。」」

「「リボーン!」」

またどこから出てきたか解らない俺の家庭教師は、早々に爆弾を投下して下さった。
「うるせーぞツナ。」
「俺一言もしゃべってないし!」
「だから、萌えとは?」
・・・ザンザスさん、そこまで真剣にならなくても。
「そーだな。さっきも言ったけど、説明はむずいんだ。例えば・・・今のツナ見て可愛い~♪とか、ドキッとか、来ねぇ?」
「ん・・・。」

ちょッ!じろじろ見ないで!

「まぁ、分からんでもない。」



分かっちゃうの!?



「じゃーザンザス、お前ツナが何着てたらドキドキする?」
ディーノさんは、身を乗り出してザンザスさんに近付いた。

「で?どんなツナ?」
ザンザスさんは、顎に手を当てて考える。
・・・あー出来れば考えて欲しくない。
「・・・そうだな。」
ザンザスさんはそう言うと、俺をじっと見て。
「・・・」
それからフッと笑った。
「綱吉は、そのままでイイ。」
ちょっと!どうゆうこと?
風呂上がりなのに背中を冷たい汗が伝う。
嫌だ嫌だ嫌だ!ザンザスさん!信じてたのに!
「つまりアレだな。ザンザスは湯上リ萌えだな。」
その言葉を聞いた俺は打ちひしがれる。湯上り萌えって・・・湯上り萌えって!
「うっせーぞツナ。」
俺はリボーンを思いっきり睨み付けた。
「悪いけどリボーン!俺はさっきから一言も喋ってないから!・・・ディーノさん、それ以上ザンザスさんに変な知識吹き込みやがりましたら死ぬ気で我が家から排除しますから。」
にっこりと笑って見せると、ディーノさんは顔を蒼白にさせた。
「ちょっツナ、殺生な!」
「変な日本の知識を増やす前に、お体を大切にしてください。わぁーあ、雲雀さんが知ったら怪我が相乗ですね。」
そうはき捨てると、電話口に向かった。雲雀さんのことだからきっと五分以内には来てくれるだろう。
ザンザスさんが、先ほどからぶつぶつと「湯上り燃え」と言っていたが、あえてスルーすることにした。だって関わって良かったことなんて、

無いんじゃボケェェェ!!死ねっみんな死にさらせっ!

その日のツナはリボーンが震撼するほど恐ろしく、後にザンザスとディーノに激しいトラウマを刻んだと言う。


end
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