macross



薄情なひと。
向けられる熱に掻き乱される。
私になってしまうの。
ねぇ、殺すつもりならさっさと捨て置いて。



「ア・・・ルト?」
部屋に入ってきた男がこちらを凝視する。この男のことだ、大方自分はこういったことなどしないのだと思い込んでいたに違いない。
驚きの色に染め上げられた顔を見て、意図的に口角を上げる。スラリ、と落ちた髪の毛にいつぞやの舞台を思い出す。

―――あの時の矢三郎兄さんも、こんな顔をした。欲しくて、欲しくてたまらない表情を、した。

指の動きは止めない。これは一種の賭けだった。それと同じく、この男への嫌がらせでもある。―――嫉妬深い有人は他の女の匂いが嫌いだ。此処で触れてくれれば今日の女のことも、それまでの女性遍歴もなかったことにして、ぐちゃぐちゃに乱されてもいい。だが触れてくれなかった場合、自分はあの古びたアパートからこのSMSに通う、ということになる。つまり、中途半端にも触れさせない。あの瞳にだって対抗してやろう。


―――さぁ、どっち?


翡翠の瞳を物欲しげに見つめ、上唇をねっとりと舐める。結ってない髪の毛はサラサラと剥き出しの背を伝う。
中を好いように掻きまわす指に、肉壁が絡まる。息を短く吐き出して、仰け反ると第二波がやってきた。
「あ・・・んや、」
無意識に首を振る。早く欲しいのに、と思う。ちらちらとミハエルを見るも、呆然としてこちらを凝視しているだけ。いい加減苦しくなって、潤んだ瞳で一撃必中のエーススナイパー様をじっと見つめた。
彼の咽喉がコクリ、と上下する。

「ミシェ、る。」

じっと見つめて、手を激しく動かす。
彼の視線が自分の肌の上をゆっくりと舐めるのを感じ取ってしまう。でも自分が欲しいのはそんな曖昧なものではなく。
白いシーツの上でふとももを片方、スラリと伸ばしてみせる。
寄せられたシーツの波がサワリ、と音を立て、肌に触れた。背中をぞくり、と快感が這い上がる。
「ああ!」
恥じらうように右下を向くと、余計感じてしまう。だめ、だめ、と自分に言い聞かせて再びミハエルを見ようとすると、ミハエルの顔がすぐ近くにあって、自分は驚いて目を見開いた。



******



驚いていると、口を塞がれる。いつも彼が親愛を込めて女の子にするようなキスではなくて、全てを持って行かれそうなもの。
えらく時間がかかったな、と思う。だがそれはこの男だからだろう。
―――愛情に貪欲で、でも振り撒くばかりで求められない、この臆病な男だからだ。



「一つ、二つ、聞きたい。アルト。」
唇を離されて勿体なく思っていると、男はそう切り出した。もう既に熱は治まりつつある。首を縦に振って、彼の首に顔を近づけると、「あー」という声を出された。思わず、退いてしまう。
「嫌だったか?」
「いや、そうじゃなくて。」
「じゃあいいな。」
ひっついて、息をするとこの男のものじゃない香りがした。むっとしてしまう。
「えっと、アルトさん?」
「何でしょう、ミハエルさん?」
「二、三質問しても良いでしょうか。」
「良いですよ。」
「あー・・っと、何時から知ってた?」
何を今更、と思ったが素直に答えることにした。
「半年前。」
「・・・顔に出てた?」
「あの視線で落ちない人間がいたら是非ともお聞かせ願いたい。―――兄さんより凄かった。」
あの視線は酷かった。まるで視姦されてるみたいだった。
「で、いいの?」
「何が?」
「何がって・・・お前ねぇ。」
「だってもう俺はお前のだし。あ、返品は駄目だからな。」
「そんなことしないよ。」
ノンフレームの眼鏡を一段上のベッドに投げて、ミハエルは左の口角を釣り上げた。
獰猛な視線に曝されて思わず引いた腰を掴まれる。

「飛び込んできたなら、逃がさないって決めてたんだ。」

恋い焦がれて久しい人に囚われて以来、ずっと思ってきたことだ。
手に入る筈がない。だがもし、万が一手に入ることがあったなら自分は絶対に逃がさないと。
 だから捕まる前に舞台に戻れと言ったのに、とミハエルは息を吐き出し、アルトをベッドにそのまま倒した。
自分は酷い男だと、自負している。
今まで誰にも向けなかった情を誰かに向けるのすら恐ろしいというのに、それが恋焦がれた相手なら、きっとぐちゃぐちゃにしてどろどろにして、アルトが嫌がっても止めはしないだろう。そういう男を、お前は選んだんだ。




「覚悟しろよ、姫。」

気持ち良く、啼かせてやる。





ローションで濡れた内壁が彼のもので擦られるたびに悲鳴が上がる。静まっていた熱は、彼が触れることでいとも容易く火が付いた。
もう駄目、と繰り返すのに、許してくれない。

「何がだめなの、アルト。」

ぐちゃぐちゃにされるとは思っていたが、こんな理不尽な快楽にヤラれるとは毛頭思っていなかった。流石空とベッドの撃墜王。
のしかかって来る体重に安堵してしまう。首に腕を回すと、にやりと笑った男はそのまま背中に体重をかけて自分を腹の上に座らせた。思わず声が出る。
「絶景だな。」
自分の体重で深くつながってしまい、仰け反ってしまう。
「やらしい、アルト。」
「五月蠅、い。あ・・・はぁ。」
下からガンガンとと突き上げられて、両腕を引っ張られる。何でこの男は平気な顔ができるのか謎だ。
「腰が揺れてる。」
無意識に自分のイイトコロを擦りつけていたようで、腹筋の力だけで上半身を起こした男に耳元で囁かれる。息の成分を多くした声で咎められると、なにも考えられない。首を左右に振ることで快楽を逃がそうとするが間に合わない。
「だめ、ミシェル。」
「もう無理?」
腰の動きを止められて驚いて首を横に振る。この男は酷く意地悪だ。
「や、だ。」
「じゃあどうしてほしい?」
抱き上げられて元の位置に戻ると、目の前に男の顔がある。だが聞かれたことに答えられない。
首を横に振って腰を自分から揺らすと、ミハエルは苦笑して律動を速めた。
「ほんと、誘い上手だよな。さっきも持ってかれそうになった。」
上から降ってくる汗が肌にかかってはじかれる。
「姫、いい。」
頭を胸に埋めた男は、ベッドに手をついて腰だけ激しく揺らした。中にいる彼がまた太くなる。
「みしぇる、みしぇ、」
まるでもがくようにストロークが重く深くなって、それに付いて行けず、なだらかな背中にしがみ付いて爪を立てると、首にあった誰かの所有印に甘く噛みつく。
「大胆だね、姫。」
再び口を塞がれると、自身を強く引っ掻かれて、頭の中が真っ白になった。
「やっ、」
次いで体内に出されて首を左右に振ると、直ぐに引き抜かれて、後ろを向かされる。
とろり、とふとももを伝った熱いモノに少し驚く。
そしてまた腰だけ掴まれて上げられた。一気に貫かれる。

「みしぇる、」
ズクズクに溶けた内部を、再びイイトコロにかすめるように突き上げられて、この男がどれだけ飢えていたのかを知る。
後ろを振り向くと汗だくの男は、「もう一回、」と翡翠の瞳を細めた。




体の奥が蕩けそう


もう絶対勝てない気がする。



END.


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