macross



視線は巧妙な愛撫だ、と思う。


「あ・・・っは!」
くちゅくちゅと先端を擦りあげて自分を煽り立てる。
歌舞伎において視線が重要だということは嫌というほど教わってきたが、それが日常において有効だとは知らなかった。
「んっ!」
あの翠色の瞳に今日も射抜かれた。一撃必中は伊達じゃないらしい。自分の中で眠っていた“おんな”の部分が泣きを入れるくらいに、あの情欲に彩られた目は魅力的だった。


「あ・・・あ・・・あ・・」
体を激しく揺さぶる。イッてしまいたいけれど、イッてしまいたくない。ギリギリのところでやり取りする体が気持ちいい。
下半身は既にぐちょぐちょで、目も当てられないほどの大惨事。糸を引くそこからはひっきりなしにクチュクチュという音がする。


―――同室の男は、今日も帰らない。


今日も今日とて綺麗な女性とのデートに行っている。ひとの気も知らないで。
目を閉じて、瞼の奥に浮かび上がるストイックなあの男。自身を愛する手が知らず、速くなる。


しなやかな腕。
落ちてくる金色の髪の毛。
熱い吐息。
形のいい唇、少し尖った耳。そして

―――あの、視線。

男の目はあの男の口より心情を雄弁に語る。もう当の昔に触れられる覚悟はできているのに。


―――目が細められる。
細められた視線が自分の肌の上を滑る。それはまるで愛撫のように。

“愛しい。触れたい。”

それこそ好きにすればいいのに。否、ずっと好きにされるのを待っている。なのにあの男は視線という凶器だけ残してさっさと女のところへ行ってしまったのだ。

滴る体液が腿を伝う。体の内側が蠕動して彼を欲しがる。体を左右に動かしながら、男の瞳を思い出す。
あの視線。あの、熱。
思い出せば思い出すほど体が歓喜に染まる。

「んんッ・・・あぁ!」

息を吐き出して、首を左右に振ると、大きな波がやってきた。止めたくなくて手を動かす。あと少し、と思ったところでプシュン、と部屋の扉が開いた。




視線に犯される

それは巧妙な、罠。


END.

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