GUNDAM

<設定的な何か>


世界を旅しながらエッセイと報道を書いているニール・ライルの両親が、『可愛いからw』というふざけた理由で引き取った故に家族となった兄弟のおはなし。
全員が全員幼いときに経済特区日本(何か似たような名前がギアスになかったか・・・?)に連れてこられて兄弟だけで生活することに。両親と血が繋がっているのはニールライルの双子だけで、後は国籍不明。でも一応今は日本人。誰がなんと言おうと日本人。
全員が自分たちは家族!という強い結束力でもって繋がっている。そしてハレルヤアレルヤは分離。


♂ニール・ディランディ(24)

一家の大黒柱。司書。弟・妹馬鹿。類まれなる兄貴肌。趣味は射撃で、夏祭りじゃ有名な的屋キラー。ついたあだ名は『狙い打つ男』好きな食べ物はジャガイモ。妹を溺愛しすぎて近所では有名な変態さん。でもなかなかないい男なので大目に見てもらえる果報者。


♂ライル・ディランディ(24)

上記の双子の弟。ホスト兼主婦。昼間は常に家にいて、ネット株とかしてる。ホストのことは家族には内緒。でも兄にはバレた。大学時代は食物栄養を専攻していて、その伝で今の店の厨房に入ったはずなのに、いつの間にかナンバーワンになっていた男。


♂アレルヤ・ディランディ(19)

一家の良心。ライルは主婦をしているが、夕食・朝食時はいないので主に料理担当係。ライルの作る献立を忠実に再現するつわもの。現在はC.B.学院大学文学部に在籍中で、授業費が要らない特待生。彼を『日本人じゃない』と蔑み授業を受けさせようとしなかった教授に対し何も見ずに「平家物語」を灌頂巻まで含んだ全てをその時間中に読み上げ、「足りないのならば訳をつけましょうか?」と逆に教授に問うたことは最早伝説となっている。


♂ハレルヤ・ディランディ(19)

上の兄とは似ても似つかない乱暴者。でも家族は結構大事にしていて、良くなついている。低血圧なために朝だけ魔王扱いされる。彼とニールの朝の攻防戦は、もはや近所も含めた全員の日常になっている。18歳のときに車の運転免許を取得して、忙しい長兄に代わり、幼い妹・弟の送迎をしている。現在はC.B.学院大学理学部に在籍中で、兄と同じく特待生。何かと伝説の多い兄とは違って、「馬鹿はほっとけ」の精神。


♀ティエリア・ディランディ(10)

ディランディ家のお姫様。上の兄四人が皆してちやほやしたために、おっとりとしたマイペースな人になってしまった。現在はC.B.学院大学初等部四年生。大変な美少女であるために過去に誘拐されたことがあり、そのときから兄弟以外の男の人というか人間嫌い。
目の前で生き物を殺して食べさせられたので、そのトラウマから料理でもとの形のあるものは絶対に口にしない。ライルのネット株に助言できるパソコン通。普段は物静かだが、怒ると誰も逆らわない。別名『鶴の一声』


♂刹那・ディランディ

今年から小学生の末っ子。上五人に構われすぎたために、兄弟間での意思疎通になれてしまい、他とコミュニケーションが取れない無表情な子になってしまった。あ、でも表情の機微は何でかしらないが兄弟間では普通に通用する。儚い姉が大好きでいつも着いてまわる。お兄ちゃんズから『初等部にいるのはお前だけだからティエリアに変な虫がつかないよう守れよ』という名の任務を与えられている。ガンダムに夢中。

よければ↓↓↓↓





『ディランディ家の朝』




ディランディ家の朝は早い。まず、5:45にライルが仕事場から帰宅し、ニールとアレルヤを起こす。二人とも眠そうな目を擦りながら洗顔を済ませる。それを横目にライルは念入りにシャワーを浴びるのだ。

 余談になるが、職業柄香水の匂いのつくライルは一度当家の姫君にばれて「香水の匂いがするとライ兄じゃないみたい。」と泣かれたことがあったのだ。あの時はニールに冷たい目で見られ、アレルヤは「不潔」と酷い食事を出し、ハレルヤは顎で風呂場に行けよと指示し、刹那に至っては一ヶ月間口も利いてくれなかった。その事件で懲りたライルはティエリアに会う前にシャワーを浴びることを義務付けられてしまったのだ。兄と、弟たちに。


ライルが風呂場に入ったのをニールとアレルヤが見届ける頃には既に6:00と時計が針を指す。アレルヤは献立を見て朝食の作成をはじめ、ニールは階段を上った所の各部屋の弟・妹を起こしにかかる。
ニールが最初に訪れるのは、当家の姫君であるティエリアのところである。だが彼女はニールが起こしにいくときには常に起きていて更に着替えを済ませており、ニールはそれを見て苦笑し、一階へ向かうことを促すのが常だった。
次に向かうのが末っ子の部屋である。ぐちゃぐちゃと癖のついた髪の毛をかきあげながら末っ子である刹那を起こす。
まだ幼い末っ子は、大抵がベッドに懐いたまま眠っているのが常。部屋のカーテンを開いて夢の中の住人である弟を揺り起こすとゆるゆると目を開いた。
無表情の顔に「おはよう」と声をかけ、本日の彼の服を決めるべくクローゼットを物色する。その間に末っ子は起き上がって、ひとしきりニールに甘えた後、覚醒してきた頭で「おはよう」と返すのだ。その後はおぼつかない彼の着替えを手伝って、彼が階段から転がり落ちないように見守った後、魔王の部屋へ直行する。

―――・・・言わずと知れた、魔王をたたき起こすために。

この時間帯になると、一階からラジオ体操の音が聞こえるようになる。
  アレルヤとティエリアと刹那はこのラジオ体操を毎朝欠かさない。発案者はアレルヤで、「毎朝の健康のために!」と全員が揃う朝食前の日課になってしまった。これのおかげで、ティエリアも刹那も運動に関しては苦手意識をあまり持たない子になった。ありがたい。

ニールはつらつらとそんなことを考えながらハレルヤの部屋をノックする。
―――・・・反応、なし。
ニールは大きく溜め息を吐いて、ドアを開けた。何かあったらティエリアに庇ってもらおう、という下心つきで。
当家の姫君には本当に、誰も頭が上がらない。あの気の強そうな瞳が少しでも悲しさを称えると、今まで積み上げてきた善行とか善意とか全てなくなってしまうのではないかという気にさせるからである。アレは武器だ。とニールは思う。

寝ている魔王を横目にカーテンをシャッと開く。光に反応した魔王はベッドの布団の中にもぐりこんだが、でもニールはそれを許さなかった。
下からラジオ体操第二のエンディングである深呼吸の音が聞こえたのを期に、ハレルヤの布団をいっきに剥ぎ取った。


「こら!お前いつまで寝てる気だ!?」


さて、勝敗やいかに。

END.

******



『鶴の一声』




前述したように、ディランディ家の兄四人は下の妹・弟に弱い。
それはもう・・・なんと表現していいのか・・・こう、角砂糖と蜂蜜を混ぜてその中にコンデスミルクを力いっぱい全部搾りこんだ挙句、なおかつそれをあまあまに仕立てた生クリームの海に投入したブツより甘い。甘くて、甘くて、甘い。死ぬほど甘い。
 甘くなる理由はいくつかある。それは例えば彼らが遅くにできたせいもある。小さいものに甘くなってしまうのは動物も含めて万物の共通項だろう。しかし、殊ティエリアに至っては異性でほそっこく、また庇護欲をそそるような小さな風体をしているということもあって、末っ子である弟ですら姉馬鹿になってしまった。そして彼女があまりおしゃべりでないことがそれに輪をかけた。
・・・要するに、一家の誰もが彼女の一言に逆らわない、否。逆らう気が起きないのである。


ちまちまと目の前で朝ごはんに手をつけるティエリアに、ハレルヤは現在進行形で冷や汗をだらだらだら、だらだらだらと流していた。
横に座るニールを見て、再びティエリアを見るハレルヤを、彼の斜め前のティエリアの横で朝ごはんを摂っていたアレルヤは「自業自得だよね」と呆れて溜め息を吐く。

「ティエ、その。」
「話しかけないでいただきたい。」

普段からおっとりとしていて良くも悪くも(悪いとこなんて皆無だけど!)マイペースな彼女が小声だけれども素早く敬語で返したことで、食卓の温度が三度低下した。
クルリとアレルヤは首を回して、ニールの更に横で朝ごはんを摂っている刹那がハレルヤを睨みつけているのを発見する。・・・・原因はお前か。
ティエリアに一蹴されたハレルヤはがっくりという効果音が似合うくらい項垂れて、横に居る兄をキッと睨み付けた。
曰く、「お前のせいだ」である。
  怖い目を向けられたニールだが、ここで退いてはいけないことを充分に理解している。だって自分は被害者で、彼は加害者なのだから。
ティエリアにこってり絞られればいい、とニールは内心呟いて黄色いオムレツをつついた。―――・・・そう、これは報復なのである。


親切にもハレルヤを起こしに行ったニールだが、布団に包まった魔王から布団を取り除くことに成功した。成功はしたが、しかし次の瞬間ベッド付近にあったはずのステレオが飛んできたのだ。当然のことながらよけるのに失敗したソレはものの見事にニールの太股にぶち当たり、それはそれは大きな青い痣をこしらえたのだった。
日課のラジオ体操を終えたティエリアが、ハレルヤの部屋に来て兄二人に向けて「ご飯だよ」と呼ぶべく部屋の中を覗き込んだら、そこは惨状だった。
 長兄は床で蹲り「痛い」と悶えていて、彼の周辺に大きなステレオが散々な状態で散らばっており、ベッドから数センチ前でハレルヤがつっ立っていた。
苦しくも最大限の悲しみで歪んだティエリアのその表情で目を覚ましたハレルヤは、次の瞬間顔面を蒼白にした。が、時既に遅し。
朝から「ハレ兄なんて大嫌い!」という死刑宣告にも等しいお言葉をティエリアから頂いたのであった。
ああ、南無さん。アレルヤは心の中で合掌した。

「ごめんなさい、もうしません。」
見るものが見れば失神してしまいそうなハレルヤの態度にアレルヤは吐き気を覚えたが、根性と精神力で乗り切った。言われたティエリアは数えたら通産1000は越えるだろうその言葉にスプーンをとめて顔を上げた。
「・・・ニール兄に言って。」
静かに紡がれた言葉に、ぐっと思いとどまったハレルヤだが紅の瞳にじっと見られて意を決したように隣に座る兄のスーツの袖を引っ張った。
今日のオムレツは殊更美味いな。と思いながら食していたニールは突然自分の名前を呼ばれたことに反応してティエリアを見た。しかし違うところから、つまるところ横から袖が引かれてびっくりだ。
なんだよ、という顔でハレルヤを見たニールは、怒りを目に滾らせたハレルヤに黙り込んだ。ハレルヤは片方の鋭い目をカッと見開くと。

「兄貴、ごめんなさい。」

と謝った。アレルヤは素直じゃない弟に大きく溜め息を吐いた。―――・・・正確には謝りきれてないよ、と心中で突っ込むことも忘れずに。
溜め息を吐いたあとアレルヤがティエリアを見ると、彼女はその二人のやり取りを見て、満足そうに微笑んでいた。






『鶴の一声』


ああ、僕達逆らえない。逆らわない。


END

******



『ライル兄さんと末っ子』




ぱたぱたぱた、とはためく洗濯物を見て、ライルは『良し』と頷いた。
現在は午後の三時を回ったところである。
このところすっかり冬らしくなって空気の冷たさが骨身に凍みるようになってきた。―――そして余談だが、体があまり丈夫でない当家のお姫様が風邪をひいたのは記憶に新しい―――二日後に訪れるクリスマスに、今年もなんだかんだで早かったなぁ、と溜め息を吐いた。今日で学生組は冬休みというありがたいことこの上ない長期休暇に突入する。

 ライルは職業上、クリスマスイブとクリスマスは店のイベントに出なくてはいけなかったが、彼の客のほとんどが彼の“妹病”を知っていたので(去年はその“妹病”が多分に発揮され、「てぃえりあー」としくしく泣く彼を店長が怒りを通り越して呆れ果てた。よって全員が彼の“妹病”を認知している)お客様である彼女達のほとんどが「23日、もしくは26日にサービスしてくれるのなら、イブとクリスマスは外したげる。」というありがたいことこの上ない提案を出してくれたのだ。
だからこそ今年は愛する家族―――・・・主に妹と、イブとクリスマスを過ごせることとなった。そのかわり、23日は帰れないが。
 ライルは兄弟たちに贈るクリスマスプレゼントを考えながらベランダから部屋の中に入り、一階におりた。


柔らかな日差しが差し込むリビングで、コーヒーを煎れると、ガチャっと玄関の鍵が開く音がする。ライルはそのまま玄関に向かうと、黒いランドセルを背に靴を脱いでいる刹那と遭遇した。
 「おかえり。」
自分が居ることはわかっていたのか、そうライルが声をかけると、刹那も小さく頷いた。
全く、可愛いことこのうえない。
ライルは勿論、ティエリアも大好きだが、刹那も、ハレ・アレルヤもニールのことだって大好きだった。それは皆も同じで、ただ全員が一家で唯一の異性であり何かと愛らしくて、か弱いティエリアが心配なので他の兄弟たちも自分もほんの少し彼女に重きを置いている。
――――・・・あれ、そういえば。
「刹那、ティエリアは?」
刹那はこういってしまったらなんだが、姉馬鹿である。始終着いて回る刹那が可愛いのかティエリアも何も言わないから更に拍車がかかってしまって、今日だって本当なら一時半には帰ってくるはずなのに、こうしてティエリアが終わるまで図書館で待って一緒に帰ってくるのだ。
首を傾げながら、ライルは屈んで刹那の目を見た。刹那は少しだけ眉を寄せると、小さな声で「ミハエルが公園に連れて行った」と述べた。

ミハエル、というのはお隣に住むトリニティ家の次男坊で、ティエリアよりも一つ年上である。小学生にしては色好みな彼は、兄の欲目を除いたとしても大変な美少女であるティエリアに目をつけたのだった。
これにはニールもライルもハレルヤもアレルヤも刹那も憤慨した。
なぜならば彼の罪状は明らかであるからだ。

 彼らの出会いはティエリアが小学校一年生のときだった。図書室で本を読んでいたティエリアのカーディガンを引っ張って泣かせたのだ。泣きながら帰ってきたティエリアをライルは忘れない。声もあげずにほとほとほと、と泣くティエリアを見てミハエルに殺意が沸いたのは記憶に新しい。
しかもそれだけではなかった。お次はティエリアのスカートを履くたびに捲ったのだ。
これが理由でティエリアの可愛いスカート姿を今や見ることはなくなってしまった。スカートを履かなくなったティエリアに、ある日アレルヤが理由を尋ねると彼女は、「だってミハエルに捲られるから、やだ」と悲しげに瞳を潤ませて言ったそうだ。・・・万死に値する。
 とうとう堪忍袋の緒が切れたのは、ティエリアがポニーテールをして学校に行った時だった。今年の、九月のことだ。ティエリアはニールに「ティエは綺麗な髪をしている」と言われるたびにはにかんで笑って、そして痛まないように伸ばしてきた。(何故だかティエリアは兄弟の中でもニールに懐いている節がある。)サラサラストレートな長い髪の毛はとても可愛らしくて、毎朝ニールとライルとハレルヤとアレルヤで、「誰がティエリアの髪を結うか」で張り合っていた。
な の に!
その日あった体育の授業で彼女の長い髪に目をつけたミハエルは、「うっとおしいだろその髪。」と工作用の挟みでザックザックと惜しげもなく切り刻んでしまったのだ。
これにはハレルヤがぶちキレて、ミハエルの頭をむんずと掴むと同じように工作用の挟みでジョキジョキと切り刻んだ。ティエリアの見るも無残なざんばらな髪の毛はニールが切りそろえて、ボブカットにした。泣くティエリアに「また伸ばせばいい」とニールは言った。

あの事件があってから、あまりミハエルには近づかなかったのに!

どうせ強引に連れて行ったに違いないと玄関の靴を引っ掛けると、刹那がこっちを見上げていた。ライルは思いとどまる。
「刹那もいくか?」
「・・・・・。」
コクリ、と頷く刹那がとても心強くてライルは少し冷静になった。刹那は急いでリビングにランドセルを置くと、これまた急いで脱いだ靴を履いた。彼なりに、何か思うところがあるらしい。
準備ができた相棒の姿を確認して、ライルは玄関のキーケースから自分の鍵を取ってドアを開けた。


「さあ!お姫様救出作戦開始だ!」





ミハエルは学校でも有名ないじめっ子。巷ではハレルヤの再来と恐れられていたり。一番上のヨハンとニール・ライルが同学年。ネーナは刹那と同じ。
ハレルヤに髪の毛を切られて泣きながら帰ってきたミハエルに「自業自得」の四文字を教えたつわもの。兄の教育的指導は恐ろしく厳しい。
ちなみに二人ともやっぱりシスコンで、ネーナが刹那にお熱なのをみて最初のほうは心配していたが、刹那があまりに姉馬鹿なので「あ、コイツ安全圏」と今は放任している。



*****


『隣の家のヨハンさん』




ひくひく、と引きつりそうになる眉間を叱咤して、笑顔を保ちながらアレルヤはティエリアを抱き上げた。
水に浸かったティエリアの体はガタガタ震えており、ぎゅぅと肩口の袖を握られたのでアレルヤは抱き上げた彼女の背中をとんとん、と叩いた。
手首が擦れて赤くなっている。あぁ、ガーゼと包帯が家にあったかな、と思案してそれよりもまず寒さに震えるティエリアを風呂に入れるのが先だ、と考え直す。
彼女をこんな目に遭わせた張本人に制裁を下すのは後だ、とも。
踵を返したところで後ろからバタバタバタとこちらに誰かが駆けて来る音がして、そちらを向いたらライルと―――そして刹那が駆け寄ってくるのが見えた。これで現行犯逮捕だ。
アレルヤが首根っこを掴んだままのミハエルを見るのと、ライルが怒鳴り声を上げるのは一緒だった。
「てんめー!またティエリアにちょっかい出しやがって!」
うんライル。ティエがびっくりするから大きな声と音はNGだって、僕前にも言ったよね?






ヨハンは笑ったアレルヤの片腕でぶらーんと吊り上げられ、泣きながら自分を見るミハエルを見て眉をこれでもかと歪めた。
「・・・お前、何回目だ?」
確か一回目はカーディガン事件だ。二回目は朝顔の植木鉢事件。三度目は数多のスカートめくり、四度目は九月の髪切り事件。あぁ、今回で五回目か。
ふるふると震えるミハエルをアレルヤから受け取って床に転がす。
「・・・すまないアレルヤ。」
「うん、ヨハンさん僕じゃないよね。」
「失礼した。」
アレルヤの笑った顔が怖い。これがライルニールならまだあしらえた。ハレルヤが来ないだけマシか・・・とヨハンは思ったが、それも時間の問題だなと思い直す。全く、ミハエルの色好みも困ったものだ、と一人溜め息をついた。
「ティエリアは?」
「うん、泣きながらベッドに眠った。」
やはり笑顔が怖い。
「本当に申し訳なかった。ミハエルにはきつく言うので、ハレルヤをお借りしたい。」
頭を下げると、背後からガタンッと音がした。そして頭を元に戻すときょとんとした顔のアレルヤと目がかち合う。
「・・・ハレルヤを?」
「あぁ。こいつはいくら言ってもダメみたいだからな。この際徹底的に教育してやったほうがいいだろう。―――“女性には優しく”男の基本中の基本だ。」
「・・・解った。」
アレルヤは自然に笑って『じゃあ、ハレルヤが帰って来次第連絡するよ、』とトリニティ宅の玄関を出た。
ヨハンはふうと息を吐いて後ろを振り向いた。そして玄関に正座しているミハエルの頭をガンッと殴りつけた。
「ミハエル!あれほどティエリアにちょっかい出すなと言っただろう。しかもこんな寒い日に噴水に突き落として笑ってただと?!おまえ、ネーナがそれされて許せるか?」
ヨハンは伺うようにミハエルの目を覗き込む。ミハエルはふるふると首を横に振った。
「ティエにちょっかい出したい気もわかるが、もっと紳士的に行動しないといつか身を滅ぼすぞ?・・・・返事は?」
ミハエルは緩慢にこっくりと頷いた。ヨハンの眉間には更に皺が刻まれる。
「返事は!」
「・・・・はい。」
ゆっくりと起き上がってとぼとぼ階段を上り始めたミハエルに、ヨハンは三度目の溜め息を吐いて懐からタバコを取り出した。


・・・さて、どうやってハレルヤの対処をしようか。それが今の問題だ。そして後であの兄弟の好きなお菓子でも持って謝りに行かなくては。
にわかに感じる頭痛にヨハンは頭を抱えた。すると、キッチンからネーナがとたとたと歩いてきて冷蔵庫に入っていたペプシをヨハンに渡した。
「ヨハ兄、はい。」
見上げる瞳に、ヨハンは微笑む。きっと、彼らにとってもティエリアはこんな感じなのだろうと思う。ヨハンはネーナを抱き上げると、「夕飯何がいい?」と質問をした。



END


******


『プロボクサー志望?』



「ティエ、お前また軽くなった?」
それはハレルヤの一言から始まった。
え?と顔を上げたニールに、目を大きく開いた刹那。アレルヤは台所に立っていたのだが、その手を休めてティエリアとハレルヤの近くに来た。
ハレルヤに抱っこされたままのティエリアはきょとん、と首を傾げる。どうやら本人に自覚はないようだ。
「減って・・・ない、と思う。」
少し困った顔でハレルヤを覗きこんだティエリアは首を横に振ったが、ハレルヤはアレルヤに向かって言った。
「いーや、絶ってー減ってるって。」
ティエリアを膝に抱っこしたまま頑として主張するハレルヤに、ニールが深刻な顔でアレルヤを見た。アレルヤは最近ティエリアが口にしたものを思い出していた。

普段、一家全員が溺愛しているお姫様ではあるが、ある点は一家全員が譲らないことがある。それがティエリアの食生活だった。

「ハレルヤ、24日以前は?」
「今より重かった。まだ。」
「じゃあ冬休みの間だね。ティエ、体操服に着替えて、初等部の健康カード持っておいで。それで、体重計に乗ろう。」
ティエリアは一瞬暗い顔をしたが、おとなしく「はい」と言ってとぼとぼ自分の部屋に向かった。ニールが口を開く。
「アレルヤ。」
「心掛かりはあるんです。おせちとか、あんまり食べてなかったなぁ、って。もしかしたら雑炊しか食べてないかもしれない。」
「あー・・・失念してたな。そっか、おせちとかって全部そのまんまだもんな、形が。じゃあ蕎麦もか。」
刹那がコックリと頷いた。
「・・・後で食べるって、それっきりだった。」
ニールはため息を吐いて頷いた。
「だよな。」
黙っていたハレルヤが立ち上がってソファに座る。
「すんげぇ減ってたらどうする?」
「とりあえず今月はぐちゃメニュー攻めで。」
笑ったニールに、一同が頷いた。


階段をとたとた下りる音がして、リビングの扉が開かれる。ティエリアは成績表と一緒に配られる健康カードをニールに渡した。
それを見ながら、刹那に洗面台の横に置かれてある体重計を持ってこさせ、ティエリアを体重計に乗せた。
ピピッと音がして出た測定に、全員があんぐりと口を開けた。



「4キロ・・・減?」



目をカッと開いたニール。ハレルヤ・アレルヤは開いた口がふさがらない。そんな中、刹那は口を開いた。
「ティエリア、お前プロボクサーでも志望する気か?」
冷静にボケた刹那に、「そんなわきゃあるかー!!」とニールが大声で突っ込んだ。間髪入れずアレルヤのチョップがニールの頭にお見舞いされる。

「うんニール。大きな声は出さないでって、僕再三言ってるよね。」

笑顔でニールに言った後、アレルヤは膝を床に着いて、ティエリアと視線を合わせた。
「ティエ。怒らないから、正月から食べたの、言ってくれないかな。」
目を泳がせたティエリアに、アレルヤの眉間に皺が寄る。
「おもち。」
「うん。」
「お雑煮。」
「・・・・それから?」
「・・・・巻き寿司?」
首を傾げたティエリアに、刹那が横で「それは食べようとして無理だったものだ。」と言った。
「終わり?」
コックリと悲しげに上下に動いた頭に、ニールが手を置く。
「ニール兄。」
顔を上げたティエリアに、ニールがニッと笑って、「じゃあ今日は何が食いたい?」と笑った。アレルヤは腕組をしてむっと顔を顰めた後、ティエリアの両頬をアレルヤの方に向けた。
「ティエ。無理して食べろなんて絶対に言わないよ、でも今回みたいに食べられないのが多い時は一言でも“無理”って言うんだよ?ね、約束して。」
ぱっちりと開いた目を、数回ぱちぱちさせて、ティエリアは「はい。」と頷いた。アレルヤが満足げに息を吐き出すと、今度はハレルヤがティエリアの体を持ち上げた。

「じゃあ、夕ごはんは何がいいんだ?」

聞いたハレルヤに、ティエリアは座ったままのニールとアレルヤと刹那を交互に見て、小さな声で「グラタンが食べたい」と恥ずかしそうに答えた。


End

ティエの体重は一家の悩み事です。


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