アネモネ 第五章

あなたのためよ、と差し出される物は常に母の為にあるものだと知ったのは、幼少の頃だったように思う。

曇りガラスを常に見ているような世界だった。

全てが灰色で出来ていて、望まれる役柄を何度も必死で履修した。
落ち着いた皇子
活発な皇子
聡明な皇子
文武両道で、苦手分野なく、民を見下ろして、民と共に在り、視野を広く持ち、何事も深く学び、非情で、冷酷であり、優しく、穏やかで、苛烈に。

優秀であれ。

あべこべに詰め込まれる教育も、その道の天才からの指導もこなしてこなしてこなして。

ただ、母の言うとおりに呼吸をして。
己が何なのか、考える隙間なく。
毎日を消費していた。


最初は天国なのかと思っていた。

みずみずしい緑に彩られたアリアス宮は、本当に美しくて、私のいる宮が本当に色褪せていて。
小さな白い温かな手に引かれて、お茶を飲んだ時の感動は、今でも鮮明だ。

『おにいさま、今日は何をおしえてくださるの?わたし、とてもお会いしたかったわ!』

ルルーシュのあの、キラキラした輝く瞳。
あの、美しい光・・・!


彼女に出会うまで

真実、私は死んでいたのだ。



『アネモネ』

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