ギアス小話

言わずもがな、我が生徒会が誇る副会長 ルルーシュ・ランペルージは、かなりの美人だ。
俺達の着ている制服なんか、ルルーシュの為にあしらったモノのように似合っていて。
女の子の声明は全て独占。優雅な仕草は、同じ男の俺だって見惚れてしまう。
その高貴な紫の瞳は、俺が考えてること全てを見透かすようで俺は直視することにあまり慣れないケド、

とにかく、ルルーシュは美人だ。

彼奴が来るまでルルーシュの隣は俺の特等席だった。(別に、クラスの席ではない)
俺は頑張って頑張ってその席を取得した。



声をかけるのに、一週間と三日。挨拶を交すこと三週間と二日。言葉・・・っていうか楽しいお喋りに発展するまでに一ヶ月とちょい。お昼を一緒にするまで一ヶ月と二週間、バイクの後ろに乗っけて悪戯仲間になるまでなんと三ヶ月もかかったのだ!

頑張った!俺頑張った!

そんな涙ぐましい努力をした俺。もぉホント誉めて欲しいくらい。
だけど俺は、俺がどんなに頑張っても出せないルルーシュの表情がある。


それは、笑顔だ。


彼奴が来るまで、ルルーシュは一度だって満面な笑みを浮かべたことは無かった。
笑ったとしても、クスッとか、ふふっとかの苦笑とか失笑とかだった。
クールな美人はそれはそれはもてたケド、俺は常に物足りなかった。


一度だけでいいから、ルルーシュの、心からの笑顔が見たかった。


*****


『初めまして。枢木スザクです。』


うすい茶色のクルックルの髪。俺達より少しだけ焼けた肌。透き通った翠の瞳は真っ直ぐ前を見ていて、意思の強さが伺えた。


告白します。俺の枢木スザクの第一印象は、ルルーシュがヤツの名前を呼び捨てで呼ぶまで最高、MAXに良かったんです。


そしてルルーシュに勧められあれよあれよという間に生徒会に入会。
人懐っこい笑顔に周囲はどんどん汚染され、ほだされていった。
ルルーシュと友達になるまで三ヶ月とちょい時間がかかった俺の努力と頑張りが嘘のようなスピードで枢木スザクとルルーシュはうちとけていった。


所要時間、0'1秒。
だってヤツらはお互いの目があったその瞬間にうちとけたんだから。
その日から俺は、『ルルーシュの隣』という特等席から外され、『ルルーシュの悪友』という別のレッテルの貼られた席が用意された。(これは実質的に、ミレイ会長が用意した。)
俺の涙ぐましい努力は、そのふざけた名前の席になり下がったのだ。


俺って可哀想!


そんな俺を総無視でルルーシュはよく枢木スザクのことを話すようになった。
一言目は「スザクが、」
二言目も「スザクが、」
三言目さえ「スザクが、」

スザクスザクスザクスザクスザクスザクスザクスザクぬぁ~ザクスザクスザクスザクスザクスザクスザクスザクがっ!

あまりにもスザクスザクとルルーシュが言うものだから、俺は一度ルルーシュに言ったことがある。

「そんなに枢木スザクが好きなの?」

クールなルルーシュのこと、自信満々に「別に普通」と答えることを期待していた俺は、次の瞬間、どこからか大量に流れてきた砂糖にやられた。


「あぁ、好きだ。」


顔を花のように綻ばせて、ルルーシュは笑った。
そう。
笑ったんです。

つくづく、俺って報われない。


その時の俺は、ルルーシュの満面の笑顔が見れた事に喜び、それをさせたのが俺でない事に酷く落ち込んだ。
何だよ、そんなに枢木スザクがいいのかよ、
とか思っちゃったりしたわけですよ。
でもルルーシュにこんな顔をさせる枢木スザクはいったいどんなヤツなんだと、少しの興味もあったわけで・・・。
頭で考えることが苦手な俺は、とりあえず俺なりに枢木スザクを観察してみることにした。



笑顔が人懐っこく、かつ爽やか。運動は学年で五本指には入りそう。その代わり勉強はあまりできず、俺と同じ赤点組。困った人に優しい。身長はルルーシュより少し低い。
いつも猫に引っかかれ、悲鳴を上げる。
どうやらヤツは従軍しているらしい。いつも生傷が絶えず、ルルーシュが怒る。性格は至って真面目で優しい。
なんだ結構普通のヤツじゃん。ルルーシュにあんな顔をさせるヤツは、どんな特殊人間なサイボーグかと思いきや、案外普通のヤツだった。



あの爽やか爽快!が売りなのか?それとも柔らかな人懐っこい笑顔が?
それともあの逞しい筋肉か?!あの筋肉には俺としても羨ましいが。
俺はガラにもなく思案した。あーでもない、こーでもない、と色々考えたけれど分からなくて。
だから意地を張らずにルルーシュに聞いてみよう。と思い、俺はある日クラブハウスに立ち寄った。



俺はそこでルルーシュの笑顔よりトンデモ無いものを目撃する。
もぅ本当に、トンデモHappenだよ!



これは夢なんだよな?夢で十分だって。夢だ夢だ夢だ・・・あぅほっぺが痛い。何か泣きそう。ほら夢って痛いじゃん?だから痛いからこれは夢って。

もぅ嫌だ!誰かコレを夢だと言って。


魔王降臨。

多分、その一言で十分理由が分かるはず。

クラブハウス・・・いわゆる生徒会室で俺が目撃したものは、ルルーシュと枢木スザクのいかがわしい態勢だった。
壁際に押し付けられたルルーシュの体の両端の壁に、枢木スザクの腕が伸びている。
枢木スザクという檻の中に居るルルーシュは、困ったように顔を傾げてスザクの襟足を左手で撫でている。

・・・ちょい待て。ルルーシュその顔可愛いぞ!

って!戻って来い俺。
俺は思案する。このままここに居たら何かマズイ気がする。あの筋肉に殴られたくは無い。なにせ軍仕込みだ。
思案というより勘に近いそれを実行に移そうとして、ソロ~っと部屋から出ていこうとした俺は、次の瞬間その場所に足が縫い付けられた。
「ルル。僕は怒ってるんだよ?」
はい、怒ってます宣言来ましたー!逃げたい。でも聞きたい。あぅ俺って単純。
「だがスザ「怒ってるって、聞こえ無かった?」
枢木スザク。笑顔が人懐っこく、かつ爽やか。運動神経がよく、頭はあまり良くない。性格は至って優しく、温和。・・・温和!?お~ん~わ~!?
「僕は何度も言ったと思うよ?僕以外から言い寄られたら、あやふやにしないできっちり断ってって。それともルルーシュは僕と別れたいの?」
「・・・ヤ」
あぁ果てしなくスザクの声が明るいのに、どす黒く聞こえるのは俺の耳がおかしいからですか?ルルーシュの声が悲しみに震えているのは気のせいですよね!
「いやだ・・・スザク。スザクが、いい。他は嫌だ。」
「ごめんなさいは?」
「スザ・・・ごめっ」
もうやだ。こっちがやだ。甘いよ。急性甘過ぎる症候群になってしまう。俺上○綾じゃねっての。
「ルルーシュは優しいから断れ無いんだよね?」
スザクがそう言うと、ルルーシュは泣きながらふるふる顔を横に振って、「今度からちゃんと断ってくる。傷付けてごめん。」と途切れ途切れに言った。
しくしく泣くルルーシュの頭をそっと優しく抱き締めてスザクは、「僕もごめん。少しだけルルのこといじめ過ぎた。でも、ルルは魅力的だから危機感を持って欲しいんだ。君を独占していいのは、七年前から僕一人だけなんだからね?」と言った。

七年前から。
俺は『別れたいの?』と枢木スザクが言った時から二人の関係がなんとなく分かってしまっていた。
まぁルルーシュが笑顔で好きだ、と答えるくらいだから相当好きなんだろう。
理由、聞きそびれたなぁ・・・とか思ってクラブハウスの日の当たる廊下で寝そべって居たら、上から声がした。
「僕の観察結果は出たの?」
にこっと笑って上から見下ろして来たのは、枢木スザクその人だった。
待てよ?待て待て。
「観察結果ぁ!?」
「アレ?君じゃなかったっけ?気配は君っぽいんだけど。」
俺は焦った。そりゃあもう口から心臓がばっこんばっこん出るかと思うくらい。背中なんか冷や汗がタラタラ出ている。
だって、怖い。あのルルーシュがあそこまで怯える人物だ。
「かかかか観察なんかし、し、してないよ!」
「嘘、動揺してる。別に怒ってないからそんな怯えなくても。」
「いやそんな!枢木さんを怯えてなんか!」
「スザク。」
「はへ?」
「スザクって呼んで?」
「・・・スザク。」
「うん。さっきの事も怒ってないから。」
さっきの事・・・?あ!
「る、ルルルルーシュには!」
「大丈夫。少し落ち着いて?ルルは気付いてない。」
俺はホッと息を吐いた。
「それで・・・ルルーシュは?」
俺が部屋を出てからかなり時間が経っていた。
「聞きたい?」
スザクはにっこりと笑う。
「イヤ、エンリョシマス。」
要らぬ火の粉は避けたい。俺だって空気くらいは読める。・・・多分。
「それで?観察結果は出たの?」
「う~・・・とりあえずスザクと俺は立ち位置が違うってところ?」
「立ち位置?」
「例えば、ルルーシュがいたとして、その左側がスザクで、右側が俺?」
「・・・なるほど。」
「俺はスザクが来た時から今日まで、ルルーシュの右側、つまり親友と言う名の特等席を奪われた、と思ってた。」
「うん、それで?」
「でもそれは間違いで、実はルルーシュの隣には左側にもう一つ隠された席があった。そしてスザクはそこにずっと前から座ってた。さっきの話しによると、七年前から。」
「・・・そうだね。」
「つまり、俺達は、似ていて異なる席に座ってたんだ。でも俺は気付かなかった。スザクの話しをするルルーシュが笑顔なのにスッゴク妬いてた。」

「だってそうだろ?俺の三ヶ月ちょいの苦労がたった一瞬で達成したんだから。」
「そんなにかかったんだ。」
「でもどうやっても恋人には敵わないよなぁ。そりゃルルーシュだって笑うよ。」
「そうでもないんじゃない?」
「うん?」
「僕は、僕が来るまでのルルーシュがどんな学校生活をしてたか何て知らない。」
「ふむふむ。」
「でも、半年前に偶然再会してからは頻繁に連絡はとってたんだ。電話とかで」
「まぁそれは分かる。」
「で、いつも電話に出ると、リヴァルがリヴァルがって。彼奴が馬鹿やった、とか今日のチェスの相手をリヴァルが連れてきて中々強かった、とか聞くと、」
「わあー俺とおんなじ?」
「そう。ちょっとカチンって来るんだよね?まぁそれでいじめた事もあったけど。」
「もぅいいです。お腹いっぱいだよ。」
「僕達が違う立場にいることは解っていたケド、でももしかしたら、って考えると恐くて。別にルルを信用してないとかじゃなくて。『だけどでも』って考えることない?」
「あるある。」
「だから君が僕の後をつけてた時はびっくりして。まさか闇討ちする気?とか思ったりして。まぁ返り討ちにする自信はあったけど」
「怖いですよー?」
「で、逆につけてみたら観察日記とか付けてたから面白くって。」
「何だよー雰囲気あっていいだろ?」
「純粋に君に興味がわいたのはその日からだよ。」
「まぁ怖いお人!」
「ルルーシュ抜きで、お友達になってくれませんか?リヴァル君」
スザクはそう言うと、俺の右側に座って右手を差し出した。
「リヴァルでいいよ、スザク。これからよろしく。」
俺も右手を出して、おもいっきりスザクと握手をした。
スザクの手はカサカサしていて、細いのになぜかゴツゴツしていて、傷だらけだった。
あぁルルーシュはこんな努力の塊みたいな指が好きなんだ。と、唐突に理解した。
俺と握手を終えたスザクは立ち上がって、最後に一言こう言った。

「リヴァルは右側にずっと居てね?左側には立ち入り禁止だから。」

笑顔のむこうがわには盤若の面がユラユラと浮かび上がっていた。

End.
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