アネモネ 第三章
カチャ、と冷えた紅茶を飲みながらユーフェミアはここに来てから数えきれなくなった溜め息をまた吐いた。
物音ひとつしない城はまるで自分しかいないようで、とても寂しい。ザァーっと風が白いドレスを揺らした。艶の無い黒い髪は、上の方から少しずつ桃色になってきている。
「そろそろ黒に染めなくては」
お兄様は黒髪がお好きですもの、と呟いてパサパサした髪を一筋手に取った。
「まるで私の髪ではないみたい。」
昔の自分の髪の毛は、と思いだして切なくなる。よく、「綺麗な髪だね」とみんなに褒められた艶のある髪の毛だった。
ふわふわとした髪を年の離れた姉が結ってくれるのが大好きだった。
『ユフィの髪はまるで絹のようだ』
とても可愛い、と言われて花を飾ってくれた。愛情に満ちた手だった。
ここでの生活はそんな感情などない。ただ時間になったら食事が運ばれてきて、食べるだけ。時間になったら眠るだけ。会話らしい会話はロイドとしかしていなかった。でもそのロイドですら自分のことを“ルルーシュ”と呼ぶ。
まるで息をするお人形のようだ。自分はそう扱われている。『ルルーシュ』と言う名の代用品のようだとユーフェミアは思った。
「違うよ、代用品にすらなっていない。」
自分の考えに答えが返ってきて、ユーフェミアは振り向いた。その先、扉のから数歩の所に、男が座っている。いつからいたのか、何故自分自身の問いかけに答えを返したのかが気になる。
「あの、」
「君、とっても五月蠅いんだよね。ルルとは大違いだ。」
その男の言い方で、自分を“ルルーシュ”とは思っていないことを察したユーフェミアは嬉しくなって一歩前に出た。
「・・・そんな所に座ってないで、こちらで一緒にお茶を」
「何の冗談!?」
あっははははは、と笑って男は立ち上がった。口角が片方だけ上がっている。見据える瞳が赤いことに気づいたユーフェミアは、怖くなって一歩足を引いた。風が、ドレスのスカートを揺らす。男はカカっと笑って腹までぐにゃん、と曲げた。
「僕が君とお茶!本当、何の冗談なんだって思うよ。僕はね、ルルが大好きなんだ。ルルとそしてこの城の住民がいればそれでいい。メイドもコックも庭師も、増えていい。だってミレイが連れてくる人に悪い人はいないもの!皆優しくて、いい声をしてる。シュナも好き。咲世子も好き。シャーリーもリヴァルも、ロイドも、ラクシャータも、もちろんカレンもC.C.も好き!カレンのお母さまも好き。ちょっとしか会えないし、お仕事がんばってるからあまりお話できないけど、グランストンナイツも好き。僕を拒まない、この城の住人が好き!でも、お前は嫌いだ。大嫌いだ。」
言われた声が、それまでの口調と大きく違ったので、ユーフェミアは更に怖くなった。
背中を、冷たい汗が伝った。
「お前は、要らない。」
見つめる視線に貫かれる。息ができなくて、ユーフェミアはギュッと拳を握りしめた。
「僕が怖い?殺されるかも、って思ってるね。言葉が隠せなくて焦ってる。気持ち悪い?よく言われるよ。自分に危機が迫ってる。そのとおりだね。・・・あぁ、咲世子はまだ帰ってこないよ。もちろん、ロイドも。ロイドはねぇ、今エリア11にいるんだ。もちろん、シュナも来ないよ。来る筈ないじゃない。ねぇ、気付かなかった?」
自分が考えていることをつらつらと喋る男に、怖くなって数歩後ろに下がった。二階のバルコニーの仕切りでそこで立ち止まった。後ろはバラが植えられている。
「気付かなかった、とは何ですか?」
やっと絞り出した言葉に、マオはニヤリと笑った。
「本当に、この城にいるメイドは咲世子だけだと思った?」
体が震撼する。マオは更に腹を抱えて笑った。
「お前、本気で気付かなかったの?メイドが、咲世子だけじゃないって。」
「でもッ!」
そうだ、自分は何度か疑問に思ったことがある。本当にこの宮はこのメイド独りで賄っているのだろうか、と。でもこの四か月、彼女以外のメイドの姿は見たことがない。メイドどころか、コックも、庭師も。だから独りで賄っているのだろうと。だからあんなに忙しそうにしているのだと。
「ふぅん、見たことがないからそう思っていたんだって?笑わせるね。この城にちゃんと住んでるし。じゃあ何で見たことがないのかって・・・?そんなの決まってる。お前が、ルルの、赤ちゃんを、殺したからだよ。」
「あれは・・・っ!」
「ルルが悪い?お兄様をとったから?お兄様と結婚をするのは自分でなくてはいけない?生まれてすぐの婚約者?」
「そ、そうです!私とシュナイゼルお兄様は・・・!」
「それって変だよね。大体、シュナはルル以外とは誰とも婚約してないし、リ家とは絶対にしちゃダメだって皇帝から言われてる。この理論で行くと、シュナがお前のものっていう定義が崩れる訳だ。つまり、お兄様と結婚する云々の話と、生まれてすぐの婚約、はもとから無かった条件になるってわけだ。
なのにお兄様をとった、って言うのは可笑しな話だよね。だって取りようがないんだもの。婚約した段階で、シュナはルルのもの、ルルはシュナのものだから、自分のものを取っても仕方ないと思う。だってすでに手に入ってるんだ。それを悪いって言われても、どうにもできないと僕は思うけど、お前はその答えにケチをつけて、ルルの赤ちゃんを殺したんだよ。」
「殺してなんか、ない!」
「へぇ、アレで?無防備な相手に銃を向けて、必死に子どもを守ろうとした、庇おうとしたお母さんのお腹にいる赤ちゃんに向かってその銃を発砲することが、人殺しじゃないの?」
「だってまだ生まれてなかったわ!」
その言葉に、マオは近くにあったテーブルを蹴り倒した。ガンッガッシャーンと音がしてテーブルの上にあったティーセットとケーキが転がり落ちる。
「・・・ッヒ!」
声を上げたユーフェミアはその場に座り込んで耳を塞ぐ。その腕を掴んで、マオはねじり上げた。髪の毛を掴んで顔を上に持ち上げた。恐怖に歪んだ瞳をマオは覗きこんだ。
「痛い!」
「お前みたいなのがルルの赤ちゃんを奪ったなんて。」
ギリギリと手に力を入れる。ユーフェミアは痛い、痛いと小さく漏らした。
「あの赤ちゃんはね、皆から望まれた存在だったんだ。シュナはその為に髪の毛をほんの少し切ったし、ルルはずっと子どもの為の服を縫ってた。お腹を撫でる手がどんなに優しかったか、お前は知らないだろう。生きてたんだ。ちゃんと心臓を動かして、ルルと繋がってた。お前が奪ったんだ!ルルの体にできた大きな傷をつけたのはお前だ。生まれてなかった?!ならお前はどうなんだ。取り巻きが居てさえ寂しいとか弱いことをいう癖に、一人で生きたことがあるの?大切な人を理不尽に奪われたことは。守れなかった、と涙したことは。ないよね!ただ惰性に生きてただけ!それは一度も自分で生きたことにはなってない。お前は、“生まれながらにして死んでいる!”」
ユーフェミアは大きな菫色の瞳から涙をぽろぽろとこぼした。マオは舌打ちをすると、ユーフェミアを離した。
「忘れないで。お前はこの城には必要ない。お前と会いたくないから皆ここには近づかない。死んでるお前は“ルルーシュの代用品”なんて高尚なものじゃないんだってこと。代用品にすらなれない。お前なんかただのお飾りだ。」
バタンッと扉が閉まる音がしてユーフェミアは声を上げて泣いた。初めて、自分の全てを否定された。これがこんなに悲しくて空しいことだとは思わなかった。床に吸い込まれる涙を見て、ユーフェミアはこれは何の涙だろうかと考えた。
*****
ロイドと四聖剣とC.C.と扇と神楽耶の議論は夜中まで続いた。間に夕飯と称したピザを人で食べ、朝比奈がロイドのテンションに着いて行けず癇癪を起こすなどハプニングがあったが、それでも話し合いは続けられた。
「姫がどこにいるかが問題だな。」
「うーんと、それは大分把握してる~。だから問題ナッシング!」
グ、と親指を立てたロイドに、扇は懐かしいなぁ、と思いながらポテチをつまんだ。
「何でわかるの?」
聞いた朝比奈に、これ、と言って見せたのは腕時計だった。
「何これ?」
「奥様レーダー。」
「何そのネーミング。」
「朝比奈。」
ついつい突っ込んでしまう朝比奈を、藤堂が声を出して静止させる。先ほどからこの動作が続けられていて、話が前に進まない。
「奥様には、エリア11に来る時にネックレスに仕掛けをして渡してあるんです。モールスでの光通信と、GPSが付いてるの。凄いでしょう。」
「お前は馬鹿か。」
言ったC.C.に、ロイドは「それは殿下と同じセリフだ」と笑った。
「まぁ要は、それでルルーシュ様の居所は分かった、ということですわね。」
意気込む神楽耶に「そのとおり!」と返す。
「でもそれだと、カレンやラクシャータのいる場所は解らないのではないか?」
深刻な顔をして聞く千葉に、ロイドは「それも大丈夫!」と答えた。
「ラクシャータの歯にも同じの仕込んでるから!」
キラッキラした目に、その場にいた誰もが「こいつ危ない」と感じた。
大きく咳払いをした藤堂が、周りを見渡す。
「つまり、姫はロイド伯に任せ、俺たちはカレンとラクシャータを奪還すればいいんだな?」
確認の言葉に、ロイドは頷いた。
「うん、そう。でも明日まで待ってほしいかも。」
「・・・何故だ?」
千葉の投げかけに、C.C.はとっても嫌な予感がした。
「僕の作戦って、結構力技だって奥様によく言われてるんだよね。で、作戦はプロに任せないとって思って。」
ガタガタ震えるC.C.と、明後日の方向を向いたロイドに、全員が不安に駆られる。
「まさか、ロイドお前・・・」
ぎゅうっと握りしめた机がミシミシと音を立てるのも気にせずに、C.C.はロイドをギギっと音がするような首の動きで見詰めた。
「いやぁ、僕も結構粘ったんだよ?でも電話口で『妻を迎えに行くのは自分の役目だ』って聞かない聞かない。で、さっき」
「承諾したのか。え?承諾したんだな。」
「・・・はい。」
面倒だしーと言っているロイドにC.C.は脱力した。先ほどした想像がもしかしたら本当になるかも知れないということも含めて。
無理だ。ルルーシュ。このメンツは最早止まらない。
C.C.はまだ見ぬ政庁の住人にこの上もなく同情した。
物音ひとつしない城はまるで自分しかいないようで、とても寂しい。ザァーっと風が白いドレスを揺らした。艶の無い黒い髪は、上の方から少しずつ桃色になってきている。
「そろそろ黒に染めなくては」
お兄様は黒髪がお好きですもの、と呟いてパサパサした髪を一筋手に取った。
「まるで私の髪ではないみたい。」
昔の自分の髪の毛は、と思いだして切なくなる。よく、「綺麗な髪だね」とみんなに褒められた艶のある髪の毛だった。
ふわふわとした髪を年の離れた姉が結ってくれるのが大好きだった。
『ユフィの髪はまるで絹のようだ』
とても可愛い、と言われて花を飾ってくれた。愛情に満ちた手だった。
ここでの生活はそんな感情などない。ただ時間になったら食事が運ばれてきて、食べるだけ。時間になったら眠るだけ。会話らしい会話はロイドとしかしていなかった。でもそのロイドですら自分のことを“ルルーシュ”と呼ぶ。
まるで息をするお人形のようだ。自分はそう扱われている。『ルルーシュ』と言う名の代用品のようだとユーフェミアは思った。
「違うよ、代用品にすらなっていない。」
自分の考えに答えが返ってきて、ユーフェミアは振り向いた。その先、扉のから数歩の所に、男が座っている。いつからいたのか、何故自分自身の問いかけに答えを返したのかが気になる。
「あの、」
「君、とっても五月蠅いんだよね。ルルとは大違いだ。」
その男の言い方で、自分を“ルルーシュ”とは思っていないことを察したユーフェミアは嬉しくなって一歩前に出た。
「・・・そんな所に座ってないで、こちらで一緒にお茶を」
「何の冗談!?」
あっははははは、と笑って男は立ち上がった。口角が片方だけ上がっている。見据える瞳が赤いことに気づいたユーフェミアは、怖くなって一歩足を引いた。風が、ドレスのスカートを揺らす。男はカカっと笑って腹までぐにゃん、と曲げた。
「僕が君とお茶!本当、何の冗談なんだって思うよ。僕はね、ルルが大好きなんだ。ルルとそしてこの城の住民がいればそれでいい。メイドもコックも庭師も、増えていい。だってミレイが連れてくる人に悪い人はいないもの!皆優しくて、いい声をしてる。シュナも好き。咲世子も好き。シャーリーもリヴァルも、ロイドも、ラクシャータも、もちろんカレンもC.C.も好き!カレンのお母さまも好き。ちょっとしか会えないし、お仕事がんばってるからあまりお話できないけど、グランストンナイツも好き。僕を拒まない、この城の住人が好き!でも、お前は嫌いだ。大嫌いだ。」
言われた声が、それまでの口調と大きく違ったので、ユーフェミアは更に怖くなった。
背中を、冷たい汗が伝った。
「お前は、要らない。」
見つめる視線に貫かれる。息ができなくて、ユーフェミアはギュッと拳を握りしめた。
「僕が怖い?殺されるかも、って思ってるね。言葉が隠せなくて焦ってる。気持ち悪い?よく言われるよ。自分に危機が迫ってる。そのとおりだね。・・・あぁ、咲世子はまだ帰ってこないよ。もちろん、ロイドも。ロイドはねぇ、今エリア11にいるんだ。もちろん、シュナも来ないよ。来る筈ないじゃない。ねぇ、気付かなかった?」
自分が考えていることをつらつらと喋る男に、怖くなって数歩後ろに下がった。二階のバルコニーの仕切りでそこで立ち止まった。後ろはバラが植えられている。
「気付かなかった、とは何ですか?」
やっと絞り出した言葉に、マオはニヤリと笑った。
「本当に、この城にいるメイドは咲世子だけだと思った?」
体が震撼する。マオは更に腹を抱えて笑った。
「お前、本気で気付かなかったの?メイドが、咲世子だけじゃないって。」
「でもッ!」
そうだ、自分は何度か疑問に思ったことがある。本当にこの宮はこのメイド独りで賄っているのだろうか、と。でもこの四か月、彼女以外のメイドの姿は見たことがない。メイドどころか、コックも、庭師も。だから独りで賄っているのだろうと。だからあんなに忙しそうにしているのだと。
「ふぅん、見たことがないからそう思っていたんだって?笑わせるね。この城にちゃんと住んでるし。じゃあ何で見たことがないのかって・・・?そんなの決まってる。お前が、ルルの、赤ちゃんを、殺したからだよ。」
「あれは・・・っ!」
「ルルが悪い?お兄様をとったから?お兄様と結婚をするのは自分でなくてはいけない?生まれてすぐの婚約者?」
「そ、そうです!私とシュナイゼルお兄様は・・・!」
「それって変だよね。大体、シュナはルル以外とは誰とも婚約してないし、リ家とは絶対にしちゃダメだって皇帝から言われてる。この理論で行くと、シュナがお前のものっていう定義が崩れる訳だ。つまり、お兄様と結婚する云々の話と、生まれてすぐの婚約、はもとから無かった条件になるってわけだ。
なのにお兄様をとった、って言うのは可笑しな話だよね。だって取りようがないんだもの。婚約した段階で、シュナはルルのもの、ルルはシュナのものだから、自分のものを取っても仕方ないと思う。だってすでに手に入ってるんだ。それを悪いって言われても、どうにもできないと僕は思うけど、お前はその答えにケチをつけて、ルルの赤ちゃんを殺したんだよ。」
「殺してなんか、ない!」
「へぇ、アレで?無防備な相手に銃を向けて、必死に子どもを守ろうとした、庇おうとしたお母さんのお腹にいる赤ちゃんに向かってその銃を発砲することが、人殺しじゃないの?」
「だってまだ生まれてなかったわ!」
その言葉に、マオは近くにあったテーブルを蹴り倒した。ガンッガッシャーンと音がしてテーブルの上にあったティーセットとケーキが転がり落ちる。
「・・・ッヒ!」
声を上げたユーフェミアはその場に座り込んで耳を塞ぐ。その腕を掴んで、マオはねじり上げた。髪の毛を掴んで顔を上に持ち上げた。恐怖に歪んだ瞳をマオは覗きこんだ。
「痛い!」
「お前みたいなのがルルの赤ちゃんを奪ったなんて。」
ギリギリと手に力を入れる。ユーフェミアは痛い、痛いと小さく漏らした。
「あの赤ちゃんはね、皆から望まれた存在だったんだ。シュナはその為に髪の毛をほんの少し切ったし、ルルはずっと子どもの為の服を縫ってた。お腹を撫でる手がどんなに優しかったか、お前は知らないだろう。生きてたんだ。ちゃんと心臓を動かして、ルルと繋がってた。お前が奪ったんだ!ルルの体にできた大きな傷をつけたのはお前だ。生まれてなかった?!ならお前はどうなんだ。取り巻きが居てさえ寂しいとか弱いことをいう癖に、一人で生きたことがあるの?大切な人を理不尽に奪われたことは。守れなかった、と涙したことは。ないよね!ただ惰性に生きてただけ!それは一度も自分で生きたことにはなってない。お前は、“生まれながらにして死んでいる!”」
ユーフェミアは大きな菫色の瞳から涙をぽろぽろとこぼした。マオは舌打ちをすると、ユーフェミアを離した。
「忘れないで。お前はこの城には必要ない。お前と会いたくないから皆ここには近づかない。死んでるお前は“ルルーシュの代用品”なんて高尚なものじゃないんだってこと。代用品にすらなれない。お前なんかただのお飾りだ。」
バタンッと扉が閉まる音がしてユーフェミアは声を上げて泣いた。初めて、自分の全てを否定された。これがこんなに悲しくて空しいことだとは思わなかった。床に吸い込まれる涙を見て、ユーフェミアはこれは何の涙だろうかと考えた。
*****
ロイドと四聖剣とC.C.と扇と神楽耶の議論は夜中まで続いた。間に夕飯と称したピザを人で食べ、朝比奈がロイドのテンションに着いて行けず癇癪を起こすなどハプニングがあったが、それでも話し合いは続けられた。
「姫がどこにいるかが問題だな。」
「うーんと、それは大分把握してる~。だから問題ナッシング!」
グ、と親指を立てたロイドに、扇は懐かしいなぁ、と思いながらポテチをつまんだ。
「何でわかるの?」
聞いた朝比奈に、これ、と言って見せたのは腕時計だった。
「何これ?」
「奥様レーダー。」
「何そのネーミング。」
「朝比奈。」
ついつい突っ込んでしまう朝比奈を、藤堂が声を出して静止させる。先ほどからこの動作が続けられていて、話が前に進まない。
「奥様には、エリア11に来る時にネックレスに仕掛けをして渡してあるんです。モールスでの光通信と、GPSが付いてるの。凄いでしょう。」
「お前は馬鹿か。」
言ったC.C.に、ロイドは「それは殿下と同じセリフだ」と笑った。
「まぁ要は、それでルルーシュ様の居所は分かった、ということですわね。」
意気込む神楽耶に「そのとおり!」と返す。
「でもそれだと、カレンやラクシャータのいる場所は解らないのではないか?」
深刻な顔をして聞く千葉に、ロイドは「それも大丈夫!」と答えた。
「ラクシャータの歯にも同じの仕込んでるから!」
キラッキラした目に、その場にいた誰もが「こいつ危ない」と感じた。
大きく咳払いをした藤堂が、周りを見渡す。
「つまり、姫はロイド伯に任せ、俺たちはカレンとラクシャータを奪還すればいいんだな?」
確認の言葉に、ロイドは頷いた。
「うん、そう。でも明日まで待ってほしいかも。」
「・・・何故だ?」
千葉の投げかけに、C.C.はとっても嫌な予感がした。
「僕の作戦って、結構力技だって奥様によく言われてるんだよね。で、作戦はプロに任せないとって思って。」
ガタガタ震えるC.C.と、明後日の方向を向いたロイドに、全員が不安に駆られる。
「まさか、ロイドお前・・・」
ぎゅうっと握りしめた机がミシミシと音を立てるのも気にせずに、C.C.はロイドをギギっと音がするような首の動きで見詰めた。
「いやぁ、僕も結構粘ったんだよ?でも電話口で『妻を迎えに行くのは自分の役目だ』って聞かない聞かない。で、さっき」
「承諾したのか。え?承諾したんだな。」
「・・・はい。」
面倒だしーと言っているロイドにC.C.は脱力した。先ほどした想像がもしかしたら本当になるかも知れないということも含めて。
無理だ。ルルーシュ。このメンツは最早止まらない。
C.C.はまだ見ぬ政庁の住人にこの上もなく同情した。