アネモネ 第二章
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを縛る鎖は三つある。
一つ目は灰色の魔女、C.C.との契約。授かった絶対尊守の王の力―――ギアス。
二つ目はエリア11を日本に戻すための対ブリタニア帝国最大の反逆組織、黒の騎士団。
最後の一つは、ブリタニア帝国皇帝の第二皇子、そして現在の国家宰相、シュナイゼル・エル・ブリタニア―――彼女の夫。
・・・ルルーシュを地上に引き止めるこの三つの鎖の中で一番太いのは、やはり彼女の夫の存在である。
このシュナイゼルという男は、存在自体が“男”であった。信じ難い力でルルーシュを自分に引き寄せ、長きに渡って彼女を苛んだ心の隙間を、空虚を何処までも埋めた。
この男は、消え逝こうとしたルルーシュを必要だと説き、またルルーシュも男に応えた。
黒の姫君が断崖に立って漸く手に入れたもの・・・それは苦難と略奪が主だった彼女の今までの人生においては真実尊く、また確かな現実だった。
******
白い手が少しだけ膨らんだ腹をゆうるりと撫でるのを見る度に、カレンとシャーリーは幸せな気持ちでそれを見ていた。
午後三時を指す時計がボーン、と音を響かせて図書室には雨音と共に静寂が落ちた。
図書室の大きな照明が彼女を柔らかく包む。外は、雨足が更に酷くなったのか、土砂降りである。
少々肌寒くなったことに気付いたカレンは眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。気付かない女主人は窓辺のソファーに座ってハードカバーの本を読んでいる。題名は“今日のブリタニア”シリーズ。
目を細めてシャーリーを振り返ったカレンは、一つ頷いた。
シャーリーも溜め息を吐いて肩をすくめる。
二度目の溜め息がカレンの口から吐き出された。
「・・・ルルーシュ、ダメじゃない、体が冷えちゃう。もっと温かくして。ひざ掛け、持ってきたから羽織ってよ。雨の日には窓辺で本を読んだらダメだって、ラクシャータも言ってたでしょ?」
精神の負担にならないように言われたカレンの小言に首を傾げたルルーシュは、読んでいた本に栞を挟んで膝の上に下ろした。
「すまないカレン、夢中になってしまった。」
「んもールルは直ぐそれなんだから!紅茶、煎れたから、一緒に飲もう?体、あったまるし。」
シャーリーはぷんぷん怒って紅茶を用意し、カレンがひざ掛けをかけた。
「すまない。」
「解ればいいのよ、わかれば。」
頷いたカレンをルルーシュが笑った。
「今度からは気をつけるようにする。・・・カレン、殿下は?」
カレンはルルーシュの近くのソファーに座りながら言う。
「今日は皇帝に呼ばれていった。・・・多分、今度の式典のことじゃないかな。ルルーシュ、クッキーあるよ、食べる?」
妊婦になって、更に食べなくなったルルーシュを心配してカレンがクッキーを差し出す。
ルルーシュはそれを受け取った。
「ありがとう。式典・・・あのはた面倒なあれか。」
渋り顔になったルルーシュをカレンは笑った。
「咲世子さんが新しい型紙書いてた。」
「・・・暴走しないように止めておけよ。・・・カレン。」
「ん?」
カレンはクッキーを咥えながらルルーシュを見た。
「日本は今、どうなってる?」
カレンは咥えていたクッキーを飲み込むと、朗らかに笑った。
「今のところは結構順調。扇さんが頑張ってくれてるから、他のチームでもテロは起きてないみたい。ただ・・・」
「ただ?」
「特区で小規模な小競り合いが続いてるみたい。」
「そうか・・・。」
ルルーシュはティーカップを手に伸ばすとその中身を一口啜った。
「・・・考えている段階なんだが」
カップをソーサーに戻すと、ルルーシュはカレンとシャーリーの両方を見据える。
「式典が済んだら、エリア11に・・・日本に行って子どもを生もうと思うんだが、どう思う?」
相談を受けた二人は思いっきり目を見開いた。カレンが姿勢を正す。
「殿下には?」
「言ってあるが・・・返事はまだ。」
シャーリーは難しい顔をする。
「ルル、どうして日本で?」
ルルーシュは一瞬示唆した後、首を斜めにかしげた。
「神楽耶が・・・日本の天皇が、この間のことを聞きつけたらしくて。安全を選ぶなら、こちらの方がいいんじゃないかって言ってくれたんだ。私もこの皇帝宮で子どもを生むのは・・・正直、怖くて出来ない。だからあっちの方がいいと思うし、ナナリーにこのことを報告したいんだ。アリエス宮に名ばかりのお墓はあるけれど、実質的には向こうのお世話になってるし、エリアの情勢も気になる。」
「ロイドは?」
「なら特派ごと移動しますよーって言ってた。」
カレンは考え込むとポンっと手をうった。
「なら、行くのはアヴァロンでいいじゃない。」
「私は飛行機でも言いと思うが・・・シャーリーはどう思う?」
シャーリーはにっこり笑うと、首を振った。
「うん、絶対アヴァロンの方がいいと思う。飛行機って結構な時間がかかる上に、立てなくて疲れちゃうから、ストレスが溜まっちゃう。その点アヴァロンで行くなら、いくらかはよさそう。」
「・・・いくならアヴァロンか。」
ルルーシュが言ったことに二人は頷く。カレンは再びクッキーに手を伸ばした。
「あとはあのひねくれ皇子を説得しなくちゃ。」
三人がどっと笑ったところで、後方のドアがコンコンコン、と叩かれた。
ルルーシュが振り向くと、シュナイゼルが立っている。
「殿下・・・!」
慌てて立ち上がろうとするのを、カレンとシャーリーが止める。シュナイゼルはにこやかに笑ってルルーシュが立ち上がるのを止めると、苦笑して言った。
「そんなに私はひねくれてはいないと思うのだが。・・・善処するよ。逃げられる前に。」
ルルーシュは笑うと、首を横に振った。シュナイゼルはルルーシュの隣に腰掛ける。
「逃げようと思っても、逃がして下さらないのでしょう?」
シャーリーがシュナイゼルの分の紅茶を入れようと立ち上がる。シュナイゼルは小さく息を吐いた。
「・・・そうだな。何を逃がしたとしても、君だけは逃がしはしないよ。もし、逃げたとしたら何処までも追いかけるから。・・・そうなった私はとてもうっとおしいと思うよ?ルルーシュ。」
「まるでロイドのようなことをおっしゃる。・・・でも、逃げようとも思わないこと、知ってらっしゃるんでしょう?本当に人が悪い。」
クスクス笑ったルルーシュに、カレンがつまんだクッキーを皿に戻して紅茶を注ぎなおした。・・・この甘い空気をどうにかしてくれ!
常ならこの空気を見事に壊してくれるルルーシュの騎士の不在を、カレンは果てしなく呪った。
「それで殿下、」
聞いてらしたのでしょう?という意図を込めてシュナイゼルを見たルルーシュに、シュナイゼルは苦笑すると、ルルーシュの頭にポン、と手を置いた。
「・・・こればかりは仕方がないね。日本は君の第二の故郷のようなものだし、ゆっくりしておいで。ただ、これだけは約束してほしい。総督府に近づかないことと、危険なことをしないこと。・・・君は、もう一人じゃないんだからね?」
ルルーシュははにかんで笑うと、ゆっくりと頷いた。
「はい。」
シュナイゼルは心配そうに笑ったあと、ルルーシュの、ほんの少しだけ膨らんだ腹を大きな掌で撫でた。
シャーリーが、あっ!と小さく声を上げる。
「殿下、お子様が生まれる前に、その襟足をお切りになって下さいね。」
突然のことにシュナイゼルは目を丸くする。
「あ、あぁ。解ったよ。」
シャーリーの大きな瞳に気圧されたシュナイゼルは、助けを求めるようにルルーシュを見ると、ルルーシュはクスクス笑って、「殿下」と声をかけた。
「そうしないと、新生児は髪の毛を掴んで離さないんだそうですよ。髪の毛を引っ張られたいのなら伸ばしてみては?パパ。」
“パパ”と呼ばれたシュナイゼルは目を細めるようにして笑う。
「・・・意地の悪いことを言う。それまでには必ず切っておくよ。」
「お忘れなき様に。」
再び笑ったルルーシュを見、シュナイゼルは紅茶を一口、口に含んだ。
「エルモアは?」
何気なく聞いたシュナイゼルにルルーシュは少し考えた後、答えた。
「・・・今はロイドと一緒にお勉強中です。今日は確か・・・」
ルルーシュに、“なんだっけ?”と目で問われたカレンが溜め息を漏らす。
「化学。」
カレンが頭を押さえると、シュナイゼルはブフッと紅茶を吹き出し、咳き込んだ。
「ちょ、ルルーシュ!」
「・・・ハメは外さないように言いましたが。」
「無理だろう、あの男だぞ?!セシル女史は?」
「昼食を作りに・・・殿下?」
今度こそ顔面蒼白になったシュナイゼルを、シャーリーとカレンは見て、ケラケラと笑った。
「笑い事じゃないだろう!ルルーシュ、三人は何処にいるんだい?」
いつになく余裕のないシュナイゼルを見ながら、ルルーシュは朗らかに笑った。
「ロイドとエルはエルの自室に。セシルさんはキッチンです。」
紅茶を少しずつ飲みながら言ったルルーシュに、シュナイゼルはその頬に口付けを落とすと、徐に立ち上がった。
「ちょっと失礼する。」
慌てて出て行こうとする夫に、ルルーシュはカップをソーサーに戻して苦笑すると、
「急ぎすぎて、階段を踏み外さないで下さいね?」と言って微笑した。
シュナイゼルが出て行った後も、およそ5分の間、ルルーシュが突っ込みを入れるまでカレンとシャーリーの笑い声は途切れなった。
*****
C.C.は大きく溜め息を吐いて、そこら中に転がっている石の一つを蹴飛ばした。見ていた扇が、隣で小さく苦笑する。
「全く、アイツは私を何だと思っているんだ。専属の郵便屋か何かだと思っているんじゃないだろうな。」
「まぁまぁそう怒るなってC.C.」
「これが怒らずにいられるか!毎回だぞ毎回!前触れもなく手紙を渡されて、“これもって日本に行ってくれ”とは。あー・・・思い出しただけでも腹の立つ!おいお前、これで玉置がキャンキャン吠えたら今回ルルーシュから振り込まれた金の四分の一は私のピザ代に回してもらうからな!」
唇を尖らせてルルーシュの声まねをしたC.C.は意外と似ている。条件付ではあるが、四分の一をピザ代にといわれた扇は慌てて首を振った。
「そ、それはちょっと・・・」
目を白黒させて言う扇を、C.C.はギロッと睨み付けた。
「何か言ったか?隊長殿。」
ぐっと詰まった扇は、唇を引き結んだ後、脱力した。
「わ、解ったよ。・・・でも四分の一は承諾できない。玉置が君に絡んだら、玉置の給料の四分の一を君に渡す。・・・それで勘弁してくれ。」
「二分の一!それで手を打ってやる。」
「・・・解った、二分の一だな。」
頼むから玉置、突っかかってくれるなよ。お前のために。と扇は心の底から思った。
本日の東京は快晴である。
黒の騎士団アジトは、シンジュクゲットー中央地下に位置している。兵舎・談話室・会議室・救護室・武器庫と五つの区分を中心として、小規模ながらしっかりとした作りになっており、これはロイドが設計を作り京都六家に要請して作られた。
ブリタニア側には、シュナイゼルが『支援団体の本拠地』と銘打っているので、今のところは怪しまれていない。
整備された階段を下りながら、C.C.は“あの男、ルルーシュの為なら本当に何でもありだな。”と感心した。だが、それは自分にも当てはまることなので、フフンと一笑すると持っていた荷物に力を入れた。
「おーい、お前たち。姫さんから手紙が来てるぞ。」
「姫さんから?」
談話室に入ると、玉置が椅子に座っておにぎりを食べながらくるっと振り向いた。
「えー何々?ルルちゃんから?」
井上は純粋に喜んでC.C.の隣に来る。他のメンバーも扇を囲むようにして集まった。
『姫』の意味を知らない新参の者たちが、口々に“誰?”と呟く。扇は笑い、ぽりぽりと頬を掻きながら、新しく入った騎士たちのほうを向いた。
「あーそういえばお前たちには言ってなかったなぁ。」
C.C.が扇の後ろで大げさにため息を吐いた。
「何だ、まだ言ってなかったのか?」
C.C.はまだ見たことのない顔の連中に視線を向けた。何人かが顔を顰める。
「扇さん、何でブリタニア人がここにいるんです!」
扇は困ったように笑うと、C.C.を振り返った。
「彼女はこの黒の騎士団のパトロンの遣いの人なんだ。」
「私は遣いの者では無い。」
「今日はそういう役柄だろう?C.C.」
「・・・」
「それで、今日はそのパトロンから手紙を預かってきてくれたんだ。・・・・そのパトロンが、俺たちの言う“姫さん”さ。」
井上が笑って『すごい美人さん』と付け加える。
扇はC.C.に「手紙があるんだろう?」と手を差し出した。
C.C.はぶすくれた顔をした後、手持ちのかばんの中から、白い封筒を突き出した。
「ありがとう。」
扇はその封を破って、几帳面に日本語で書かれた手紙を封筒から丁寧に取り出した。
「“拝啓、私の黒騎士たち。元気に過ごしているだろうか。日本の情勢は、C.C.を通して把握していたのだが、今回こうやってコンタクトを取ったのは、他でもない私自身に関することで連絡を取る必要があったからだ。
来月の18日の式典を見てもらえれば解るのだが、”ブフッ!」
扇がいきなり顔を赤く染めて手紙を顔から引き離した。井上がそれを取り上げる。
「えーなになに、“来月の18日に行われる式典を見てもらえば解るのだが”・・・・キャー!ルルちゃんやったじゃない!」
眉間に皺を寄せた玉置が、「続き読め続き!」と言ったので、扇が井上から手紙を取り上げて再び読み始めた。
「ゴホンッ“見てもらえれば解るのだが、身重になってしまったので、来月の下旬には一旦日本に帰ることにした。六家にはすでに話はついている。子供を産んだらまたブリタニアに帰ることにはなると思うが、その間仲良くしてくれるとうれしい。
日本の情勢が直に聞けることを楽しみにしている。特区のことについては我が夫が総督府の人間に声をかけてくれる手はずにはなっているが、私は奴から聞くいくらか緩和された情報では納得できない人間であるので、玉置あたりに報告書を書かせてやれ。”」
「俺かよ!」
「“他の事についても書きたいことは山々なのだが、それは皆に会ってから聞くことにする。
私が日本にいる間は、六家の世話になることになっている。
その辺は藤堂か神楽耶に聞いてほしい。私に会うまで、皆一人として欠けぬように。それではまた”だそうだ。」
井上がイスに座っている藤堂に詰め寄った。
「知ってたんですか?ルルちゃんのおめでたのこと。」
藤堂は片目だけ少し開くと神妙に頷いた。
「・・・大分前にな。皇の方から聞いていた。・・・今月で四ヶ月になるそうだ。私の方から君達に言おうと思ったのだが、姫が自分で言いたいだろうとの皇の方の配慮から黙っていた。・・・だがしかし、日本でお産みになるというのは初耳だ。」
「・・・でもどうして日本で?」
千葉が顎を押さえながら疑問を口にした。C.C.は大きく溜め息を吐くと、「めんどうだ」と言いながらその辺のイスに座って足を組んだ。
「あの場所で子どもを産むのは困難だ。その子どもが余程憎くない限り、あの場所で子どもを産む女はいないよ。・・・殺されることが解っているからな。
だから他の女は実家に帰って子どもを産むのだが、ルルーシュの場合そうはいかない。だって帰れる場所がないんだからな。あの男は“Elysion”で産めばいいと言ったが、そうも出来ない出来事が起こってだな、それを聞きつけた神楽耶が『ぜひ日本で』と言ってくれたのだ。ロイドの実家も無理だ。ブリタニアは危険すぎる。」
「・・・そうも出来ない出来事、とは?」
藤堂はC.C.を睨みつける。包み隠さず言え、と目が訴えている。
「――――・・・第四皇女に宮の周りを囲まれた。幸い、負傷者は出なかったたが、指揮を執ったのはその騎士、“白き死神”枢木スザクだ。」
何人かが目を見開き。藤堂がガタッと立ち上がった。
「ルルーシュにとって枢木スザクは鬼門だ。あの男が指一本触れさせはせんだろうが、その一件があって枢木に存在がばれてしまっている。あの不安定な男が、妊娠したルルーシュを見て、何もしない可能性は低い。・・・最悪、流産も免れない自体になりかねない。だから」
「日本で子どもを産む。」
千葉が悲しく眉をゆがめた。
「その通りだ。」
井上が首を横に傾けて言う。
「来月の何日くらいに来るの?18日以降よね?」
「一応の出立は、問題が出ない限り23日の午前中だ。アヴァロンに搭乗して来る。表向きはシュナイゼルのエリア11訪問だが、それに密かにまぎれてな。」
なるほど。と何人かが頷いたが、出てきた名前に新顔の一人・・・飯田が「シュナイゼル!?」と大声を上げた。
「どういうことなんですか、扇さん。ここは、対ブリタニアの最大組織なんでしょう?その姫って奴は一体どういう人物なんです!俺達に隠さないで言って下さいよ!」
扇は言葉に詰まり、C.C.を見た。彼女は投げやりな視線を扇に向けると、一つ溜め息を吐く。
「俺達、ではなくお前だろう?・・・何もかも包み隠さず言うのは容易い。だがそれをしないのはいつ、誰がどういった形でここでの情報を漏らすかわからないからだ。
私は基本的に幹部以外の人間は頼らない。こいつらはあの子に銃を向けなかったからな、それなりに信頼している。
だがお前はどうだ?私が、ひいては私の孤独な王がお前を信頼すると思うか?お前は自分が幹部連中のように信頼に足る人物だと思うのか?」
飯田は不満そうな顔をしたが、隣の扇語も頷いた。
「信頼を勝ち取ることは難しい。姫と俺たちはあのブリタニア戦線で共闘していた。今日にゼロが居なくなった黒の騎士団を支えているのは彼女の寄付金だ。その資金で武器の調達から炊き出しを行っている。その彼女が害されれば黒の騎士団は皆路頭に迷う。だから彼女の情報はほぼ古参の幹部しか知らないのだ。シュナイゼルについては皇の方と話がついていて、現在様子見の状態だ。・・・ブリタニアも皇帝派と第二皇子派と一枚岩ではないのだと理解してくれ。」
「つまり、皇帝の敵であるから第二皇子が俺たちを支援してるってことですか?」
C.C.はため息をついて髪の毛をまとめた。
「まぁ、そういうことだ。扇がお前の前でアレのことを話すならまぁ、そこいらの平と違って見込みがあると信じたい。そうだな?」
確認をとったC.C.に扇はしっかりと頷いた。
「扇がそう考えるなら任せる。・・・それでなくとも、私の王は心が優しすぎるんだ。
お前はシュナイゼルについてどういうことか説明しろと言ったが、ブリタニア人がみんながみんなあの非道な皇帝と思ったら大間違いだぞ。私の王はこの上もなくブリタニアを憎んでいた。今も憎んでいる。隣で愛し、守ってくれる夫がいなければ、思いつめ修羅の道を行こうとするくらいには祖国のことを憎んでいる。
“弱きものは切り捨てろ”ブリタニアの理念だが、あの子は違う。弱ければ弱いほど手を差し伸べ慈しみ、守る。お前達はそれでいいが、私の王は人一倍傷つくことになる。・・・それだけは許さない。」
言われた男は歯を喰い締めた。
「まぁそう言うなよC.C.!骨がある奴ばっかりだしよ!」
玉城がフォローに回るがC.C.は玉城をにらみつけた。
「この騎士団は合衆国日本の魁なのだろう?合衆国日本は人種も宗教も関係ない、あの子の夢。皆寛容でいてほしい。」
「確かに一理ある、が。」
扇は手紙を机の上に置いてイスにゆっくりと腰掛けた。
「姫さんを見たらこいつらの考えも変わるさ。・・・俺達がそうだったように。」
古参の幹部が頷くのを見て、C.C.は苦笑した。
「・・・任せた。だが、あの子を悲しませることだけはするなよ。・・・それから玉城。」
振り返ったC.C.は玉城をじっと見た。
「な、何だよ。」
「報告書、書けよ。」
全員が頷いたのを見た玉城は「げっ」と言った後机に伸びた。
「そういえば・・・」
扇が頭をポリポリと掻きながら言う。
「何だ。」
「帰ってくるのは姫さんだけか?」
C.C.は首を横に振った。
「いーや、カレンと咲世子もだ。二人とも日本に帰ることを楽しみにしていた。後は・・・ディートハルトとロイドのストーカーコンビだな。」
「うっわ、プリン伯爵も来るんですか・・・。」
朝比奈がおげぇえと脱力する。
「とにかく、そういう心積もりでいろ。用件は以上だな。では私は帰る。」
立ち上がってスタスタと歩くC.C.に、騎士団員が「お疲れ様!」と声をかける。
アジトから外に出る階段を上ろうとしたときに、先ほどの男―――飯田がC.C.の鞄の持ち手を引っ張って引き止めた。
「何だ。」
睨みつけるC.C.に、男はバツが悪そうに目を伏せた。
「その、さっきは悪かったブリタニア人って言ったこと。謝るよ」
C.C.はただでさえ大きな目を更に開いて、溜め息を吐いた。
「仕方がないと言えば仕方がない。お前達日本人にとってはブリタニアは日本人の功績を搾取して蹂躙する悪魔だからな。そう言われても、仕方がない。でももしあの子に会うことがあっても、言うなよ。
・・・・約束しろ。」
真剣なC.C.のまなざしに、男は沈痛に受け止めた面持ちで頷いた。