小さな攻防
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石神は、結局「手伝う」の一言を言い出せないまま、松葉杖をついて浴室に向かう悠紀を見送った。
(まだ一緒に風呂に入ったことが無いからといって、妙な遠慮をしたものだ。)
なんとなく落ち着かなくなった石神は、ノートパソコンを開いた。
とりあえず、目に付いたファイルを次々開いてみるが、どれも集中できる筈がない。
と、その時。
ドンッ!!
「!!…………悠紀!!」
浴室から、大きな音がした。
石神は、すぐに浴室へ駆け付けた。
『いっ………ううっ……』
悠紀は、降り注ぐシャワーの下で足首を押さえ、声も上げられない様子で倒れていた。
「悠紀!大丈夫か?…俺がついていれば……すまない……」
石神は、悠紀にバスタオルを巻いて抱き上げる。
苦悶の表情で固まっている悠紀に服を着せる余裕は無い。
とりあえず そのままベッドに運んだ。
『うっ…すみません…石神さんが……濡れちゃって…風邪………』
「俺は大丈夫だ。薬はどこに?」
なんとか、病院で処方された痛み止めを飲ませる。
悠紀はしばらく毛布にくるまって固まっていたが、薬が効いたのか、やがて眠りに堕ちた。
石神は、着替えを用意したものの、せっかく痛みから解放されて眠っている悠紀を起こしてしまうのは忍びなかった。
(髪も乾かしてやりたかったが、仕方ないな。次からは、シャワーを浴びる手伝いをした方がいいだろう。)
石神は、そう思った。……が。
次の日。
『大丈夫です!』
「しかし、昨日のような事があっては……」
『もう 転ばないように気をつけますから。』
「まだ片足が使えない以上、安全とは言えません。」
『……じゃあ今日は、シャワー浴びるの やめておきます。』
「…………………………」
抵抗する悠紀を無理やり浴室に連れて行って、もし傷をぶつけたりしたら危険だ。
ここまで拒否されれば、石神は もう引き下がるしかなかった。
その後……
しばらくの間、悠紀は石神のマンションで過ごす事になったが…
数回似たような やりとりを交わし、
結局、石神が仕事に行っている間に、一人でシャワーを済ませるようになってしまったのだった。
やがて、悠紀の手術の傷は塞がり、抜糸の日を迎えた。
悠紀は、この日を心待ちにしていた。
なぜなら、もうシャワーのみではなく、浴槽の湯に浸かれるから。
すぐにでも、ゆっくり どっぷりお風呂に入りたい。
しかし、悠紀にとって、難題が待ち受けていた。
『石神さん、休みなんだよね。ずっと一緒にいられるのは ものすごく嬉しいんだけど…』
お風呂に入れるようになったと言えば、退院初日に転倒した事もあり、石神が一緒に入ると言うのは目に見えている。
(ムリムリ、恥ずかし過ぎる…!)
『あの……シャワー、借りますね…』
「どうぞ。」
(あれ?特に何も言われなかった?)
石神は、もう諦めているのか、手伝うとは言わなかった。
悠紀は、いつも通り松葉杖を洗面所に置き、浴室に入る。
(石神さんにはシャワーって言ったけど、やっぱりお風呂に入りたいから……)
浴室で髪や身体をわざとゆっくり洗い、その間 シャワーを浴槽内で出しっぱなしにして、こっそりお湯を溜めた。
(待望の、お風呂~!……って、あれ?)
浴槽の中に入ろうとして…
怪我をした側の足だけでは立てないので、普通に跨いで入れないことに初めて気付く。
次に、浴槽の縁に腰かけ、腰を支点にして足を中へ運ぼうとするが…
縁の幅が狭く、不安定で できなかった。
(そんな……せっかく溜めたのに……)
悠紀は途方に暮れ、浴槽の縁にもたれて、湯気の上がる水面を見つめた。
と、その時。
カタン……
『あっ……!』
浴室の扉が開いて………
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