向日葵
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夏の盛り。
石神の運転する車は、のどかな田舎へ辿り着いた。
珍しい来客に、道行く人々が振り向く。
『あれー、悠紀ちゃんが彼氏連れて来たよ。』
『都会の人は違うねぇ』
『かっこいいねぇ』
『ちょっと怖そうだけど。』
『シーッ!』
悠紀「おばあちゃん、ただいま!」
石神「こんにちは。」
祖母「お帰り。…まぁ、遠いところをわざわざ…さ、上がってちょうだい」
石神「お邪魔します。」
石神は、緊張しながら、悠紀の実家に入る。
これほど緊張するのは、総理にプロポーズの許可を取った時以来か。
祖母「まぁ、悠紀から聞いてはいたけど、本当にイケメンねぇ…。」
石神「は?……」
悠紀「あの、え~っと、そうだ、おばあちゃん、今年も向日葵植えてくれた?」
祖母「もちろん。いつもの場所で、もう咲いてるよ」
悠紀「よ、良かった。石神さん、ちょっと庭に来てくれますか?」
石神「えぇ。」
祖母「あの子たち、敬語?」
二人が庭にまわると隅の方、けれども一番日当たりのいい場所に三本、向日葵が植えられていた。
天に向かって精一杯伸びた太い茎、大きな葉、太陽の様に眩しい黄色の花びら。
悠紀の頭より上で大きな花を咲かせている。
悠紀「私、向日葵が大好きで、子供の頃から毎年植えてもらってるんです。いつも楽しみで…。」
石神「悠紀は本当に向日葵が好きなんだな。」
石神は幼い頃の悠紀が向日葵を見上げる様を想像した。
そして、自分の幼い頃も…。
祖母「麦茶飲むかい?」
悠紀「はーい!」
石神「頂きます」
二人は、縁側に腰掛けて麦茶を飲む。
すると、垣根の外から、近所の人に声をかけられた。
『悠紀ちゃん、スイカ食うか?取りにおいで!』
悠紀「はーい、ありがとう!…石神さん、ちょっと待ってて下さいね。」
悠紀は、近所にスイカを貰いに行ってしまった。
石神は、悠紀の祖母と二人きり、縁側に残された。
両親の結婚の事情から、石神は祖父母というものを全く知らない。
どう接したら良いのか?
石神「悠紀さんから聞いているでしょうが、私は…」
石神は、自分が幼い頃に両親を亡くしている事、施設育ちである事を話した。
祖母「寂しかっただろうに、それを誰にも言わずに生きてきたんでしょう?……あの子もそうだったよ。これからは、秀樹くんも、私の孫。いつでも遊びにいらっしゃいな。……どっこいしょっと。」
お祖母さんは不意に立ち上がると。
石神「…………!!」
石神の肩を揉み始めた。
祖母「ほらほら、肩の力抜いて。いつもこんなに力入ってるの?たまには力抜かなきゃ。」
石神「…すみません、逆ですね。私の方が…」
祖母「いいの、いいの!」
石神は、田舎のゆったりした時間の中で、肩がほぐれていくのを感じていた。
祖母「夫にも、娘にも先立たれて…この年になると友達も次々いなくなって。…長生きしてると悲しい事も多いけど、出会いもあるからね。こんなに優しい子に出会えて、悠紀も私も、幸せだよ。」
石神「私が……優しい?」
祖母「えぇ、優しすぎて、ちょっと心配なぐらい。」
石神「……………」
祖母「自分の事も、もっと大事にしなきゃ。あの子のためにも…。」
石神「………はい。」
この後で、二人は交代し、今度は石神がお祖母さんの肩を揉んでいた。
祖母「そうそう、そういえば、あの子…向日葵の花が終わって種ができて…頭が下がってくるでしょう?そうなると『ひまわりさん、今年もありがとう』って 向日葵に お辞儀をしてたっけ。」
石神「…フフッ、悠紀さんらしいですね。」
頭を垂れた向日葵の真似をしてペコリとお辞儀をする悠紀は、さぞかし可愛らしい子供だっただろう。
それに引き替え俺は…。
悠紀「お待たせ~!…あ、石神さん…」
(人見知り凄そうな石神さんが馴染んでる…)
祖母「あら、立派なの貰ったねぇ。」
井戸水で冷やされたスイカは…懐かしい味がした。
祖母「気を付けてね」
悠紀「うん!おばあちゃんも、身体に気を付けて。」
石神「おばあちゃん…」
悠紀「……!?」
石神「また来ます。」
`
石神は、無意識に出た「おばあちゃん」の一言に少し戸惑いながらも…、
自分が、心からの笑顔になっているのを感じていた。
帰り際、石神はもう一度垣根の外から庭の方を見た。
背の高い向日葵の、花の部分だけが見える。
石神「ありがとう。」
悠紀「えっ、何がですか?」
石神「何でもありません。」
石神は、車を発進させた。
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