なぎれお

「なぎ、なぎ」

 自分の名前を呼ぶ声で目が覚めた。
 反射的にスマホのロック画面を見ると、時刻は深夜2時。閉鎖されたブルーロックに朝日が差し込むことはないが、まだ朝とは言えない時間帯だろう。

「なぎ……」

 凪を呼ぶ声は、隣にある玲王のベッドから聞こえてくる。聞きなれているはずなのに、今にも泣きそうな掠れた弱々しい声は、知らない人みたいだ。
 胸の奥がざわざわして落ち着かない。目が冴えてしまった。仕方がないので起き上がって玲王のベッドに近寄る。

「……玲王、大丈夫?」

 他のルームメイトを起こさないように、小声で呼びかけた。玲王はこちらに背中を見せたまま、寝返りもせずにもぞもぞしている。
 具合が悪いのかもしれない。玲王は誰よりもストイックで常にオーバーワーク気味だ。不安になって、玲王の顔が見える位置に回り込む。

「なぎ……」

 か細い声で凪を呼びながら、玲王の手が布団の上を彷徨っている。そこにあるはずのものを探すような仕草だった。閉じた両目には涙が滲んでいる。
 予想外の様子に、凪は呆然と立ち尽くしてしまう。玲王のことがひどく小さく見えた。

「玲王、寝てるの?」
「なぎ……なぎ」

 苦しげに眉間に皺を寄せて、うなされながら凪を探している。
 一体どんな夢を見ているのだろう。玲王の辛そうな顔を見たくなくて、弱々しく布団の上を探る玲王の手を、両手で包むように握った。

「俺、ここにいるよ」
「……なぎ?」

 手の温もりが伝わったのか、目を閉じたまま玲王の表情が少しだけ緩んだ。

「そう、凪だよ」
「なぎ」

 会話をしているようで、通じていない。玲王はまだ夢の中にいる。
 起きてほしいような、このまま眠っていてほしいような。自分でもよく分からなかった。どちらにせよ、玲王が眠ったままでは話し合いもできない。
 少し考えたあとに、玲王の布団の中に潜り込んだ。五角形のベッドは広々としているが、長身の男子高校生が2人も入ると少々手狭だ。

「ずっと一緒にいるって言ったでしょ」

 小さく丸まって強張った玲王を、ぐいぐい引っ張って力づくで伸ばした。質の良い睡眠には良い姿勢が欠かせない。
 いくらかほぐれた身体を、腕の中に収めるように抱きしめる。室内は空調の効いていて、密着していると暑いくらいだ。

 自分の心臓がうるさいくらいに激しく血液を送り出してくる。玲王はそんなことには全く気づかずに、だんだんと落ち着いてきて、深い眠りに入ったのが見ていてわかる。
 よく眠れているようで安心した。玲王が流した涙で胸元が濡れてちょっと冷たいが、そんなのは些細なことだ。
 慣れ親しんだ玲王の匂いを嗅いでいると、凪も次第に眠くなってくる。そのまま瞼を閉じれば、自然と意識が途切れた。
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