さよなら、温かな夜(風間 蒼也)
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重い目を開けると見慣れた天井。
視線を落とすと、2人で選んだ白いミニテーブルの上に自分からは飲まないビールの空き缶が2本転がっていた。
隣で眠っているなまえを起こさないようにベッドを出ると、床に落ちた服を拾って着る。
なまえが起きる前にこの部屋を出る。
カーテンの外が徐々に明るくなっていくのを感じ、俺の気は急いだ。
間もなく2人で過ごす最後の夜が明ける。
**********************
昼の防衛任務が終えるとなまえの部屋へ向かった。合鍵を渡されてから1年近く経つ。
今日は講義が終わればバイトもないはずだ。
「風間さん、来てたの」
案の定すぐに帰ってきたなまえは疲れた顔をしていた。
「疲れているようだな」
食器棚からマグカップを出すと、紅茶を淹れて差し出した。
なまえが欲しがって、後日プレゼントしたペアのマグカップ。
キャラクターが描かれた可愛らしいそれは俺の趣味ではなかったが。
使うたびに、渡したときの喜ぶ顔が思い出される。
「ありがとう。
……風間さんも疲れていると思うし、今言うべきじゃないとわかっているんだけど……」
やけに歯切れ悪くなまえは話し始めた。
「別れたいの」
彼女の部屋で課題を片付けてしまおうと、リュックを広げていた手を止めた。
「理解できない」
なまえの目を見てそう言ったが、彼女は何も言わない。
拗ねているわけではなさそうだ。
「理由は何だ」
ここは優しく聞いた方がいいのだろう。
しかし口から出る言葉は冷たくなってしまう。
「怖いの……。風間さんと一緒にいると、風間さんがいなくなることばかり考えてしまう。怖くて、怖くてたまらないの……」
なまえの目には涙が溜まっている。
「しばらく連絡が取れなくなるって言ってから、ずっと会えなかったことがあったよね。あのときどこに行ってたの? 帰ったって連絡くれた日も、そのあと連絡取れなかったよね。ご飯作って待ってたんだよ」
話し出したなまえは止まらない。
「この前の戦闘のときだってずっと心配してた。風間さんは戦うときはトリオン体だし、緊急脱出があるから大丈夫って言ってたよね? ボーダーの記者会見を観たよ。基地の中で人が死んだし、隊員の男の子だって大怪我してたじゃない」
そう言い終わると、なまえの目から涙が止めどなく溢れ出した。
「不安なの……。ごめんなさい。面倒くさくてごめんなさい……」
なまえには不安で心を削ってほしくない。
ましてや俺を失った悲しみや憎しみを背負って生きてほしくはない。
「俺は兄をネイバーとの戦いで亡くしている。お前を安心させてやることはできない。
……別れよう」
いつものようになまえが作った飯を食うと、彼女は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「こんなときくらい飲まなくちゃ」
「乾杯」
はにかみながら、なまえは缶を差し出した。
コツンと金属の音。彼女はグラスに移すこともなく、そのまま喉に流し込んだ。
なまえも酒は強くない。彼女の体温が上がって、シャンプーの匂いがふわっと香る。
「頰、少し赤い」
そう指摘すると、恥ずかしがって顔を掌で隠した。
顔から手を離すと、なまえは真剣な表情を見せた。
「元気でね。お互い、生き延びようね」
俺は何も言わなかった。
少しだけ上がった口角から、ふっと微笑が溢れ落ちた。
別れを決めたこの夜になまえを抱いた。
**********************
なまえは今日まで、ボーダーのことを何も聞いてこなかった。
突然部屋を訪れる俺に優しい言葉をかけて労った。
大変な任務の後でも、穏やかな日常を感じさせてくれた。
ボーダーの仲間はいる。
それでも、戦いに身を投じる生活の中で孤独な気持ちは拭えなかった。
兄が死んでから『誰かが側にいる』と思うことが怖かったのかもしれない。
ボーダーとは違う場所でなまえと出会って
「風間さんが好きです」
と言われたあの日、自分を取り戻したような気がした。
もうその存在に甘えない。
いつか戻りたいと思う日が来るかもしれない。
いっそ忘れたいと思う日も。
それでも振り返ることはしない。
この部屋はいつも温かかった。
寝たふりを続けるなまえに向けて呟いた。
「ありがとう」
恋人の閉じた目から零れ落ちた涙が、頰を伝った。
俺は部屋を出てドアに鍵を掛けると、郵便受けに合鍵を落とした。
静かな夜明けに、金属音が凛と響いた。
視線を落とすと、2人で選んだ白いミニテーブルの上に自分からは飲まないビールの空き缶が2本転がっていた。
隣で眠っているなまえを起こさないようにベッドを出ると、床に落ちた服を拾って着る。
なまえが起きる前にこの部屋を出る。
カーテンの外が徐々に明るくなっていくのを感じ、俺の気は急いだ。
間もなく2人で過ごす最後の夜が明ける。
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昼の防衛任務が終えるとなまえの部屋へ向かった。合鍵を渡されてから1年近く経つ。
今日は講義が終わればバイトもないはずだ。
「風間さん、来てたの」
案の定すぐに帰ってきたなまえは疲れた顔をしていた。
「疲れているようだな」
食器棚からマグカップを出すと、紅茶を淹れて差し出した。
なまえが欲しがって、後日プレゼントしたペアのマグカップ。
キャラクターが描かれた可愛らしいそれは俺の趣味ではなかったが。
使うたびに、渡したときの喜ぶ顔が思い出される。
「ありがとう。
……風間さんも疲れていると思うし、今言うべきじゃないとわかっているんだけど……」
やけに歯切れ悪くなまえは話し始めた。
「別れたいの」
彼女の部屋で課題を片付けてしまおうと、リュックを広げていた手を止めた。
「理解できない」
なまえの目を見てそう言ったが、彼女は何も言わない。
拗ねているわけではなさそうだ。
「理由は何だ」
ここは優しく聞いた方がいいのだろう。
しかし口から出る言葉は冷たくなってしまう。
「怖いの……。風間さんと一緒にいると、風間さんがいなくなることばかり考えてしまう。怖くて、怖くてたまらないの……」
なまえの目には涙が溜まっている。
「しばらく連絡が取れなくなるって言ってから、ずっと会えなかったことがあったよね。あのときどこに行ってたの? 帰ったって連絡くれた日も、そのあと連絡取れなかったよね。ご飯作って待ってたんだよ」
話し出したなまえは止まらない。
「この前の戦闘のときだってずっと心配してた。風間さんは戦うときはトリオン体だし、緊急脱出があるから大丈夫って言ってたよね? ボーダーの記者会見を観たよ。基地の中で人が死んだし、隊員の男の子だって大怪我してたじゃない」
そう言い終わると、なまえの目から涙が止めどなく溢れ出した。
「不安なの……。ごめんなさい。面倒くさくてごめんなさい……」
なまえには不安で心を削ってほしくない。
ましてや俺を失った悲しみや憎しみを背負って生きてほしくはない。
「俺は兄をネイバーとの戦いで亡くしている。お前を安心させてやることはできない。
……別れよう」
いつものようになまえが作った飯を食うと、彼女は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「こんなときくらい飲まなくちゃ」
「乾杯」
はにかみながら、なまえは缶を差し出した。
コツンと金属の音。彼女はグラスに移すこともなく、そのまま喉に流し込んだ。
なまえも酒は強くない。彼女の体温が上がって、シャンプーの匂いがふわっと香る。
「頰、少し赤い」
そう指摘すると、恥ずかしがって顔を掌で隠した。
顔から手を離すと、なまえは真剣な表情を見せた。
「元気でね。お互い、生き延びようね」
俺は何も言わなかった。
少しだけ上がった口角から、ふっと微笑が溢れ落ちた。
別れを決めたこの夜になまえを抱いた。
**********************
なまえは今日まで、ボーダーのことを何も聞いてこなかった。
突然部屋を訪れる俺に優しい言葉をかけて労った。
大変な任務の後でも、穏やかな日常を感じさせてくれた。
ボーダーの仲間はいる。
それでも、戦いに身を投じる生活の中で孤独な気持ちは拭えなかった。
兄が死んでから『誰かが側にいる』と思うことが怖かったのかもしれない。
ボーダーとは違う場所でなまえと出会って
「風間さんが好きです」
と言われたあの日、自分を取り戻したような気がした。
もうその存在に甘えない。
いつか戻りたいと思う日が来るかもしれない。
いっそ忘れたいと思う日も。
それでも振り返ることはしない。
この部屋はいつも温かかった。
寝たふりを続けるなまえに向けて呟いた。
「ありがとう」
恋人の閉じた目から零れ落ちた涙が、頰を伝った。
俺は部屋を出てドアに鍵を掛けると、郵便受けに合鍵を落とした。
静かな夜明けに、金属音が凛と響いた。
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