おめでとう、好き / izw
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【麗結、23歳の誕生日おめでとう】
それはちょうど23歳の誕生日を迎えた瞬間だった。
あれから1年。
大学を卒業した私は地元に戻ってバリバリ働いていた。
伊沢くんは賢くて勉強もできるからそのまま大学院に進学したみたいだから学生さん。
このLINEの相手はもちろん伊沢くんで、卒業してから一度も会ってないし連絡だってほとんどとってなかったのによく覚えてたな、なんて感心してしまった。
【覚えててくれたの?ありがとう】
【好き】
大学生活4年間でたった4回しか聞いていないその言葉が、しっかりと伊沢くんの声で脳内再生されて驚いた。
最後に彼の声を聞いたのはもうずっと前なのに...
【まだ言ってるの?】
【言っただろ 諦めないって】
大学院に進学してもいい女性に出会えなかったのかな?と心配になったのと同時に
嬉しかった、ほっとした、安心したんだ。
【ちょっとだけ時間くれない?】
「え...?」
その文の後にすぐ着信を知らせるメロディが鳴り響いた。
相手はもちろん...伊沢くん。
恐る恐る応答ボタンを押してゆっくり小さな機械を耳にあててみる。
『あ、出てくれた』
「出るよ...そりゃ」
『ははっ、麗結の声だー!変わんねぇな』
「伊沢くんもね」
1年もたってないんだから声なんて変わらないよ!なんて伊沢くんを笑ったんだけど、全く変わってない伊沢くんの声に泣いてしまいそうになった私を見たら彼は大爆笑するかもしれない。
『彼氏と電話してなかった?』
「あ...うん」
『よかった。邪魔じゃなかったね』
ずっと伊沢くんの誕生日告白を断る理由にしていた彼氏とは就職をして1ヶ月を過ぎた頃に別れていた。
振ったのは私。
忙しくて会えないからと言ったような気がする。
「あのね伊沢くん」
『あ、俺OK以外の返事いらないから。結婚の報告とか一番いらねぇし!』
「結婚...?」
『あー!いらないいらない!俺の気持ちと関係なしに諦めなきゃいけなくなるじゃん!それは無理!絶対言わないでね?』
「別れたの」
本当は言いたくなかった。
こんなの贅沢すぎるけど、伊沢くんに期待させてしまうと思ったから。
...本当は別れた瞬間すぐに顔が思い浮かんだのが伊沢くんだった。
でもこれは違う。
別れた理由は伊沢くんがいたからじゃないし。
伊沢くんのこの告白を信じて振ったわけじゃないし...多分。
伊沢くんと付き合ったとしても遠距離で会えないのはわかってるし。
なんなら伊沢くんにだって彼女がもう...それはないか。
『まじ?』
「あ、でも告白は...」
『麗結、まじで?!』
「うるさいっ...音割れてるから笑」
バンっと何かを叩いた音と伊沢くんの異様に興奮した元気な声。
ほんとに深夜ですか、今。
『やっと俺にもチャンスができたってわけね』
「チャンス...?」
『やっとスタートラインに立てたってことだろ?麗結に男として見てもらえるスタートライン』
「まぁ...そうだね...」
別れたなんて言ったら「じゃあ俺と付き合って!」と間髪入れず言われてしまうと思ってたんだ。
伊沢くんのことをそういう風に見たことがなかったからそれが怖かったの。
でも。違った。
彼は私が思ってる以上に、私のことを想ってくれていたようだ。
『うっわ!まじか!明日美容院行こ』
「え?」
『麗結に会えないからなんか最近手入れ怠ってたわ。髪伸びっぱなし。前髪くそ邪魔だし』
「あ、私前髪重たい方が好きだよ?」
興奮が冷めない伊沢くんは『まじ?!じゃあ前髪は整えるだけにしよ』と少し早口で言った。
全く会う予定もないのに。
前髪が邪魔だと言っていたのに。
私が言ったその一言でそんなにころっと...
『また連絡してもいい?』
「ふふっ、そんなの確認しないでよ」
『連絡する!返信はなくてもいいけど...あったら嬉しいっていうか...』
「返信するよ?ただ私は社会人なのでちょっとくらい遅くても怒らないでね?」
『...怒るわけねぇじゃん。こうやってまた話せることが嬉しくてたまんねぇんだから』
さっきまでのちょけた雰囲気の彼はどこにいったのか、ゆっくりと落ち着いた低い声。
出会ってからずっとそうだ。
伊沢くんのスイッチの切り替えの早さには驚きが隠せない。
いつも一緒にいる友達に告白されたら少しは気まずくなるものなはずなのに伊沢くんは全くそんな雰囲気を出さなかった。
周りの友達に気を使ってか、みんなでお祝いする時にはちゃんと別のプレゼントを用意して友達として祝ってくれたし、私のことを好きだと精一杯の想いを見せてくれたのは...二人きりのあの部屋だけ。
あの部屋を出た瞬間、私たちは確かに心からの友達だった。
『はぁー!よく眠れそう!電話してよかったー!』
「ほんとに明日美容院行くの?」
『うん、もう予約した』
「...私たち会う予定もないのに?」
『麗結に少しでもいい男って思って貰えるように努力してからだな、会うのは。今は自信ないし』
「その間にほかの男の人に告白されちゃったらごめんね?」
『許さんその男』
「そこは強気なの笑」
ははっ、と笑った彼は『麗結を好きな気持ちだけはそいつには負けてねぇし。俺が1番。あ、麗結の両親の次だから今は2番』ってまた早口。
そいつってまだ現れてもない男の人に対抗意識満々な伊沢くん。
負けず嫌いでいっつも学科1番になるって必死になって勉強していたのを思い出した。
「伊沢くん本当に変わってないね」
『それって嬉しいこと?』
「すっごい嬉しいこと」
『それは良かった』
その優しすぎる言葉に「ありがとう」と返すと『何が?!』って言われてしまった。
まだ私のことを好きなまま変わらないでいてくれてありがとう、なんてとても君には言えないから「なんでもない」と誤魔化した。