ep.28 ふたりの場所。/ izw
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静かに扉が開いてベルが鳴った。
当時はお客さんが入ってくるところに遭遇できるのはかなり珍しかったけど、今はどうなんだろう。
「いらっしゃいませ」
時が止まった気がした。さっきまで裏にいたはずのお兄さんの声が遥か遠くに聞こえた。目が合った。一瞬で目を逸らしたのはやましい事があるからだ。
「ありがとうございます」
「僕びっくりしちゃいましたよ、伊沢さん作り話してるんじゃないかってずっと疑ってましたから」
「創作ならとっくに小説家にでもなってますよ」
「今日もストレートティーでいいですか?」
「いえ、ホットコーヒーを」
この空間で状況を把握していないのは私だけなようだ。くるりと体の向きを変えた彼がじりじりとこちらに近づいてくる。
「ここいい?」
彼は私の反応を見ることなく私の向かい側にあたる椅子をひいた。「どうぞ」と俯いたまま小さな声で言うと「元気?」と返ってきた。
「元気」
「よかった」
「なんで」
「なにがよ」
「いるの」
「そちらも」
「わたしは...」
「はい、麗結の負け」
なんで、と顔を上げるとニコッと笑う拓司くんと目が合った。あのときから何も変わってない。
単位を落とした時も慰めてくれた。
色んな知識を自慢げに話してくれた。
ふたりで真剣に勉強もしたし本も読んだ。
このコーヒーを飲みながら。
「麗結が3文字で話してきたから俺も4文字で答えよって思ってさ」
「そんなのやってない...」
「んな真面目な返しすんなよ、らしくない」
「なんでいるの」
「俺からしたら逆になんでいるのって感じだけど」
届けられた拓司くんのコーヒーはブラック。
私の時は小皿があって、しかもミルクが追加されて2個...
「まだそれで飲んでんだ」
「これが一番美味しいんだからいいでしょ」
「ミルク2つね」
「もしかして、たく...」
「ん?」
今更彼のことを「拓司くん」と呼ぶのはおかしいということは瞬時に判断できたけど、良い呼び方が思い浮かばず口どもる。
「なんでいるの」
「話飛んでない?」
「とんでない」
「俺ほぼ毎日無欠席、このカフェ」
だよね、とお兄さんの方をむくとお兄さんが静かに頷く。「ほら、俺常連さん」と口角を上げる。
「なんで」
「さっきから麗結ばっかり質問してる。俺だって聞きてぇこと山ほどあんだけど?」
「うん...だよね」
「ひとつだけいい?」
コーヒーカップを机に戻す音がコトンと響いた。
「ずっと会いたかった」
彼の口から出た言葉をすぐに理解することは到底出来なかった。
当時はお客さんが入ってくるところに遭遇できるのはかなり珍しかったけど、今はどうなんだろう。
「いらっしゃいませ」
時が止まった気がした。さっきまで裏にいたはずのお兄さんの声が遥か遠くに聞こえた。目が合った。一瞬で目を逸らしたのはやましい事があるからだ。
「ありがとうございます」
「僕びっくりしちゃいましたよ、伊沢さん作り話してるんじゃないかってずっと疑ってましたから」
「創作ならとっくに小説家にでもなってますよ」
「今日もストレートティーでいいですか?」
「いえ、ホットコーヒーを」
この空間で状況を把握していないのは私だけなようだ。くるりと体の向きを変えた彼がじりじりとこちらに近づいてくる。
「ここいい?」
彼は私の反応を見ることなく私の向かい側にあたる椅子をひいた。「どうぞ」と俯いたまま小さな声で言うと「元気?」と返ってきた。
「元気」
「よかった」
「なんで」
「なにがよ」
「いるの」
「そちらも」
「わたしは...」
「はい、麗結の負け」
なんで、と顔を上げるとニコッと笑う拓司くんと目が合った。あのときから何も変わってない。
単位を落とした時も慰めてくれた。
色んな知識を自慢げに話してくれた。
ふたりで真剣に勉強もしたし本も読んだ。
このコーヒーを飲みながら。
「麗結が3文字で話してきたから俺も4文字で答えよって思ってさ」
「そんなのやってない...」
「んな真面目な返しすんなよ、らしくない」
「なんでいるの」
「俺からしたら逆になんでいるのって感じだけど」
届けられた拓司くんのコーヒーはブラック。
私の時は小皿があって、しかもミルクが追加されて2個...
「まだそれで飲んでんだ」
「これが一番美味しいんだからいいでしょ」
「ミルク2つね」
「もしかして、たく...」
「ん?」
今更彼のことを「拓司くん」と呼ぶのはおかしいということは瞬時に判断できたけど、良い呼び方が思い浮かばず口どもる。
「なんでいるの」
「話飛んでない?」
「とんでない」
「俺ほぼ毎日無欠席、このカフェ」
だよね、とお兄さんの方をむくとお兄さんが静かに頷く。「ほら、俺常連さん」と口角を上げる。
「なんで」
「さっきから麗結ばっかり質問してる。俺だって聞きてぇこと山ほどあんだけど?」
「うん...だよね」
「ひとつだけいい?」
コーヒーカップを机に戻す音がコトンと響いた。
「ずっと会いたかった」
彼の口から出た言葉をすぐに理解することは到底出来なかった。