林を抜けると、まず緑の草地が広がり、その奥には小高い丘が横に連なっていた。向こう側には青空と高く昇った白い太陽が見えるばかりで、何が続いているかは分からなかった。日光に晒された丘の頂上は羊腸弦のように柔らかく輝き、影差す傾斜面を縁取っている。風はない。まるで海に立った白波がそのまま静止したような、そんな光景だ。
 眠りから目を覚ました採集者が、綺麗、と呟いた。私たちは皆頷いた。もう正午だ、とセンチネルが言った。私たちは森の出口で巨体から降りた。仲間が食事の用意をする間、私とガイドは丘に登って辺りの様子を見てみることにした。

 丘は想像したよりも遠かった。傾斜がわずかに強まるのを感じた所で私は立ち止まり、膝に手をついて自分の呼吸を聞いた。ガイドの足音は止まらない。前を見ると、彼女は既に何歩分も先を歩いていた。彼女が進むにつれ、下草に降り注ぐ光は徐々に薄まり、やがて彼女の足元で影へ溶けていった。ドレスの裾が、袖が、あちこちに跳ねる白い髪が同じように影へ溶けていくのを見た。私はまた朧気な記憶の中の少女を思い出した。影の中のガイドの髪は、あの少女のものとより似ているように思える。多分、日の光を浴びる彼女の姿を見たことがなかったからだ。白髪の彼女は歩みを緩めない。こちらを振り向くこともない。膝から手を離して頭を上げると、少し目眩がした。それから蝶の羽ばたきに似た短いリズムの笑い声を聞いた。私にはその声が誰のものなのかはっきりと分かったが、その意味について考える気はあまりしなかった。私は彼女の後ろ姿を追って丘の斜面を登り始めた。
 私が中腹にも着かないうちに、彼女はさらに高くへ進んでいった。ついに彼女の頭が頂上に迫り、緩く張られた光の弦を揺らした。彼女の身体が再び陽光に晒され、こちらを振り向くというとき、私は形容しがたい感情に包まれた。正確に言えば言葉を探す前に、その感情は乾いた突風によって遠く追いやられてしまったのだ。笑い声は草のざわめきに掻き消された。風の吹く間、私は帽子を押さえ、何度か瞬きをした。風が止んでからゆっくり顔を上げると、頂上に立つガイドが私を見下ろしていた。彼女は空っぽの胸を空色に染め、抱えた人形を抱き直し、小さく手招きをした。
 私は急いで丘を登り切り、ガイドと共に向こう側の景色を眺めた。丘陵地帯の先には、どこまでも虚ろな草原が広がっている。そのもっと先には地平線が見える。大型の構造は四つほど確認できた。私はその全てをノートに手早く記録してから、深呼吸をし、口を開いた。
「この先に何かがあるのか?」
ガイドは相変わらずの微笑をこちらへ向け、木製の尖った耳を動かしてみせた。他の仲間はこの反応を都合良く受け取るが、私はそれが肯定でも否定でもないことを知っている。私はもう一度草原を見つめてから、屈んで彼女に微笑み返し、顔にかかった髪を退けてやった。
「ここは暖かいな」
そう言ってから目を閉じて、彼女の身体を抱き寄せた。木質化の進んだ身体は固く冷たかったし、彼女が私を抱き返すこともなかった。しかし、彼女の髪の感触は何にも代えがたい安らぎを与えてくれた。その繊細な髪が指に絡むとき、私たちがかつて何者だったのかを、全て明確に思い出せるような気がしたのだ。
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