act#7
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あの火事から幾年かが過ぎた
アリアスは前途多難な人生を歩んでいた
右半分を覆う火傷は眼帯をしなるべく火傷側に髪が流れるようにし隠した
生きる術を身に付けるため、盗賊と行動を共にした時期があった
1人では生きていけないことは自覚していたから、仕方がなかった
生き延びるために盗み、殺すことも何度だってした
荒事だけではない
炊事に洗濯、医療も少しもかじった
女性の盗賊もいたから、初めて月のものが来て戸惑ったときも冷静に対処してくれた
勿論そこで男の悦ばせ方だって覚えた
火傷のことはあまり触れなかったことも助かった
盗賊の中にだって顔に傷を負った人もいたから、別に気にすることもないと言ってくれた
1人でどうにか生きる術を身につけ、世話になった盗賊と別れた後は、旅に出た
王都からあまり出たことのないアリアスには全てが新しく見えた
他の国の話、永遠に続く砂漠に青いサファイア色の海
それらの光景は少しばかりアリアスの心身の傷を和らげた
16を迎えたあたりからだろうか
徐々に顔と身体つきが女性らしくなり 、宿場を彷徨くと声をかけられるようになったのは
旅の資金が寂しくなったときは仕方なく、男の相手をした
その際に調子に乗りアリアスの眼帯を取った男たちは全てその場で始末した
右目を短剣で潰してから命を奪い、死人には無用となった金品を頂戴し、後にした
その頃から、身を守るために男物の格好をするようになった
元から顔は半分隠していたのだから性別を偽っても違和感はなかった
そして、世間の話に耳を傾ける余裕ができ
今のパルスの情勢をようやく耳に入れた
『(やはりアンドラゴラスが国王になられたのか…)』
アリアスは旅で流れ着いたマルヤムでその話を聞くことが出来た
パルスの友邦であるマルヤムにはパルスの情報、王都エクバターナの最近の出来事まで知られていた
アンドラゴラスが国王になるのはなんとなく予想はしていた
兄であるオスロエスと王位継承権のあったアリアスが亡くなったとされれば当たり前なのだが
それよりも驚いたことがあった
アンドラゴラスとその妻になったタハミーネの間に王子が誕生したことだった
『(何の冗談なのだ…)』
アリアスは背筋が冷たくなるのを感じた
────あの夜、アリアスはタハミーネからある秘密を教えてもらったのだ
【私はもう子を成せぬ身体なのです】
タハミーネは確かにそう言った
驚き顔を見上げるとタハミーネは美しい顔を悲痛に歪ませ、今にも泣きそうな顔だった
【だからこそ、貴方を本当の娘だと思いその幸せを願っているのです】
あの顔と言葉に偽りなど感じなかった
タハミーネの言葉が正しいとすれば、アンドラゴラスはとてつもない過ちを犯したのだ
パルス王家の血を引かぬ人間が王子に仕立てあげられた────
アリアスはその答えにたどり着いた
『(そこまでしてあの男は女に王位を継承されるのが嫌だったのか…!)』
アリアスをパルス初の女王としようとした先王と、パルス初の女王になるはずだったアリアスを亡き者としてまですることなのか
怒りと共に呆れまで沸いてきた
それでもやはり怒りの方が勝った
自分を殺してまで奪った王位
偽ってまで男に継がせるものなのか
何故、女性では駄目なのか
ぐちゃぐちゃと黒い感情が渦巻き、火傷が疼く
「何やら苦しんでおられるのですね」
マルヤムの王宮の離れにいたアリアスにふと、若い男の声がした
『イリーナ殿…』
そこにいたのはマルヤムの親王イリーナだった
彼の目は固く閉じらている
『わたしはここです』