act#38
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何度、もう後戻りは出来ないと思っただろう
アリアスは夕闇の中、一人でぺシャワールの城壁に立っていた
難なくと乗り込め、夜の帳が降りたぺシャワールは静かだった
息を吸えば鼻には冬独特のつん、とした香りがつく
眼下には赤土の土地が広がる
まるで、戦などなかったかのような静けさだ
アリアスは大きく出ている月を見上げた
半分より少し欠けたその姿は、今自分がつけている銀仮面と形がひどく似ていた
その時だった
「そこにいるのは誰だ?」
若い少年の声が夜を裂くように聞こえてきた
アリアスはゆっくりと振り替える
そこには今見上げていた夜空のような色の瞳の少年が一人立っていた
そう、その姿こそ、
『そうか、貴様がアンドラゴラスの子せがれか……』
ようやくアリアスはアルスラーンと対面を果たしたのだ
『貴様がアンドラゴラスの子せがれか』
繰り返すその声は対面を渇望する響きがあった
アルスラーンはその声に、生唾を飲む
「……アンドラゴラスの子、パルスの王太子アルスラーンだ。そちらも名乗れ」
"アンドラゴラスの子"…そして"パルスの王太子"という単語にアリアスは仮面の下で、眉間の皺を深めた
本当にこの者は何も知らずにここまでやって来たのだ
『…アンドラゴラスの子?王太子?僭称するものよな。貴様は薄汚い簒奪者のうみ落とした、惨めな犬ころにすぎぬだろう?』
そう…パルス王家という醜くどす黒く汚れた得体の知れない闇から
その身を偽りという真から守られながら
自分の代わりに、王位を受け継ぎながら────
アリアスの目には様々な感情が渦巻いていた
アリアスはその感情を悟られぬように、長剣の柄に手をかける
ここではあくまで、アルスラーンの命を狙う仮面の軍師でいなければならないのだ
『……すぐには殺さぬ。一撃で片付けるのは惜しい。まず、子せがれよ、貴様の右手首を斬りおとしてくれよう』
抜き去った長剣は月明かりを受け、怪しく光った
『この次会ったときは、左手首をもらう。それでなお生きていたら、右の足首でもちょうだいするとしようか』
抜かれた長剣は城壁の石畳を火花を散らしながら、アルスラーンを威嚇する
アルスラーンも抜刀するが、抜かれた剣には不安しか写っていない
『パルス王家の者として生まれたのが貴様の罪だ!父を恨め!』
アリアスの斬撃は、アルスラーンの予想していたところにきた
アルスラーンはそれを防いだが、アリアスの斬撃の強さは予想以上のものだった
力も技も到底、アルスラーンが五十人集まっても敵うものではなかった
『そんなものか、子せがれ』
アリアスは斬撃を立て続けに叩き込む
アルスラーンは防戦一方だ
あのダリューンやナルサスと互角に剣を交えた相手に攻撃できる技術などまだ持っていなかった
『それでもあのアンドラゴラスの子か!?』
その言葉と共に、アルスラーンの持っていた剣は弾かれ、凄まじい衝撃を受けたアルスラーンは後方へと吹っ飛んだ
苦痛と恐怖で、身動きが取れないアルスラーンにアリアスは近づく
こんなにも、小さく剣術もままならない王太子
この者がこれからのパルスに新しき政治を敷くのだ
果たしてこの王太子は、何にも汚されることなく、いつだったか、アリアスも夢見ていた国を造ってくれるだろうか
いや、造ってもらわねば困る
そして、自分を戦の首謀者として、処してもらわねばならないのだ
憎き、仮面の軍師として、
『立たぬのなら、本当に斬るぞ!』
アリアスが、長剣を振りかざそうとした瞬間だった
『!?』
アリアスの前に、真っ赤に燃える炎が揺らめいた
アルスラーンが咄嗟に壁の松明を掴み、夢中で前方につき出したのだった
アリアスは、一瞬にして後方へと下がった
どうしても、炎だけは克服出来なかった
どれだけ人を殺めることに慣れ、どんな人間と身体を重ねても、自分の心と顔に一生消えることのない傷を残した炎だけは慣れることはなかった
『こ、のっ……』
アルスラーンは肩で息をするアリアスに、呆然とするが、この者が火を恐れていることを確信し、松明を両手でつかみ、アリアスに突き出し、少しずつ前進する
アリアスは思わぬ醜態を晒しながら、後退する
そこへ、石畳を蹴りつける足音がした