act#8
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『ここが、ミスラ神殿────』
目の前の大きな神殿をアリアスは見上げた
マルヤムでアリアスはパルスに王太子────アルスラーンが産まれた際に彼の御名をもって寄進された神殿があると聞いて、一度訪れたいと思っていた
それがこのフゼスターン地方に建てられた契約と信義の神ミスラの神殿だった
『(契約と信義の神の神殿か…聞いて呆れる)』
仰々しいほどの大きさの神殿を見つめる
アリアスは死んだ自分の代わりに王子として偽りの人生を歩むことになったアルスラーンを思った
彼は二人から愛されるのだろうか、と
アンドラゴラスはアルスラーンを愛するなど絶対にあり得ないと直ぐに思った
タハミーネさえいればいいあの男が、タハミーネの血を受け継がない子を愛する筈などないのだ
…また、タハミーネも然りだ
自分の血もアンドラゴラスのすら流れていない息子を愛してくれるほど、心が強くは見えなかった
結局のところ、愛されなどされないのではないか────
そう思うといたたまれない気持ちになった
『(わたしが女王となるのと大して変わらぬくらい厳しい道のりになりそうだ───)』
可哀想に思うのと、同時にやはりこのパルス王家の血が憎くなった
流れてなどいなくとも、アルスラーンはパルス王家の醜い歴史に飲み込まれ、人生をあらぬ方向へと曲げられてしまったのだ
『(わたしでは助けることも出来ぬのだな…)』
アリアスは目を細め、神殿を見上げた
「参拝者か?」
思い更けていると、若い女性の声か左側からした
アリアスはゆっくりと、その声のした方に目線をやった
そこには若く美しく女がいた
『ただの流浪の者だ』
アリアスは短く答え、もう一度神殿に視線を戻した
「随分と熱心に見つめているようじゃが、ミスラの信仰者か」
『わたしは自分の目に見えるものしか信じない』
きっぱりとそう告げた
神様が本当にいたのならアリアスはこんな茨の道など歩いていないだろう
『───この神殿はパルスの王子が誕生した際に建てられたそうだな』
「左様。パルスの王太子アルスラーン殿下の御名をもって寄進されたものじゃ」
『王太子…か』
王太子という名前はここまで力があるものなのかと考えさせられる
果たして、自分が生を受けた際に何か盛大なことはあっただろうか
『(馬鹿馬鹿しい…わたしは哀れな王太子にすら嫉妬しているのか)』
アリアスは自らを嘲笑した
そしてふと、思った
『(この神殿は…王太子に対して侘びのつもりで建てたのかもな)』
一人の人生を奪う形になったのだ
これくらいして当たり前だ
"契約"────それは、アルスラーンの人生を奪う代わりにを王族の子として育てる
そしてそれを真実とし、相手に対するつとめを果たす───"信義"
『────利に叶ってはいるか』
その呟きは、アリアスを興味深く見つめていた美しい女神官には届いていなかった
『ミスラ神は王太子を守ってくれるだろうか』
黒く汚いパルスお前の血から
嘘という真(まこと)から
「王太子の御名の下、必ずや守ってくれるじゃろう」
『それは契約の下か…信義の下か…軍神の下か……』
アリアスは目を閉じ、その場に跪いた
「おぬし、神は信じぬのではないか」
『わたしの祈りではない』
アリアスはゆっくりと立ち上がった
『哀れな…なりそこないの一人の女王の祈りだ』
~END~
(王太子に幸あらんことを)