SS(とうらぶ)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
三郎国宗が私の部署にやってきて数日。今まで振られなかった仕事が回ってくるようになった。怪異疑いの案件にも危険度が低ければとりあえず行って、怪異対策課に情報を引き継ぐことが可能に。できることの幅が広がった。彼は表情一つ変えずに仕事をこなしてくれている。
そして今日は浄化課から回ってきた放棄本丸の巡回へ。
「常盤さん、本日向かう本丸はどのような理由で放棄されるに至ったのでしょうか」
「えーと……先週、かな。遡行軍の襲撃にあったそうで、放棄せざるを得なくなったらしいです」
襲撃。その言葉で三郎さんの表情が曇った。でもそれは一瞬で、いつもの調子に戻る。本丸が襲撃される話は全くいいものではないからかな。
「あまり日が空いていないのでしたら、御辺には少々酷なものが残っているかもしれませんね」
「酷なもの、というと」
三郎さんは私の質問には答えず、その本丸の審神者はどうなったか尋ねてきた。所属していた刀剣の半数を失ったが無事救出された。引き継いだ時の情報をそのまま伝える。
「そうですか。五体満足で」
「はい。なので状況が落ち着けばまた本丸を持つ可能性もあるとか」
私がその立場だったら本丸に戻ろうとは思わない。残った刀剣たちには悪いけど。それでも人手不足という理由が重くのしかかってくるのがこの世界。多分そんな気持ちと事情がせめぎ合っている頃だと思う。
「なんと言いますか、審神者というものは案外大変なものなのですねぇ」
「本丸あったり政府職員でも何振りかいたりすれば色々あるみたいですよ」
「そのようですね。もうそこに戻ることは無いでしょうが、その審神者さんの古巣を片付けてさしあげましょ」
1度襲撃された本丸は、座標が向こうに割れてしまっている。だから別の審神者の本丸になることはないけれど、政府は有効活用するつもりでいる。そんな流れで私たちの元へ仕事が回っているのだ。
「私、何度か襲撃を受けた本丸の救援に行ったことがあるんですよ」
転移ゲートへ向かう途中、三郎さんはぽつりと言った。
「虫の息だった方も見ましたし、この姿を維持できなくなって刀が転がっているだけの本丸も見てまいりました」
「それは……私には想像つかない現場ですね」
「そうでしょう。今回は助かっているとはいえ、日が空いていない。多少の覚悟が——ああ、そんな怯えた顔をなさらないで。御辺の事はこの三郎がお守りいたしますから」
あわあわしつつも私を宥めようとしてくれている。白い指先が私の肩に触れそうになるが、残り数ミリのところで止まった。御辺はお強い、と言って腕を下ろす。動揺したのはそうだけど、慌てている三郎さんを見たから落ち着いたとは言えなかった。
凍結を解除、座標を入力し、ゲートをくぐる。着いた本丸の空は赤紫色といったところか。それよりも気になること。
「——空気が」
「ええ。澱んでおりますねぇ」
「簡易スキャンでもしますか」
端末を操作し、スキャンを開始する。もう少し精度の高いものもあるけれど、それをするとここにいる存在に気付かれかねない。どこにいるかくらい分かれば対処は可能だと思う。ただ一つ懸念がある。
「室内戦、いけます?」
「それは……数によりますね」
「無理せず帰還する場合も考えておきますか」
三郎さんは静かに頷く。いくら政府勤務で戦いに疎い私でも太刀が室内で動きにくいことくらいは知っている。彼が無理をしない方向でものを考えられるタイプだったのは大きい。
2人でスキャン結果を見る。大広間にいくつかの反応あり。他は今のところなし。
「一応片付けときますか?」
「大広間であれば多少は動けるので行きましょう。常盤さんは執務室で待機を」
「分かりました。道すがら異常がないか確認しないとですね……あ、あとこれを」
本丸へ来る前に渡したかったものがあった。胸ポケットに入れていたものを三郎さんの手のひらへ押し付ける。
「これは……御守り、ですね」
「金色じゃなくてすみません。少しは保険になるかと思って準備してました」
「いえいえ! そのお気持ちだけで全回復いたしますよ」
ぐぐ、と手に力が込められているのが分かる。良かった、喜んでくれて。丁寧に懐へしまい込んでいる様子を見てそう思った。いつかはもっと良いものを持たせてあげたい。
三郎さんと別れ、執務室へ。いくつか部屋の前を通った時血痕があったり、砕けた刀身があったりするのは襲撃を受けた本丸にありがちなことらしいので動揺しないよう頑張った。それ以外は不気味なほどに何もなかった。
執務室は思っていたよりも綺麗な状態だった。逃げる時にぶつかって倒れたであろう花瓶が転がっているくらい。花を生けるタイプの審神者がいたんだ。もしかしたら近侍がそんな感じとか。
現場検証はその程度にして、設備が動くかなどを確認していく。転移エラーでここに迷い込む可能性が大いにあるので、防衛システムとか外部との通信とかそうしたことが動かないと救出が難しくなるのだそう。ここを残さなければいいのではとも思うのだけど、本丸空間を作り出したリソース分くらいは活用したいのだろう。
確認の結果、特に異常がないことが分かった。これなら迷い込んでもここに来れば大丈夫。そう引き継いでおくか。
あとは三郎さんを待つだけとなったが、調査が早く終わったせいで手持ち無沙汰な時間が長い。戦闘中の大広間から距離があることもあって執務室はとても静かだ。この中で1人待つのは心細く思う。きっと彼なら大丈夫だと思うのだけど、様子が分からないというだけでこうも不安になるらしい。
障子越しに影が見えた。「少々時間がかかってしまいました」と好きな声が聞こえる。すぐに開けてしまいたい所だけど、念には念を。私たちしか知らないようなことを聞いてみる。
「ここの刀剣はどのくらい失われましたか?」
「半分です」
「私の審神者名は?」
「常盤さんでしょ」
このくらいか。防衛システムを解除し、障子を開けた。三郎さんが普段と変わらない様子で立っている。でもよく見ると血はついてるし、着物が所々切れていた。
「大丈夫でした?」
「ええ。これは返り血ですからね」
装備も無くなっていそうな感じがする。これも端末で確認できるからしておく。
「割と中傷寄りじゃないですか!」
「そう大きな声を出さないで。それよりも、中庭に気になるものがありましたよ」
私の大声はあっさりいなされてしまった。こっちに気を遣って過小に報告しているのだろうか。でも手入れでバレることなのに。モヤモヤしている私の腕を引いて、三郎さんは歩き出した。
「何これ」
中庭は一部分を除いて他の本丸と変わっていない様子だった。けれどその一部分がおかしい。空間が歪んでいて、その真ん中は裂けているように見える。
「遡行軍と同じ匂いがしますね」
「そうなんですか!? 縁がないから分からなかったです」
「その縁は今後無い方がいいでしょうねぇ。とにかく、今は帰還が最優先ですよ」
ひとまず政府へ遡行軍由来と思われる裂け目ができている旨を簡単に送り、転移ゲートへ急ぐ。
ゲートを抜けてすぐに接続が切られた。先に報告を求められたけれど三郎さんの手入れを優先した。手入れをしてくれる部署もあるにはある。でも守ってもらった結果の負傷だから、私が手入れしたかった。
「私の霊力が少ないから遠慮したんじゃないんですか?」
「いえ、そうではなく……」
格好がつかなかったからです。注意を向けていないと聞こえないような声で三郎さんは答えた。
そして今日は浄化課から回ってきた放棄本丸の巡回へ。
「常盤さん、本日向かう本丸はどのような理由で放棄されるに至ったのでしょうか」
「えーと……先週、かな。遡行軍の襲撃にあったそうで、放棄せざるを得なくなったらしいです」
襲撃。その言葉で三郎さんの表情が曇った。でもそれは一瞬で、いつもの調子に戻る。本丸が襲撃される話は全くいいものではないからかな。
「あまり日が空いていないのでしたら、御辺には少々酷なものが残っているかもしれませんね」
「酷なもの、というと」
三郎さんは私の質問には答えず、その本丸の審神者はどうなったか尋ねてきた。所属していた刀剣の半数を失ったが無事救出された。引き継いだ時の情報をそのまま伝える。
「そうですか。五体満足で」
「はい。なので状況が落ち着けばまた本丸を持つ可能性もあるとか」
私がその立場だったら本丸に戻ろうとは思わない。残った刀剣たちには悪いけど。それでも人手不足という理由が重くのしかかってくるのがこの世界。多分そんな気持ちと事情がせめぎ合っている頃だと思う。
「なんと言いますか、審神者というものは案外大変なものなのですねぇ」
「本丸あったり政府職員でも何振りかいたりすれば色々あるみたいですよ」
「そのようですね。もうそこに戻ることは無いでしょうが、その審神者さんの古巣を片付けてさしあげましょ」
1度襲撃された本丸は、座標が向こうに割れてしまっている。だから別の審神者の本丸になることはないけれど、政府は有効活用するつもりでいる。そんな流れで私たちの元へ仕事が回っているのだ。
「私、何度か襲撃を受けた本丸の救援に行ったことがあるんですよ」
転移ゲートへ向かう途中、三郎さんはぽつりと言った。
「虫の息だった方も見ましたし、この姿を維持できなくなって刀が転がっているだけの本丸も見てまいりました」
「それは……私には想像つかない現場ですね」
「そうでしょう。今回は助かっているとはいえ、日が空いていない。多少の覚悟が——ああ、そんな怯えた顔をなさらないで。御辺の事はこの三郎がお守りいたしますから」
あわあわしつつも私を宥めようとしてくれている。白い指先が私の肩に触れそうになるが、残り数ミリのところで止まった。御辺はお強い、と言って腕を下ろす。動揺したのはそうだけど、慌てている三郎さんを見たから落ち着いたとは言えなかった。
凍結を解除、座標を入力し、ゲートをくぐる。着いた本丸の空は赤紫色といったところか。それよりも気になること。
「——空気が」
「ええ。澱んでおりますねぇ」
「簡易スキャンでもしますか」
端末を操作し、スキャンを開始する。もう少し精度の高いものもあるけれど、それをするとここにいる存在に気付かれかねない。どこにいるかくらい分かれば対処は可能だと思う。ただ一つ懸念がある。
「室内戦、いけます?」
「それは……数によりますね」
「無理せず帰還する場合も考えておきますか」
三郎さんは静かに頷く。いくら政府勤務で戦いに疎い私でも太刀が室内で動きにくいことくらいは知っている。彼が無理をしない方向でものを考えられるタイプだったのは大きい。
2人でスキャン結果を見る。大広間にいくつかの反応あり。他は今のところなし。
「一応片付けときますか?」
「大広間であれば多少は動けるので行きましょう。常盤さんは執務室で待機を」
「分かりました。道すがら異常がないか確認しないとですね……あ、あとこれを」
本丸へ来る前に渡したかったものがあった。胸ポケットに入れていたものを三郎さんの手のひらへ押し付ける。
「これは……御守り、ですね」
「金色じゃなくてすみません。少しは保険になるかと思って準備してました」
「いえいえ! そのお気持ちだけで全回復いたしますよ」
ぐぐ、と手に力が込められているのが分かる。良かった、喜んでくれて。丁寧に懐へしまい込んでいる様子を見てそう思った。いつかはもっと良いものを持たせてあげたい。
三郎さんと別れ、執務室へ。いくつか部屋の前を通った時血痕があったり、砕けた刀身があったりするのは襲撃を受けた本丸にありがちなことらしいので動揺しないよう頑張った。それ以外は不気味なほどに何もなかった。
執務室は思っていたよりも綺麗な状態だった。逃げる時にぶつかって倒れたであろう花瓶が転がっているくらい。花を生けるタイプの審神者がいたんだ。もしかしたら近侍がそんな感じとか。
現場検証はその程度にして、設備が動くかなどを確認していく。転移エラーでここに迷い込む可能性が大いにあるので、防衛システムとか外部との通信とかそうしたことが動かないと救出が難しくなるのだそう。ここを残さなければいいのではとも思うのだけど、本丸空間を作り出したリソース分くらいは活用したいのだろう。
確認の結果、特に異常がないことが分かった。これなら迷い込んでもここに来れば大丈夫。そう引き継いでおくか。
あとは三郎さんを待つだけとなったが、調査が早く終わったせいで手持ち無沙汰な時間が長い。戦闘中の大広間から距離があることもあって執務室はとても静かだ。この中で1人待つのは心細く思う。きっと彼なら大丈夫だと思うのだけど、様子が分からないというだけでこうも不安になるらしい。
障子越しに影が見えた。「少々時間がかかってしまいました」と好きな声が聞こえる。すぐに開けてしまいたい所だけど、念には念を。私たちしか知らないようなことを聞いてみる。
「ここの刀剣はどのくらい失われましたか?」
「半分です」
「私の審神者名は?」
「常盤さんでしょ」
このくらいか。防衛システムを解除し、障子を開けた。三郎さんが普段と変わらない様子で立っている。でもよく見ると血はついてるし、着物が所々切れていた。
「大丈夫でした?」
「ええ。これは返り血ですからね」
装備も無くなっていそうな感じがする。これも端末で確認できるからしておく。
「割と中傷寄りじゃないですか!」
「そう大きな声を出さないで。それよりも、中庭に気になるものがありましたよ」
私の大声はあっさりいなされてしまった。こっちに気を遣って過小に報告しているのだろうか。でも手入れでバレることなのに。モヤモヤしている私の腕を引いて、三郎さんは歩き出した。
「何これ」
中庭は一部分を除いて他の本丸と変わっていない様子だった。けれどその一部分がおかしい。空間が歪んでいて、その真ん中は裂けているように見える。
「遡行軍と同じ匂いがしますね」
「そうなんですか!? 縁がないから分からなかったです」
「その縁は今後無い方がいいでしょうねぇ。とにかく、今は帰還が最優先ですよ」
ひとまず政府へ遡行軍由来と思われる裂け目ができている旨を簡単に送り、転移ゲートへ急ぐ。
ゲートを抜けてすぐに接続が切られた。先に報告を求められたけれど三郎さんの手入れを優先した。手入れをしてくれる部署もあるにはある。でも守ってもらった結果の負傷だから、私が手入れしたかった。
「私の霊力が少ないから遠慮したんじゃないんですか?」
「いえ、そうではなく……」
格好がつかなかったからです。注意を向けていないと聞こえないような声で三郎さんは答えた。
1/2ページ