SS(とうらぶ)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は糸目が好きだ。だから三郎国宗が政府刀としていくつかの部署に配属となった時はものすごく喜んだ。それと同時に私がいる部署には来ないことが分かってほっとした。毎日好きな顔が近くにいたら心がもたない気がするから。
だから遠くからいろんな三郎国宗を見ることにしている。今は広報の三郎国宗がすごい。そういう立ち位置なのもあって、職員向けにグッズを出したり、ゲリラライブをしたりとかなり精力的に活動をしている。ライブをしているところにはあまり遭遇しないが、ちょうど見られた時は時間の限り残るようにしてその姿を目に焼き付けている。広報以外にも何かと気を取られてしまう存在だ。
「おはよーございまーす」
気の抜けた挨拶をしてすぐに後悔する。黒の着物と真っ赤なストールが私の視界に入った。何度も見てきたから分かる。分かるけどどうして彼がここにいるかは理解できていない。
「な……なんで討伐隊の、」
「おや、よくご存知で。ですが今日からはこちらにご厄介になりますよ」
どこか弾んだ声の彼――三郎国宗の後ろにいた上司に視線を送る。ただ頷くだけで何の助け舟も出してくれない。いや、それほど困っているわけではないけれど、なぜこうなっているかくらいは教えてほしい。
「その……前々からここに刀剣男士が欲しいと話が上がっていたよね? 彼はそれに立候補してくれたんだよ」
「派遣先でなにか起きた時のためにいてほしいとは言ってましたけど、最前線でやってきた方は過剰すぎますって」
私が所属する部署である維持課は簡単に言うと修理業者だ。本丸はそれを構成する術式やらが複雑なため、公的なサポートとして私たちがいる。ただ、近頃はよくある水漏れだと思ったら怪異が絡んでいた、そんな感じの事で他部署に投げてしまうことが多かった。だから最低限対応できる刀がいた方がいいと話していたけどこれはやりすぎだ。
過剰という言葉をどう受け取ったかは分からないが、私と上司の間の刀は、よよよ、と泣く素振りを見せた。
「もしや、御辺は私と共に働きたくないのでしょうか」
「え゛っ」
「ここで唯一の審神者資格持ちのお方に拒否されてしまえば、私はまた、職探しをしなくてはなりませんね……」
最前線でやってきたから探す間もなく職は見つかりそう。そんな言葉は飲み込んで、嫌だとは言っていませんよと宥める方向へ持っていく。上司も折角来てくれたから、という顔をしているし。
「もしかしたら仕事が合わないかもしれないので、とりあえず試用期間を設けませんか」
「試用期間、ですか」
「そうだね、1ヶ月くらいやってもらってから主従とかは考えてもらおうか」
話がまとまったように見えたらしい。上司は会議があるとかで足早に去った。残された私たち。こうして1対1で三郎国宗と話したことがないから変な緊張が出てきた。
「それじゃあ、えっと……業務内容についてですね」
「ええ。ですがその前に、御辺の呼び方についてお聞きしても? 主でもよろしいので?」
「あー……まだ正式な関係ではないので、私の審神者名の常盤でお願いします」
主呼びを却下すれば、器用に悲しげな表情を見せる。政府の刀剣男士は大抵審神者との繋がりはない。政府に従っているような形なのだとか。だから主とする人間に憧れていると聞いたことがあった。目の前の彼もそうなのかもしれない。
でも私としてはいきなり来られてあなたの刀剣です、と言われたって「はいそうですか」と受け入れることはできない。多分そこは上司も汲んでくれたはず。
「——これで業務について一通り伝えたと思います。まあ実際にやるのは私たちなので、流れだけでも覚えてもらえると」
「思っていたよりも地味なのですね」
「嫌だったらいつでも言ってくださいよ。きっとすぐに次の仕事は見つかりますから」
「しがみついてでも辞めませんからね」
この場の温度が一気に下がったように思えるような声音。この仕事をどうしてもしたかったらしい。これからは他の仕事について言うのはやめておくか。新たに同僚となった刀剣男士への禁句を覚えつつ、話題を変える。
「職場の人間と食事、大丈夫ですか」
「急ですねぇ。——常盤さんとでしたらどこへでも」
ずずいと寄ってくる顔。なんかこう、私が思ってた三郎国宗とは少し違う感じがする。勝手に思ってたのはカラッとした性格とか、そういうものではあるけれど……。
でも素晴らしいお顔をしているからまあいっか。
連れてきたのは居酒屋。政府職員がよく来る店であり、私も仕事着で入りやすいため割と気に入っている。小綺麗な店ではツナギ姿は浮いて仕方ないからだ。でも今日は別の理由で浮いている。色々な部署、本丸にいるようになったとはいえ三郎国宗は目を引くらしい。入店した途端、店内のほとんどの人の目がこちらに向いたのだ。若干の居心地の悪さを感じつつ案内された席へ座る。
「居酒屋来るのは初めてですか?」
「ええ。そもそも仕事終わりに食事をすること自体初めてかもしれません」
討伐隊には定時上がりなんて言葉は存在しなかったらしい。聞けば仕事が終わり次第すぐに家へ帰っていたのだとか。想像以上に過酷な部隊なのだと思う。
「不定期でしたが休みもありましたよ。やり甲斐だって途中から見つかりましたから」
「その言い方だと最初は無かったみたいじゃないですか」
「あらら」
口元を袖で隠して笑うばかりで否定も何もしないつもりらしい。前の所属についてはあまり語りたくはないのかもしれない。そう思うことにして、届いていたお通しをつついた。
「お送りしますよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて」
腕も出されたけれどそこは丁重にお断りした。
職員寮が近くなったところで別れようとしたけれど「トラブルが発生した際に対処できない」と押し切られてしまった。絶対に家を知られたくないわけではないものの、今日知り合った相手にそこまで許してもいいのかという気持ちはあった。色々な要素で負けた感じではある。
到着すると三郎国宗は物珍しげに職員寮を眺める。ここに来ること自体初めてだったそうだ。
「職員に知り合いとかいなかったんですか?」
「私にはいませんでしたよ」
こんなこと言わせないでください、と悲しげに袖を目元にやっている。いそうなものだけど。やっぱり仕事量の問題だったのかもしれない。
「それでは、私はここで失礼いたします」
「送ってくれてありがとうございます。また明日」
「ええ! また明日」
表情がぱあっと明るくなった。デフォルトが笑顔のような表情なのに、それ以上に感情表現できるのかと感心してしまう。
私が寮に入るまでその場を離れるつもりはなかったらしい。なんとなく振り向いたら赤い髪とストールがぼんやり見えた。黒い着物は派手ではあるけれど、夜だと背景に溶け込んでしまうみたいだ。見た手前、無視して帰るのも良くないと思って手を小さく振っておいた。
だから遠くからいろんな三郎国宗を見ることにしている。今は広報の三郎国宗がすごい。そういう立ち位置なのもあって、職員向けにグッズを出したり、ゲリラライブをしたりとかなり精力的に活動をしている。ライブをしているところにはあまり遭遇しないが、ちょうど見られた時は時間の限り残るようにしてその姿を目に焼き付けている。広報以外にも何かと気を取られてしまう存在だ。
「おはよーございまーす」
気の抜けた挨拶をしてすぐに後悔する。黒の着物と真っ赤なストールが私の視界に入った。何度も見てきたから分かる。分かるけどどうして彼がここにいるかは理解できていない。
「な……なんで討伐隊の、」
「おや、よくご存知で。ですが今日からはこちらにご厄介になりますよ」
どこか弾んだ声の彼――三郎国宗の後ろにいた上司に視線を送る。ただ頷くだけで何の助け舟も出してくれない。いや、それほど困っているわけではないけれど、なぜこうなっているかくらいは教えてほしい。
「その……前々からここに刀剣男士が欲しいと話が上がっていたよね? 彼はそれに立候補してくれたんだよ」
「派遣先でなにか起きた時のためにいてほしいとは言ってましたけど、最前線でやってきた方は過剰すぎますって」
私が所属する部署である維持課は簡単に言うと修理業者だ。本丸はそれを構成する術式やらが複雑なため、公的なサポートとして私たちがいる。ただ、近頃はよくある水漏れだと思ったら怪異が絡んでいた、そんな感じの事で他部署に投げてしまうことが多かった。だから最低限対応できる刀がいた方がいいと話していたけどこれはやりすぎだ。
過剰という言葉をどう受け取ったかは分からないが、私と上司の間の刀は、よよよ、と泣く素振りを見せた。
「もしや、御辺は私と共に働きたくないのでしょうか」
「え゛っ」
「ここで唯一の審神者資格持ちのお方に拒否されてしまえば、私はまた、職探しをしなくてはなりませんね……」
最前線でやってきたから探す間もなく職は見つかりそう。そんな言葉は飲み込んで、嫌だとは言っていませんよと宥める方向へ持っていく。上司も折角来てくれたから、という顔をしているし。
「もしかしたら仕事が合わないかもしれないので、とりあえず試用期間を設けませんか」
「試用期間、ですか」
「そうだね、1ヶ月くらいやってもらってから主従とかは考えてもらおうか」
話がまとまったように見えたらしい。上司は会議があるとかで足早に去った。残された私たち。こうして1対1で三郎国宗と話したことがないから変な緊張が出てきた。
「それじゃあ、えっと……業務内容についてですね」
「ええ。ですがその前に、御辺の呼び方についてお聞きしても? 主でもよろしいので?」
「あー……まだ正式な関係ではないので、私の審神者名の常盤でお願いします」
主呼びを却下すれば、器用に悲しげな表情を見せる。政府の刀剣男士は大抵審神者との繋がりはない。政府に従っているような形なのだとか。だから主とする人間に憧れていると聞いたことがあった。目の前の彼もそうなのかもしれない。
でも私としてはいきなり来られてあなたの刀剣です、と言われたって「はいそうですか」と受け入れることはできない。多分そこは上司も汲んでくれたはず。
「——これで業務について一通り伝えたと思います。まあ実際にやるのは私たちなので、流れだけでも覚えてもらえると」
「思っていたよりも地味なのですね」
「嫌だったらいつでも言ってくださいよ。きっとすぐに次の仕事は見つかりますから」
「しがみついてでも辞めませんからね」
この場の温度が一気に下がったように思えるような声音。この仕事をどうしてもしたかったらしい。これからは他の仕事について言うのはやめておくか。新たに同僚となった刀剣男士への禁句を覚えつつ、話題を変える。
「職場の人間と食事、大丈夫ですか」
「急ですねぇ。——常盤さんとでしたらどこへでも」
ずずいと寄ってくる顔。なんかこう、私が思ってた三郎国宗とは少し違う感じがする。勝手に思ってたのはカラッとした性格とか、そういうものではあるけれど……。
でも素晴らしいお顔をしているからまあいっか。
連れてきたのは居酒屋。政府職員がよく来る店であり、私も仕事着で入りやすいため割と気に入っている。小綺麗な店ではツナギ姿は浮いて仕方ないからだ。でも今日は別の理由で浮いている。色々な部署、本丸にいるようになったとはいえ三郎国宗は目を引くらしい。入店した途端、店内のほとんどの人の目がこちらに向いたのだ。若干の居心地の悪さを感じつつ案内された席へ座る。
「居酒屋来るのは初めてですか?」
「ええ。そもそも仕事終わりに食事をすること自体初めてかもしれません」
討伐隊には定時上がりなんて言葉は存在しなかったらしい。聞けば仕事が終わり次第すぐに家へ帰っていたのだとか。想像以上に過酷な部隊なのだと思う。
「不定期でしたが休みもありましたよ。やり甲斐だって途中から見つかりましたから」
「その言い方だと最初は無かったみたいじゃないですか」
「あらら」
口元を袖で隠して笑うばかりで否定も何もしないつもりらしい。前の所属についてはあまり語りたくはないのかもしれない。そう思うことにして、届いていたお通しをつついた。
「お送りしますよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて」
腕も出されたけれどそこは丁重にお断りした。
職員寮が近くなったところで別れようとしたけれど「トラブルが発生した際に対処できない」と押し切られてしまった。絶対に家を知られたくないわけではないものの、今日知り合った相手にそこまで許してもいいのかという気持ちはあった。色々な要素で負けた感じではある。
到着すると三郎国宗は物珍しげに職員寮を眺める。ここに来ること自体初めてだったそうだ。
「職員に知り合いとかいなかったんですか?」
「私にはいませんでしたよ」
こんなこと言わせないでください、と悲しげに袖を目元にやっている。いそうなものだけど。やっぱり仕事量の問題だったのかもしれない。
「それでは、私はここで失礼いたします」
「送ってくれてありがとうございます。また明日」
「ええ! また明日」
表情がぱあっと明るくなった。デフォルトが笑顔のような表情なのに、それ以上に感情表現できるのかと感心してしまう。
私が寮に入るまでその場を離れるつもりはなかったらしい。なんとなく振り向いたら赤い髪とストールがぼんやり見えた。黒い着物は派手ではあるけれど、夜だと背景に溶け込んでしまうみたいだ。見た手前、無視して帰るのも良くないと思って手を小さく振っておいた。
2/2ページ