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おれは、番に憧れていた。運命の相手と一緒になれたら、幸せな家庭とか作れそうだって思っていたから。
そして、お師さんに出会ってアルファだと分かった時はもしかして、とか思っていた。
「残念だけど、僕には既に番がいるよ」
当たり前のことだった。自ら選んだ相手がいるらしい。親から強制されたものなんじゃないかって、すごく失礼なことを聞いたけれどただただ怒られて、本当に選んだ人なんだと理解できた。
自分にもそうやって愛してくれるような人が現れたら。そんなことを考えながら、たまの発情期に耐える日々が続いた。耐えるといっても、薬が効きやすい体質のおかげであまり困ることは無かった。仕事に少し影響が出るくらい。
ESに活動拠点を動かしてからもそれはあまり変わらなかった。変わったことと言えば、プロデューサーくらい。どの事務所にも出入りしてもいいと許可があったけど、それに良い顔をしなかった人がいくつかのユニットに個別でプロデューサーを付けてしまった。Valkyrieがその内の1つになって、話を聞いた時は2人して混乱した。これからという時に新しい人間を入れる事にお師さんは反発した。おれも知らない人と仕事したくない気持ちがあった。
そうして迎えた顔合わせの日。お師さんはある程度のところで折り合いをつけられたらしく、顔合わせをして合わなかったら元に戻すよう上に伝えると言っていた。おれはあんまり分からなくて、とりあえずは会ってみようって気持ちでいた。
お師さんが指定された部屋の扉をノックする。女の人の声で「どうぞ」と聞こえてきたので、お師さんの後に続いて部屋へと入った。
「お忙しい中時間を頂きありがとうございます」
おれ達が部屋に入ってすぐ、その人は深々と頭を下げた。社会人、って感じがする。
その人がお師さんに促されて顔を上げた時、ぞくぞくしたものが体を巡るような感覚を覚えた。ただ目が合っただけなのに、心臓がうるさいくらいに動いている。こんな事になってるの、おれだけ? お師さんに視線を動かしてもいつもと変わらないしかめっ面。だったらこの人──プロデューサー候補の人に何かある。
資料を貰って話を聞いた気はするけど、中身は何1つ頭に入っていない。お師さんはなんか色々言ってたと思う。
「──それで、影片はどう思うのだね?」
「んあ? あー……おれは、あの人がいいと思う。お師さんが嫌やったら別の人でもいいけど」
プロデューサー(仮)が別の用事で出ていってから、お師さんはどうするかちゃんと考えていたらしい。その手の中にある、貰った資料には書き込みがびっしりされていた。おれの分なんかまっさらなのに。
「そうか、君もそう思うのだね。彼女なら僕たちに合ったプロデュースプランを立ててそれを実行してくれると」
あの小娘も悪くはなかったが……とぶつぶつ続けるお師さん。おれはその横で、目が合った時のあの感覚について思い出していた。あれは運命の人に会えたから起きたんだと思う。
そうして、プロデューサー(仮)は正式にValkyrieのプロデューサーになった。彼女は付かず離れずな感じでおれ達を見守ってくれている。だから、あまり気安さがなくて中々話しかけづらい。それでもお師さんは躊躇うことなく仕事の話をできているからすごい。おれは色々意識してうまく話せないだろうから。
その日は朝から少しぼんやりしていた。
お師さんとプロデューサーの3人でミーティングをするから、休むことが選択肢になかった。
「影片、顔が赤いが熱でもあるのかい?」
「……熱はないでぇ。ちょっとぼんやりするけど」
「プロデューサーが来るまでまだ時間があるから、少し休んでくるといい。特別室が空いているだろう」
「……プロデューサー来たら呼んでなぁ」
特別室、というのはオメガの隔離部屋だ。誰でも使える仮眠室で休んでたら襲われた、なんて事も実際に起こったこと。それを未然に防ぐため事務所にはそんな部屋が存在する。場所は1部の人しか知らない。お師さんは番がいて、他のオメガのフェロモンが効かないから知ってるけど。
「まだその時期じゃないと思うんやけどな……」
ベッドで横になると重力が倍くらいになったような感覚がした。
──あつい。あついのに、体は震えている。
重い瞼を開く。あまり長い時間寝ていなかったらしい。スマホにはお師さんからのメッセージが表示されている。とりあえず、返信……と言葉を選んでいる内に電話がかかってきた。
「もしもし」
『起きていたんだね。プロデューサーが到着したけれど、合流できるかな』
「……あんなぁ、来てしまったみたいなんよ」
『まだそのタイミングではなかっただろうに。薬は?』
お師さんは声を小さくして聞いてきた。服のポケットとか鞄を探ってみたけど見つからない。発情期はずっと周期的に来ていたから、ちゃんと準備できていなかった。小さく呻くとお師さんのため息が聞こえてくる。
『薬はなんとかするから、君は安静にしておくのだよ』
「うん、ごめんなぁお師さん」
お師さんに迷惑ばかりかけている。自分がオメガじゃなかったら、とよく考えてしまうのはそのせいでもある。ああ、プロデューサーにも無駄な時間を過ごさせてしまっている。彼女からの評価も下がってしまっているだろう。嫌な考えが頭の中を巡りはじめる。
ドンドンと扉が叩かれて、マイナス思考が引っ込む。お師さんかもしれない。口酸っぱく言われているから、備え付けのモニターで外を確認してから扉を開けた。
「少しは落ち着いたかね?」
「うん。にしても、お師さんおれの薬も持ってたんやね。おおきに」
換気のために開けていた窓から涼しい風が吹いてくる。その近くに座ったお師さんは微妙な顔をした。
「あの薬は……プロデューサーが持っていたものだよ。僕はそれを届けただけ」
「プロデューサーが……? そんなこと言ったかなぁ」
「事前に確認して持ち歩いていたそうだよ。事務所側は薬の情報くらい把握しているのだろう」
先に戻る、と言ってお師さんは部屋を出ていった。プロデューサーが薬を持ってたなら来てくれても良かったのに。お師さんの手を煩わせることもない。あ……でも。
「あの人、この部屋知らんかも」
歩けるくらいには落ち着いたから、2人のいる場所へ向かう。ドアは開いていて、中から話す声が聞こえてくる。盗み聞きするつもりはなかったけど、なんか入りにくい気がしてドアの手前で立ち止まった。
「プロデューサーには番はいるのかね? 答えたくなければそれでいいけれど」
「突然どうしたんですか」
「いや……君が薬を持っていたのなら、そのまま影片の元へ行けば良かったと思ってね。それができない理由はそれくらいだろうと」
「斎宮さんの想像通りですね。影片さんがいるという部屋の存在も知らなかったですし」
プロデューサーには番がいない。それならまだ可能性は残っている。彼女ならいてもおかしくないのに。
「番を迎える気は?」
「ありませんよ……面倒ですから」
面倒。番ってそんなものだったのか。視界が揺れて壁に手をつく。お師さんが部屋から顔を出した。
「戻っていたのだね。早く部屋に入りたまえ」
「せやね。待たせてごめんなぁ」
それからのミーティングは頑張った。2人にずっと迷惑をかけてばかりだし、何か考えていないとプロデューサーが言っていた事を反芻してしまいそうだったから。
どうすればプロデューサーの気持ちを変えられるだろう。
そして、お師さんに出会ってアルファだと分かった時はもしかして、とか思っていた。
「残念だけど、僕には既に番がいるよ」
当たり前のことだった。自ら選んだ相手がいるらしい。親から強制されたものなんじゃないかって、すごく失礼なことを聞いたけれどただただ怒られて、本当に選んだ人なんだと理解できた。
自分にもそうやって愛してくれるような人が現れたら。そんなことを考えながら、たまの発情期に耐える日々が続いた。耐えるといっても、薬が効きやすい体質のおかげであまり困ることは無かった。仕事に少し影響が出るくらい。
ESに活動拠点を動かしてからもそれはあまり変わらなかった。変わったことと言えば、プロデューサーくらい。どの事務所にも出入りしてもいいと許可があったけど、それに良い顔をしなかった人がいくつかのユニットに個別でプロデューサーを付けてしまった。Valkyrieがその内の1つになって、話を聞いた時は2人して混乱した。これからという時に新しい人間を入れる事にお師さんは反発した。おれも知らない人と仕事したくない気持ちがあった。
そうして迎えた顔合わせの日。お師さんはある程度のところで折り合いをつけられたらしく、顔合わせをして合わなかったら元に戻すよう上に伝えると言っていた。おれはあんまり分からなくて、とりあえずは会ってみようって気持ちでいた。
お師さんが指定された部屋の扉をノックする。女の人の声で「どうぞ」と聞こえてきたので、お師さんの後に続いて部屋へと入った。
「お忙しい中時間を頂きありがとうございます」
おれ達が部屋に入ってすぐ、その人は深々と頭を下げた。社会人、って感じがする。
その人がお師さんに促されて顔を上げた時、ぞくぞくしたものが体を巡るような感覚を覚えた。ただ目が合っただけなのに、心臓がうるさいくらいに動いている。こんな事になってるの、おれだけ? お師さんに視線を動かしてもいつもと変わらないしかめっ面。だったらこの人──プロデューサー候補の人に何かある。
資料を貰って話を聞いた気はするけど、中身は何1つ頭に入っていない。お師さんはなんか色々言ってたと思う。
「──それで、影片はどう思うのだね?」
「んあ? あー……おれは、あの人がいいと思う。お師さんが嫌やったら別の人でもいいけど」
プロデューサー(仮)が別の用事で出ていってから、お師さんはどうするかちゃんと考えていたらしい。その手の中にある、貰った資料には書き込みがびっしりされていた。おれの分なんかまっさらなのに。
「そうか、君もそう思うのだね。彼女なら僕たちに合ったプロデュースプランを立ててそれを実行してくれると」
あの小娘も悪くはなかったが……とぶつぶつ続けるお師さん。おれはその横で、目が合った時のあの感覚について思い出していた。あれは運命の人に会えたから起きたんだと思う。
そうして、プロデューサー(仮)は正式にValkyrieのプロデューサーになった。彼女は付かず離れずな感じでおれ達を見守ってくれている。だから、あまり気安さがなくて中々話しかけづらい。それでもお師さんは躊躇うことなく仕事の話をできているからすごい。おれは色々意識してうまく話せないだろうから。
その日は朝から少しぼんやりしていた。
お師さんとプロデューサーの3人でミーティングをするから、休むことが選択肢になかった。
「影片、顔が赤いが熱でもあるのかい?」
「……熱はないでぇ。ちょっとぼんやりするけど」
「プロデューサーが来るまでまだ時間があるから、少し休んでくるといい。特別室が空いているだろう」
「……プロデューサー来たら呼んでなぁ」
特別室、というのはオメガの隔離部屋だ。誰でも使える仮眠室で休んでたら襲われた、なんて事も実際に起こったこと。それを未然に防ぐため事務所にはそんな部屋が存在する。場所は1部の人しか知らない。お師さんは番がいて、他のオメガのフェロモンが効かないから知ってるけど。
「まだその時期じゃないと思うんやけどな……」
ベッドで横になると重力が倍くらいになったような感覚がした。
──あつい。あついのに、体は震えている。
重い瞼を開く。あまり長い時間寝ていなかったらしい。スマホにはお師さんからのメッセージが表示されている。とりあえず、返信……と言葉を選んでいる内に電話がかかってきた。
「もしもし」
『起きていたんだね。プロデューサーが到着したけれど、合流できるかな』
「……あんなぁ、来てしまったみたいなんよ」
『まだそのタイミングではなかっただろうに。薬は?』
お師さんは声を小さくして聞いてきた。服のポケットとか鞄を探ってみたけど見つからない。発情期はずっと周期的に来ていたから、ちゃんと準備できていなかった。小さく呻くとお師さんのため息が聞こえてくる。
『薬はなんとかするから、君は安静にしておくのだよ』
「うん、ごめんなぁお師さん」
お師さんに迷惑ばかりかけている。自分がオメガじゃなかったら、とよく考えてしまうのはそのせいでもある。ああ、プロデューサーにも無駄な時間を過ごさせてしまっている。彼女からの評価も下がってしまっているだろう。嫌な考えが頭の中を巡りはじめる。
ドンドンと扉が叩かれて、マイナス思考が引っ込む。お師さんかもしれない。口酸っぱく言われているから、備え付けのモニターで外を確認してから扉を開けた。
「少しは落ち着いたかね?」
「うん。にしても、お師さんおれの薬も持ってたんやね。おおきに」
換気のために開けていた窓から涼しい風が吹いてくる。その近くに座ったお師さんは微妙な顔をした。
「あの薬は……プロデューサーが持っていたものだよ。僕はそれを届けただけ」
「プロデューサーが……? そんなこと言ったかなぁ」
「事前に確認して持ち歩いていたそうだよ。事務所側は薬の情報くらい把握しているのだろう」
先に戻る、と言ってお師さんは部屋を出ていった。プロデューサーが薬を持ってたなら来てくれても良かったのに。お師さんの手を煩わせることもない。あ……でも。
「あの人、この部屋知らんかも」
歩けるくらいには落ち着いたから、2人のいる場所へ向かう。ドアは開いていて、中から話す声が聞こえてくる。盗み聞きするつもりはなかったけど、なんか入りにくい気がしてドアの手前で立ち止まった。
「プロデューサーには番はいるのかね? 答えたくなければそれでいいけれど」
「突然どうしたんですか」
「いや……君が薬を持っていたのなら、そのまま影片の元へ行けば良かったと思ってね。それができない理由はそれくらいだろうと」
「斎宮さんの想像通りですね。影片さんがいるという部屋の存在も知らなかったですし」
プロデューサーには番がいない。それならまだ可能性は残っている。彼女ならいてもおかしくないのに。
「番を迎える気は?」
「ありませんよ……面倒ですから」
面倒。番ってそんなものだったのか。視界が揺れて壁に手をつく。お師さんが部屋から顔を出した。
「戻っていたのだね。早く部屋に入りたまえ」
「せやね。待たせてごめんなぁ」
それからのミーティングは頑張った。2人にずっと迷惑をかけてばかりだし、何か考えていないとプロデューサーが言っていた事を反芻してしまいそうだったから。
どうすればプロデューサーの気持ちを変えられるだろう。
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