君のオメガ
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『駅で待ってるよ』というメッセージが届いたのが17時過ぎ。それに気付いたのが残業をこなした後。残業といっても普段より1時間程度遅いくらい。けれど、待たせてしまっている相手が良くない。あの五条さんが黙って待ってくれているだろうか。今日は少し寒いし。
会社を出たタイミングで今向かっていることを連絡する。送ってすぐに既読がついた。もしかしたらもう帰ってるかもしれない、と思ってそれに対するメッセージを考えているうちに返信が来る。『別ルートで帰っちゃったのかと思った』とだけあった。まだ会ったばかりの頃の事を出してくるのか、と苦笑いして駅へと足を進めた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「遅いよ。遅すぎてナンパしてきたヤツについてく所だったよ〜?」
「ああ……はい」
「もっと何かないの」
拗ねたように口を尖らせる。向こうは私の事を番にしたくて会いに来ているのだ、そんな相手に適当にあしらわれたらこの態度になってしまうのも当然か。ご機嫌取りのために何かできないかと五条さんを観察する。赤くなった指先が視界に入った。
「手、繋いで行きましょうか」
「……え」
「ダメ、でしたか?」
大きな手を取って、上目遣いで五条さんを見る。身長差のせいで必然的にそうなるのだが。彼は恥ずかしそうに目を逸らした。頬が赤くなっているのは寒さのせいだけではないだろう。
「そういうとこズルくない?」
「何がですか?」
「……何でもないよ、行こうか」
指を絡ませるようにして手を繋がれた。ここまでするつもりはなかったのだけど……と思いながら繋がれた手を見た。向こうの手が大きくて私の手が包み込まれてしまっている。
「手、ちっちゃくて可愛いね」
「五条さんが大きすぎると思うんですよ」
「そうかな?」
190センチ越えなのだからそうなのだ。どこか嬉しそうにしているので私は何も言わなかったけれど。
互いの体温が混ざり合った頃、ふと思い出して五条さんに尋ねた。
「今日はどこで食事するんですか?」
「ナマエ中華好きって言ってたでしょ? ちょっと調べた所」
「今日中華の気分だったんですよ、嬉しいです」
割と最初の頃に食事をした時だろうか、食の好みを聞かれたことがあった。そこからある程度経っているのに覚えてくれていたのかと思って胸が暖かくなるような感覚がした。そんな事を言ったら「番の好きな物覚えてるのは当たり前でしょ♡」と返されてしまいそうなので伝えない。
少し歩くと見慣れた路地に出た。あそこの店、と五条さんが指さす。
「あ……よく行くお店です。知ってました?」
「ナマエの事は何でも知ってるからね」
「は、はあ」
「できれば開拓してみたかったけど、ヤなとこ当てたくないじゃん?」
その気持ちは分かるけど、私がよく行く店の情報はどこで手に入れたのかと疑問に思う。私の行動範囲から推測したのだろうか。そうであってほしい。
店に入っていつも食べている料理を注文する。五条さんはあまりこうした町中華の店に来たことがないらしく、全て私に任せてきた。もちろん、お酒は頼まない。
以前飲まないか聞いたことがあった。今飲んだらここで君を襲っちゃうと思うけど、いいの? と中々に恐ろしい事を言われてしまったので、それからは原則ノンアルになっている。五条さんは下戸らしい。甘党だし、そうなのも頷ける。
「……で、今日はどうしたの?」
「残業だったんですよ。連絡できなくてごめんなさい」
「そっか。それは仕方ないよ、お疲れ様」
労いの言葉を貰って、少し気が楽になる。でも、待たせてしまっていたのは変わらない。もう1度謝っておいた。
やがて注文していた料理が届く。炒飯に餃子、麻婆豆腐など、定番の中華料理が卓の上に広がっている。手を合わせてからまずは餃子を口に運んだ。パリパリの皮を噛めば、熱々の肉汁が口いっぱいに広がっていく。はふはふと食べている様子を五条さんは頬杖をつきながら見ていた。
「美味しそうに食べるねえ」
「ここの美味しいんですよ。炒飯も美味しいんで食べてみてください」
辛いのは苦手だと言っていたから麻婆豆腐を勧めるのはやめておいた。ある程度別の皿に取り分けてからレンゲで炒飯を掬って食べ進める。やっぱり美味しい。
「ん、私に何か付いてます?」
「や……ちゃんとアルファなんだなって思って」
無意識なのか首筋に触れながら五条さんは答えた。食べているのをずっと見られていたのが気になって聞いてみればよく分からない返事。どこを見てアルファだと再確認したのか分からないけど、まあいいや。麻婆豆腐に手を伸ばした時、どこからか着信音が鳴った。私のではないので、五条さんに視線をやる。画面を見て舌打ちをするが、私に一言断って電話に出た。
「何。今忙しいんだけど」
さっきまでとは打って変わって低い声だ。明らかに機嫌が悪くなってしまっている。しかし、連絡してきた相手はそれに構わず話をしているらしい。五条さんは適当に相槌を打って遮らずに聞いているようだった。一区切りついたのか、彼は大きくため息をつく。
「見合いはもう行かないって」
「……お見合い」
知らないうちに口にしてしまった。電話中の五条さんには聞こえていなかったみたいだが、念の為私はそれを誤魔化すように餃子を食べる。五条さんの相手候補として選ばれる人って、きっとすごいアルファなんだろう。私とは比べ物にならないくらい高貴な人なんだろうな。
「僕には相手がいるの。もう縁談持ってこないで」
私を見据えたまま電話の相手にそんな事を言う。その視線から逃れるように、私は料理を取り皿に移し始めた。
「嘘じゃないって。じきに連れてくから」
「ああもううるさいな。切るよ」
スマホを裏返しにして置く。じいやは見る目がない、と五条さんは呟いた。そして私を見て、ごめんね、と一言。
「いいですよ。その……大事なことだったんですよね」
「全然。もう着信拒否にしようかな」
「それはやめた方がいいと思いますよ」
ナマエがそう言うなら……。とスマホを操作していた手を止めた。この人、私に判断を委ねることが多いな。
それよりも度々出てくる「じいや」などの単語が気になってしまった。普段の所作から一般家庭の生まれじゃないのは何となく分かっていたけれど、お見合いまでさせられるような家って何なんだろう。気にはなるが、そこまで踏み込んでいいのか分からなかった。
「僕の家、気にならない?」
「あ、気になってはいますよ。でも聞いてもいいのか……」
「いいよ。教えてあげる」
教えると言ったものの、どこから話すか悩んでいる様子だった。薄々思っていたが、住んでいる世界が全然違う人なんだろうなというのが分かってきた。
「端的に言うと、実家は超名家なの」
「はあ」
「……で、その上僕は他人が持ってないものを持ち合わせてて、」
自分の目を指差す。その真っ青な瞳はなんかすごいものらしい。簡単に説明されたけど、1ミリも理解が及ばなかった。首を傾げたままの私を置いて、五条さんは説明を続ける。
「血を残したいの。それでまた強いのが生まれたらラッキー、みたいな感じで」
「競走馬?」
「そんな感じかな?」
「はあ、なるほど」
五条さんは子孫を残すことを重要視されている。そこにまた良家の女性をあてがいたくて、本人が望まないお見合いをセットされている、ということを競走馬で表現してみた。それが気に入ったらしく彼はケラケラと笑っている。
それだったらどこぞの馬の骨が近寄っていることに対して家の人は良い顔はしないだろう。
「大丈夫なんですか? 私を選んで」
「いいの。僕が当主だし、ごちゃごちゃ言う奴は黙らせられるからね」
「おお……」
今のところは私でも良いらしい。私が誰も異論を唱えられないような強いアルファなら、スムーズに受け入れられそうな感じはする。実際のところはフェロモンも微かにしか分からないポンコツであるが。
「とにかく、ナマエは気にしないでいいよ。僕はナマエのことが大好きなんだから」
「はえ……」
唐突な愛の言葉にまともな言葉が出てこなかった。ここまで全面に押し出されると恥ずかしい。赤くなった頬を誤魔化したくて、残っていた料理を口に突っ込んだ。
「照れてる? 可愛いね」
「……びっくりしただけです」
全部食べちゃいますよ、と大皿に手を伸ばして言えば五条さんは慌てて皿に取り始めた。
五条さんが支払いを終えるのを待って店を出る。駅の方を向くが、五条さんは大通りの方へ行こうとしていた。
「駅、こっちですけど」
「タクシーで帰ろうよ」
「勿体ないじゃないですか」
「……だって駅で別れちゃうじゃん。もう少し一緒がいいの」
ダメ? と首を傾けてこちらを見てくる。この大男、どうしてこんな仕草をしても変な感じにならないんだ。頷かないといけない気持ちにさせてくる。
「いいですけど……」
「やった! タクシー代は出すからね」
話が決着するとすぐに私の手を引いて歩き始める。大通りにはタクシーが何台か連なって停まっていた。その最前に停まっていた1台に乗り込む。乗ってすぐに五条さんが私のアパートの住所を伝えた。空で言えるくらいに記憶しているらしい。この人なら何も不思議なことではないと思えるようになった。
タクシーに揺られること十数分。窓の外を眺めていると五条さんがため息をついたのが聞こえた。それが気になって姿勢を元に戻す。隣に目を向けた時スマホの画面が暗くなったのが分かった。また何か連絡でもあったんだろう。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。気にしないで」
スマホをポケットにしまって言う。あまり話したくないだろうと思ってその後は口を噤んだ。そしてそのまま前を向く。
それからは会話もなく気付けば家へと到着していた。タクシー代は五条さんが払うと言ったのでそれに甘えて先に降りる。彼は支払いを済ませてすぐに降りた。そして、私の部屋の前までついてきてくれた。
「じゃあね。また行けそうな時に連絡するよ」
「……五条さん、ちょっといいですか」
「何? どうしたの」
ニヤニヤしながらこちらへと近寄ってくる。ある程度距離が詰まったタイミングで大きな体を抱きしめた。体格差のせいで抱きつく感じになってしまっているが。速い鼓動が耳へと届く。
「き、急にどうしたの。積極的だね」
「五条さんって、色々と大変なんだなと思って。労いみたいなものです」
「も〜、そんな風にされたら一日中一緒にいたくなっちゃうじゃん」
「泊まるんですか……?」
「……僕のこと、家に上げてもいいって思ってるの?」
肩あたりに回されている腕に力が入った。少し痛くて身を捩る。とんとん、と力を込めずに腕を叩けば分かったようで少しだけ力が緩んだ。しかし逃がす気はないらしい。
「今すぐに、って訳でもないですけど……ゆくゆくは来てもいいかなって思ってます」
「だったら次デートね、昼前から連れ回すよ」
「いいんじゃないですか。五条さんのスケジュールに合わせますよ」
「ホントにいいの?」
パッと体が離れる。サングラスから覗く瞳には期待の色が滲む。私が良いと言っているのに何を確認することがあるのだろう。これまで約束を反故にしたことはないはず。不安に思っているのなら、と手を取って答えた。
「良いですよ。何なら平日でも大丈夫です……有給もありますし」
「……っ、じゃあ頑張って1日空けてくるよ」
「はい。連絡待ってます」
嬉しそうに笑うので私も同じ気持ちになっていく。最後にもう1度ハグをして、この日は別れたのだった。
会社を出たタイミングで今向かっていることを連絡する。送ってすぐに既読がついた。もしかしたらもう帰ってるかもしれない、と思ってそれに対するメッセージを考えているうちに返信が来る。『別ルートで帰っちゃったのかと思った』とだけあった。まだ会ったばかりの頃の事を出してくるのか、と苦笑いして駅へと足を進めた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「遅いよ。遅すぎてナンパしてきたヤツについてく所だったよ〜?」
「ああ……はい」
「もっと何かないの」
拗ねたように口を尖らせる。向こうは私の事を番にしたくて会いに来ているのだ、そんな相手に適当にあしらわれたらこの態度になってしまうのも当然か。ご機嫌取りのために何かできないかと五条さんを観察する。赤くなった指先が視界に入った。
「手、繋いで行きましょうか」
「……え」
「ダメ、でしたか?」
大きな手を取って、上目遣いで五条さんを見る。身長差のせいで必然的にそうなるのだが。彼は恥ずかしそうに目を逸らした。頬が赤くなっているのは寒さのせいだけではないだろう。
「そういうとこズルくない?」
「何がですか?」
「……何でもないよ、行こうか」
指を絡ませるようにして手を繋がれた。ここまでするつもりはなかったのだけど……と思いながら繋がれた手を見た。向こうの手が大きくて私の手が包み込まれてしまっている。
「手、ちっちゃくて可愛いね」
「五条さんが大きすぎると思うんですよ」
「そうかな?」
190センチ越えなのだからそうなのだ。どこか嬉しそうにしているので私は何も言わなかったけれど。
互いの体温が混ざり合った頃、ふと思い出して五条さんに尋ねた。
「今日はどこで食事するんですか?」
「ナマエ中華好きって言ってたでしょ? ちょっと調べた所」
「今日中華の気分だったんですよ、嬉しいです」
割と最初の頃に食事をした時だろうか、食の好みを聞かれたことがあった。そこからある程度経っているのに覚えてくれていたのかと思って胸が暖かくなるような感覚がした。そんな事を言ったら「番の好きな物覚えてるのは当たり前でしょ♡」と返されてしまいそうなので伝えない。
少し歩くと見慣れた路地に出た。あそこの店、と五条さんが指さす。
「あ……よく行くお店です。知ってました?」
「ナマエの事は何でも知ってるからね」
「は、はあ」
「できれば開拓してみたかったけど、ヤなとこ当てたくないじゃん?」
その気持ちは分かるけど、私がよく行く店の情報はどこで手に入れたのかと疑問に思う。私の行動範囲から推測したのだろうか。そうであってほしい。
店に入っていつも食べている料理を注文する。五条さんはあまりこうした町中華の店に来たことがないらしく、全て私に任せてきた。もちろん、お酒は頼まない。
以前飲まないか聞いたことがあった。今飲んだらここで君を襲っちゃうと思うけど、いいの? と中々に恐ろしい事を言われてしまったので、それからは原則ノンアルになっている。五条さんは下戸らしい。甘党だし、そうなのも頷ける。
「……で、今日はどうしたの?」
「残業だったんですよ。連絡できなくてごめんなさい」
「そっか。それは仕方ないよ、お疲れ様」
労いの言葉を貰って、少し気が楽になる。でも、待たせてしまっていたのは変わらない。もう1度謝っておいた。
やがて注文していた料理が届く。炒飯に餃子、麻婆豆腐など、定番の中華料理が卓の上に広がっている。手を合わせてからまずは餃子を口に運んだ。パリパリの皮を噛めば、熱々の肉汁が口いっぱいに広がっていく。はふはふと食べている様子を五条さんは頬杖をつきながら見ていた。
「美味しそうに食べるねえ」
「ここの美味しいんですよ。炒飯も美味しいんで食べてみてください」
辛いのは苦手だと言っていたから麻婆豆腐を勧めるのはやめておいた。ある程度別の皿に取り分けてからレンゲで炒飯を掬って食べ進める。やっぱり美味しい。
「ん、私に何か付いてます?」
「や……ちゃんとアルファなんだなって思って」
無意識なのか首筋に触れながら五条さんは答えた。食べているのをずっと見られていたのが気になって聞いてみればよく分からない返事。どこを見てアルファだと再確認したのか分からないけど、まあいいや。麻婆豆腐に手を伸ばした時、どこからか着信音が鳴った。私のではないので、五条さんに視線をやる。画面を見て舌打ちをするが、私に一言断って電話に出た。
「何。今忙しいんだけど」
さっきまでとは打って変わって低い声だ。明らかに機嫌が悪くなってしまっている。しかし、連絡してきた相手はそれに構わず話をしているらしい。五条さんは適当に相槌を打って遮らずに聞いているようだった。一区切りついたのか、彼は大きくため息をつく。
「見合いはもう行かないって」
「……お見合い」
知らないうちに口にしてしまった。電話中の五条さんには聞こえていなかったみたいだが、念の為私はそれを誤魔化すように餃子を食べる。五条さんの相手候補として選ばれる人って、きっとすごいアルファなんだろう。私とは比べ物にならないくらい高貴な人なんだろうな。
「僕には相手がいるの。もう縁談持ってこないで」
私を見据えたまま電話の相手にそんな事を言う。その視線から逃れるように、私は料理を取り皿に移し始めた。
「嘘じゃないって。じきに連れてくから」
「ああもううるさいな。切るよ」
スマホを裏返しにして置く。じいやは見る目がない、と五条さんは呟いた。そして私を見て、ごめんね、と一言。
「いいですよ。その……大事なことだったんですよね」
「全然。もう着信拒否にしようかな」
「それはやめた方がいいと思いますよ」
ナマエがそう言うなら……。とスマホを操作していた手を止めた。この人、私に判断を委ねることが多いな。
それよりも度々出てくる「じいや」などの単語が気になってしまった。普段の所作から一般家庭の生まれじゃないのは何となく分かっていたけれど、お見合いまでさせられるような家って何なんだろう。気にはなるが、そこまで踏み込んでいいのか分からなかった。
「僕の家、気にならない?」
「あ、気になってはいますよ。でも聞いてもいいのか……」
「いいよ。教えてあげる」
教えると言ったものの、どこから話すか悩んでいる様子だった。薄々思っていたが、住んでいる世界が全然違う人なんだろうなというのが分かってきた。
「端的に言うと、実家は超名家なの」
「はあ」
「……で、その上僕は他人が持ってないものを持ち合わせてて、」
自分の目を指差す。その真っ青な瞳はなんかすごいものらしい。簡単に説明されたけど、1ミリも理解が及ばなかった。首を傾げたままの私を置いて、五条さんは説明を続ける。
「血を残したいの。それでまた強いのが生まれたらラッキー、みたいな感じで」
「競走馬?」
「そんな感じかな?」
「はあ、なるほど」
五条さんは子孫を残すことを重要視されている。そこにまた良家の女性をあてがいたくて、本人が望まないお見合いをセットされている、ということを競走馬で表現してみた。それが気に入ったらしく彼はケラケラと笑っている。
それだったらどこぞの馬の骨が近寄っていることに対して家の人は良い顔はしないだろう。
「大丈夫なんですか? 私を選んで」
「いいの。僕が当主だし、ごちゃごちゃ言う奴は黙らせられるからね」
「おお……」
今のところは私でも良いらしい。私が誰も異論を唱えられないような強いアルファなら、スムーズに受け入れられそうな感じはする。実際のところはフェロモンも微かにしか分からないポンコツであるが。
「とにかく、ナマエは気にしないでいいよ。僕はナマエのことが大好きなんだから」
「はえ……」
唐突な愛の言葉にまともな言葉が出てこなかった。ここまで全面に押し出されると恥ずかしい。赤くなった頬を誤魔化したくて、残っていた料理を口に突っ込んだ。
「照れてる? 可愛いね」
「……びっくりしただけです」
全部食べちゃいますよ、と大皿に手を伸ばして言えば五条さんは慌てて皿に取り始めた。
五条さんが支払いを終えるのを待って店を出る。駅の方を向くが、五条さんは大通りの方へ行こうとしていた。
「駅、こっちですけど」
「タクシーで帰ろうよ」
「勿体ないじゃないですか」
「……だって駅で別れちゃうじゃん。もう少し一緒がいいの」
ダメ? と首を傾けてこちらを見てくる。この大男、どうしてこんな仕草をしても変な感じにならないんだ。頷かないといけない気持ちにさせてくる。
「いいですけど……」
「やった! タクシー代は出すからね」
話が決着するとすぐに私の手を引いて歩き始める。大通りにはタクシーが何台か連なって停まっていた。その最前に停まっていた1台に乗り込む。乗ってすぐに五条さんが私のアパートの住所を伝えた。空で言えるくらいに記憶しているらしい。この人なら何も不思議なことではないと思えるようになった。
タクシーに揺られること十数分。窓の外を眺めていると五条さんがため息をついたのが聞こえた。それが気になって姿勢を元に戻す。隣に目を向けた時スマホの画面が暗くなったのが分かった。また何か連絡でもあったんだろう。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。気にしないで」
スマホをポケットにしまって言う。あまり話したくないだろうと思ってその後は口を噤んだ。そしてそのまま前を向く。
それからは会話もなく気付けば家へと到着していた。タクシー代は五条さんが払うと言ったのでそれに甘えて先に降りる。彼は支払いを済ませてすぐに降りた。そして、私の部屋の前までついてきてくれた。
「じゃあね。また行けそうな時に連絡するよ」
「……五条さん、ちょっといいですか」
「何? どうしたの」
ニヤニヤしながらこちらへと近寄ってくる。ある程度距離が詰まったタイミングで大きな体を抱きしめた。体格差のせいで抱きつく感じになってしまっているが。速い鼓動が耳へと届く。
「き、急にどうしたの。積極的だね」
「五条さんって、色々と大変なんだなと思って。労いみたいなものです」
「も〜、そんな風にされたら一日中一緒にいたくなっちゃうじゃん」
「泊まるんですか……?」
「……僕のこと、家に上げてもいいって思ってるの?」
肩あたりに回されている腕に力が入った。少し痛くて身を捩る。とんとん、と力を込めずに腕を叩けば分かったようで少しだけ力が緩んだ。しかし逃がす気はないらしい。
「今すぐに、って訳でもないですけど……ゆくゆくは来てもいいかなって思ってます」
「だったら次デートね、昼前から連れ回すよ」
「いいんじゃないですか。五条さんのスケジュールに合わせますよ」
「ホントにいいの?」
パッと体が離れる。サングラスから覗く瞳には期待の色が滲む。私が良いと言っているのに何を確認することがあるのだろう。これまで約束を反故にしたことはないはず。不安に思っているのなら、と手を取って答えた。
「良いですよ。何なら平日でも大丈夫です……有給もありますし」
「……っ、じゃあ頑張って1日空けてくるよ」
「はい。連絡待ってます」
嬉しそうに笑うので私も同じ気持ちになっていく。最後にもう1度ハグをして、この日は別れたのだった。