君のオメガ
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自称・私のオメガに求愛されてちょうど1週間が経った。私と五条さんのやり取りを見ていた同期、知り合いたちからはアルファとベータだけどやっていけるだろう、と私の背中を押してくるような事しか言ってこなかった。何もかもの前提が間違っていることに対しては訂正しないでおいた。彼がオメガであると言いふらす理由が存在しないからだ。
まあ、ものすごく格好いい人だとは思う。それは同意しかできない。私のことも助けてくれたし、悪い人だとも思えなかった。しかし距離の詰め方が問題なのだ。ほとんど知らない人からお前の番である、といきなり言われて「はいそうですか」で番うことのできる人間がいるだろうか。多分いないと思う。
そんなわけで乗っている電車を見られたせいで、これまで毎日違うルートを使って会社と家を行き来していた。けれどその日は疲れていて、何も考えられずいつも通りの帰り方で帰ってしまった。それが良くなかったのかは分からないが、アパートの出入り口に例の人が立っていたのだ。私を視認した途端に大股でこちらに向かう。青い瞳が輝いた。
「おかえり」
「……なんでここにいるんですか」
問いかけを無視して私に抱きつこうとしてくる。あっけなく腕の中に捕えられ、首元で何やら吸うように息をしている。ぶわりと鳥肌の立つ感覚がした。
「な、何をして……」
「君の匂いがしないね。アルファなのに」
柔軟剤かな? と言いつつ私を解放する。首を抑えながら距離を取れば、不満そうな表情でこちらを見てくる。
「そんなに警戒する必要なくない? こんなに君の事が好きなのに」
「私、貴方のこと名字くらいしか知らないんですよ。そんな人と親密にできると思います?」
だから、と一呼吸置く。私も精一杯考えたのだ。こんな風に距離を詰められてはいるが、一応彼は命の恩人である。そんな人を無下に扱う事が私はできなかった。
「どこかで話をしませんか?」
「いいよ。どこ行く? 君の家?」
背後のアパートを指差す。私はすぐさま首を横に振る。家に連れていけば、部屋に入れた時点で襲われてしまうのが明らかだったからだ。既成事実まで作られてしまうともうどうしようもない。だから、私はどこがいいか考える。きっとデリケートな話をするから、ファミレスみたいに人がたくさんいるような場所は避けたい。だからといって2人きりになってしまう場所はさっき考えたようになってしまう可能性が高い。程よく空いていて、けれど誰かしらいるような場所。1つ思い当たる所がある。
「あの……よく行く喫茶店があって、」
「え〜、君の部屋でよくない? 近いのにさあ」
「え、っと、色々美味しいですよ。私の部屋はまだ、心の準備が……」
「そうだね、僕もいきなり行ったら何しちゃうか分かんないし」
怖すぎる。何でもない顔でさらりと爆弾発言をするのをやめてほしい。向こうは私の反応を見て楽しんでいるらしく、目隠しを外してニコニコとしていた。そして手を差し出す。
「じゃあ行こうか」
「……はい」
手を取って歩き出した。初めはそのままにしていたのに、やがて指を絡めるように繋ぎ直してくる。不思議とそれが嫌だと思わない自分がいて内心驚く。五条さんは抵抗しない私に少しだけ視線をやったが、何も言わずにそのまま足を進めた。
目的の喫茶店へ入ると窓際の席に通された。それなりに日も暮れてきているが、まだ店内には人が残っている。流石に目隠し状態だと気が引けたのか、五条さんはサングラスに替えていた。
メニュー表を広げれば向こうは身を乗り出すようにして覗き込んできた。もう1冊あるというのに、だ。もうこの人には何も言うまい。……と思っていたら、ねえ、と声をかけられる。
「オススメとかある?」
「プリン……ですかね。固めで好きです」
「じゃあそれとコーヒーにしようかな」
私はコーヒーのみ頼んだ。待っている間は当たり障りのない事から質問することにした。名前とか、仕事についてとか……。仕事に関しては少しはぐらかされたような気がした。そのうち頼んでいたものが運ばれてくる。
五条さんは元から煌めいているような瞳を更に輝かせて、プリンを見ている。甘い物が好きなんだろうかと思って眺めていると、角砂糖を狂ったようにコーヒーへと突っ込み始めたので私は目を見開く。
「え、何……どういう量……」
「僕、コーヒーはこれくらいしないと飲めないから」
言いながら極めつけにミルクも入れていた。味覚がおかしくなってしまっている……? 私の中にあった五条さんのイメージが崩れていく音がする。
「それで、本当は何の話をしたいの?」
「……まだ何を聞きたいか分かってないんです」
「へえ。じゃあ僕から質問するね。番いる? もしかしてオメガ飼ってる?」
飲みかけていたコーヒーを吹き出すところだった。アルファの事を何だと思っているのだろう。私はむせながら首を横に振った。そうしたら、何で拒むの? と一言。視線が鋭すぎて、最初の言葉が詰まってしまう。
「き、距離の詰め方が怖くて」
「ええ〜、これくらいしないと誰かに取られちゃうじゃん」
「あと、どうしてこんなすごい人が私の事を好きになったのか分からなくて」
「運命だと思ったからだよ」
即答だった。一応アルファであり、そうした教育も小学生くらいから受けてきてはいる。しかし、それでもイマイチ運命というものを理解しきれていないので、その理由が受け入れがたいものだと感じてしまう。
「その、具体的には……?」
「え? 話していいの? 君と出会った瞬間にね……この人の子どもなら孕んでもいいって思ったの」
「ソウナンデスネ」
聞かなければよかった。この人はオメガの本能に忠実すぎると思う。また、私がこれまで出会ってきたオメガの中でかなり強い方になるのだろう、と感じた。私は生唾を飲み込む。少し変な雰囲気になってしまったので、話題を変えてみる。
「もし、私に番がいたらどうしてました?」
「始末するよ」
これもまた即答である。とんでもない人に目をつけられてしまった。プリンを食べながら淡々と話しているのが恐ろしい。
「でもさ、君は僕のフェロモンに反応してなかったんだよ。だから番がいると思ったんだけど……」
「……いつやってました?」
「病院に送った時」
返事を聞いてすぐに記憶を辿っていく。頭が痛くてそれどころじゃなかったことくらいしか覚えていないのだが、そういうことをしていただろうか。数分頭をフル回転させてようやく思い出す。車内の甘い匂いだ。そのことを指しているはず。
「甘い匂い、ですか」
「分かってんじゃん。僕のって結構強いんだけど、よく理性失わなかったね」
「それどころじゃなかったですし……甘い匂いがするな、くらいの感じでしたけど」
私がそう答えれば、五条さんは肩を落とした。ホントにアルファなの? と聞かれる始末。久々にフェロモンを向けられたから分からなかったけれど、私は歴としたアルファである。割とポンコツの部類に入るが。
「結構傷ついたんだよ、僕」
「え?」
「運命の人にスルーされちゃったからね。その上帰ったら発情期突入するしさあ」
薬効いたから良かったけどね、と彼は付け足した。私と出会っただけで発情期になった、と言いたいのだろうか。時期的なものも関わっていそうだと思うのだが。そろそろ来そうなタイミングで私に出会ってしまっただけだと思う。
「こんなに好きになったの、君が初めてなんだよ」
真っ直ぐな視線に射抜かれたような感覚がする。返事をしようとしても、何かがつっかえたみたいに声が出ない。彼は本気で言っている。それを感じ取ってしまったせいで、どうすればいいのか分からなくなってしまう。
「番、になるのはちょっと……」
ようやく絞り出した言葉は否定だった。途端に五条さんの表情が消えていく。心なしか周りの温度も下がっていったような気がした。私は慌てて言葉を続ける。
「いきなりなのが受け入れられなくて、その、知り合いから……始める、というのは」
「もう僕たち知り合いくらいにはなるでしょ」
「……分かりました、お友達から始めましょう」
これ以上機嫌を損ねないようにとスマホを机の上に置いた。画面にはQRコードを表示している。それを見て五条さんに表情が戻る。怖いくらいに口角が上がっていた。
ニコニコしながら登録している様を観察する。置きっぱなしでもできるはずなのに、私のスマホは五条さんの手の中にあった。変なことをされそうだと思ってヒヤヒヤしたが、考えていたよりも早くスマホが返ってきた。誰かとのトーク画面が表示されている。テスト、という文言と共に猫のスタンプが送られてきた。
「ちゃんと来てるみたいだね」
「猫」
「ああ、それ貰ったヤツだから。僕の趣味じゃないよ」
それでもあげた人はきっと五条さんのことを考えていたと思う。白くて青い目の猫なんてまんま五条さんでしかない。そんな事を思いながら、こちらからも「よろしく」のスタンプを送った。
「そうだ、毎週会いに来るからね」
喫茶店を出てしばらく歩いた所で五条さんはそんな事を言った。毎週? 私に会いに?
ぽかんとした顔で見つめた後、大事な事だと思って1つ尋ねる。
「頻度はどのくらいで……?」
「週1くらいかな。僕もまあまあ忙しいからさ」
「はあ」
「もっと会いたい?」
控えめに首を横に振った。それが不満だったのか、顔を覗き込んでくる。サングラスの隙間から見える瞳は不服そうに私を見ていた。思わず私は目を合わせないようにしてしまう。向こうの機嫌を悪くしてしまいそうだが、私はこの目に弱いのだ。
「私にも、仕事があるので……それに、五条さんの負担にはなりたくないので週1で大丈夫です」
「君のこと、負担だと思ったこと1回もないけどなあ」
「まだ会ったばかりじゃないですか」
「時間なんて関係ないでしょ」
話が噛み合っていないような気もしたが何も言わないことにした。
そして、会いに来るならどこに来るのだろうとふと思った。会社だったら以前のような騒ぎをまた起こしてしまう。だからといって家集合も嫌すぎる。
「……あの、来る時は最寄り駅で待っててもらえませんか」
「そう言ってさあ、逃げるつもりでしょ? バスとか使ったりして」
「……え?」
「帰るルート増やしてたよね。必死で可愛かったよ」
敢えて追わなかったの、と五条さんは笑顔で付け足した。知らない内にストーキングされていたらしい。だから私の家の場所が分かったのか、と変な所で納得してしまった。この人といると感覚がおかしくなっていくようだ。
まあ、ものすごく格好いい人だとは思う。それは同意しかできない。私のことも助けてくれたし、悪い人だとも思えなかった。しかし距離の詰め方が問題なのだ。ほとんど知らない人からお前の番である、といきなり言われて「はいそうですか」で番うことのできる人間がいるだろうか。多分いないと思う。
そんなわけで乗っている電車を見られたせいで、これまで毎日違うルートを使って会社と家を行き来していた。けれどその日は疲れていて、何も考えられずいつも通りの帰り方で帰ってしまった。それが良くなかったのかは分からないが、アパートの出入り口に例の人が立っていたのだ。私を視認した途端に大股でこちらに向かう。青い瞳が輝いた。
「おかえり」
「……なんでここにいるんですか」
問いかけを無視して私に抱きつこうとしてくる。あっけなく腕の中に捕えられ、首元で何やら吸うように息をしている。ぶわりと鳥肌の立つ感覚がした。
「な、何をして……」
「君の匂いがしないね。アルファなのに」
柔軟剤かな? と言いつつ私を解放する。首を抑えながら距離を取れば、不満そうな表情でこちらを見てくる。
「そんなに警戒する必要なくない? こんなに君の事が好きなのに」
「私、貴方のこと名字くらいしか知らないんですよ。そんな人と親密にできると思います?」
だから、と一呼吸置く。私も精一杯考えたのだ。こんな風に距離を詰められてはいるが、一応彼は命の恩人である。そんな人を無下に扱う事が私はできなかった。
「どこかで話をしませんか?」
「いいよ。どこ行く? 君の家?」
背後のアパートを指差す。私はすぐさま首を横に振る。家に連れていけば、部屋に入れた時点で襲われてしまうのが明らかだったからだ。既成事実まで作られてしまうともうどうしようもない。だから、私はどこがいいか考える。きっとデリケートな話をするから、ファミレスみたいに人がたくさんいるような場所は避けたい。だからといって2人きりになってしまう場所はさっき考えたようになってしまう可能性が高い。程よく空いていて、けれど誰かしらいるような場所。1つ思い当たる所がある。
「あの……よく行く喫茶店があって、」
「え〜、君の部屋でよくない? 近いのにさあ」
「え、っと、色々美味しいですよ。私の部屋はまだ、心の準備が……」
「そうだね、僕もいきなり行ったら何しちゃうか分かんないし」
怖すぎる。何でもない顔でさらりと爆弾発言をするのをやめてほしい。向こうは私の反応を見て楽しんでいるらしく、目隠しを外してニコニコとしていた。そして手を差し出す。
「じゃあ行こうか」
「……はい」
手を取って歩き出した。初めはそのままにしていたのに、やがて指を絡めるように繋ぎ直してくる。不思議とそれが嫌だと思わない自分がいて内心驚く。五条さんは抵抗しない私に少しだけ視線をやったが、何も言わずにそのまま足を進めた。
目的の喫茶店へ入ると窓際の席に通された。それなりに日も暮れてきているが、まだ店内には人が残っている。流石に目隠し状態だと気が引けたのか、五条さんはサングラスに替えていた。
メニュー表を広げれば向こうは身を乗り出すようにして覗き込んできた。もう1冊あるというのに、だ。もうこの人には何も言うまい。……と思っていたら、ねえ、と声をかけられる。
「オススメとかある?」
「プリン……ですかね。固めで好きです」
「じゃあそれとコーヒーにしようかな」
私はコーヒーのみ頼んだ。待っている間は当たり障りのない事から質問することにした。名前とか、仕事についてとか……。仕事に関しては少しはぐらかされたような気がした。そのうち頼んでいたものが運ばれてくる。
五条さんは元から煌めいているような瞳を更に輝かせて、プリンを見ている。甘い物が好きなんだろうかと思って眺めていると、角砂糖を狂ったようにコーヒーへと突っ込み始めたので私は目を見開く。
「え、何……どういう量……」
「僕、コーヒーはこれくらいしないと飲めないから」
言いながら極めつけにミルクも入れていた。味覚がおかしくなってしまっている……? 私の中にあった五条さんのイメージが崩れていく音がする。
「それで、本当は何の話をしたいの?」
「……まだ何を聞きたいか分かってないんです」
「へえ。じゃあ僕から質問するね。番いる? もしかしてオメガ飼ってる?」
飲みかけていたコーヒーを吹き出すところだった。アルファの事を何だと思っているのだろう。私はむせながら首を横に振った。そうしたら、何で拒むの? と一言。視線が鋭すぎて、最初の言葉が詰まってしまう。
「き、距離の詰め方が怖くて」
「ええ〜、これくらいしないと誰かに取られちゃうじゃん」
「あと、どうしてこんなすごい人が私の事を好きになったのか分からなくて」
「運命だと思ったからだよ」
即答だった。一応アルファであり、そうした教育も小学生くらいから受けてきてはいる。しかし、それでもイマイチ運命というものを理解しきれていないので、その理由が受け入れがたいものだと感じてしまう。
「その、具体的には……?」
「え? 話していいの? 君と出会った瞬間にね……この人の子どもなら孕んでもいいって思ったの」
「ソウナンデスネ」
聞かなければよかった。この人はオメガの本能に忠実すぎると思う。また、私がこれまで出会ってきたオメガの中でかなり強い方になるのだろう、と感じた。私は生唾を飲み込む。少し変な雰囲気になってしまったので、話題を変えてみる。
「もし、私に番がいたらどうしてました?」
「始末するよ」
これもまた即答である。とんでもない人に目をつけられてしまった。プリンを食べながら淡々と話しているのが恐ろしい。
「でもさ、君は僕のフェロモンに反応してなかったんだよ。だから番がいると思ったんだけど……」
「……いつやってました?」
「病院に送った時」
返事を聞いてすぐに記憶を辿っていく。頭が痛くてそれどころじゃなかったことくらいしか覚えていないのだが、そういうことをしていただろうか。数分頭をフル回転させてようやく思い出す。車内の甘い匂いだ。そのことを指しているはず。
「甘い匂い、ですか」
「分かってんじゃん。僕のって結構強いんだけど、よく理性失わなかったね」
「それどころじゃなかったですし……甘い匂いがするな、くらいの感じでしたけど」
私がそう答えれば、五条さんは肩を落とした。ホントにアルファなの? と聞かれる始末。久々にフェロモンを向けられたから分からなかったけれど、私は歴としたアルファである。割とポンコツの部類に入るが。
「結構傷ついたんだよ、僕」
「え?」
「運命の人にスルーされちゃったからね。その上帰ったら発情期突入するしさあ」
薬効いたから良かったけどね、と彼は付け足した。私と出会っただけで発情期になった、と言いたいのだろうか。時期的なものも関わっていそうだと思うのだが。そろそろ来そうなタイミングで私に出会ってしまっただけだと思う。
「こんなに好きになったの、君が初めてなんだよ」
真っ直ぐな視線に射抜かれたような感覚がする。返事をしようとしても、何かがつっかえたみたいに声が出ない。彼は本気で言っている。それを感じ取ってしまったせいで、どうすればいいのか分からなくなってしまう。
「番、になるのはちょっと……」
ようやく絞り出した言葉は否定だった。途端に五条さんの表情が消えていく。心なしか周りの温度も下がっていったような気がした。私は慌てて言葉を続ける。
「いきなりなのが受け入れられなくて、その、知り合いから……始める、というのは」
「もう僕たち知り合いくらいにはなるでしょ」
「……分かりました、お友達から始めましょう」
これ以上機嫌を損ねないようにとスマホを机の上に置いた。画面にはQRコードを表示している。それを見て五条さんに表情が戻る。怖いくらいに口角が上がっていた。
ニコニコしながら登録している様を観察する。置きっぱなしでもできるはずなのに、私のスマホは五条さんの手の中にあった。変なことをされそうだと思ってヒヤヒヤしたが、考えていたよりも早くスマホが返ってきた。誰かとのトーク画面が表示されている。テスト、という文言と共に猫のスタンプが送られてきた。
「ちゃんと来てるみたいだね」
「猫」
「ああ、それ貰ったヤツだから。僕の趣味じゃないよ」
それでもあげた人はきっと五条さんのことを考えていたと思う。白くて青い目の猫なんてまんま五条さんでしかない。そんな事を思いながら、こちらからも「よろしく」のスタンプを送った。
「そうだ、毎週会いに来るからね」
喫茶店を出てしばらく歩いた所で五条さんはそんな事を言った。毎週? 私に会いに?
ぽかんとした顔で見つめた後、大事な事だと思って1つ尋ねる。
「頻度はどのくらいで……?」
「週1くらいかな。僕もまあまあ忙しいからさ」
「はあ」
「もっと会いたい?」
控えめに首を横に振った。それが不満だったのか、顔を覗き込んでくる。サングラスの隙間から見える瞳は不服そうに私を見ていた。思わず私は目を合わせないようにしてしまう。向こうの機嫌を悪くしてしまいそうだが、私はこの目に弱いのだ。
「私にも、仕事があるので……それに、五条さんの負担にはなりたくないので週1で大丈夫です」
「君のこと、負担だと思ったこと1回もないけどなあ」
「まだ会ったばかりじゃないですか」
「時間なんて関係ないでしょ」
話が噛み合っていないような気もしたが何も言わないことにした。
そして、会いに来るならどこに来るのだろうとふと思った。会社だったら以前のような騒ぎをまた起こしてしまう。だからといって家集合も嫌すぎる。
「……あの、来る時は最寄り駅で待っててもらえませんか」
「そう言ってさあ、逃げるつもりでしょ? バスとか使ったりして」
「……え?」
「帰るルート増やしてたよね。必死で可愛かったよ」
敢えて追わなかったの、と五条さんは笑顔で付け足した。知らない内にストーキングされていたらしい。だから私の家の場所が分かったのか、と変な所で納得してしまった。この人といると感覚がおかしくなっていくようだ。