SS(呪夢)
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「なあ、あれ何?」
五条くんが無下限で雨を弾きながら前方を指差す。急に立ち止まったから何事かと思ったものの、普段通りの表情からしてあまり緊急性のあるものではないのが分かる。その指先から辿って視線をずらしていくと、少し遠くにどこかの学校の制服を着た2人組が同じ傘に入って歩いているのが見えた。何が珍しいのか分からなかったけれど、とりあえず知らない人を指差すのはやめるよう伝える。腕を下ろした五条くんは心底不思議そうに言う。
「あんな狭い中に2人で入る必要あんの?」
「んー、片方が傘忘れてるか、くっつきたくて2人で入ってるかのどっちかかな」
雨が降っているから向こうには聞こえないだろうが、少しだけ声を潜めて五条くんに説明する。彼はあまり分かってない様子でもう1度相合傘の2人を見た。そして「どっちも傘持ってる」とぽつり。
「……バカップル?」
「そうじゃなくても憧れる人はいるんじゃないかな?」
2人が近くを通りがかったので私と五条くんは互いにしか聞こえない声量で話を続ける。彼らは傘をさしていない五条くんを怪訝な目で見ながら歩いていった。私だけ傘を持ってて五条くんは持ってないのを側から見れば変な2人だと思われるか。彼がそこまで気にしてないから何も言うつもりはないけど。
「——お前はどうなの?」
しばらく歩いた辺りで急に五条くんが言う。それまでの会話がすっかり抜け落ちていた私は何を指しているのか分からなくて返事をしないまま歩いた。返事をしなかったせいか彼は大股で私のところまで歩み寄ってくる。
「その、相合傘? ってヤツ……憧れんのかって……」
最後の方は雨音にかき消されそうなくらい小さな声だったので、私は体を傾けて注意深く聞いた。五条くんの性格からすると強めに言ってきそうな気もするのに、控えめに聞いてきたのが珍しく感じる。返事を待つ彼はサングラスの下で青い目をあちこちにやっていた。
「人によるかな」
好きな人とやってみたいよね、と付け足す。それを聞いた五条くんはどこか上の空。なるほどな、と誰に言うでもなく呟いた後、その話題に触れることはなかった。相合傘の何が彼の興味を引いたのか、不思議に思いながらもその隣を歩いた。
それから何日かは晴れの日が続いた。しかし、五条くんと同じ任務へ向かった日は真っ黒な雲が空のほとんどを覆っていて、いつ降り出してもおかしくないくらいの曇天だった。案の定、全て片付けて任務先だった建物から出る頃には大粒の雨が地面を叩いていた。
すごい雨だね、なんて言いながら出入り口付近に置いていた傘を開く。任務地と補助監督が待つ車までは少し距離がある。傘があるとはいえ、全く濡れないでそこまで向かうのは至難の業だろう。靴が水没するかもしれない、という覚悟を決めて1歩、2歩と踏み出す。大抵は隣に並ぶ形で五条くんもやってくるのだけれど、全くその気配がしない。私が雨のせいで彼がいるかどうかが分からなくなっているのかもと思いつつ振り返ってみると、屋根の下で立ち往生しているのが見えた。彼は空と私の傘を交互に見ている。その様子を観察していると手招きされた。
「どした?」
「俺も……傘、入れて」
またしても小さい声だった。人にものを頼むことがあまりないからか、五条くんは地面に視線を落としたままでいる。
それを聞き入れようと思ってふと思い出す。前回は当たり前のように無下限を使って雨の中を移動していた。それをそのまま疑問としてぶつける。
「無下限は?」
「あー……一般人に見られたらマズいって言われた」
あらぬ方向を見ながら五条くんは答える。私の表情がいまいち分かっていないように見えたのか「……家の奴が」と彼はボソボソ付け足す。家から言われたのなら仕方ない事のうちに入るだろう。今度からは傘を持ち歩くように言い、持ち手部分を五条くんへ手渡そうとする。
「五条くんが持ってた方がいいでしょ」
「……そういうモン?」
「そのままだと私の身長に合わせてもらうことになるけど」
私が持てば五条くんはかなり屈まないといけなくなる。その体勢を強いることはしたくなかった。彼もそのことを理解したのか何も言わず傘の柄を掴んだ。こちら側の布が持ち上がり、視界が広くなっていく。そうして私たちは屋根の下から移動することができた。
しばらく歩いたところでふと気付く。思っていたほど濡れていないのだ。隣はどうだろうか。
「……もうちょっとこっち寄りなよ」
確認してすぐにそんな言葉が口をついて出た。もしかしたら無下限で濡れていないのかもしれないが、結構な範囲が傘からはみ出てしまっていたのだ。そんな状態の友人を放置できるほど私は冷たくない。
は? と裏返った声が傘の中で響いた。立ち止まって見開いた目はあちこちを見ている。挙動不審だ。
「スペースあるし、私全然濡れてないから大丈夫だって」
「……気にしてねーし」
「私が気にするの! これでもし五条くんが風邪でもひいたら、それこそ私が五条家に怒られるかもしれないし」
自分で言っておきながら、高校生にもなって風邪をひいただけで家の人が出てくるのはそうないことだと思った。ただ、それは彼には効いたらしい。「いや」とか「家の奴出てもな……」とか、ぶつくさ始めている。彼にとっては割とありえることのよう。立ち止まったまま悩み始めた。
——もうこれ、無下限で行ってもらった方が早くない? 五条くんの様子を見ているとそんな考えが湧いてきた。補助監督を待たせてしまっているし、傘があって濡れていないとはいえ雨の中だと体が冷えてしまう。周囲を見ても五条家が懸念している一般人だっていない。
「そんなに悩むなら、もう無下限で行った方がいいと思うよ? 周りに人いないしさ」
そう伝えるとすぐに五条くんは距離を詰めてきた。遠回しに出て行けと言ったのがそんなに嫌だっただろうか。
しかし、距離感を測りかねていたらしく私の肩に彼の腕がぶつかる。当たったとはいえそんなに衝撃はない。気にしないで、と顔を上げればばっちり目が合った。なんだか耳の辺りが赤いように見える。
「……悪い、でももうお前が持ってろ」
「え、ちょ、もういいの?」
多分最後まで五条くんに伝わっていないと思う。彼は私に傘の柄を押し付けるようにした後、逃げるように走り去ってしまったから。
「——って事があってさ。ただ振り回された感じだったなあ」
私の話を聞き終えた夏油くんと硝子は何とも微妙そうな顔をした。今日も教室の窓からは雨が降っているのが見えて、雨といえば、で私が思い出した話を2人にしていたのだ。オチもないし、そんなに面白い話ではないのは分かる。
少し間があいて、夏油くんはどこか言いにくそうな表情で「そういえば」と切り出した。
「最近悟と同じ任務でその時も雨が降っていたけれど、普通に無下限使ってたね」
五条くんが無下限で雨を弾きながら前方を指差す。急に立ち止まったから何事かと思ったものの、普段通りの表情からしてあまり緊急性のあるものではないのが分かる。その指先から辿って視線をずらしていくと、少し遠くにどこかの学校の制服を着た2人組が同じ傘に入って歩いているのが見えた。何が珍しいのか分からなかったけれど、とりあえず知らない人を指差すのはやめるよう伝える。腕を下ろした五条くんは心底不思議そうに言う。
「あんな狭い中に2人で入る必要あんの?」
「んー、片方が傘忘れてるか、くっつきたくて2人で入ってるかのどっちかかな」
雨が降っているから向こうには聞こえないだろうが、少しだけ声を潜めて五条くんに説明する。彼はあまり分かってない様子でもう1度相合傘の2人を見た。そして「どっちも傘持ってる」とぽつり。
「……バカップル?」
「そうじゃなくても憧れる人はいるんじゃないかな?」
2人が近くを通りがかったので私と五条くんは互いにしか聞こえない声量で話を続ける。彼らは傘をさしていない五条くんを怪訝な目で見ながら歩いていった。私だけ傘を持ってて五条くんは持ってないのを側から見れば変な2人だと思われるか。彼がそこまで気にしてないから何も言うつもりはないけど。
「——お前はどうなの?」
しばらく歩いた辺りで急に五条くんが言う。それまでの会話がすっかり抜け落ちていた私は何を指しているのか分からなくて返事をしないまま歩いた。返事をしなかったせいか彼は大股で私のところまで歩み寄ってくる。
「その、相合傘? ってヤツ……憧れんのかって……」
最後の方は雨音にかき消されそうなくらい小さな声だったので、私は体を傾けて注意深く聞いた。五条くんの性格からすると強めに言ってきそうな気もするのに、控えめに聞いてきたのが珍しく感じる。返事を待つ彼はサングラスの下で青い目をあちこちにやっていた。
「人によるかな」
好きな人とやってみたいよね、と付け足す。それを聞いた五条くんはどこか上の空。なるほどな、と誰に言うでもなく呟いた後、その話題に触れることはなかった。相合傘の何が彼の興味を引いたのか、不思議に思いながらもその隣を歩いた。
それから何日かは晴れの日が続いた。しかし、五条くんと同じ任務へ向かった日は真っ黒な雲が空のほとんどを覆っていて、いつ降り出してもおかしくないくらいの曇天だった。案の定、全て片付けて任務先だった建物から出る頃には大粒の雨が地面を叩いていた。
すごい雨だね、なんて言いながら出入り口付近に置いていた傘を開く。任務地と補助監督が待つ車までは少し距離がある。傘があるとはいえ、全く濡れないでそこまで向かうのは至難の業だろう。靴が水没するかもしれない、という覚悟を決めて1歩、2歩と踏み出す。大抵は隣に並ぶ形で五条くんもやってくるのだけれど、全くその気配がしない。私が雨のせいで彼がいるかどうかが分からなくなっているのかもと思いつつ振り返ってみると、屋根の下で立ち往生しているのが見えた。彼は空と私の傘を交互に見ている。その様子を観察していると手招きされた。
「どした?」
「俺も……傘、入れて」
またしても小さい声だった。人にものを頼むことがあまりないからか、五条くんは地面に視線を落としたままでいる。
それを聞き入れようと思ってふと思い出す。前回は当たり前のように無下限を使って雨の中を移動していた。それをそのまま疑問としてぶつける。
「無下限は?」
「あー……一般人に見られたらマズいって言われた」
あらぬ方向を見ながら五条くんは答える。私の表情がいまいち分かっていないように見えたのか「……家の奴が」と彼はボソボソ付け足す。家から言われたのなら仕方ない事のうちに入るだろう。今度からは傘を持ち歩くように言い、持ち手部分を五条くんへ手渡そうとする。
「五条くんが持ってた方がいいでしょ」
「……そういうモン?」
「そのままだと私の身長に合わせてもらうことになるけど」
私が持てば五条くんはかなり屈まないといけなくなる。その体勢を強いることはしたくなかった。彼もそのことを理解したのか何も言わず傘の柄を掴んだ。こちら側の布が持ち上がり、視界が広くなっていく。そうして私たちは屋根の下から移動することができた。
しばらく歩いたところでふと気付く。思っていたほど濡れていないのだ。隣はどうだろうか。
「……もうちょっとこっち寄りなよ」
確認してすぐにそんな言葉が口をついて出た。もしかしたら無下限で濡れていないのかもしれないが、結構な範囲が傘からはみ出てしまっていたのだ。そんな状態の友人を放置できるほど私は冷たくない。
は? と裏返った声が傘の中で響いた。立ち止まって見開いた目はあちこちを見ている。挙動不審だ。
「スペースあるし、私全然濡れてないから大丈夫だって」
「……気にしてねーし」
「私が気にするの! これでもし五条くんが風邪でもひいたら、それこそ私が五条家に怒られるかもしれないし」
自分で言っておきながら、高校生にもなって風邪をひいただけで家の人が出てくるのはそうないことだと思った。ただ、それは彼には効いたらしい。「いや」とか「家の奴出てもな……」とか、ぶつくさ始めている。彼にとっては割とありえることのよう。立ち止まったまま悩み始めた。
——もうこれ、無下限で行ってもらった方が早くない? 五条くんの様子を見ているとそんな考えが湧いてきた。補助監督を待たせてしまっているし、傘があって濡れていないとはいえ雨の中だと体が冷えてしまう。周囲を見ても五条家が懸念している一般人だっていない。
「そんなに悩むなら、もう無下限で行った方がいいと思うよ? 周りに人いないしさ」
そう伝えるとすぐに五条くんは距離を詰めてきた。遠回しに出て行けと言ったのがそんなに嫌だっただろうか。
しかし、距離感を測りかねていたらしく私の肩に彼の腕がぶつかる。当たったとはいえそんなに衝撃はない。気にしないで、と顔を上げればばっちり目が合った。なんだか耳の辺りが赤いように見える。
「……悪い、でももうお前が持ってろ」
「え、ちょ、もういいの?」
多分最後まで五条くんに伝わっていないと思う。彼は私に傘の柄を押し付けるようにした後、逃げるように走り去ってしまったから。
「——って事があってさ。ただ振り回された感じだったなあ」
私の話を聞き終えた夏油くんと硝子は何とも微妙そうな顔をした。今日も教室の窓からは雨が降っているのが見えて、雨といえば、で私が思い出した話を2人にしていたのだ。オチもないし、そんなに面白い話ではないのは分かる。
少し間があいて、夏油くんはどこか言いにくそうな表情で「そういえば」と切り出した。
「最近悟と同じ任務でその時も雨が降っていたけれど、普通に無下限使ってたね」