SS(呪夢)
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一番の誤算は、ナマエの元婚約者に対する気持ちの強さだった。
元婚約者の家はウチの末端だったから、コントロールは容易だった。
その繋がりもあり、僕はあの誕生会でナマエに出会うことができた。お友達として着いてきて、元婚約者以外にはむすっとした顔しか見せない。興味が湧いて一緒に写真を撮っても不機嫌なまま。それでも僕の心に20年以上留まり続けている。
必要なことだったからナマエの家にウチの人間を入れた。何があるか分からないし、僕が表立って会うこともできないから動向くらい知りたかった。それに、彼らはあの子を振り向かせるのにも役立った。
同棲初日にはナマエに婚姻届を書いてもらった。顔色の失せた彼女に書かせるのは気が引けたけど、そういうことは一気に進めるのがいいと思ったからそうしてもらった。
ここに来るまでとことん傷付けてしまったのは申し訳ないと思っている。だからこれからはナマエの望まないことはせず、まずはこの家と僕に慣れてもらうことから始めた。不自由ない生活を送れるよう環境は整えたし、望むものがあれば通販で買えるようにした。カードもあげたからきっと困ることだってないはず。そして、ことあるごとに感謝や好意を伝えている。すぐにでも手を出したいところはあるけれど、そのラインを超えると関係を構築できなくなってしまうだろうから我慢している。20年以上何もせずにいられたんだから、残りもきっと耐えられる。
あの子は自分の置かれた立場を理解していた。この家に来てから外に出たいとは一度も言わなかった。ただ、1週間経った頃に手紙を出してほしいとは言われた。当然中身なんて見ないけど、宛名は分かる。実家だった。助けを求めていたのか、近況報告だったのか。今となっては分からないけど、返事が届いた次の日は表情が暗かった。その辺りは僕にしてやれることはなかったから、何も聞かず普段通り接することにした。
ナマエと住み始めて1ヶ月。彼女は僕の好きな味付けをマスターした。無理しなくていいと言ってるのに、僕が帰れる日は必ずと言っていいほど食事を用意してくれている。
その日は久々に帰れた。帰る前に高専に寄ってみれば、いくつか郵便物が届いていた。ざっと確認した中に、小綺麗な封筒が混じっていた。ナマエの元婚約者からだ。見る気分でもなかったので、家に持ち帰る分と一緒くたにした。
帰ってすぐに夕食。持ってきた郵便物は適当に置いておいた。ナマエが仕分けて自分の分を持っていってくれるからだ。僕がするよりいいと思う。
その夜は目が冴えて眠れなかった。自室を出ると真っ暗なリビングでぼんやりしているナマエがいた。ライトを点けていいか聞いてからスイッチを押す。何もせずただソファーに座っている彼女が心配になって、隣に腰かける。ナマエは動かず、座る位置も変えなかった。
目を赤くしていることに触れてもいいか分からなかった。だから、何が起きたかは聞かずにナマエが眠るまでそばにいた。
それからしばらく帰れない日が続いた。そのおかげで余計なことを考えずにすんだのか、帰宅すると前より自然な笑顔で迎えられた。何かあった? と聞いてもはぐらかされるだけ。状態が良くなったのならいいか。
あの夜以来、抵抗が減ってきているような気がする。何も分からずただ側にいただけだったけど、あの子の中で変化が起きてくれたと思いたい。
「外に出たい?」
「……はい。新しい服とか、見てみたくて」
通販もいいけど、実際に見る買い物をしたい。チラチラと僕の方を見ながらナマエは訴えてくる。外出したいとはこれまで一言も言わなかったのに急だな。断る理由もなくどう返事をするか迷っていると、ナマエから「五条さんも一緒にどうですか」と追加の提案。
「分かった。僕も行きたい所あるから、先にそっち行ってからでもいい?」
「大丈夫です、日にちが決まったら教えてください」
ナマエは曖昧に笑う。いつになるだろう。できれば半日は確保しておきたい。そんなことを思いながら仕事を調整するのだった。
結果、外出の話が出てから10日ほどで連れていけることに。待機させていた車に乗り、最初の目的地へ向かう。ナマエは乗る前に少し足踏みしていた。それでも乗ってくれたから問題なし。
「ごめんね、僕の用事を先にしちゃって」
「いいですよ。買い物長引いてたかもしれないですし」
気にしないでください、と柔らかい表情で僕を気遣うナマエ。もう少し遠慮がなくなってくれればいいのに。わがまま放題も困るけど。まあこれくらいの奥ゆかしさがあっていいのかもしれない。
「着いたね」
「役所……提出する書類があるんですか」
「まあそんなところ」
用意した書類を手に、ナマエと車から降りる。隣を歩く彼女は、どんな書類を提出するか知らないでいる。驚くかな? この期に及んで拒否する? どちらでもいい。提出さえできれば、それで。
該当の窓口へと向かう。思っていたほど待つことなく提出までたどり着く。ナマエはそこでようやく僕がしようとしていることを理解した。
「あ、まだ婚姻届出してなかったんですね」
「え? そう、こういうことは2人揃ってしたかったから」
ナマエのあっさりとした態度に拍子抜けした。拒絶されないことに違和感を覚える。だって、これまでずっと目に見える抵抗をされてきた。無理やり縁談に割り込んだし、彼女の実家に根回しして同棲するようにしたから嫌われても仕方ないと割り切っていた。
まあ、嫌われるよりはちゃんとこっちを見てくれる方がいい。それで十分。
元婚約者の家はウチの末端だったから、コントロールは容易だった。
その繋がりもあり、僕はあの誕生会でナマエに出会うことができた。お友達として着いてきて、元婚約者以外にはむすっとした顔しか見せない。興味が湧いて一緒に写真を撮っても不機嫌なまま。それでも僕の心に20年以上留まり続けている。
必要なことだったからナマエの家にウチの人間を入れた。何があるか分からないし、僕が表立って会うこともできないから動向くらい知りたかった。それに、彼らはあの子を振り向かせるのにも役立った。
同棲初日にはナマエに婚姻届を書いてもらった。顔色の失せた彼女に書かせるのは気が引けたけど、そういうことは一気に進めるのがいいと思ったからそうしてもらった。
ここに来るまでとことん傷付けてしまったのは申し訳ないと思っている。だからこれからはナマエの望まないことはせず、まずはこの家と僕に慣れてもらうことから始めた。不自由ない生活を送れるよう環境は整えたし、望むものがあれば通販で買えるようにした。カードもあげたからきっと困ることだってないはず。そして、ことあるごとに感謝や好意を伝えている。すぐにでも手を出したいところはあるけれど、そのラインを超えると関係を構築できなくなってしまうだろうから我慢している。20年以上何もせずにいられたんだから、残りもきっと耐えられる。
あの子は自分の置かれた立場を理解していた。この家に来てから外に出たいとは一度も言わなかった。ただ、1週間経った頃に手紙を出してほしいとは言われた。当然中身なんて見ないけど、宛名は分かる。実家だった。助けを求めていたのか、近況報告だったのか。今となっては分からないけど、返事が届いた次の日は表情が暗かった。その辺りは僕にしてやれることはなかったから、何も聞かず普段通り接することにした。
ナマエと住み始めて1ヶ月。彼女は僕の好きな味付けをマスターした。無理しなくていいと言ってるのに、僕が帰れる日は必ずと言っていいほど食事を用意してくれている。
その日は久々に帰れた。帰る前に高専に寄ってみれば、いくつか郵便物が届いていた。ざっと確認した中に、小綺麗な封筒が混じっていた。ナマエの元婚約者からだ。見る気分でもなかったので、家に持ち帰る分と一緒くたにした。
帰ってすぐに夕食。持ってきた郵便物は適当に置いておいた。ナマエが仕分けて自分の分を持っていってくれるからだ。僕がするよりいいと思う。
その夜は目が冴えて眠れなかった。自室を出ると真っ暗なリビングでぼんやりしているナマエがいた。ライトを点けていいか聞いてからスイッチを押す。何もせずただソファーに座っている彼女が心配になって、隣に腰かける。ナマエは動かず、座る位置も変えなかった。
目を赤くしていることに触れてもいいか分からなかった。だから、何が起きたかは聞かずにナマエが眠るまでそばにいた。
それからしばらく帰れない日が続いた。そのおかげで余計なことを考えずにすんだのか、帰宅すると前より自然な笑顔で迎えられた。何かあった? と聞いてもはぐらかされるだけ。状態が良くなったのならいいか。
あの夜以来、抵抗が減ってきているような気がする。何も分からずただ側にいただけだったけど、あの子の中で変化が起きてくれたと思いたい。
「外に出たい?」
「……はい。新しい服とか、見てみたくて」
通販もいいけど、実際に見る買い物をしたい。チラチラと僕の方を見ながらナマエは訴えてくる。外出したいとはこれまで一言も言わなかったのに急だな。断る理由もなくどう返事をするか迷っていると、ナマエから「五条さんも一緒にどうですか」と追加の提案。
「分かった。僕も行きたい所あるから、先にそっち行ってからでもいい?」
「大丈夫です、日にちが決まったら教えてください」
ナマエは曖昧に笑う。いつになるだろう。できれば半日は確保しておきたい。そんなことを思いながら仕事を調整するのだった。
結果、外出の話が出てから10日ほどで連れていけることに。待機させていた車に乗り、最初の目的地へ向かう。ナマエは乗る前に少し足踏みしていた。それでも乗ってくれたから問題なし。
「ごめんね、僕の用事を先にしちゃって」
「いいですよ。買い物長引いてたかもしれないですし」
気にしないでください、と柔らかい表情で僕を気遣うナマエ。もう少し遠慮がなくなってくれればいいのに。わがまま放題も困るけど。まあこれくらいの奥ゆかしさがあっていいのかもしれない。
「着いたね」
「役所……提出する書類があるんですか」
「まあそんなところ」
用意した書類を手に、ナマエと車から降りる。隣を歩く彼女は、どんな書類を提出するか知らないでいる。驚くかな? この期に及んで拒否する? どちらでもいい。提出さえできれば、それで。
該当の窓口へと向かう。思っていたほど待つことなく提出までたどり着く。ナマエはそこでようやく僕がしようとしていることを理解した。
「あ、まだ婚姻届出してなかったんですね」
「え? そう、こういうことは2人揃ってしたかったから」
ナマエのあっさりとした態度に拍子抜けした。拒絶されないことに違和感を覚える。だって、これまでずっと目に見える抵抗をされてきた。無理やり縁談に割り込んだし、彼女の実家に根回しして同棲するようにしたから嫌われても仕方ないと割り切っていた。
まあ、嫌われるよりはちゃんとこっちを見てくれる方がいい。それで十分。