SS(呪夢)
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知り合いの術師が死んだらしい。「らしい」という表現なのは、血痕以外何も残らなかったためだ。失踪した可能性もあったが、辛うじて残っていた血痕からその線はないと判断され、死亡したという報告がなされた。それなりに仲良くしていた人の死は、明日は我が身かもしれないという認識を思い出させるのに充分だった。
その万が一に備えて、何か残せるようなものを身につけておきたいと考えるようになった。卒業して数年経つが、呪力の探知が未だに苦手なこともあって危なかった場面が多々あったことも原因の1つではある。
また、知人のように遺体が跡形も無くなってしまうのは珍しい方で、何かしら一部は高専に帰って来られる。身につけていたものが遺品として親しい人に渡れば、その誰かが覚えていてくれるだろう。そんな感じで考えていったが、ネックレスは気が散りそうだし、指輪やブレスレットはどこかで落としてしまいそうで却下した。そうやって絞っていった中で最終的に辿り着いたものはというと。
「ピアスか……」
「何、急に何の話」
スワイプしていた指を止めて顔を上げれば、五条が怪訝そうな表情でこちらを見ていた。いつの間に私の向かい側に座っていたのかという疑問は飲み込む。そして画面に視線を落とした。操作を続ける。ピアスをつけようと思った経緯を正直に話しても目の前の男は理解しなさそうだと思ったからだ。
「いや、別に」
「教えてくれてもいいじゃん。付き合いそこそこ長いんだし」
「長いって言っても大したものじゃないでしょ」
「まあ……そうだけどさ」
五条はまだ何か言いたげでいたが、私がずっとスマホを弄っていたせいか静かになった。しかし、五条を無視して探しても私の気に入りそうなデザインのものは見つけられないままでいた。こうなったら知識のある人に聞いてみるしかないだろう。スマホの画面を暗くしてポケットへしまう。
「どこ行くの」
「夏油のとこ。絶対詳しいじゃん」
「は?なんで」
「選んでもらおうかなって」
「……僕が手伝うよ」
悪いからいいよ、と足早に去ろうとした。が、腕を鷲掴みにされてそれは叶わず。サングラスに遮られて目が見えないせいではっきりとした表情は分からないが、腕にかかっている力からして機嫌を損ねてしまったことだけは確実だ。こうなったら五条をどうこうすることはできない。深く息をついた。
「全部五条持ちならいいよ」
「もちろん」
「じゃあ任せた。準備できたら五条が暇な時に呼んでよ」
そう提案すれば納得できたのか、腕に巻きついた指が緩んだ。さっとそれを振り解いてまた後で、と背を向けて歩き出す。数歩ほど歩いて振り返ってみたが、さっきまで座っていたはずに五条の姿はどこにも無かった。あまりの行動の早さに何のリアクションもできないまま、私は目的地へと向かった。
それから数日が経って、私は五条の部屋に呼び出された。準備ができて、向こうの時間も確保できたからだそう。五条が視線をやった机の上にはピアッサーが置かれている。静かにそれを手に取って言う。
「両耳?」
「いや、右だけでいいかな」
「……じゃあメインで使うやつは余った分もらっていい?」
「五条もつけんの?」
そう尋ねれば、いや、と首を横に振った。つけないくせに片方を回収するのが分からなかったが、使わないものを持っておく必要もないと判断して後々つける本命の分は五条へやることに。まあ、まずはファーストピアスをつけるところからなのだけれど。
右耳に髪をかけて、五条から見えやすいように座る位置を調整する。初めてだから耳たぶに開けてもらうよう頼んだ。そこまでして、本当に五条で良かったのかと疑問が湧いてきた。かなり乗り気だったし、ちゃんと調べてくれてはいるだろうが本人は全くこういうことに関わっていたことがない。頼んでおきながら嫌な物言いだが、本当に大丈夫か不安だ。
「消毒するよ」
「……うん」
ひんやりした布のような何かが耳たぶに触れた。アルコール綿だ。恐らく保健室から拝借したタイプのもの。その冷たさに少しだけ肩が揺れたがあまり動きすぎないよう意識する。布が離れてからしばらくして熱い体温を感じた。指が触れているらしいが、五条の体温がここまで高かっただろうかと思う。
「まあこの辺だよね」
余計なことを考えているうちに針の部分が耳に当てられた。どんな痛みが来るか想像つかず、軽く体に力を入れて身構える。いくよ、と声がしたので適当に返事をする。そして、耳元でパチン、と音が鳴ったと同時に鋭い痛みがやってきた。それはじわじわと鈍い痛みに変わっていく。
「どう、痛い?」
「痛い……けど、任務中の怪我ほどないよ」
「……お前、今でも怪我するんだ」
「まあね。傷跡、見てみる?」
返事も聞かず袖を捲って擦り傷や切り傷の痕が残る腕を見せた。五条は一瞬顔を顰めたが、すぐいつもの調子で「ナマエは変わんないね」と言ってくる。学生の頃からすると大きな怪我をする頻度が減ってきてはいるものの、様々な任務で小さい傷を作りがちなのだ。それを皮肉で言ったのかは分からないが、返す言葉が大して無かったので何も返事しないでおいた。
鏡で場所を確認してみるとおおよそ想定通りの位置にファーストピアスがつけられていた。違和感があるが、慣れてくればそれも気にならなくなっていくだろう。確認も終わって用も済んだので出て行こうと立ち上がる。
「ちゃんと清潔にするんだよ」
「分かってるって。……そうだ、本命の分もらっててもいい?」
「それはまだ準備できてないから待って。できたら渡すからさ」
大抵の場合はピアッサーと一緒にメインでつけるものも買うものだと思っていたが、五条はそうじゃないらしい。費用を向こうに出してもらっているので、それに対して文句を言うつもりはないけれど。無いならピアスホールが安定した時に貰えばいいのだと思うことにして私は部屋を出た。
穴を開けてからは仕事で忙しく、最低限の清潔を保つくらいしかできなかった。たまにそれが面倒になった時は硝子に頼んで綺麗にしてもらうこともあった。マメな性格じゃないとこれは大変だろ、と笑われてしまったので彼女にはピアスをつけようと思った経緯を話した時がある。
「ナマエもそんな事考えるんだな」
「まあね。何があるか分からないじゃん」
「まあ……お前はそういう目に遭わなさそうだが」
どこか遠い目をして硝子はそう言ったが、私にはその言葉の意味を理解することができなかった。
そうして周囲の諸々が落ち着いた頃。五条からピアスの準備ができたから部屋に来てほしい、と連絡をもらった。かなり間が空いたが、私以上に向こうは忙しいので割と時間を作れた方だと思う。
「お邪魔しまーす」
部屋に入ってすぐ、機嫌の良さそうな五条に迎えられた。大きな手で背中を押されながら部屋の中を進んでいく。そして、座り心地のいいソファーに座らされた。近くのローテーブルの上にはリングケースのような箱が置かれている。手を伸ばしかけて、これはもっと別の何かかもしれないと思って引っ込めた。
「開けてもいいのに」
頭上から揶揄うような声がして、私は顔を上げる。ニヤついた顔が視界に入ったのですぐさま体勢を戻して箱を手に取った。何も聞かずに蓋を開ける。シンプルなデザインのスタッドピアスが入っていた。五条の瞳と似たような色味の宝石がはめ込まれている点が特徴的なものだ。一瞬金額のことが頭をよぎったが、それは口に出さないでおいた。
「シンプルでいいね」
「でしょ? ナマエに似合うと思って即決だったよ」
「ありがと」
「……僕がつけてもいい?」
「どうぞ」
新しいものをつけ直すくらい1人でできるとは思うが、断る理由もないので五条に任せることに。返事を聞いた五条はさっと私の右側へと移動して、元からついていたそれを外した。初めは違和感があったのに、いざ無くなるとそれはそれで寂しい感覚がある。
持っていた箱を五条に手渡す。穴はきちんとできていたらしく、新しいものはすんなりと入っていった。最後にキャッチをつける時、五条の指が震えていたような気がした。
「できた?」
「うん。僕の見立て通り似合ってるよ」
手鏡を差し出されたので受け取って右耳の辺りを映してみた。控えめなサイズではあるが、しっかりと主張する青が私の耳を彩っていた。これだけ派手なら私に何かあってもこのピアスだけは誰かの元に届きそうな気がする。
五条から貰ったピアスをつけてから、任務でのパフォーマンスが良くなった気がする。怪我も何故か減った。
それに、不思議なことに誰かの近くを通るとそのほとんどから「五条が来たかと思った」と言われるようになった。私は何もしていないのに。あと私がどこにいても五条から見つかるようになった。
その万が一に備えて、何か残せるようなものを身につけておきたいと考えるようになった。卒業して数年経つが、呪力の探知が未だに苦手なこともあって危なかった場面が多々あったことも原因の1つではある。
また、知人のように遺体が跡形も無くなってしまうのは珍しい方で、何かしら一部は高専に帰って来られる。身につけていたものが遺品として親しい人に渡れば、その誰かが覚えていてくれるだろう。そんな感じで考えていったが、ネックレスは気が散りそうだし、指輪やブレスレットはどこかで落としてしまいそうで却下した。そうやって絞っていった中で最終的に辿り着いたものはというと。
「ピアスか……」
「何、急に何の話」
スワイプしていた指を止めて顔を上げれば、五条が怪訝そうな表情でこちらを見ていた。いつの間に私の向かい側に座っていたのかという疑問は飲み込む。そして画面に視線を落とした。操作を続ける。ピアスをつけようと思った経緯を正直に話しても目の前の男は理解しなさそうだと思ったからだ。
「いや、別に」
「教えてくれてもいいじゃん。付き合いそこそこ長いんだし」
「長いって言っても大したものじゃないでしょ」
「まあ……そうだけどさ」
五条はまだ何か言いたげでいたが、私がずっとスマホを弄っていたせいか静かになった。しかし、五条を無視して探しても私の気に入りそうなデザインのものは見つけられないままでいた。こうなったら知識のある人に聞いてみるしかないだろう。スマホの画面を暗くしてポケットへしまう。
「どこ行くの」
「夏油のとこ。絶対詳しいじゃん」
「は?なんで」
「選んでもらおうかなって」
「……僕が手伝うよ」
悪いからいいよ、と足早に去ろうとした。が、腕を鷲掴みにされてそれは叶わず。サングラスに遮られて目が見えないせいではっきりとした表情は分からないが、腕にかかっている力からして機嫌を損ねてしまったことだけは確実だ。こうなったら五条をどうこうすることはできない。深く息をついた。
「全部五条持ちならいいよ」
「もちろん」
「じゃあ任せた。準備できたら五条が暇な時に呼んでよ」
そう提案すれば納得できたのか、腕に巻きついた指が緩んだ。さっとそれを振り解いてまた後で、と背を向けて歩き出す。数歩ほど歩いて振り返ってみたが、さっきまで座っていたはずに五条の姿はどこにも無かった。あまりの行動の早さに何のリアクションもできないまま、私は目的地へと向かった。
それから数日が経って、私は五条の部屋に呼び出された。準備ができて、向こうの時間も確保できたからだそう。五条が視線をやった机の上にはピアッサーが置かれている。静かにそれを手に取って言う。
「両耳?」
「いや、右だけでいいかな」
「……じゃあメインで使うやつは余った分もらっていい?」
「五条もつけんの?」
そう尋ねれば、いや、と首を横に振った。つけないくせに片方を回収するのが分からなかったが、使わないものを持っておく必要もないと判断して後々つける本命の分は五条へやることに。まあ、まずはファーストピアスをつけるところからなのだけれど。
右耳に髪をかけて、五条から見えやすいように座る位置を調整する。初めてだから耳たぶに開けてもらうよう頼んだ。そこまでして、本当に五条で良かったのかと疑問が湧いてきた。かなり乗り気だったし、ちゃんと調べてくれてはいるだろうが本人は全くこういうことに関わっていたことがない。頼んでおきながら嫌な物言いだが、本当に大丈夫か不安だ。
「消毒するよ」
「……うん」
ひんやりした布のような何かが耳たぶに触れた。アルコール綿だ。恐らく保健室から拝借したタイプのもの。その冷たさに少しだけ肩が揺れたがあまり動きすぎないよう意識する。布が離れてからしばらくして熱い体温を感じた。指が触れているらしいが、五条の体温がここまで高かっただろうかと思う。
「まあこの辺だよね」
余計なことを考えているうちに針の部分が耳に当てられた。どんな痛みが来るか想像つかず、軽く体に力を入れて身構える。いくよ、と声がしたので適当に返事をする。そして、耳元でパチン、と音が鳴ったと同時に鋭い痛みがやってきた。それはじわじわと鈍い痛みに変わっていく。
「どう、痛い?」
「痛い……けど、任務中の怪我ほどないよ」
「……お前、今でも怪我するんだ」
「まあね。傷跡、見てみる?」
返事も聞かず袖を捲って擦り傷や切り傷の痕が残る腕を見せた。五条は一瞬顔を顰めたが、すぐいつもの調子で「ナマエは変わんないね」と言ってくる。学生の頃からすると大きな怪我をする頻度が減ってきてはいるものの、様々な任務で小さい傷を作りがちなのだ。それを皮肉で言ったのかは分からないが、返す言葉が大して無かったので何も返事しないでおいた。
鏡で場所を確認してみるとおおよそ想定通りの位置にファーストピアスがつけられていた。違和感があるが、慣れてくればそれも気にならなくなっていくだろう。確認も終わって用も済んだので出て行こうと立ち上がる。
「ちゃんと清潔にするんだよ」
「分かってるって。……そうだ、本命の分もらっててもいい?」
「それはまだ準備できてないから待って。できたら渡すからさ」
大抵の場合はピアッサーと一緒にメインでつけるものも買うものだと思っていたが、五条はそうじゃないらしい。費用を向こうに出してもらっているので、それに対して文句を言うつもりはないけれど。無いならピアスホールが安定した時に貰えばいいのだと思うことにして私は部屋を出た。
穴を開けてからは仕事で忙しく、最低限の清潔を保つくらいしかできなかった。たまにそれが面倒になった時は硝子に頼んで綺麗にしてもらうこともあった。マメな性格じゃないとこれは大変だろ、と笑われてしまったので彼女にはピアスをつけようと思った経緯を話した時がある。
「ナマエもそんな事考えるんだな」
「まあね。何があるか分からないじゃん」
「まあ……お前はそういう目に遭わなさそうだが」
どこか遠い目をして硝子はそう言ったが、私にはその言葉の意味を理解することができなかった。
そうして周囲の諸々が落ち着いた頃。五条からピアスの準備ができたから部屋に来てほしい、と連絡をもらった。かなり間が空いたが、私以上に向こうは忙しいので割と時間を作れた方だと思う。
「お邪魔しまーす」
部屋に入ってすぐ、機嫌の良さそうな五条に迎えられた。大きな手で背中を押されながら部屋の中を進んでいく。そして、座り心地のいいソファーに座らされた。近くのローテーブルの上にはリングケースのような箱が置かれている。手を伸ばしかけて、これはもっと別の何かかもしれないと思って引っ込めた。
「開けてもいいのに」
頭上から揶揄うような声がして、私は顔を上げる。ニヤついた顔が視界に入ったのですぐさま体勢を戻して箱を手に取った。何も聞かずに蓋を開ける。シンプルなデザインのスタッドピアスが入っていた。五条の瞳と似たような色味の宝石がはめ込まれている点が特徴的なものだ。一瞬金額のことが頭をよぎったが、それは口に出さないでおいた。
「シンプルでいいね」
「でしょ? ナマエに似合うと思って即決だったよ」
「ありがと」
「……僕がつけてもいい?」
「どうぞ」
新しいものをつけ直すくらい1人でできるとは思うが、断る理由もないので五条に任せることに。返事を聞いた五条はさっと私の右側へと移動して、元からついていたそれを外した。初めは違和感があったのに、いざ無くなるとそれはそれで寂しい感覚がある。
持っていた箱を五条に手渡す。穴はきちんとできていたらしく、新しいものはすんなりと入っていった。最後にキャッチをつける時、五条の指が震えていたような気がした。
「できた?」
「うん。僕の見立て通り似合ってるよ」
手鏡を差し出されたので受け取って右耳の辺りを映してみた。控えめなサイズではあるが、しっかりと主張する青が私の耳を彩っていた。これだけ派手なら私に何かあってもこのピアスだけは誰かの元に届きそうな気がする。
五条から貰ったピアスをつけてから、任務でのパフォーマンスが良くなった気がする。怪我も何故か減った。
それに、不思議なことに誰かの近くを通るとそのほとんどから「五条が来たかと思った」と言われるようになった。私は何もしていないのに。あと私がどこにいても五条から見つかるようになった。