SS(呪夢)
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英雄色を好むと言うが、私の同僚である最強の男もそうだ。術師から補助監督、窓、と……五条悟と体の関係がある女を挙げるとキリがない。かくいう私もその内の1人ではあるが、割と立場を弁えている方だと思っている。
いつから関係を持ったかは忘れてしまったけれど、調子に乗らないことだけは常に頭の隅に置いて五条と付き合っている。行為の前は翌朝早いことを伝えて長引かないよう釘を刺す。私が無駄な期待をしないため、時間をかけずに行為は終わらせる。対応は淡白にするよう努める。他に挙げるとかなりの数になるが、これだけ距離を保っているのは私が五条のことを好きにならないため。これだけ意識している時点で、と言われるとおしまいなのだけど。
対する五条は、行為の最中私に好きだと言ってくる。まるで恋人にでも言っていると錯覚してしまうくらいに甘い声音でアイツはそう告げてくるのだ。その度に私は胸を高鳴らせると同時に虚しい気分になる。セフレである私にそんな事を言えるのなら、誰にだって言っているだろうと考えてしまうから。だから私はその言葉をリップサービスだと思って受け取っている。そうでもしないとすぐに自惚れてしまう。あの綺麗すぎる顔で、自分を求めるように言われれば誰だってそうなるはずだ。
いつかはあの人に相応しい女性が現れるはず。その時彼のことを本気で好きになっていたら受けるダメージがどれくらいになるか分からない。将来的なことを見据えた上で、私は五条と生産性のない関係をずるずると続けていた。
ある寒い日のことだった。所用で久々に高専へ立ち寄った時、私はとある現場に遭遇した。目的地まで向かう道中で五条と補助監督らしき女性が何やら立ち話をしている。話、というよりは女性の方が一方的に捲し立てていて、五条はそれを聞き流しているのに近い状況だった。女性の方を可哀想だと思うくらいに五条はスマホを弄っている。盗み聞きをすることに抵抗を覚えたが、こちらまで聞こえるくらいの声量で話す方も悪いと思うことにして遠くから様子を窺う。
「わ、私に何かダメなところがあったんですか……!」
「んー、まあそんなとこかな」
「ひどい……たくさん尽くしてきたのに、」
女性は俯いて肩を震わせる。それに目もくれず五条はスマホを操作している。そして、女性にその画面を見せた。少し遠くてこちらからは細かいところまで見えないが、それは女性に追い打ちをかけるものだったらしい。ややあってすすり泣くような声が聞こえてくる。五条はその泣いている姿を感情もなく見つめている。アイマスクをしているので感情も何も読めないけれど。
何をやっているんだこの男。そう思っていると焦れたように口を開いた。
「僕の方は消したからさ、君も連絡先消してよ」
そこまで聞いて、五条が何をしたいのかようやく理解できた。関係を切りたいのだ。改めて口に出されると余計に心に来るらしく、女性の泣き声が段々大きくなっていく。もう少しこの場に残って様子を観察していたかったが、何気なく見た時計が予定の時間に近かったので遠回りをして目的地へと向かった。
別の日にも私は五条の修羅場を見かけた。そこでも違う女性と関係を終わらせようとしていて、また泣かせていた。他の日にも……といった感じで最近は五条と知らない女性のそういう場面を見るようになった。あまりにもよく遭遇してしまうので、私の中に1つの仮説が生まれる。
五条に本命の相手ができたのではないか?
あれだけいた女性のところへわざわざ会いに行って、連絡先を消すよう頼んでいる上、手切れ金みたいなものも渡しているのを見ればそう考えるのも無理はないと思う。そうなってくると、いずれは私の元にもそんな話をしに五条がやってくるかもしれない。明日は我が身、だと思いながら日々を過ごしている。
「……よし、こんなもんか」
辺りを見回して呪霊の気配がないか確認する。私から見える範囲には特に何も存在が感じられない。風が吹いて木立が少し揺れているだけ。この日最後の任務が終わった、と背伸びをする。報告のため帳から出ていけば、私と共に来ていた補助監督の男の子がオドオドした様子でこちらを見ていた。後ろに何かいるだろうか、と振り返ってみれば全身黒ずくめの大男。まさか来ているとは思わず、声を上げそうになって口を押さえた。今測ったら心拍数がとんでもないことになっていると思う。この男、デカいくせに気配を消すのが上手すぎる。
「任務終わった?」
「今さっき」
私の返事を聞くなり、五条は補助監督に帳を解除しろと指示を飛ばした。黒々とした帳がすうっと消えていき、いくらか星が輝いている空がよく見えるようになる。それを確認した五条は補助監督の元へズカズカ歩いていく。報告もあるから、私もその背中を追って小走りで向かう。今日私についている補助監督はあまり五条と関わったことがないので、怖い思いをさせてしまわないように間に入ることも考えていた。
「ちゃんと全部祓ってるみたいだから、今日は帰っていいよ」
「え、でも、あの、高専まで戻られますよね?」
「いいの。僕ナマエと少し話したいから」
思っていたよりもうまいこと会話になっているみたいだ。人の良さそうな笑み……とまではいかないが、ちゃんと感情のある表情で話をしている。
しかし、補助監督の方が何故か引き下がってくれない。チラチラ私を見て、暗いからとか、高専まで距離があるからとか、色々と理由をつけて送りたがっていそうだった。その度に五条は一緒に食事するし、とか返してはいるが段々と表情が抜け落ちていっている。補助監督は人の気持ちとかそういうのを感知するのが苦手なのだろうか、と思うくらいには主張する。
「報告書とかはちゃんとしとくから、君は直帰でいいよ」
「っでも……!」
「本人もいいって言ってんじゃん。それとも何、送り届ける以外の目的でもあんの?」
「い、いえ……では、お言葉に甘えて、お先に失礼します」
アイマスクをつけているのに、五条が睨みつけたのが分かった。それに気圧された補助監督はそそくさと車へ向かっていく。私たち以外誰もいない公園に、車のエンジンのかかった音が響く。そして急発進していった車を見送る。あろう事か五条はその車に中指を立てていた。いくら言うことを聞こうとしなかったからって、そこまでする事でもないだろう。非難する視線を送っていれば「だって」と口を尖らせた。いい大人のくせにそんな表情をしてもおかしくならないのが怖いところだ。
「アイツ、ナマエの事狙ってたんだよ?」
「狙うって……そこそこ年離れてるじゃん。そんな事思ってないと思うけど」
「あれ見てマジでそう思ってんの!? お前ガード緩すぎ!」
「はあ」
五条はどの立場でものを言っているんだ、とは思ったが今言っても火に油を注ぐだけだ。五条の勢いが落ち着くまで無難な返事を続ける。しばらく立ったまま話を聞いていると五条との間に風が吹いてきて、少しだけ体が震えた。暖かくなってきているが、夜はまだ寒い。小さくくしゃみをすると五条の話が止まった。
「……そろそろどっか行こうか。何食べたい?」
「回転寿司」
「回らない方も連れてってあげられるけど」
「いいよ。どうせ……やっぱいいや。行こ」
そんな良い所に連れて行かれても気が引けるだけだ。それに私はサイドメニューも楽しみたい。五条は楽しくなさそうな顔をするが、私が歩き始めたのでそれに倣った。数歩で隣まで来て、それからは歩くスピードを私に合わせてきた。こういう気遣いをしてくるから勘違いしそうになるのだ。そのくせ手は所在無くぶらつかせていて、私と繋ぐつもりはないらしい。中途半端にしないでほしい。やるならとことん勘違いさせてくれ。
寿司屋では腹八分目くらいでとどめた。五条は私にたくさん食べさせようとしてきたけれど、自分のペースで食べたいと何度も伝えた。満腹だと動きにくいからだ。
店を出てからはタクシーを拾うために大通りへと足を進める。今日はただ食事をしたかっただけのようで、普通に帰してくれるらしい。
ちょうど通りがかったタクシーに乗り、五条へ「また明日」と言いかけた。しかし、何故か一緒に乗ってきた大男に奥へ押し込められるような形になってしまう。私の家と高専、方向が全く違うのに五条も乗って良かったのかな……? そう思っている間に隣からは住所を伝える声がする。どこかも分からない住所に首を傾げつつも、降りられない状態なのでされるがままだった。
タクシーが到着した先はそれなりに高さのあるマンションだった。ホテルなどではないと思う。建物の周辺から生活感が滲み出ている。
「ここ、どこなの」
「僕の隠れ家」
「なんっ、」
急に抱えあげられたので言葉が続かない。今までこんな扱いを受けたことがなかったから抵抗もできずそのままマンションへ持って行かれた。エレベーター内まで来てようやく地面に降ろされた。逃げないことが分かったのかもしれない。
長いことエレベーターの浮遊感を堪能した後、解放されたはずなのにまた抱えられて箱を出た。部屋までの廊下もこれまた長い。もう一ヶ所エレベーターを設置しても良さそうなレベルだ。
「もう降ろしてくれてもよくない?」
「やだ」
結局、五条の部屋に到着するまで抱えられたままだった。大きなソファの上に下ろされ、そのまま座る形になる。そしてその隣に五条も腰を下ろした。
いまいち状況が掴めなくて、私は部屋を見回した。おそらく、ここはリビングなのだと思う。無駄に広いのに、家具はソファとその幅に合わせたような机と間接照明くらいしかない。今ついているのがその照明だけであるせいで、周囲はやけに暗い。
私がその辺を見ている間、五条はずっと黙ったままだった。ここまで連れてきてだんまりなのかと視線を送ってみるけれど、向こうはそれにも気付かない。何を考えているのやら。
「……この関係、やめたいんだよね」
不意に五条は言った。ああ、この時が来たんだ。そんなことを思ったけれど、それを伝えるのにこんな場所を選んだことについては疑問が残る。関係切りたいならこんな所連れてこないはず。
「ごめん、確認なんだけど……五条って私の事好きだったりする?」
「え、うそ、伝わってなかった?」
「まあ、うん」
思い当たる節がないわけではなかった。でも五条が自分を選ぶ事自体現実味がなくて、その可能性を除外していたのだ。
あっさりした私の返事に、五条はぽかんとしている。目の近くで手を振ってみるけれど、無反応。そのまま続けているといきなりその手を掴まれた。
「ちょ……っ」
「決めた。今日はナマエ抱かずに好きなところ100個言うから」
「え……? いや待って、そんなにないでしょ」
また持ち上げられる。頭上からは、いくらでも言えるよと五条の声。
結局、明け方まで解放されることはなかった。流石に100個言われていないと思うけれど、途中から数えていないから正確な数は分からない。確かなのは正式に付き合うことになったくらい。
いつから関係を持ったかは忘れてしまったけれど、調子に乗らないことだけは常に頭の隅に置いて五条と付き合っている。行為の前は翌朝早いことを伝えて長引かないよう釘を刺す。私が無駄な期待をしないため、時間をかけずに行為は終わらせる。対応は淡白にするよう努める。他に挙げるとかなりの数になるが、これだけ距離を保っているのは私が五条のことを好きにならないため。これだけ意識している時点で、と言われるとおしまいなのだけど。
対する五条は、行為の最中私に好きだと言ってくる。まるで恋人にでも言っていると錯覚してしまうくらいに甘い声音でアイツはそう告げてくるのだ。その度に私は胸を高鳴らせると同時に虚しい気分になる。セフレである私にそんな事を言えるのなら、誰にだって言っているだろうと考えてしまうから。だから私はその言葉をリップサービスだと思って受け取っている。そうでもしないとすぐに自惚れてしまう。あの綺麗すぎる顔で、自分を求めるように言われれば誰だってそうなるはずだ。
いつかはあの人に相応しい女性が現れるはず。その時彼のことを本気で好きになっていたら受けるダメージがどれくらいになるか分からない。将来的なことを見据えた上で、私は五条と生産性のない関係をずるずると続けていた。
ある寒い日のことだった。所用で久々に高専へ立ち寄った時、私はとある現場に遭遇した。目的地まで向かう道中で五条と補助監督らしき女性が何やら立ち話をしている。話、というよりは女性の方が一方的に捲し立てていて、五条はそれを聞き流しているのに近い状況だった。女性の方を可哀想だと思うくらいに五条はスマホを弄っている。盗み聞きをすることに抵抗を覚えたが、こちらまで聞こえるくらいの声量で話す方も悪いと思うことにして遠くから様子を窺う。
「わ、私に何かダメなところがあったんですか……!」
「んー、まあそんなとこかな」
「ひどい……たくさん尽くしてきたのに、」
女性は俯いて肩を震わせる。それに目もくれず五条はスマホを操作している。そして、女性にその画面を見せた。少し遠くてこちらからは細かいところまで見えないが、それは女性に追い打ちをかけるものだったらしい。ややあってすすり泣くような声が聞こえてくる。五条はその泣いている姿を感情もなく見つめている。アイマスクをしているので感情も何も読めないけれど。
何をやっているんだこの男。そう思っていると焦れたように口を開いた。
「僕の方は消したからさ、君も連絡先消してよ」
そこまで聞いて、五条が何をしたいのかようやく理解できた。関係を切りたいのだ。改めて口に出されると余計に心に来るらしく、女性の泣き声が段々大きくなっていく。もう少しこの場に残って様子を観察していたかったが、何気なく見た時計が予定の時間に近かったので遠回りをして目的地へと向かった。
別の日にも私は五条の修羅場を見かけた。そこでも違う女性と関係を終わらせようとしていて、また泣かせていた。他の日にも……といった感じで最近は五条と知らない女性のそういう場面を見るようになった。あまりにもよく遭遇してしまうので、私の中に1つの仮説が生まれる。
五条に本命の相手ができたのではないか?
あれだけいた女性のところへわざわざ会いに行って、連絡先を消すよう頼んでいる上、手切れ金みたいなものも渡しているのを見ればそう考えるのも無理はないと思う。そうなってくると、いずれは私の元にもそんな話をしに五条がやってくるかもしれない。明日は我が身、だと思いながら日々を過ごしている。
「……よし、こんなもんか」
辺りを見回して呪霊の気配がないか確認する。私から見える範囲には特に何も存在が感じられない。風が吹いて木立が少し揺れているだけ。この日最後の任務が終わった、と背伸びをする。報告のため帳から出ていけば、私と共に来ていた補助監督の男の子がオドオドした様子でこちらを見ていた。後ろに何かいるだろうか、と振り返ってみれば全身黒ずくめの大男。まさか来ているとは思わず、声を上げそうになって口を押さえた。今測ったら心拍数がとんでもないことになっていると思う。この男、デカいくせに気配を消すのが上手すぎる。
「任務終わった?」
「今さっき」
私の返事を聞くなり、五条は補助監督に帳を解除しろと指示を飛ばした。黒々とした帳がすうっと消えていき、いくらか星が輝いている空がよく見えるようになる。それを確認した五条は補助監督の元へズカズカ歩いていく。報告もあるから、私もその背中を追って小走りで向かう。今日私についている補助監督はあまり五条と関わったことがないので、怖い思いをさせてしまわないように間に入ることも考えていた。
「ちゃんと全部祓ってるみたいだから、今日は帰っていいよ」
「え、でも、あの、高専まで戻られますよね?」
「いいの。僕ナマエと少し話したいから」
思っていたよりもうまいこと会話になっているみたいだ。人の良さそうな笑み……とまではいかないが、ちゃんと感情のある表情で話をしている。
しかし、補助監督の方が何故か引き下がってくれない。チラチラ私を見て、暗いからとか、高専まで距離があるからとか、色々と理由をつけて送りたがっていそうだった。その度に五条は一緒に食事するし、とか返してはいるが段々と表情が抜け落ちていっている。補助監督は人の気持ちとかそういうのを感知するのが苦手なのだろうか、と思うくらいには主張する。
「報告書とかはちゃんとしとくから、君は直帰でいいよ」
「っでも……!」
「本人もいいって言ってんじゃん。それとも何、送り届ける以外の目的でもあんの?」
「い、いえ……では、お言葉に甘えて、お先に失礼します」
アイマスクをつけているのに、五条が睨みつけたのが分かった。それに気圧された補助監督はそそくさと車へ向かっていく。私たち以外誰もいない公園に、車のエンジンのかかった音が響く。そして急発進していった車を見送る。あろう事か五条はその車に中指を立てていた。いくら言うことを聞こうとしなかったからって、そこまでする事でもないだろう。非難する視線を送っていれば「だって」と口を尖らせた。いい大人のくせにそんな表情をしてもおかしくならないのが怖いところだ。
「アイツ、ナマエの事狙ってたんだよ?」
「狙うって……そこそこ年離れてるじゃん。そんな事思ってないと思うけど」
「あれ見てマジでそう思ってんの!? お前ガード緩すぎ!」
「はあ」
五条はどの立場でものを言っているんだ、とは思ったが今言っても火に油を注ぐだけだ。五条の勢いが落ち着くまで無難な返事を続ける。しばらく立ったまま話を聞いていると五条との間に風が吹いてきて、少しだけ体が震えた。暖かくなってきているが、夜はまだ寒い。小さくくしゃみをすると五条の話が止まった。
「……そろそろどっか行こうか。何食べたい?」
「回転寿司」
「回らない方も連れてってあげられるけど」
「いいよ。どうせ……やっぱいいや。行こ」
そんな良い所に連れて行かれても気が引けるだけだ。それに私はサイドメニューも楽しみたい。五条は楽しくなさそうな顔をするが、私が歩き始めたのでそれに倣った。数歩で隣まで来て、それからは歩くスピードを私に合わせてきた。こういう気遣いをしてくるから勘違いしそうになるのだ。そのくせ手は所在無くぶらつかせていて、私と繋ぐつもりはないらしい。中途半端にしないでほしい。やるならとことん勘違いさせてくれ。
寿司屋では腹八分目くらいでとどめた。五条は私にたくさん食べさせようとしてきたけれど、自分のペースで食べたいと何度も伝えた。満腹だと動きにくいからだ。
店を出てからはタクシーを拾うために大通りへと足を進める。今日はただ食事をしたかっただけのようで、普通に帰してくれるらしい。
ちょうど通りがかったタクシーに乗り、五条へ「また明日」と言いかけた。しかし、何故か一緒に乗ってきた大男に奥へ押し込められるような形になってしまう。私の家と高専、方向が全く違うのに五条も乗って良かったのかな……? そう思っている間に隣からは住所を伝える声がする。どこかも分からない住所に首を傾げつつも、降りられない状態なのでされるがままだった。
タクシーが到着した先はそれなりに高さのあるマンションだった。ホテルなどではないと思う。建物の周辺から生活感が滲み出ている。
「ここ、どこなの」
「僕の隠れ家」
「なんっ、」
急に抱えあげられたので言葉が続かない。今までこんな扱いを受けたことがなかったから抵抗もできずそのままマンションへ持って行かれた。エレベーター内まで来てようやく地面に降ろされた。逃げないことが分かったのかもしれない。
長いことエレベーターの浮遊感を堪能した後、解放されたはずなのにまた抱えられて箱を出た。部屋までの廊下もこれまた長い。もう一ヶ所エレベーターを設置しても良さそうなレベルだ。
「もう降ろしてくれてもよくない?」
「やだ」
結局、五条の部屋に到着するまで抱えられたままだった。大きなソファの上に下ろされ、そのまま座る形になる。そしてその隣に五条も腰を下ろした。
いまいち状況が掴めなくて、私は部屋を見回した。おそらく、ここはリビングなのだと思う。無駄に広いのに、家具はソファとその幅に合わせたような机と間接照明くらいしかない。今ついているのがその照明だけであるせいで、周囲はやけに暗い。
私がその辺を見ている間、五条はずっと黙ったままだった。ここまで連れてきてだんまりなのかと視線を送ってみるけれど、向こうはそれにも気付かない。何を考えているのやら。
「……この関係、やめたいんだよね」
不意に五条は言った。ああ、この時が来たんだ。そんなことを思ったけれど、それを伝えるのにこんな場所を選んだことについては疑問が残る。関係切りたいならこんな所連れてこないはず。
「ごめん、確認なんだけど……五条って私の事好きだったりする?」
「え、うそ、伝わってなかった?」
「まあ、うん」
思い当たる節がないわけではなかった。でも五条が自分を選ぶ事自体現実味がなくて、その可能性を除外していたのだ。
あっさりした私の返事に、五条はぽかんとしている。目の近くで手を振ってみるけれど、無反応。そのまま続けているといきなりその手を掴まれた。
「ちょ……っ」
「決めた。今日はナマエ抱かずに好きなところ100個言うから」
「え……? いや待って、そんなにないでしょ」
また持ち上げられる。頭上からは、いくらでも言えるよと五条の声。
結局、明け方まで解放されることはなかった。流石に100個言われていないと思うけれど、途中から数えていないから正確な数は分からない。確かなのは正式に付き合うことになったくらい。