SS(呪夢)
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男女の友情は成立しないとよく言われるが、片方の我慢があれば成り立つと思う。現に私は我慢している側になるし、向こうは変わらず友人として接してくれているはず。学生の頃みたいに用もないのに電話をかけてきたり、任務終わりにはたびたび食事に誘ってきたり。食事は2人で行くことが多いけど、そのほとんどが居酒屋だから余計な期待はしない。
同期だからきっと懐に入れてくれてはいるんだろう。でも変に踏み込んで、距離を置かれる事を避けたかったから今の私がある。何にもならないような付き合いを続けるのだった。
ある日の昼のこと。私は任務の合間で高専に戻っていた。その中で見慣れた背中が視界に入って声をかけようとした。
「五条さ〜ん」
近くにいた補助監督の女性が高い声を上げ、五条の元へ駆け寄っていく。あまり他の子と話しているところは見たくないけれど、どんな会話をするか気になってしまう。そのせいで移動するタイミングを見失い、近くでやり取りが始まる。
「なに」
「今夜空いてるって聞きましたよ、私と食事にでも行きませんか?」
五条は顔をしかめた。目隠しをつけていても分かるくらい機嫌が下がっている。けれど相手はそれに気づいていないのか、分かっていても気にしていないのか、そのまま話を続けようとする。そういえば、第一声も声のトーンが低かった。あまり聞いたことがないような声だったな。
「……確かにヒマだけどさ、君みたいなのと過ごす気はないんだよ」
「そんなぁ、食事といってもたくさん時間は取らせませんって」
諦めないみたいだ。1度取り入ることができたとしても思うような関係になれるとは限らないだろうに。私がそうなっているんだし。
いや、あれくらいの強引さがあればいけたりするんだろうか。ああでも、見た感じボディータッチを挟もうとして無下限に阻まれているから脈ナシな気がする。五条の好みなんて分からないけど。
五条は大きくため息をつく。「僕が忙しいの、知ってるよね?」とぽつり。もう相手と目を合わせる気もないらしい。
「僕でも疲れは溜まるワケ。頼むから休ませてよ」
「でも……」
「とにかく、僕は行かないから」
任務がある、と言い残して五条は去っていった。残された補助監督を見ていられず私もその場から離れる。
「夜は休みたいよねー……」
移動の最中、五条が言っていたことを反芻する。私からも外出に誘ったりしていたが、同期だからそれに乗ってくれていただけで実際は補助監督に言ったのと同じようなことを思っていたのかもしれない。本当は休みたかったんだ。
それから数日が経つ。任務が終わったのを知っていたのかと思ってしまいそうな時に五条から電話がかかってくる。
「はい」
「ナマエ、任務終わったでしょ」
「まあ、うん。まだやることあるけど」
報告書とか。そうこぼせば、それくらい明日でもいいじゃん、と軽い調子で返事が来る。五条は提出が遅れてもそれが当たり前のようになっているだろうが、私はそこそこ普通にやってきている方なのだ。怒られるようなことはないと思うけれど、補助監督とは良好な関係を保っていたい。
定期的に私と食事に行っていたから今日も連絡をくれたんだろう。この流れは私が断たないと五条を休ませてやることができない。
「その、報告書もあるし。あと予定もあるから今日はやめとくよ」
「そっか。予定あるならそっち片付けな」
通話が切れる。思っていたよりもあっさり終わった。
——しかし、あっさり終わったのはそのやり取りだけ。その後も度々五条から食事に誘われることがあったのだ。その都度適当な理由をつけては断るのを繰り返す。一度肩を落としていたのを見て、堪らず付き合った時もあった。その一件で全て断るのも可哀想だと思うようになったから、たまに連絡を取ってやったり、気が向いた時には食事に付き合ってやったりした。しかし、その頻度も少しずつ減らして五条の負担にならないよう心がけた。
そうやってじわじわ距離を置くようになってしばらく経った。ここ最近五条と関わる補助監督は皆、五条が不機嫌でいる、と愚痴を言うようになった。普段の振る舞い以上に周囲の人間への当たりがキツいらしい。私は会っていないから本当のところは分からないが、皆口を揃えて言うのだから中々に荒れているのだろう。
「明日の任務についてお知らせしておきますね」
「資料ね、ありがとう」
その日の仕事が終わり、余った時間で補助監督から翌日の任務について説明を受ける。内容はそう変わり映えしないものだから半分は聞き流している。作ってくれた資料さえ読んでいればなんとかなるものだし。
初めは穏やかなトーンだった声が段々と小さくなっていく。そして、私に向いていた視線は資料へ落ちていた。私を見なくなった、というよりも何か見たくないものが私の後ろにいて、それから目を逸らしたように見える。ここは校舎内だから呪霊の類はいないはずだし、仮にいたとしてもそんなもので補助監督が恐怖に震えることもないはず。一体私の背後に何があるというのか。
何かあったの、と問いかける前に補助監督が顔を青くして言う。
「すみません! この続きはまた明日します!」
「そ、そう。お疲れ様」
失礼します! と言った直後走ってこの場から離れていってしまった。様子のおかしな補助監督だったな、と思いつつ私は逆方向を向く。途端に視界は黒一色。顔を上にやれば、いつもの目隠しが視界に入った。
「……近くない?」
「そう? それよりも……」
目隠しが下げられる。久々にその下を見たな、なんて感想が最初に出た。やっぱり好きだと再認識させられる。
「食事行こうよ、良い店見つけたからさ」
「あー、それか……」
予定があるからムリ、は補助監督とのやり取りで使いにくい。予定があれば明日の任務の話なんかしないでさっさと帰るから。明日朝早い、はこの前使った。体調が悪い、だと硝子のところにでも連れていかれて終わりだろう。
――今使えそうなのは彼氏できた、くらいか。1番使いたくない理由。
「また断るつもりなの?」
「え、あ、まあね……」
断る意志をわずかに見せると五条の顔から感情が消える。今まで断った時はこんな顔にならなかった。美形の真顔は怖すぎる。
意思はそれとなく伝えたし、と1歩遠ざかろうとした。しかし、即座に手首を掴まれ移動は叶わない。気のせいかもしれないけれど、掴む力がかなり強い。このまま逃げようとすれば折られそうなくらいには強い。
「最近ナマエ付き合い悪いよね」
「そうかな……? 五条のタイミングが悪いとか……」
「タイミングねえ。僕はお前の予定を確認してから声掛けてるんだけど?」
「何それ、」
どうしてそこまでして私に執着するんだ。これで勘違いしたくなるが、コイツが言ったような行動は恐らく恋愛感情から来ているものではない。それだけは分かる。
手首に力が込められた。痛みに思わず顔を顰めてしまう。
「僕お前になんかした? ずっと避けてるじゃん。ああ、もしかして……」
五条は口を閉ざす。何を言うつもりなのか。何を言われてもいいように心の準備くらいはしておいた方がいいかな。それでも顔をまっすぐに見られなかった。
「何か後ろめたいことでもしてんじゃないの? 呪詛師と繋がってるとか」
「は、はあ!? そんなことしないって!」
いくら弱い私でもそんな不名誉なことはしない。もっと反論してやろうと思い顔を見上げたものの口を閉じた。なんで五条が思い詰めたような顔をするんだ。そんな風に考えた理由だって想像がつかない。
青い瞳と目が合う。私はそのまま見つめ返す。手首への力が少し緩んだような気がした。それでも離すつもりはないらしい。
「悩みがあるなら聞くよ?」
「そういうの無いけど」
あるとするなら五条に対するものだけど。それを本人に言うつもりはさらさらない。
その突っぱねたような態度がダメだったのか、ぐい、と腕を引かれ壁際へと追いやられた。少し痛くて文句を言いたくなったけれど、火に油を注ぐようなことはしたくない。やがて両肩に手が置かれる。その手は小さく震えていた。
「お前も、どっか行こうとしてるでしょ……」
その震えた声でようやく気付く。五条は私とアイツを重ねてしまっているんだ。私と同じように見られては向こうだって迷惑だろうに。もうこの世にはいない同期のことを考える。彼もまあ、私たちと少しずつ距離ができて……という感じだったから。
「なーんだ、そんな事だったの」
五条は私の向かいで枝豆をつまむ。いい店見つけた、なんて言ってたのにいつもと同じ居酒屋に連れられたのだ。
あの場では五条に対して誤解を解く程度にし、もっと詳しい話は場所を移動させてからにした。そして、そのあらかたを聞いた五条からは「そんな事」で済まされた。結構頑張って断ってきたんだけど。そんな言葉はビールと共に飲み込んだ。
「その、五条忙しいから……」
「ナマエはいいんだよ」
補助監督はダメで私はいいと。都合よく受け取ってしまいたくなる気持ちを抑える。どうせ友人として、ってヤツなんだ。
「友達と過ごすのが僕の楽しみなんだから」
ほら、やっぱり。
同期だからきっと懐に入れてくれてはいるんだろう。でも変に踏み込んで、距離を置かれる事を避けたかったから今の私がある。何にもならないような付き合いを続けるのだった。
ある日の昼のこと。私は任務の合間で高専に戻っていた。その中で見慣れた背中が視界に入って声をかけようとした。
「五条さ〜ん」
近くにいた補助監督の女性が高い声を上げ、五条の元へ駆け寄っていく。あまり他の子と話しているところは見たくないけれど、どんな会話をするか気になってしまう。そのせいで移動するタイミングを見失い、近くでやり取りが始まる。
「なに」
「今夜空いてるって聞きましたよ、私と食事にでも行きませんか?」
五条は顔をしかめた。目隠しをつけていても分かるくらい機嫌が下がっている。けれど相手はそれに気づいていないのか、分かっていても気にしていないのか、そのまま話を続けようとする。そういえば、第一声も声のトーンが低かった。あまり聞いたことがないような声だったな。
「……確かにヒマだけどさ、君みたいなのと過ごす気はないんだよ」
「そんなぁ、食事といってもたくさん時間は取らせませんって」
諦めないみたいだ。1度取り入ることができたとしても思うような関係になれるとは限らないだろうに。私がそうなっているんだし。
いや、あれくらいの強引さがあればいけたりするんだろうか。ああでも、見た感じボディータッチを挟もうとして無下限に阻まれているから脈ナシな気がする。五条の好みなんて分からないけど。
五条は大きくため息をつく。「僕が忙しいの、知ってるよね?」とぽつり。もう相手と目を合わせる気もないらしい。
「僕でも疲れは溜まるワケ。頼むから休ませてよ」
「でも……」
「とにかく、僕は行かないから」
任務がある、と言い残して五条は去っていった。残された補助監督を見ていられず私もその場から離れる。
「夜は休みたいよねー……」
移動の最中、五条が言っていたことを反芻する。私からも外出に誘ったりしていたが、同期だからそれに乗ってくれていただけで実際は補助監督に言ったのと同じようなことを思っていたのかもしれない。本当は休みたかったんだ。
それから数日が経つ。任務が終わったのを知っていたのかと思ってしまいそうな時に五条から電話がかかってくる。
「はい」
「ナマエ、任務終わったでしょ」
「まあ、うん。まだやることあるけど」
報告書とか。そうこぼせば、それくらい明日でもいいじゃん、と軽い調子で返事が来る。五条は提出が遅れてもそれが当たり前のようになっているだろうが、私はそこそこ普通にやってきている方なのだ。怒られるようなことはないと思うけれど、補助監督とは良好な関係を保っていたい。
定期的に私と食事に行っていたから今日も連絡をくれたんだろう。この流れは私が断たないと五条を休ませてやることができない。
「その、報告書もあるし。あと予定もあるから今日はやめとくよ」
「そっか。予定あるならそっち片付けな」
通話が切れる。思っていたよりもあっさり終わった。
——しかし、あっさり終わったのはそのやり取りだけ。その後も度々五条から食事に誘われることがあったのだ。その都度適当な理由をつけては断るのを繰り返す。一度肩を落としていたのを見て、堪らず付き合った時もあった。その一件で全て断るのも可哀想だと思うようになったから、たまに連絡を取ってやったり、気が向いた時には食事に付き合ってやったりした。しかし、その頻度も少しずつ減らして五条の負担にならないよう心がけた。
そうやってじわじわ距離を置くようになってしばらく経った。ここ最近五条と関わる補助監督は皆、五条が不機嫌でいる、と愚痴を言うようになった。普段の振る舞い以上に周囲の人間への当たりがキツいらしい。私は会っていないから本当のところは分からないが、皆口を揃えて言うのだから中々に荒れているのだろう。
「明日の任務についてお知らせしておきますね」
「資料ね、ありがとう」
その日の仕事が終わり、余った時間で補助監督から翌日の任務について説明を受ける。内容はそう変わり映えしないものだから半分は聞き流している。作ってくれた資料さえ読んでいればなんとかなるものだし。
初めは穏やかなトーンだった声が段々と小さくなっていく。そして、私に向いていた視線は資料へ落ちていた。私を見なくなった、というよりも何か見たくないものが私の後ろにいて、それから目を逸らしたように見える。ここは校舎内だから呪霊の類はいないはずだし、仮にいたとしてもそんなもので補助監督が恐怖に震えることもないはず。一体私の背後に何があるというのか。
何かあったの、と問いかける前に補助監督が顔を青くして言う。
「すみません! この続きはまた明日します!」
「そ、そう。お疲れ様」
失礼します! と言った直後走ってこの場から離れていってしまった。様子のおかしな補助監督だったな、と思いつつ私は逆方向を向く。途端に視界は黒一色。顔を上にやれば、いつもの目隠しが視界に入った。
「……近くない?」
「そう? それよりも……」
目隠しが下げられる。久々にその下を見たな、なんて感想が最初に出た。やっぱり好きだと再認識させられる。
「食事行こうよ、良い店見つけたからさ」
「あー、それか……」
予定があるからムリ、は補助監督とのやり取りで使いにくい。予定があれば明日の任務の話なんかしないでさっさと帰るから。明日朝早い、はこの前使った。体調が悪い、だと硝子のところにでも連れていかれて終わりだろう。
――今使えそうなのは彼氏できた、くらいか。1番使いたくない理由。
「また断るつもりなの?」
「え、あ、まあね……」
断る意志をわずかに見せると五条の顔から感情が消える。今まで断った時はこんな顔にならなかった。美形の真顔は怖すぎる。
意思はそれとなく伝えたし、と1歩遠ざかろうとした。しかし、即座に手首を掴まれ移動は叶わない。気のせいかもしれないけれど、掴む力がかなり強い。このまま逃げようとすれば折られそうなくらいには強い。
「最近ナマエ付き合い悪いよね」
「そうかな……? 五条のタイミングが悪いとか……」
「タイミングねえ。僕はお前の予定を確認してから声掛けてるんだけど?」
「何それ、」
どうしてそこまでして私に執着するんだ。これで勘違いしたくなるが、コイツが言ったような行動は恐らく恋愛感情から来ているものではない。それだけは分かる。
手首に力が込められた。痛みに思わず顔を顰めてしまう。
「僕お前になんかした? ずっと避けてるじゃん。ああ、もしかして……」
五条は口を閉ざす。何を言うつもりなのか。何を言われてもいいように心の準備くらいはしておいた方がいいかな。それでも顔をまっすぐに見られなかった。
「何か後ろめたいことでもしてんじゃないの? 呪詛師と繋がってるとか」
「は、はあ!? そんなことしないって!」
いくら弱い私でもそんな不名誉なことはしない。もっと反論してやろうと思い顔を見上げたものの口を閉じた。なんで五条が思い詰めたような顔をするんだ。そんな風に考えた理由だって想像がつかない。
青い瞳と目が合う。私はそのまま見つめ返す。手首への力が少し緩んだような気がした。それでも離すつもりはないらしい。
「悩みがあるなら聞くよ?」
「そういうの無いけど」
あるとするなら五条に対するものだけど。それを本人に言うつもりはさらさらない。
その突っぱねたような態度がダメだったのか、ぐい、と腕を引かれ壁際へと追いやられた。少し痛くて文句を言いたくなったけれど、火に油を注ぐようなことはしたくない。やがて両肩に手が置かれる。その手は小さく震えていた。
「お前も、どっか行こうとしてるでしょ……」
その震えた声でようやく気付く。五条は私とアイツを重ねてしまっているんだ。私と同じように見られては向こうだって迷惑だろうに。もうこの世にはいない同期のことを考える。彼もまあ、私たちと少しずつ距離ができて……という感じだったから。
「なーんだ、そんな事だったの」
五条は私の向かいで枝豆をつまむ。いい店見つけた、なんて言ってたのにいつもと同じ居酒屋に連れられたのだ。
あの場では五条に対して誤解を解く程度にし、もっと詳しい話は場所を移動させてからにした。そして、そのあらかたを聞いた五条からは「そんな事」で済まされた。結構頑張って断ってきたんだけど。そんな言葉はビールと共に飲み込んだ。
「その、五条忙しいから……」
「ナマエはいいんだよ」
補助監督はダメで私はいいと。都合よく受け取ってしまいたくなる気持ちを抑える。どうせ友人として、ってヤツなんだ。
「友達と過ごすのが僕の楽しみなんだから」
ほら、やっぱり。