SS(呪夢)
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ある後輩のことを思い出していた。図体も態度も大きかったが、それに見合っただけの強さを持っていた後輩。自身と比べて遥かに力のない私のことを何故か気に入り、目上を敬わないことで有名だった彼にしては珍しく「センパイ」と呼ばれていた。先輩扱いをされれば悪い気分にはならない。当時の私は彼の事をそれなりに可愛がってきた。
しかし、ヒートになった彼が連絡してきた日にその関係は壊れてしまった。……私が壊したようなものではある。
只事ではないのを察して部屋へ向かった私に彼は「うなじを噛んでくれ」と涙ながらに懇願してきた。どんなアルファであってもそうしてしまいそうだと思うくらい、その頼みは魅力的に思えた。しかしベータの私にはそれができなかった。なんとかしてやりたい気持ちはあったけれど、私はその場から逃げてしまった。
それは多分気休め程度にしかならなかっただろうが、頼みを聞いていれば関係が終わらなかっただろうと今は思う。そうしていたら今頃は東京だけを避けるような形で全国各地を飛び回っていなかったのかもしれない。
過ぎた青春を思い出していたのには1つの理由がある。私の手の中にある1枚の紙。それには最近受けた健康診断の結果が載っており、基本的に異常はなかったのだが1点だけ変化したところがあった。それは第2の性。ごく稀に変化する人間がいる、というのは何となく知ってはいたがまさか自分がそれに該当するとは思いもしなかった。加えて私のいる社会では数少ないアルファときたものだから、私を取り巻く環境が目まぐるしく変化してきているのだ。この結果を聞きつけたらしい上層部に呼び出されるわ、拠点を持たずに動いていたのが高専へ固定されるようになるわで生活が変わりつつある。上層部からは「都合の良いオメガがいるから会ってほしい」と言われた。それは私のためなのか分からなかったが、有無を言わさぬ雰囲気だったため何度も首を縦に振った。後輩がいい、とは言えなかった。
高専所属になったのにはアルファを守るため、と説明を受けた。しかしどこにいたとしても任務へ行けば死ぬ時は死ぬ。だからアルファを手近に置いておきたい上の体のいい理由なのだと邪推している。
そろそろ約束の時間だろうか。私の人生を変えてしまった紙を鞄へとしまい、上が選んだというオメガを待つ。時計は指定された時間をわずかに過ぎていた。これくらいならその人の性格か、何か事情があって到着できていないと思って待てる。前者だったら少し付き合いを考えるが。
「来ませんね……」
「そうですね、連絡とかないですか?」
予定の時間から20分ほどが経ち、ようやく付き添いの補助監督から声をかけられる。私の質問に対してその補助監督は首を振った。もしかしたら私の知り合いかもしれないと思って、相手の名前を聞いてみたがプライバシーがどうこうと言って教えてくれなかった。知った私が相手の元へ向かって関係を迫らないとも言い切れないが、名前くらいは知っておいてもいいんじゃないかと思う。
結局、1時間経っても相手が来なかったことと、私も仕事を抱えていることもあってこの日は何も分からないまま帰った。また後日改めて会うことになったらしく、日にちが決まったら連絡が来るとのこと。もう別の人にした方がいいんじゃないかって思うのが正直なところ。
受け持っていた仕事が終わり、職員寮へ向かう途中のこと。前方に目隠しをした大男が見えた。あの日以来話をしていなければ会ってもいない後輩。繋がりを失っていたが、人づてによく話を聞いていたので遠目でも分かった。
段々と歩みが遅くなっていき、たまに軋む床しか見えないようにして進んでいく。やがて視界に靴が見えたので、顔を上げずそのまま足を進める。——よし、完全にすれ違えた。走り出そうと足に力を込めたところで気付く。もう一人分の足音が遠のくどころか聞こえてこないのだ。不自然な体勢のまま後ろを振り返る。
「こっち来てたんだね」
「あ……うん、少し前から」
「そっか、出張が多かったから知らなかったよ」
周囲の評判通り、学生の頃の荒さはすっかり鳴りを潜めているようで私が思っていたよりも穏やかな調子で話しかけてきた。というよりも、もうこれまでの事が無かったかのような態度に拍子抜けする。何だか、私だけあの頃を引きずっているみたいでこれまで思い悩んでいたのが馬鹿らしく思えてくる。
そうだ、と五条君はスマホを取り出したまま固まってしまった。何やら考えている様子だ。そう長くはない時間が経って、彼は口を開いた。
「僕さ、これから任務に行かないといけないんだよね」
「そっか、大変だね」
「だから連絡先交換しない? もっとセンパイと話したいし」
「……え、うん、いいよ」
思いもよらなかった提案に返事が遅れる。私がスマホを取り出すとすぐに取り上げられ、勝手に操作を始めた。強引なところは相変わらずらしい。数分もかからないうちにスマホは手元に戻ってきて、五条君は言葉通り任務へ向かった。その背中はどこか機嫌が良さそうに見えた。
それから数日。スマホの画面にメッセージアプリの通知が映る。内容を確認してみると、どこかの飲食店の住所と『19時』という文言のみが五条君から送られていた。あまりの簡潔さに吹き出してしまう。学生の頃もメールは最低限のことしか送ってこなかったことを思い出して、その変わっていないところが余計面白く思えた。
指定された時間の5分前くらいに集合場所の近くまで来た。彼は時間にルーズな所がある上、出張で帰ってすぐに任務へ向かうなど忙しい人だから、待たされるんじゃないかと思って割と遅くしたのだ。しかし、そんな予想は外れてしまっていた。店の前には黒ずくめの服ではなく、ラフに白いシャツを着ている五条君が立っていた。しかも、目隠しは憚られたのかサングラスをかけているせいで道ゆく人からひたすらに注目を集めている。スマホに視線を落としていたが、私が来たことに気付いて「こっち」と手を上げる。
「五条君、早かったね」
「この僕がセンパイを待たせるわけないじゃん」
「別に私は気にしないよ」
「僕が気にすんの。ほら、行くよ」
五条君に先導され、店の中へと入っていく。通された場所は個室となっていて、周囲を気にしないで話ができそうだった。注文のほとんどをどこか張り切っている五条君に任せてできた待ち時間。会っていなかった間どうしていたのか、という話をするだけでその時間は簡単に過ぎていった。
「……あれ、メール来てる」
何品かを胃に収めたあたりで五条君に断ってスマホを確認すると、珍しくメールの通知が届いていた。しかも知らないアドレスからのものだったので、少し警戒しつつアプリを開く。送り主はこの前の顔合わせの際に同席していた補助監督だった。『次の顔合わせについて』という件名と共に、場所と日時が簡潔に記されている。変わらず相手は教えてくれないらしい。顔も知らない人間と番になれって言われても困る。スマホを放り出して残っていたジュースを一気に飲み干す。大きく息をついた。五条君はそんな私の素振りに目ざとく反応する。
「なんか嫌な事言われた?」
「んー、や、お見合い? みたいなのにまた行かないといけなくて」
「へえ、センパイまだそういう相手いなかったんだ」
意外、と言いたげな声音と視線。各地を飛び回っていたのだから意外性なんてものはないだろうに。それからは質問攻めだった。誰に見合いをしろと言われたのか、その相手は誰なのか、場所はどこか――これを一から話せば状況が拗れていきそうだったので、基本的には事実をベースに、説明が面倒なところはぼかしつつかいつまんで話をした。特に私がアルファになったことなんかはノイズでしかない。
「で、なんでセンパイはそれが嫌なの?」
「その……少し前にもあったんだけど、相手が来なかったんだよね」
「次のも同じ相手?」
「分からないけど多分そう」
「じゃあ今度はセンパイが行くのやめたら?」
見合いに来ない奴なんか本当なら破談でいいんだよ、と平然とした様子で五条君は言い放つ。少しくらい嫌がらせをしてやってもいいだろう、というのが彼の言い分。まあ1時間無駄にしたし……と零せば、「会わなくていいよそんな奴」と返ってきた。私の代わりに五条君が怒ってくれているようで、少しだけ気持ちが軽くなった。
そして、2度目の顔合わせの日。私は指示された場所まで行かなかった。連絡も入れていない。そろそろ会が始まる時間だろうか。相手だけいるか、もしくは誰もその場所にいないかもしれない。お見合いって最低限相手のこと知ってからやるものだって上の人たちは知らないんだろう。
久々の休みになったことだし、レコーダーの容量を圧迫しているドラマでも見ようかとリモコンを手に取った。その時机の上にあったスマホが着信を示す。画面には『五条君』と表示されている。
「どうかした?」
「センパイ、顔合わせって今日だった?」
「え……まあ、今日…だけど」
「場所と時間は?」
矢継ぎ早に尋ねられて、私は言葉に詰まった。だって、電話越しでも分かるくらいに五条君が焦っているから。正直に答えたら彼が何をするか分からなかった。そう長くは黙っていなかったと思うけれど、向こうは焦れたようにあるホテルの名前を口にした。
「今日、そこに行く予定だったでしょ」
「……うん。どうして分かったの、」
「センパイ今どこ?」
「今は自分の部屋にいるけど」
そう答えたら通話が切れてしまった。最後の方は私の話を聞く気もないような様子だったのが気になったが、忙しい中連絡してきたのだと思うことにした。
どのドラマを見るか悩んでいるうちに部屋の扉がノックされた。いや、ノックと言うよりは力任せに叩いている、という表現の方が合っているかもしれない。どんな乱暴な人間が来たのかと内心ヒヤヒヤしながらドアを開ける。
「……あれ?」
廊下には誰もいなかった。部屋中に響くくらい音が鳴るほどノックされてそんなことがあるのだろうか。首を傾げながらドアを閉め、テレビを見ようと思って引き返そうとした。けれど筋肉質な腕にそれを阻まれる。
「ねえ、なんで何も教えてくれなかったの?」
しかし、ヒートになった彼が連絡してきた日にその関係は壊れてしまった。……私が壊したようなものではある。
只事ではないのを察して部屋へ向かった私に彼は「うなじを噛んでくれ」と涙ながらに懇願してきた。どんなアルファであってもそうしてしまいそうだと思うくらい、その頼みは魅力的に思えた。しかしベータの私にはそれができなかった。なんとかしてやりたい気持ちはあったけれど、私はその場から逃げてしまった。
それは多分気休め程度にしかならなかっただろうが、頼みを聞いていれば関係が終わらなかっただろうと今は思う。そうしていたら今頃は東京だけを避けるような形で全国各地を飛び回っていなかったのかもしれない。
過ぎた青春を思い出していたのには1つの理由がある。私の手の中にある1枚の紙。それには最近受けた健康診断の結果が載っており、基本的に異常はなかったのだが1点だけ変化したところがあった。それは第2の性。ごく稀に変化する人間がいる、というのは何となく知ってはいたがまさか自分がそれに該当するとは思いもしなかった。加えて私のいる社会では数少ないアルファときたものだから、私を取り巻く環境が目まぐるしく変化してきているのだ。この結果を聞きつけたらしい上層部に呼び出されるわ、拠点を持たずに動いていたのが高専へ固定されるようになるわで生活が変わりつつある。上層部からは「都合の良いオメガがいるから会ってほしい」と言われた。それは私のためなのか分からなかったが、有無を言わさぬ雰囲気だったため何度も首を縦に振った。後輩がいい、とは言えなかった。
高専所属になったのにはアルファを守るため、と説明を受けた。しかしどこにいたとしても任務へ行けば死ぬ時は死ぬ。だからアルファを手近に置いておきたい上の体のいい理由なのだと邪推している。
そろそろ約束の時間だろうか。私の人生を変えてしまった紙を鞄へとしまい、上が選んだというオメガを待つ。時計は指定された時間をわずかに過ぎていた。これくらいならその人の性格か、何か事情があって到着できていないと思って待てる。前者だったら少し付き合いを考えるが。
「来ませんね……」
「そうですね、連絡とかないですか?」
予定の時間から20分ほどが経ち、ようやく付き添いの補助監督から声をかけられる。私の質問に対してその補助監督は首を振った。もしかしたら私の知り合いかもしれないと思って、相手の名前を聞いてみたがプライバシーがどうこうと言って教えてくれなかった。知った私が相手の元へ向かって関係を迫らないとも言い切れないが、名前くらいは知っておいてもいいんじゃないかと思う。
結局、1時間経っても相手が来なかったことと、私も仕事を抱えていることもあってこの日は何も分からないまま帰った。また後日改めて会うことになったらしく、日にちが決まったら連絡が来るとのこと。もう別の人にした方がいいんじゃないかって思うのが正直なところ。
受け持っていた仕事が終わり、職員寮へ向かう途中のこと。前方に目隠しをした大男が見えた。あの日以来話をしていなければ会ってもいない後輩。繋がりを失っていたが、人づてによく話を聞いていたので遠目でも分かった。
段々と歩みが遅くなっていき、たまに軋む床しか見えないようにして進んでいく。やがて視界に靴が見えたので、顔を上げずそのまま足を進める。——よし、完全にすれ違えた。走り出そうと足に力を込めたところで気付く。もう一人分の足音が遠のくどころか聞こえてこないのだ。不自然な体勢のまま後ろを振り返る。
「こっち来てたんだね」
「あ……うん、少し前から」
「そっか、出張が多かったから知らなかったよ」
周囲の評判通り、学生の頃の荒さはすっかり鳴りを潜めているようで私が思っていたよりも穏やかな調子で話しかけてきた。というよりも、もうこれまでの事が無かったかのような態度に拍子抜けする。何だか、私だけあの頃を引きずっているみたいでこれまで思い悩んでいたのが馬鹿らしく思えてくる。
そうだ、と五条君はスマホを取り出したまま固まってしまった。何やら考えている様子だ。そう長くはない時間が経って、彼は口を開いた。
「僕さ、これから任務に行かないといけないんだよね」
「そっか、大変だね」
「だから連絡先交換しない? もっとセンパイと話したいし」
「……え、うん、いいよ」
思いもよらなかった提案に返事が遅れる。私がスマホを取り出すとすぐに取り上げられ、勝手に操作を始めた。強引なところは相変わらずらしい。数分もかからないうちにスマホは手元に戻ってきて、五条君は言葉通り任務へ向かった。その背中はどこか機嫌が良さそうに見えた。
それから数日。スマホの画面にメッセージアプリの通知が映る。内容を確認してみると、どこかの飲食店の住所と『19時』という文言のみが五条君から送られていた。あまりの簡潔さに吹き出してしまう。学生の頃もメールは最低限のことしか送ってこなかったことを思い出して、その変わっていないところが余計面白く思えた。
指定された時間の5分前くらいに集合場所の近くまで来た。彼は時間にルーズな所がある上、出張で帰ってすぐに任務へ向かうなど忙しい人だから、待たされるんじゃないかと思って割と遅くしたのだ。しかし、そんな予想は外れてしまっていた。店の前には黒ずくめの服ではなく、ラフに白いシャツを着ている五条君が立っていた。しかも、目隠しは憚られたのかサングラスをかけているせいで道ゆく人からひたすらに注目を集めている。スマホに視線を落としていたが、私が来たことに気付いて「こっち」と手を上げる。
「五条君、早かったね」
「この僕がセンパイを待たせるわけないじゃん」
「別に私は気にしないよ」
「僕が気にすんの。ほら、行くよ」
五条君に先導され、店の中へと入っていく。通された場所は個室となっていて、周囲を気にしないで話ができそうだった。注文のほとんどをどこか張り切っている五条君に任せてできた待ち時間。会っていなかった間どうしていたのか、という話をするだけでその時間は簡単に過ぎていった。
「……あれ、メール来てる」
何品かを胃に収めたあたりで五条君に断ってスマホを確認すると、珍しくメールの通知が届いていた。しかも知らないアドレスからのものだったので、少し警戒しつつアプリを開く。送り主はこの前の顔合わせの際に同席していた補助監督だった。『次の顔合わせについて』という件名と共に、場所と日時が簡潔に記されている。変わらず相手は教えてくれないらしい。顔も知らない人間と番になれって言われても困る。スマホを放り出して残っていたジュースを一気に飲み干す。大きく息をついた。五条君はそんな私の素振りに目ざとく反応する。
「なんか嫌な事言われた?」
「んー、や、お見合い? みたいなのにまた行かないといけなくて」
「へえ、センパイまだそういう相手いなかったんだ」
意外、と言いたげな声音と視線。各地を飛び回っていたのだから意外性なんてものはないだろうに。それからは質問攻めだった。誰に見合いをしろと言われたのか、その相手は誰なのか、場所はどこか――これを一から話せば状況が拗れていきそうだったので、基本的には事実をベースに、説明が面倒なところはぼかしつつかいつまんで話をした。特に私がアルファになったことなんかはノイズでしかない。
「で、なんでセンパイはそれが嫌なの?」
「その……少し前にもあったんだけど、相手が来なかったんだよね」
「次のも同じ相手?」
「分からないけど多分そう」
「じゃあ今度はセンパイが行くのやめたら?」
見合いに来ない奴なんか本当なら破談でいいんだよ、と平然とした様子で五条君は言い放つ。少しくらい嫌がらせをしてやってもいいだろう、というのが彼の言い分。まあ1時間無駄にしたし……と零せば、「会わなくていいよそんな奴」と返ってきた。私の代わりに五条君が怒ってくれているようで、少しだけ気持ちが軽くなった。
そして、2度目の顔合わせの日。私は指示された場所まで行かなかった。連絡も入れていない。そろそろ会が始まる時間だろうか。相手だけいるか、もしくは誰もその場所にいないかもしれない。お見合いって最低限相手のこと知ってからやるものだって上の人たちは知らないんだろう。
久々の休みになったことだし、レコーダーの容量を圧迫しているドラマでも見ようかとリモコンを手に取った。その時机の上にあったスマホが着信を示す。画面には『五条君』と表示されている。
「どうかした?」
「センパイ、顔合わせって今日だった?」
「え……まあ、今日…だけど」
「場所と時間は?」
矢継ぎ早に尋ねられて、私は言葉に詰まった。だって、電話越しでも分かるくらいに五条君が焦っているから。正直に答えたら彼が何をするか分からなかった。そう長くは黙っていなかったと思うけれど、向こうは焦れたようにあるホテルの名前を口にした。
「今日、そこに行く予定だったでしょ」
「……うん。どうして分かったの、」
「センパイ今どこ?」
「今は自分の部屋にいるけど」
そう答えたら通話が切れてしまった。最後の方は私の話を聞く気もないような様子だったのが気になったが、忙しい中連絡してきたのだと思うことにした。
どのドラマを見るか悩んでいるうちに部屋の扉がノックされた。いや、ノックと言うよりは力任せに叩いている、という表現の方が合っているかもしれない。どんな乱暴な人間が来たのかと内心ヒヤヒヤしながらドアを開ける。
「……あれ?」
廊下には誰もいなかった。部屋中に響くくらい音が鳴るほどノックされてそんなことがあるのだろうか。首を傾げながらドアを閉め、テレビを見ようと思って引き返そうとした。けれど筋肉質な腕にそれを阻まれる。
「ねえ、なんで何も教えてくれなかったの?」