平子と日々を食む
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軒先から落ちる雫が、昨晩の雨の名残のようにぽつりと音を立てて地面に吸い込まれていく。雨上がりの匂いに混じって、秋を告げる甘い香りがどこからともなく風に乗って届く。
香りを辿るようにあたりを見渡してみたけれど、その花をつけた木は見つからなかった。
*
瑞々しい果肉を噛むたび、甘い果汁が口いっぱいに広がる。近づいてくる秋の気配を感じながら頬張る梨の甘さがちょうどいい。
しゃく、と小気味いい音が部屋に響く。
開け放したままの窓からふわりと金木犀の香りが入り込んでくる。
「…秋ですね。ね、隊長」
食べやすいように切った梨がのった小皿を平子隊長の机の上に置いた。
伸ばされた手がひと切れの梨を摘まみ、口へと運ぶ。しゃく、と瑞々しい音が鳴る。
「せやなァ」
「金木犀と言えば、知ってますか?」
つい最近、瀞霊廷通信で読んだコラムのことを思い出した。
「金木犀の花を使ったお茶があるそうですよ」
「茶ァ?」
「現世にあるんですって。きっと、いい香りがするんでしょうね」
しゃく、しゃく。
「金木犀、好きなん?」
「好きですよ。匂いがするとつい探しちゃいます」
「ふーん」
しゃく、と平子隊長の口の中に消えていく梨を見て、私も最後のひと切れを頬張った。すっきりとした甘さがほどけて消えていく。
後日、見たことがない紙袋が私の席にぽつんと置かれていた。
中を見てみれば、「桂花茶」と書かれた上品な筒が。その中には、可愛らしいオレンジ色の花が散った茶葉が入っていた。そっと顔を近づけてみると、爽やかな金木犀の香りがする。
「…これ、平子隊長からだ」
先日の会話が頭をよぎった。きっと会話を覚えていてくれたのだろうと嬉しくなった。あの人のこういう所が好きだ。
まだ梨があったはずだから、このお茶を淹れて一緒に持っていこうと給湯室に足を向けた。
向かう途中の廊下にも甘い香りが風に乗って運ばれてきて、見上げた空はすっかりと秋の色をしていた。
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