平子と日々を食む
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
我が隊には“書類仕事の虎”こと雛森副隊長がいるが、もう一人“打鐘”こと未白白奈がいる。
雛森副隊長はいつも優しく、書類の山を涼しい顔で捌き、そして何より強い。殆どの五番隊士の憧れである。対して未白さんは愛想がなく淡々と業務をこなしているが書類の正確さ、早さは護廷の中でも頭ひとつ飛びぬけている。定刻の鐘と同時に退勤するせいで隊士の中では近寄りがたいとされていた。
だが僕は知っている。
それはたまたま非番の日に入った古い定食屋で彼女を見かけたのだ。
箸を持つ姿が綺麗で、口に運ぶたびに綻ぶ顔に目が釘付けになる。「ご馳走様でした」といつもより柔らかい声で手を合わせた姿が、職務中のピシッとした姿とあまりにも差があって、僕はなんだかドキドキが収まらずその日のことはよく覚えている。ついつい盗み見てしまって、頼んだ定食はすっかり冷めてしまっていた。
きっと誰も知らない彼女の顔。
普段の彼女しか知らない隊士たちが、最近になって「話しかけやすくなった」だの「今ならお近づきになれるんじゃないか」だの騒いでいる。
けれど僕は知っている。
あんなふうに美味しそうに食事をすることも。
あんなふうに柔らかく笑うことも。
そう思うと胸の奥が少しだけくすぐったい。
僕だけが知っている。
その事実が、なんだか彼らより一歩先にいるような気がして、密かに優越感を覚えていた。
まずは、好きな食べ物から聞いて、その後食事に誘おう。そう思いつつも中々話しかけるタイミングが見つからず毎日のように機会を窺っていたが、ついにその時がきた。
執務室に二人だけ。しかも今は中休憩。私語も許される。ごくり、と生唾を飲んで意を決して彼女へと話しかけた。
「あ、あの。未白さん。聞きたいことが!」
ぱっちりとした目が僕を捉える。その瞳が綺麗で、その視線を今僕は独り占めしている。急に動悸を覚え、ぎゅうと死覇装を握りしめた。じわりと握りしめる手が汗ばんでいく。
そうか、僕は恋をしている。
「どうかしましたか?」
恋と自覚した瞬間に全てがキラキラと輝いて見える。
叶う事ならあの笑顔を僕だけに向けてほしい。
「いや、あの、好きな食べ物って何かなって思って…!」
「好きな食べ物?」
急すぎたか!?と思ったが考える素振りを見せてくれたことにほっと胸を撫で下ろした。
「そうですね、沢山あるので一番は選べないんですけど…」
「お前はこれ、好きやろ?」
その答えを待っていた僕の耳に、聞き慣れた声が落ちてきた。
「うわァ!?」
会話の途中にぬっと未白さんの後ろから伸びてきた手には小さな紙袋がぶら下がっている。
「「平子隊長」」
「邪魔すんでェ」と執務室に入ってきた隊長は紙袋の中から透明なフィルムに包まれた大福を一つ彼女に手渡した。
「まさか、これあそこの豆大福ですか?」
「食いたい言うとったやろ?たまたま通りかかってん」
「お前も食うか?」と僕にも一つ渡された大福は、瀞霊廷でもかなり人気で長蛇の列がつく有名なお店のものだった。
「並んでたんじゃないですか?」
「んや、今日はそこまでやったな。ラッキーやったわ」
大福は手に持つだけでもやわらかく、搗き立てなのかほんの少し温かい。未白さんの口元が少し柔らかく弧を描き、柔らかい大福にかぶりついた。打ち粉が口元について、ぺろりと舐めとられていく様から目が離せなかった。
「美味しいです」
そう微笑む彼女は本当に美味しそうに食べる人だと再認識したが、僕の視界を遮るように隊長の手が彼女の口元に伸びていく。
「口、ついてんで」
親指で彼女の唇を撫でる平子隊長が優しげな表情をしている。
「自分でできます」
「今鏡ないし、俺のが早いやん」
「…そういう問題じゃ」
「まだ、ついてるて」
そう言って彼女の頬をふに、と両手で掴むようにし両方の親指が口の両端を拭っている。距離が、近い。近すぎる。
明らかに嫌そうに顔を背けている未白さんと反対に平子隊長は楽しそうだった。
「せや、この間一緒に行った炙り鍋また行かん?」
「是非行きたいです!いつがいいですか?」
「何時でも。白奈に合わせるわ」
ちょうど中休憩が終わる鐘が一度鳴る。
「ほな、また」
「お疲れ様です。大福ご馳走様でした」
「お、お疲れ様です!」
ひらりと手を振り、執務室を後にする平子隊長と入れ替わりで休憩に出ていた隊士たちが戻ってくる。
「すみません、好きな食べ物の話でしたね」
「いや、また今度で大丈夫です!」
平子隊長にもらった豆大福は僕には少し塩が効きすぎていたようだ。
