平子と日々を食む
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それは十三番隊舎から戻る途中だった。
大量に持たされた甘味を桃に押し付け、少しでも業務をサボろうとわざと歩みを緩める。優秀な副官はそれに気付いて「早く行きますよ」と急かすが、持たされている甘味効果でほんの少し咎める声は穏やかだ。
十一番隊舎あたりに差し掛かると、何やら騒がしい。まあ、いつもの風景であるが。
「なんや、いつもあっこは騒がしいなァ」
「皆さん元気ですよねえ」
いまだに聞こえる騒ぎ声に片方の耳を指で押さえ「騒がしいて、かなわんわ」とさっさと通り過ぎようと思った瞬間だった。
よく知った霊圧と姿を視界の端で捉えた。
「…平子隊長?」
足を止めた平子を不思議に思った雛森も数歩先で足を止める。
「…なァ、桃。今日あいつ非番ちゃうかったっけ?」
「え?…あ!未白さんだ!確かに今日は非番のはずですね」
二人の視線の先には非番であるはずの部下が、死覇装に身を包み騒ぎの中に紛れ込んで居るのを見つけた。数名の厳つい隊士に囲まれていても凛と立ち、話している姿は見慣れているはずなのにどこか別人のよう。
眉間に皺をよせたりと、世話しなく表情が変わるがいつも纏っている冷たい空気感が今は和らいでいる。
意外だった。
彼女は、あんなふうに人と接するのかと。
五番隊で見る彼女からは、想像もつかなかった。
「なんだか仲良さそうですね!」
ふふ、と笑う雛森に一瞬なんて返そうかと悩んだせいで変な間が空く。
その様子に雛森は一度平子を見ると、あぁ!と思いついたように手を叩いた。
「隊長はご存知なかったですよね!未白さん元々は十一番隊だったんですよ!」
「はァ!?十一番隊!?あいつが!?」
十一番隊は誰もが知る通り、戦闘に特化した隊だ。何故彼女のような者がそんな隊にいたのかわからない、と言う顔をしていたのだろう。
雛森は少し言い辛そうに自身の両手をもじもじと擦り合わせた。
「平子隊長が来られる前、うちの隊あまり機能してない時期があって…」
えへへ、と苦笑いを浮かべる。
「シロちゃんも手伝ってくれたりしてたんですけど、事務処理が全く追い付かなくて…。それで未白さんに移隊してきてもらったんです」
藍染の裏切り後、衰弱しきっていた雛森もここまで回復したのは確かに平子の復隊後だ。だが自身が引き継いだ時には、きっちりと必要な書類や報告書などはまとめられていた。それもわかりやすく。あれをやっていたのは白奈だったと知る。
「…十一番隊の奴ら、事務仕事とか苦手そうやもんなァ」
「うちの隊を立て直すのに一番適任だとして、来てもらったんですよねえ」
「…なるほどなァ」
その節ではだいぶ助かりました、とへらりと雛森は笑った。
責任感の強い彼女のことだろう。この件に関してはもう触れないほうがいいだろうと早々に話題を切り上げ、未だに騒がしい声を背に「帰るで」と十一番隊を後にした。
*
「アカン!!もう限界や!桃!飯行くで!」
山積みになった報告書に目を通すのが嫌になって叫ぶ。とんとんと、書類を確認した雛森も一息ついた。
「あはは。確かに結構時間経ちましたもんね」
「はよ準備し。居酒屋でええか?」
「もう!こういう時は早いんですから!!」
*
五番隊からは、やや離れた場所にその居酒屋はある。足を運んだことはなかったが店構えが良く、気になっていたのだ。赤提灯の赤い光に安心感を覚えるのは何故だろう。それと同時に腹の虫も鳴くのは仕方がないと思う。疲れた体に早くアルコールを流し込みたい。
ガラリ、と戸を開けると中は居酒屋特有の騒がしさに迎えられる。その中に聞き覚えがある声が混じっていた。
「だから!何度も言わせないでくださいよ!」
「うるせえ!いいだろォが!飯奢ってやってんだから!」
「それが条件だったじゃないですか」
奥の座敷に居酒屋の騒めいた中でも一際目立つ集団がいる。ずらりと机の上には数々の料理と酒が並んでいた。
「一角も白奈もうるさいよ」
「ちかさん。関係ないふりしてますけど、私ちかさんにも言ってますからね?」
ぐいっとお猪口を傾ける斑目に手鏡をのぞき込む綾瀬川。それと小鉢をつつきながらも品書きを真剣に見つめる白奈がいた。
「すみません!霜降り和牛の炙りもひとつ、お願いします」
「あぁ!?てめえ、何一番高いやつ頼んでんだ!!」
「なんでも頼んでいいって言ったの一角さんでしょう」
「限度っつーもんがあんだろーが!」
「つーか、頼みすぎだ!!」とわーわーと騒ぐ彼らを横目に、座敷に近いカウンターへと腰かけた。隣に座った雛森が平子の後ろからひょっこりと顔を出す。
「あれ?未白さんだ!」
白奈に気が付いた雛森が「お疲れ様!」とひらりと手を振る。三つの視線がこちらに向いた。
「あ、雛森副隊長。それに平子隊長。お疲れ様です」
いつも隊舎でまとっている固い空気が和らいでいることに少し目を見張る。それにいつもの堅苦しい口調が崩れていて、冷たい感じもない。
「お前今日非番やったやろ。死覇装まで着て何してんねん」
「あー、なんでもないっスよ」
明後日の方向を向きながら、トクトクとお猪口に酒を注ぐ斑目が答えた。
咄嗟に「お前には聞いてへんねん」と、出かかった言葉を飲み込んだ。
そんな斑目を指さして「十一番隊が溜めに溜めた事務仕事を手伝ってました」と白奈は里芋の煮っ転がしを箸でつまむ。
「てめぇ!黙ってろっつったろ!?」
「一角さん声大きいですってば」
非番であるはずの彼女が死覇装を着ているというのはそういう事だったのかと納得する。せっかくの非番なのだから休めばいいものを。
ただウキウキと品書きを眺めてはあれこれ注文する彼女を見ると食の為ならやりかねないな、とも思った。
「平子隊長、何頼まれます?」
「せやなァ、桃の食いたいもん頼んだらええで」
「あ、でも」と一度制する。
「白奈は何頼んだん?」
彼女がここにいるという事はきっと美味いのだろう。折角ならば彼女のおすすめがいい。
「…適当に?」
「嘘つけ。てめえ、あんなに悩んでたっつーのに適当はねえだろうが」
「馬鹿みたいに頼みやがって…」の言葉通りに次々と運ばれてくる料理で机の上が埋まっていく。喜々として料理を見つめる白奈に、相変わらずやな、とその様子を眺める。
だが目の前の料理に夢中で先程の質問を軽く交わされた事が面白くなくて、がたりと音を立てて席を立った。
自分と食を共にしている時より楽しそうだな、なんて思っていない。
美味しいものを食べたいだけだ、と心の中で言い訳をする。
「…答えなってへんわ」
白奈の隣にぐいっと強引にスペースを空けるように腰かけた。随分と顔が緩んでいる。
彼女は食事の時だけは別人のように、無表情から一転して笑うのだ。
それを知っているのは自分だけ、なんて何故そう思っていたのだろう。
「っわ!ちょっと、隊長!何するんですか」
「自分が答えへんしやん」
「…お答えはしましたが?」
「あほか。適当ってなんやねん。そんなんでわかるか」
「で?何おすすめなん?」と机の上の料理に視線を落とす。
刺身の盛り合わせに、子持ち鮎の甘露煮。
香ばしい香りを放つ焼き鳥が皿の上に行儀よく並んでいる。他にも食欲をそそる皿がいくつも並び、卓を埋めていた。
「…むっちゃ頼んでるやん」
「ほら見ろ!!頼みすぎだっつってんだろ!?」
「そうですか?あ、一角さん。茄子と生麩の揚げだしも頼んでもいいですか?」
「てめえ!まだ食うのかよ!?」
「…白奈は本当、よく食べるよね。太るよ?」
斑目と綾瀬川も酒には手を伸ばすものの、料理にはほとんど手をつけていない。卓上に並ぶ料理の大半が、彼女の前に集まっている。
「わあ!未白さんっていっぱい食べるんだね!」
軽く注文を終えた雛森もこちらへとニコニコと笑みを向けている。
「こいつはいつも食い過ぎなんっスよ、雛森副隊長からも言ってやってください」
「いっぱい食べるのはいいことじゃない?ね!平子隊長!」
「あぁ?まあ、でもテーブルの上乗り切らんほど頼んどるで?こいつ」
白奈は鳥のつくねを卵に絡ませて大きく口を開けた。ひとくち口頬張っては口元が緩む。
「今から食べるんで問題ないですね」
その様子をクスクスと雛森は口に手を当てて面白いものを見るように笑っていた。
「ほんで?何おすすめなん?」
「…えー、お好きなの頼んだらいいじゃないですか」
そう言いながらも「これとこれは、おすすめですね」と品書きの居酒屋特有の達筆な文字を指さす。その様子を斑目と綾瀬川は少し驚いた様子でこちらを見ていた。
「白奈…君、五番隊で上手くやってるんだね」
「え?ちかさん、何ですか?」
「いや、君あんまりそういう表情僕ら以外にしないからさ」
きょとんとした顔で斑目と綾瀬川を見つめる白奈。
「…そんな顔してます?というかいつもの表情ってどんなのですか?」
「「鉄仮面」」
「…もう仕事手伝いませんからね」
そのやり取りに今度は平子と雛森がお互いの目を合わせる番だった。
五番隊での彼女は一人でいることが多く、確かに誰かと仲良くしている様子はなかった。
馴染めてないのかと密かに上官としては心配してた二人は綾瀬川の言葉にほっとする。
が、一瞬だけちくりと少し胸の奥が痛んだことに平子は気が付く。
でも彼女の一面を知ったのは最近なのだから、それもそうかと一人納得したふりをした。
「ほな、俺らもこれ頼もか」
「お腹ぺこぺこですもんねえ」
邪魔したな、と平子は白奈の頭にぽん、と軽く触れた後、席へと戻り追加の注文を頼む。
「…お前、平子隊長とどんな関係だ?」
「ただの上官ですよ。あ、これ美味しいです。一角さんもどうですか?」
運ばれてきた霜降り和牛の炙りに、目を輝かせて抑えられないというように口角があがる彼女を、時々横目で盗み見る平子の顔が優しげな事に斑目は僅かに眉を動かす。
——気のせいか
そう思い斑目は酒を勢いのまま煽る。
ついでに運ばれてきた艶めかしい肉を口に放り込んだ。
炙られた香ばしさの奥で、脂がじゅわり、とほどけ口の中で消えていく。
隣の白奈をちらりと見ると、無言で小さく頷いていた。なんと満足そうな顔だろうか。
「やはり牛は霜降りに限りますね。もうひとつ頼んでも?」
「…食いすぎだっつってんだろォーが」
でもまあ、こんなに美味そうに食うならいいかと斑目は結局おかわりを頼むのを見逃したのだった。
大量に持たされた甘味を桃に押し付け、少しでも業務をサボろうとわざと歩みを緩める。優秀な副官はそれに気付いて「早く行きますよ」と急かすが、持たされている甘味効果でほんの少し咎める声は穏やかだ。
十一番隊舎あたりに差し掛かると、何やら騒がしい。まあ、いつもの風景であるが。
「なんや、いつもあっこは騒がしいなァ」
「皆さん元気ですよねえ」
いまだに聞こえる騒ぎ声に片方の耳を指で押さえ「騒がしいて、かなわんわ」とさっさと通り過ぎようと思った瞬間だった。
よく知った霊圧と姿を視界の端で捉えた。
「…平子隊長?」
足を止めた平子を不思議に思った雛森も数歩先で足を止める。
「…なァ、桃。今日あいつ非番ちゃうかったっけ?」
「え?…あ!未白さんだ!確かに今日は非番のはずですね」
二人の視線の先には非番であるはずの部下が、死覇装に身を包み騒ぎの中に紛れ込んで居るのを見つけた。数名の厳つい隊士に囲まれていても凛と立ち、話している姿は見慣れているはずなのにどこか別人のよう。
眉間に皺をよせたりと、世話しなく表情が変わるがいつも纏っている冷たい空気感が今は和らいでいる。
意外だった。
彼女は、あんなふうに人と接するのかと。
五番隊で見る彼女からは、想像もつかなかった。
「なんだか仲良さそうですね!」
ふふ、と笑う雛森に一瞬なんて返そうかと悩んだせいで変な間が空く。
その様子に雛森は一度平子を見ると、あぁ!と思いついたように手を叩いた。
「隊長はご存知なかったですよね!未白さん元々は十一番隊だったんですよ!」
「はァ!?十一番隊!?あいつが!?」
十一番隊は誰もが知る通り、戦闘に特化した隊だ。何故彼女のような者がそんな隊にいたのかわからない、と言う顔をしていたのだろう。
雛森は少し言い辛そうに自身の両手をもじもじと擦り合わせた。
「平子隊長が来られる前、うちの隊あまり機能してない時期があって…」
えへへ、と苦笑いを浮かべる。
「シロちゃんも手伝ってくれたりしてたんですけど、事務処理が全く追い付かなくて…。それで未白さんに移隊してきてもらったんです」
藍染の裏切り後、衰弱しきっていた雛森もここまで回復したのは確かに平子の復隊後だ。だが自身が引き継いだ時には、きっちりと必要な書類や報告書などはまとめられていた。それもわかりやすく。あれをやっていたのは白奈だったと知る。
「…十一番隊の奴ら、事務仕事とか苦手そうやもんなァ」
「うちの隊を立て直すのに一番適任だとして、来てもらったんですよねえ」
「…なるほどなァ」
その節ではだいぶ助かりました、とへらりと雛森は笑った。
責任感の強い彼女のことだろう。この件に関してはもう触れないほうがいいだろうと早々に話題を切り上げ、未だに騒がしい声を背に「帰るで」と十一番隊を後にした。
*
「アカン!!もう限界や!桃!飯行くで!」
山積みになった報告書に目を通すのが嫌になって叫ぶ。とんとんと、書類を確認した雛森も一息ついた。
「あはは。確かに結構時間経ちましたもんね」
「はよ準備し。居酒屋でええか?」
「もう!こういう時は早いんですから!!」
*
五番隊からは、やや離れた場所にその居酒屋はある。足を運んだことはなかったが店構えが良く、気になっていたのだ。赤提灯の赤い光に安心感を覚えるのは何故だろう。それと同時に腹の虫も鳴くのは仕方がないと思う。疲れた体に早くアルコールを流し込みたい。
ガラリ、と戸を開けると中は居酒屋特有の騒がしさに迎えられる。その中に聞き覚えがある声が混じっていた。
「だから!何度も言わせないでくださいよ!」
「うるせえ!いいだろォが!飯奢ってやってんだから!」
「それが条件だったじゃないですか」
奥の座敷に居酒屋の騒めいた中でも一際目立つ集団がいる。ずらりと机の上には数々の料理と酒が並んでいた。
「一角も白奈もうるさいよ」
「ちかさん。関係ないふりしてますけど、私ちかさんにも言ってますからね?」
ぐいっとお猪口を傾ける斑目に手鏡をのぞき込む綾瀬川。それと小鉢をつつきながらも品書きを真剣に見つめる白奈がいた。
「すみません!霜降り和牛の炙りもひとつ、お願いします」
「あぁ!?てめえ、何一番高いやつ頼んでんだ!!」
「なんでも頼んでいいって言ったの一角さんでしょう」
「限度っつーもんがあんだろーが!」
「つーか、頼みすぎだ!!」とわーわーと騒ぐ彼らを横目に、座敷に近いカウンターへと腰かけた。隣に座った雛森が平子の後ろからひょっこりと顔を出す。
「あれ?未白さんだ!」
白奈に気が付いた雛森が「お疲れ様!」とひらりと手を振る。三つの視線がこちらに向いた。
「あ、雛森副隊長。それに平子隊長。お疲れ様です」
いつも隊舎でまとっている固い空気が和らいでいることに少し目を見張る。それにいつもの堅苦しい口調が崩れていて、冷たい感じもない。
「お前今日非番やったやろ。死覇装まで着て何してんねん」
「あー、なんでもないっスよ」
明後日の方向を向きながら、トクトクとお猪口に酒を注ぐ斑目が答えた。
咄嗟に「お前には聞いてへんねん」と、出かかった言葉を飲み込んだ。
そんな斑目を指さして「十一番隊が溜めに溜めた事務仕事を手伝ってました」と白奈は里芋の煮っ転がしを箸でつまむ。
「てめぇ!黙ってろっつったろ!?」
「一角さん声大きいですってば」
非番であるはずの彼女が死覇装を着ているというのはそういう事だったのかと納得する。せっかくの非番なのだから休めばいいものを。
ただウキウキと品書きを眺めてはあれこれ注文する彼女を見ると食の為ならやりかねないな、とも思った。
「平子隊長、何頼まれます?」
「せやなァ、桃の食いたいもん頼んだらええで」
「あ、でも」と一度制する。
「白奈は何頼んだん?」
彼女がここにいるという事はきっと美味いのだろう。折角ならば彼女のおすすめがいい。
「…適当に?」
「嘘つけ。てめえ、あんなに悩んでたっつーのに適当はねえだろうが」
「馬鹿みたいに頼みやがって…」の言葉通りに次々と運ばれてくる料理で机の上が埋まっていく。喜々として料理を見つめる白奈に、相変わらずやな、とその様子を眺める。
だが目の前の料理に夢中で先程の質問を軽く交わされた事が面白くなくて、がたりと音を立てて席を立った。
自分と食を共にしている時より楽しそうだな、なんて思っていない。
美味しいものを食べたいだけだ、と心の中で言い訳をする。
「…答えなってへんわ」
白奈の隣にぐいっと強引にスペースを空けるように腰かけた。随分と顔が緩んでいる。
彼女は食事の時だけは別人のように、無表情から一転して笑うのだ。
それを知っているのは自分だけ、なんて何故そう思っていたのだろう。
「っわ!ちょっと、隊長!何するんですか」
「自分が答えへんしやん」
「…お答えはしましたが?」
「あほか。適当ってなんやねん。そんなんでわかるか」
「で?何おすすめなん?」と机の上の料理に視線を落とす。
刺身の盛り合わせに、子持ち鮎の甘露煮。
香ばしい香りを放つ焼き鳥が皿の上に行儀よく並んでいる。他にも食欲をそそる皿がいくつも並び、卓を埋めていた。
「…むっちゃ頼んでるやん」
「ほら見ろ!!頼みすぎだっつってんだろ!?」
「そうですか?あ、一角さん。茄子と生麩の揚げだしも頼んでもいいですか?」
「てめえ!まだ食うのかよ!?」
「…白奈は本当、よく食べるよね。太るよ?」
斑目と綾瀬川も酒には手を伸ばすものの、料理にはほとんど手をつけていない。卓上に並ぶ料理の大半が、彼女の前に集まっている。
「わあ!未白さんっていっぱい食べるんだね!」
軽く注文を終えた雛森もこちらへとニコニコと笑みを向けている。
「こいつはいつも食い過ぎなんっスよ、雛森副隊長からも言ってやってください」
「いっぱい食べるのはいいことじゃない?ね!平子隊長!」
「あぁ?まあ、でもテーブルの上乗り切らんほど頼んどるで?こいつ」
白奈は鳥のつくねを卵に絡ませて大きく口を開けた。ひとくち口頬張っては口元が緩む。
「今から食べるんで問題ないですね」
その様子をクスクスと雛森は口に手を当てて面白いものを見るように笑っていた。
「ほんで?何おすすめなん?」
「…えー、お好きなの頼んだらいいじゃないですか」
そう言いながらも「これとこれは、おすすめですね」と品書きの居酒屋特有の達筆な文字を指さす。その様子を斑目と綾瀬川は少し驚いた様子でこちらを見ていた。
「白奈…君、五番隊で上手くやってるんだね」
「え?ちかさん、何ですか?」
「いや、君あんまりそういう表情僕ら以外にしないからさ」
きょとんとした顔で斑目と綾瀬川を見つめる白奈。
「…そんな顔してます?というかいつもの表情ってどんなのですか?」
「「鉄仮面」」
「…もう仕事手伝いませんからね」
そのやり取りに今度は平子と雛森がお互いの目を合わせる番だった。
五番隊での彼女は一人でいることが多く、確かに誰かと仲良くしている様子はなかった。
馴染めてないのかと密かに上官としては心配してた二人は綾瀬川の言葉にほっとする。
が、一瞬だけちくりと少し胸の奥が痛んだことに平子は気が付く。
でも彼女の一面を知ったのは最近なのだから、それもそうかと一人納得したふりをした。
「ほな、俺らもこれ頼もか」
「お腹ぺこぺこですもんねえ」
邪魔したな、と平子は白奈の頭にぽん、と軽く触れた後、席へと戻り追加の注文を頼む。
「…お前、平子隊長とどんな関係だ?」
「ただの上官ですよ。あ、これ美味しいです。一角さんもどうですか?」
運ばれてきた霜降り和牛の炙りに、目を輝かせて抑えられないというように口角があがる彼女を、時々横目で盗み見る平子の顔が優しげな事に斑目は僅かに眉を動かす。
——気のせいか
そう思い斑目は酒を勢いのまま煽る。
ついでに運ばれてきた艶めかしい肉を口に放り込んだ。
炙られた香ばしさの奥で、脂がじゅわり、とほどけ口の中で消えていく。
隣の白奈をちらりと見ると、無言で小さく頷いていた。なんと満足そうな顔だろうか。
「やはり牛は霜降りに限りますね。もうひとつ頼んでも?」
「…食いすぎだっつってんだろォーが」
でもまあ、こんなに美味そうに食うならいいかと斑目は結局おかわりを頼むのを見逃したのだった。
