平子と日々を食む
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
パァン、と乾いた音が響く。
熱気が籠る修練場の扉をがらりと開けた。むわりとした空気が外へと逃げていく。
「おーおー、やっとるなァ」
「あ、平子隊長」
修練場の中では隊士たちが竹刀をぶつけ合い鍛錬に励んでいる。
開けた扉に体を預け、隊士たちの様子を眺める。
各々が剣先に情熱を込める中で、なんとも無表情に竹刀を振るっている一人の隊士を見つけた。
筋は悪くない。が、相手に押されているようだった。打ち込まれた竹刀を、半歩ずれて受け流している様子を眺める。
返せる間合いはあるはずなのに打たない。それどころかわざと隙を作り相手に打たせて、一本取らせた。相手をコントロールするのが上手い。
「桃、あいつ…」
「え?あいつ?…あぁ、未白さん!」
視線の先では一本取られた白奈が「ありがとうございました」と頭を下げているところだった。
「あいつ筋はええはずなんやけどなァ」
「未白さん、本来なら席官でもおかしくないんですけど…」
「なんや、問題でもあるん?」
「彼女、始解がまだできないみたいで…」
「始解ができん?」
「うーん、というより始解を習得するつもりがないと言うか…」
「はァ?なんやそれ」
雛森は「書類仕事は完璧なので助かってるんですけど」と苦笑いをこぼした。それと同時に午前の鍛錬を終える号令がかかったのだった。
*
気になって探った霊圧は訓練所から少し離れた場所にあった。ひとり座り込む姿に声をかける。
「お疲れさん」
「っわ!?」
抱えていた風呂敷が膝の上から転がり落ちる。
風呂敷から、ちらりと昼ご飯と思われるものが覗く。
「すまん、すまん。そんな驚く思わんかってん」
堪忍な、と落ちた包みを拾い渡す。
「わざわざ霊圧消してきてるのにですか?」
「完全には消してへんで」
「感じ取れない私が悪いと仰りたい?」
「そんなん言うてへんやん」
よっこいせと隣に座り込んだ。
こちらを見る視線があからさまに迷惑だと言っているが気にしない。
「サボりだって、雛森副隊長に言いつけますよ」
「それ、昼飯?」
「話聞いてます?」
「サボりちゃいますゥ。俺にだって昼休憩あんねん!」
「では、どうぞお昼行ってきてください」
広げた風呂敷からは握り飯が三つと魚肉ソーセージが一つ。
「…いつまでそこに?」
「いただきます」と手を合わせ数口握り飯を口にしたあたりで、じろっと睨むような視線がこちらに向けられる。最近ではこの目線が妙に癖になってきたような気がして、乾いた笑いを溢す。
「それ具、なんなん?」
「…お昼食べに行かれないのですか?」
「白奈チャンが何食うてんのか気になって。昼は自分で作ってんの?」
「…まあ」
「今度俺にも作ってきてや」
「お断りします」
そう言うと一つ目の握り飯の最後の一口を放り込んだ。そうして赤いフィルムに包まれた魚肉ソーセージの端をねじる。
「それ、こっちにもあるん?」
「これですか?…あぁ、隊長もあちらでよく召し上がっていたのですか?」
ぽきん、と中の棒の端が折れる。
中身がぐにゃりと押し出され、外のフィルムだけが残っている。
「数カ月に一度、現世の食べ物を売る市があるんですよ」
「そこで購入しました」とひどく不格好になった中身を見つめてさらに捻じる。今度は中身だけが半分顔を出し、残りがフィルムの中に取り残されている。ムキになって中身を取り出そうと奮闘する彼女にくく、と笑いを嚙み殺す。
「自分下手くそやなァ。それ、開け方教えたろか?」
「…結構です」
「まぁ、そう言わんと…」
「貸してみ」と白奈の手からそれを奪い取る。
「ここに赤いとこあるやろ?ここに切れ目いれて斜めに剥がすねん」
くるくると平子の手で綺麗に剥かれるフィルムをじっと見つめている様子がまた面白かった。「ほれ」と彼女に返すと、大人しく受け取った。
ほんの少しだけ、目が輝いている。
「…ありがとうございます」
口元にわずかに笑みを浮かべて口に運ぶ様子を眺める。やはり彼女は幸せそうにご飯を食べるな、とぼんやりと思う。
そこで彼女を追いかけた理由を思い出した。
「そういや、さっきのアレ。なんで勝ちにいかんかったん?」
「さっきのとは鍛錬のことでしょうか?」
「ずいぶんと手、抜いとったやろ」
一呼吸置いて二つ目の握り飯を口にする。
「…そんなことないですよ」
「嘘つけ」
その言葉と同時に頭上に手刀を落とす。
不機嫌そうな目がこちらを捉えていた。
「私食事中なんですけど」
「お前が悪いんやんけ」
咀嚼を数度繰り返した後ぺろりと親指を舐めた。
「…別に手を抜いたわけじゃないですよ」
「ほーん。ほな、なんやったん?あれ」
三つ目の握り飯を膝の上に置く。
「…平子隊長って案外人のこと見てるんですね」
「はァ?当たり前やろ。何言うてんねん」
「こんな平隊士のことなんて、気にされてるなんて思いませんでした」
ばちっと目線が合う。
真っ直ぐにこちらを捉える目が綺麗だ、と思ったことを頭の隅に無理やり追いやる。
「自分、俺のことなんやと思ってんねん…」
「……粘着質な上官?」
「おま…!失礼なやっちゃなあ!?」
「…ッ痛!?」
失礼な物言いに白奈の額に思いっきり中指で弾いた。痛みに両手で額を押さえた瞬間にぽろりと膝から落ちた握り飯を受け止める。そんなつもりは更々なかったが、つい悪戯心がむくりと沸いた。
「上官への失言やなァ」
ひょいと、握り飯をさらう。
くるりと弄ぶように放り上げ、そのまま懐にしまった。
「ちょ、ちょっと!私のご飯!!!」
「ほな、午後もよろしゅう」
次の瞬間には目の前から消えた平子にわなわなと、手を震わせた。
「…信じらんない!!!」
怒りに任せて、白奈は地面を踏みしめた。
—————————————
「あれ?隊長ご機嫌ですね?」
隊首室に戻る平子に雛森がそう声をかけた。
「別にィ?気のせえちゃうか」
今頃怒っているだろう白奈の姿を思い浮かべては、自身の口角が上がっているのを認めざるを得なかった。雛森にそう言われるのも仕方がないと思いつつも、肯定せず受け流す。
隊首室の自身の机に戻り、竹の皮に包まれた握り飯を見つめる。握り飯の具は結局教えてもらえなかったが、さて何だろうと包みを開ける。
ふわりと紫蘇の香りが鼻をくすぐった。
一口、口にすればパリッとした食感がする。
細かく刻まれた沢庵と紫蘇の混ぜご飯。
ほんのりと混じる鰹節の風味が、あとから追いかけてくる。
——うまい。
「あいつほんま、飯だけは人一倍やなあ」
こんな美味い握り飯を食べたんじゃあ、余計に腹が空くなと自身の腹を撫でる。もう昼休憩は終わるというのに、どうにも何か食べたくなってきて
立ち上がったところで、雛森の呼ぶ声が聞こえた。
結局手を抜いていた確かな理由は聞けず仕舞いだったが、まあいい。
次に会った時にはより自身に対して冷たく当たられるだろうが、その反応ですら楽しみでもある。
「さて、次は何食えるんやろか」
くく、と喉の奥で笑う。
昼休憩が終わったにも関わらず隊首室にいない自身を呼ぶ声には気付かないふりをしておこう。
熱気が籠る修練場の扉をがらりと開けた。むわりとした空気が外へと逃げていく。
「おーおー、やっとるなァ」
「あ、平子隊長」
修練場の中では隊士たちが竹刀をぶつけ合い鍛錬に励んでいる。
開けた扉に体を預け、隊士たちの様子を眺める。
各々が剣先に情熱を込める中で、なんとも無表情に竹刀を振るっている一人の隊士を見つけた。
筋は悪くない。が、相手に押されているようだった。打ち込まれた竹刀を、半歩ずれて受け流している様子を眺める。
返せる間合いはあるはずなのに打たない。それどころかわざと隙を作り相手に打たせて、一本取らせた。相手をコントロールするのが上手い。
「桃、あいつ…」
「え?あいつ?…あぁ、未白さん!」
視線の先では一本取られた白奈が「ありがとうございました」と頭を下げているところだった。
「あいつ筋はええはずなんやけどなァ」
「未白さん、本来なら席官でもおかしくないんですけど…」
「なんや、問題でもあるん?」
「彼女、始解がまだできないみたいで…」
「始解ができん?」
「うーん、というより始解を習得するつもりがないと言うか…」
「はァ?なんやそれ」
雛森は「書類仕事は完璧なので助かってるんですけど」と苦笑いをこぼした。それと同時に午前の鍛錬を終える号令がかかったのだった。
*
気になって探った霊圧は訓練所から少し離れた場所にあった。ひとり座り込む姿に声をかける。
「お疲れさん」
「っわ!?」
抱えていた風呂敷が膝の上から転がり落ちる。
風呂敷から、ちらりと昼ご飯と思われるものが覗く。
「すまん、すまん。そんな驚く思わんかってん」
堪忍な、と落ちた包みを拾い渡す。
「わざわざ霊圧消してきてるのにですか?」
「完全には消してへんで」
「感じ取れない私が悪いと仰りたい?」
「そんなん言うてへんやん」
よっこいせと隣に座り込んだ。
こちらを見る視線があからさまに迷惑だと言っているが気にしない。
「サボりだって、雛森副隊長に言いつけますよ」
「それ、昼飯?」
「話聞いてます?」
「サボりちゃいますゥ。俺にだって昼休憩あんねん!」
「では、どうぞお昼行ってきてください」
広げた風呂敷からは握り飯が三つと魚肉ソーセージが一つ。
「…いつまでそこに?」
「いただきます」と手を合わせ数口握り飯を口にしたあたりで、じろっと睨むような視線がこちらに向けられる。最近ではこの目線が妙に癖になってきたような気がして、乾いた笑いを溢す。
「それ具、なんなん?」
「…お昼食べに行かれないのですか?」
「白奈チャンが何食うてんのか気になって。昼は自分で作ってんの?」
「…まあ」
「今度俺にも作ってきてや」
「お断りします」
そう言うと一つ目の握り飯の最後の一口を放り込んだ。そうして赤いフィルムに包まれた魚肉ソーセージの端をねじる。
「それ、こっちにもあるん?」
「これですか?…あぁ、隊長もあちらでよく召し上がっていたのですか?」
ぽきん、と中の棒の端が折れる。
中身がぐにゃりと押し出され、外のフィルムだけが残っている。
「数カ月に一度、現世の食べ物を売る市があるんですよ」
「そこで購入しました」とひどく不格好になった中身を見つめてさらに捻じる。今度は中身だけが半分顔を出し、残りがフィルムの中に取り残されている。ムキになって中身を取り出そうと奮闘する彼女にくく、と笑いを嚙み殺す。
「自分下手くそやなァ。それ、開け方教えたろか?」
「…結構です」
「まぁ、そう言わんと…」
「貸してみ」と白奈の手からそれを奪い取る。
「ここに赤いとこあるやろ?ここに切れ目いれて斜めに剥がすねん」
くるくると平子の手で綺麗に剥かれるフィルムをじっと見つめている様子がまた面白かった。「ほれ」と彼女に返すと、大人しく受け取った。
ほんの少しだけ、目が輝いている。
「…ありがとうございます」
口元にわずかに笑みを浮かべて口に運ぶ様子を眺める。やはり彼女は幸せそうにご飯を食べるな、とぼんやりと思う。
そこで彼女を追いかけた理由を思い出した。
「そういや、さっきのアレ。なんで勝ちにいかんかったん?」
「さっきのとは鍛錬のことでしょうか?」
「ずいぶんと手、抜いとったやろ」
一呼吸置いて二つ目の握り飯を口にする。
「…そんなことないですよ」
「嘘つけ」
その言葉と同時に頭上に手刀を落とす。
不機嫌そうな目がこちらを捉えていた。
「私食事中なんですけど」
「お前が悪いんやんけ」
咀嚼を数度繰り返した後ぺろりと親指を舐めた。
「…別に手を抜いたわけじゃないですよ」
「ほーん。ほな、なんやったん?あれ」
三つ目の握り飯を膝の上に置く。
「…平子隊長って案外人のこと見てるんですね」
「はァ?当たり前やろ。何言うてんねん」
「こんな平隊士のことなんて、気にされてるなんて思いませんでした」
ばちっと目線が合う。
真っ直ぐにこちらを捉える目が綺麗だ、と思ったことを頭の隅に無理やり追いやる。
「自分、俺のことなんやと思ってんねん…」
「……粘着質な上官?」
「おま…!失礼なやっちゃなあ!?」
「…ッ痛!?」
失礼な物言いに白奈の額に思いっきり中指で弾いた。痛みに両手で額を押さえた瞬間にぽろりと膝から落ちた握り飯を受け止める。そんなつもりは更々なかったが、つい悪戯心がむくりと沸いた。
「上官への失言やなァ」
ひょいと、握り飯をさらう。
くるりと弄ぶように放り上げ、そのまま懐にしまった。
「ちょ、ちょっと!私のご飯!!!」
「ほな、午後もよろしゅう」
次の瞬間には目の前から消えた平子にわなわなと、手を震わせた。
「…信じらんない!!!」
怒りに任せて、白奈は地面を踏みしめた。
—————————————
「あれ?隊長ご機嫌ですね?」
隊首室に戻る平子に雛森がそう声をかけた。
「別にィ?気のせえちゃうか」
今頃怒っているだろう白奈の姿を思い浮かべては、自身の口角が上がっているのを認めざるを得なかった。雛森にそう言われるのも仕方がないと思いつつも、肯定せず受け流す。
隊首室の自身の机に戻り、竹の皮に包まれた握り飯を見つめる。握り飯の具は結局教えてもらえなかったが、さて何だろうと包みを開ける。
ふわりと紫蘇の香りが鼻をくすぐった。
一口、口にすればパリッとした食感がする。
細かく刻まれた沢庵と紫蘇の混ぜご飯。
ほんのりと混じる鰹節の風味が、あとから追いかけてくる。
——うまい。
「あいつほんま、飯だけは人一倍やなあ」
こんな美味い握り飯を食べたんじゃあ、余計に腹が空くなと自身の腹を撫でる。もう昼休憩は終わるというのに、どうにも何か食べたくなってきて
立ち上がったところで、雛森の呼ぶ声が聞こえた。
結局手を抜いていた確かな理由は聞けず仕舞いだったが、まあいい。
次に会った時にはより自身に対して冷たく当たられるだろうが、その反応ですら楽しみでもある。
「さて、次は何食えるんやろか」
くく、と喉の奥で笑う。
昼休憩が終わったにも関わらず隊首室にいない自身を呼ぶ声には気付かないふりをしておこう。
