平子と日々を食む
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雲一つない青空。
隊舎の窓際に吊るされた風鈴がチリン、と涼しげな音を立てた。
相変わらず隊務に追われる毎日。それにこの暑さ。やってられないなと手足をぶらりと放り出した。積まれた報告書を横目に、誰か手伝ってはくれる人はいなもんかと、ある優秀な部下のことを思い浮かべる。
そういえば昨日から姿を見ていない。
「なァ、今日白奈は?」
サラサラと書類に筆を走らせていた雛森は顔をあげて首を傾げた。
「未白さんでしたら風邪でお休みされていますよ!」
「風邪?」
あいつが風邪とは珍しい。今度スタミナがつくものを食べにでも誘うかと、何がいいかと候補を考えてみたが夏のスタミナといえば思いつくのはあれしかない。
ーそう、鰻だ。
そういえば今日は土用の丑の日。昼食を取るにはやや早い時間であるが、思い立ったが吉。昼飯は鰻にしよう。
「平子隊長?どちらへ?」
「昼飯〜」
目的の鰻屋は五番隊の宿舎の近くにある。
時々すれ違う隊士と挨拶を交わしながら何を食べようかと思い浮かべる。やはり鰻重?ひつまぶしも捨てがたい。その道中の端で蹲っている見慣れた姿があった。
「ちょ、自分何してんねん!」
「……たいちょう」
普段であればきっちりとまとめられている彼女の髪は無造作に束ねられており、頬が熱による赤みを帯びうっすらと汗が滲んでいる。
「熱あるんちゃうん?こないな所でなにしてんねん」
「…ご飯を…買いに…」
小さく肩で息をする彼女がゆっくりと腕を持ち上げて道の先を指差した。
「飯ないん?何か食いやすいもん買うてきたろか?」
「……いえ、大丈夫です」
「どうみても大丈夫ちゃうやろ、何買いに行くつもりやったん?」
「……鰻重を」
何を言っているんだこいつは。
「お前はあほか。胃に優しいもんにせえや」
「…スタミナが必要かと」
「はいはい、うどんにしとき、うどん」
よろよろと立ち上がる彼女をひょいと担ぎ、「部屋どこや?」と尋ねる。熱に浮かされた彼女の体温がこちらにも移ってしまいそうに熱い。
「う、うなぎ…!」
「わかったわかった。また今度な」
あやすように彼女の背をトントンと叩いた。
*
気がついた時には自分の部屋の布団の中だった。確か鰻を買いに出て途中で気分が悪くなったまでは覚えている。いつの間に部屋に帰ってきたのだろう。
微かに自身に残る平子隊長の霊圧の名残が、ぼんやりと記憶を蘇らせてくる。
そうだ、隊長に会ったんだ。
ぐうぅと空腹を知らせる腹の虫が鳴く。
そういえばご飯を食べ損ねていることを思い出し、キッチンへと向かうと覚えのない小鍋がひとつ。
不思議に思い蓋を開けるとふわりと生姜の香りがたつ。そして、すりおろされた大根。これはうどんのつゆ、だろうか。冷蔵庫を開けると、竹ざるに盛られたうどんがぽつんとそこにあった。抑えられない口元の緩みを、誰に見られてるわけでもないのに手で覆い隠す。
ふと上の段に小さな包みがひとつ置いてあるのに気が付く。一体なんだろうとそろりと包みを開けてみるとそこには。
「…う巻き」
鰻を食べたいと駄々を捏ねた私の為に買ってきてくれたのだろうか。
ぱくりとたまらず一切れ、手で掴んで食べた。出汁の優しい旨みがじゅわっと広がる。その後を追うように、鰻の甘みがほろりとほどけていく。
優しさにも、味があるのだと知った。きっと、このう巻きの味は一生忘れないだろう。
隊舎の窓際に吊るされた風鈴がチリン、と涼しげな音を立てた。
相変わらず隊務に追われる毎日。それにこの暑さ。やってられないなと手足をぶらりと放り出した。積まれた報告書を横目に、誰か手伝ってはくれる人はいなもんかと、ある優秀な部下のことを思い浮かべる。
そういえば昨日から姿を見ていない。
「なァ、今日白奈は?」
サラサラと書類に筆を走らせていた雛森は顔をあげて首を傾げた。
「未白さんでしたら風邪でお休みされていますよ!」
「風邪?」
あいつが風邪とは珍しい。今度スタミナがつくものを食べにでも誘うかと、何がいいかと候補を考えてみたが夏のスタミナといえば思いつくのはあれしかない。
ーそう、鰻だ。
そういえば今日は土用の丑の日。昼食を取るにはやや早い時間であるが、思い立ったが吉。昼飯は鰻にしよう。
「平子隊長?どちらへ?」
「昼飯〜」
目的の鰻屋は五番隊の宿舎の近くにある。
時々すれ違う隊士と挨拶を交わしながら何を食べようかと思い浮かべる。やはり鰻重?ひつまぶしも捨てがたい。その道中の端で蹲っている見慣れた姿があった。
「ちょ、自分何してんねん!」
「……たいちょう」
普段であればきっちりとまとめられている彼女の髪は無造作に束ねられており、頬が熱による赤みを帯びうっすらと汗が滲んでいる。
「熱あるんちゃうん?こないな所でなにしてんねん」
「…ご飯を…買いに…」
小さく肩で息をする彼女がゆっくりと腕を持ち上げて道の先を指差した。
「飯ないん?何か食いやすいもん買うてきたろか?」
「……いえ、大丈夫です」
「どうみても大丈夫ちゃうやろ、何買いに行くつもりやったん?」
「……鰻重を」
何を言っているんだこいつは。
「お前はあほか。胃に優しいもんにせえや」
「…スタミナが必要かと」
「はいはい、うどんにしとき、うどん」
よろよろと立ち上がる彼女をひょいと担ぎ、「部屋どこや?」と尋ねる。熱に浮かされた彼女の体温がこちらにも移ってしまいそうに熱い。
「う、うなぎ…!」
「わかったわかった。また今度な」
あやすように彼女の背をトントンと叩いた。
*
気がついた時には自分の部屋の布団の中だった。確か鰻を買いに出て途中で気分が悪くなったまでは覚えている。いつの間に部屋に帰ってきたのだろう。
微かに自身に残る平子隊長の霊圧の名残が、ぼんやりと記憶を蘇らせてくる。
そうだ、隊長に会ったんだ。
ぐうぅと空腹を知らせる腹の虫が鳴く。
そういえばご飯を食べ損ねていることを思い出し、キッチンへと向かうと覚えのない小鍋がひとつ。
不思議に思い蓋を開けるとふわりと生姜の香りがたつ。そして、すりおろされた大根。これはうどんのつゆ、だろうか。冷蔵庫を開けると、竹ざるに盛られたうどんがぽつんとそこにあった。抑えられない口元の緩みを、誰に見られてるわけでもないのに手で覆い隠す。
ふと上の段に小さな包みがひとつ置いてあるのに気が付く。一体なんだろうとそろりと包みを開けてみるとそこには。
「…う巻き」
鰻を食べたいと駄々を捏ねた私の為に買ってきてくれたのだろうか。
ぱくりとたまらず一切れ、手で掴んで食べた。出汁の優しい旨みがじゅわっと広がる。その後を追うように、鰻の甘みがほろりとほどけていく。
優しさにも、味があるのだと知った。きっと、このう巻きの味は一生忘れないだろう。
