平子と日々を食む
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梅雨もまだ明けぬ、6月の最終日。
あんなにも鮮やかに咲き誇っていた紫陽花達がだんだんと彩度を失いながら地面を向く。
嗚呼、夏が来るのだな。
死神なんぞをしていると、長く時を過ごし過ぎていて、ふとした季節の風物詩を愛でる喜びを忘れてしまう。
「おひとつ如何ですか?」
そう和菓子屋のお嬢さんに声をかけられて購入した三角形の和菓子。煮た小豆がぎゅぎゅうと窮屈そうに上に乗っかっている。
名を水無月、という和菓子だそうだ。
「夏越 の祓 ねえ...」
今日は六月三十日。夏越の祓。無病息災を願う神事の日。
とある地域では半年の厄を祓うため、この水無月を食べる習慣があるらしい。
食べるだけで厄祓いも無病息災も叶うなんて。美味しく厄祓い。なんて素敵なことだろうか。
勧められるままに購入した白い水無月と黒い水無月。黒は黒糖だという。どちらから食べようかと迷っていた時だった。
「お、水無月やん」
いつの間にか給湯室の入り口に立っていた平子隊長が、私の手元を覗き込んだ。
「平子隊長。これ、ご存知なんですか?」
「ん?あぁ、こっち馴染みないんやっけ?」
「俺にも茶、淹れて」と近くの丸椅子を引き寄せ腰を下ろす。
「西の文化らしいなァ。それ食うたら風邪ひかへんってやつやろ?」
「…風邪、とは違う気がしますけど」
「細かいこと気にすんなや」
急須から茶をゆっくりと注げば、淡い緑色が静かに揺れた。爽やかな緑茶の香りに一息つく。
「よければ、おひとついかがですか?」
小皿へ移した二種類の水無月は、艶やかな小豆がいっそう美味しそうに見えた。
「自分はどっちがいいん?」
「私は食べたことないので、どちらでも」
「ほな、半分こしよか」
隊長は小皿から水無月を持ち上げ、二つへ分ける。
「どっちも食いたかったんやろ?」
「人を食いしん坊みたいに…」
そんなに私はわかりやすいのだろうか。
喉の奥でくつくつと笑う隊長をじとりと睨む。
「半分こ、せえへんの?」
「…します」
隊長と一緒に食べた水無月は、柔らかな甘みを残して私の心の奥にも溶け込んでいく。
給湯室の窓の向こうでは、色褪せた紫陽花が静かに風に揺れていた。
——嗚呼、夏が来る。
あんなにも鮮やかに咲き誇っていた紫陽花達がだんだんと彩度を失いながら地面を向く。
嗚呼、夏が来るのだな。
死神なんぞをしていると、長く時を過ごし過ぎていて、ふとした季節の風物詩を愛でる喜びを忘れてしまう。
「おひとつ如何ですか?」
そう和菓子屋のお嬢さんに声をかけられて購入した三角形の和菓子。煮た小豆がぎゅぎゅうと窮屈そうに上に乗っかっている。
名を水無月、という和菓子だそうだ。
「
今日は六月三十日。夏越の祓。無病息災を願う神事の日。
とある地域では半年の厄を祓うため、この水無月を食べる習慣があるらしい。
食べるだけで厄祓いも無病息災も叶うなんて。美味しく厄祓い。なんて素敵なことだろうか。
勧められるままに購入した白い水無月と黒い水無月。黒は黒糖だという。どちらから食べようかと迷っていた時だった。
「お、水無月やん」
いつの間にか給湯室の入り口に立っていた平子隊長が、私の手元を覗き込んだ。
「平子隊長。これ、ご存知なんですか?」
「ん?あぁ、こっち馴染みないんやっけ?」
「俺にも茶、淹れて」と近くの丸椅子を引き寄せ腰を下ろす。
「西の文化らしいなァ。それ食うたら風邪ひかへんってやつやろ?」
「…風邪、とは違う気がしますけど」
「細かいこと気にすんなや」
急須から茶をゆっくりと注げば、淡い緑色が静かに揺れた。爽やかな緑茶の香りに一息つく。
「よければ、おひとついかがですか?」
小皿へ移した二種類の水無月は、艶やかな小豆がいっそう美味しそうに見えた。
「自分はどっちがいいん?」
「私は食べたことないので、どちらでも」
「ほな、半分こしよか」
隊長は小皿から水無月を持ち上げ、二つへ分ける。
「どっちも食いたかったんやろ?」
「人を食いしん坊みたいに…」
そんなに私はわかりやすいのだろうか。
喉の奥でくつくつと笑う隊長をじとりと睨む。
「半分こ、せえへんの?」
「…します」
隊長と一緒に食べた水無月は、柔らかな甘みを残して私の心の奥にも溶け込んでいく。
給湯室の窓の向こうでは、色褪せた紫陽花が静かに風に揺れていた。
——嗚呼、夏が来る。
