短編
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※恋ルキ要素あり 苦手な方は自衛をお願いします。
愛はどこへいったんだろう。
「別れよか、俺ら」
そう言ったあなたの眼差しを、今でも鮮明に覚えている。
理由を聞くこともできた。
引き止めることだって、きっとできた。
それなのに私は、ものわかりのいい子のふりをしてそれを受け入れてしまった。夜を重ねるたびに薄れていく真子の残り香が、苦しくて。
いっそのこと早く香りがなくなればと、窓を開けっぱなしで過ごした。それでも、あなたが好きだと言った髪だけは未練がましく伸ばしたまま。
髪が腰に届きそうになった頃。
彼はいなくなってしまった。
生きているのか、死んでしまったのかもわからないまま。
あの日言えなかった言葉も。
消えない想いもぜんぶ。
全て断ち切るように、私はばっさりと髪を切り落とした。もう二度と伸ばすことはないだろう。
—————————————————————
「十三番隊へ行くのなら、これを」
渡されたのは隊長の義妹であるルキアちゃんの好物。つまりルキアちゃんへ差し入れをしてこい、ということだ。
「またですか?ご自分でお渡しになればいいのに」
彼女の為に用意されたお菓子はひっそりと隊首室の茶棚に、切らすことなく常備されている。本人から渡されたほうが絶対にルキアちゃんは喜ぶはずなのに、素直じゃない隊長は毎回私を仲介役にする。
朽木家とは長い付き合いである。
朽木家に迎えられた彼女は、緊張と不安で揺れていた。そんな彼女を隊長が心配し、気兼ねなく話せる相手として私に白羽の矢を立てた。それが、彼女と仲良くなったきっかけだった。
ルキアちゃんは知らなかっただろうけど。
今ではすっかり立派に副隊長を務める彼女だが、「今まで通り呼んでくれ!」と笑う彼女に甘えて今でもルキアちゃん、と呼ばせてもらっている。
「いつも通り私からの差し入れということでいいんですか?」
「それで構わぬ」
十三番隊に渡す書類と甘味を持って隊舎を出ようとしたその時だった。燃えるような赤い髪に、厳つい刺青。
「未白さん。今から十三番隊ですか?今晩ルキアの予定を聞いてきてほしいんすけど」
「……なんでこうもうちの上官たちは私を間に挟むかな」
副官同士なのだから自分で連絡すればいいものを。どうも六番隊の上官はルキアちゃんのことになると一気に頼りがいがなくなる。少しは間に挟まれるもどかしい私のことを考えてほしい。「わかったよ」とため息まじりに答え、十三番隊舎へと向かうために地を蹴った。
*
「失礼いたします。六番隊第四席の未白です。書類をお持ちいたしました」
執務室の前に片膝をついて、中へと呼びかけた瞬間。スパン!と戸が開かれ「白奈殿!」と満面の笑みを浮かべたルキアちゃんが飛び出してくる。
「わざわざすまないな!ささ、中に入ってくれ!」
書類を手渡した後、指定された上質なソファに身体を沈める。六番隊舎のソファもかなり上等なものだが、ここのソファも負けていない。
「これが書類。そしてこれは、差し入れね」
「こ、これは!」
隊長から預かった甘味を渡すと嬉しそうに破顔したルキアちゃんを見て、この顔を直接見られない隊長のことを思い浮かべた。
「一緒に食べましょう」と、彼女自らお茶を入れてくれる姿は今にも鼻歌を歌いそうだ。この姿を見れないなんて隊長は本当に勿体ないことをする。
「白奈殿はやはり私のことをわかってくださっているな!」
「その差し入れのこと?なにせ私には強~い後ろ盾がいるからね」
「……もしかして兄様が?」
「ふふ、ノーコメント」
私たちはお菓子をつまみながら、近況報告に花を咲かせた。二杯目のお茶を飲み終える頃には、すっかり長居してしまっていた。
「そろそろ戻らないと」
腰を上げ、十三番隊舎を後にする。
少し長居しすぎただろうか。まあ、怒られることはないだろう。ルキアちゃんパワーは我が六番隊には効果は絶大なのだから。
六番隊舎に差し掛かる寸前。
視界の端に金色が掠めた。忘れようとして、忘れられなかった色。反射的に足を止めてしまった。
「えらい久しぶりやな」
昔と変わらない立ち姿に、胸が熱くなる。
けれど、短く切り揃えられた髪も、どこかざらついて感じる霊圧も、私の知っている彼とは少し違っていた。
「……平子隊長」
「なんや、えらい他人行儀やん」
彼らが尸魂界へ戻ってきたことは、もちろん知っていた。
百年前に姿を消し、藍染惣右介の策略によって現世に潜伏していたことも、彼らが帰ってきたと同時に知れ渡った。
それでも私は、彼と顔を合わせることを避け続けていた。帰ってきたと知ったその日から、ずっと。今さら、どんな顔をすればいいのかわからなかったから。
「お前まだ六番隊におるんやな」
護廷十三隊に入隊してから、彼、平子真子が五番隊の隊長に上り詰めていく横で、私はずっと、あの頃と変わらないまま今も六番隊の四席の座に居座り続けている。
「てか、俺帰ってきてんけど」
「生きていらして、よかったです」
「…そういうのとちゃうねんけどなァ」
懐かしい声が耳に馴染む。
また話せて嬉しいと思うのに。胸の奥がざわついて居心地が悪い。
「おかえり、て言うてくれへんの?」
どの口が。
あなたに「さようなら」を告げられてからもう一世紀以上は経つというのに。
久しぶりに会ったから懐かしくなった?
だからこんなに軽く私に話しかけてくるの?
別れた後は、あんなにも素っ気なかったくせに?
「…ご挨拶が遅れてしまって、すみません」
「なんやねん。お堅くなりよって。そんなキャラちゃうやろ」
「そうでしたっけ?」
真子のことなんて思い出したくなんてなかったのに。あの日、切り落とした髪と一緒に捨てたはずだったのに。
「白奈」
名前を、呼ばないでほしい。
捨てたはずの想いが溢れてきそうで怖い。
「…仕事がありますので、これで」
名前を呼ばれただけなのに、馬鹿みたいに心臓が跳ねてしまう。これ以上、ここに居たくなくて返事を待たずに踵を返し、瞬歩で六番隊舎へ逃げ込んだ。執務室の扉を閉めたところで、大きく息を吐いて座り込む。
「未白さん?慌ててどうしたんスか?」
「…阿散井副隊長」
「え!な、泣いて!?えぇ!?」
「泣いてない!」
ぐいっと目元を拭って「ルキアちゃん今晩空いてるって!!!」と言い捨てて逃げるようにその場を立ち去った。
視界が涙で揺れるのは、生きていることが嬉しかったせいなのか。それとも声が懐かしかったからか。
*
その晩は眠れなかった。
やっと眠れたのは空が白み太陽が覗く一歩手前。
鏡の中の私は睡眠不足で目の下に薄っすらと影ができ、浮腫みでまぶたが多重になっている。こんな顔で出勤できるはずもなく、朝から蒸しタオルを作る手間が増えてしまった。
身だしなみを確認して「よし」と数回頬を叩いて、部屋を出る。
隊舎への近道を小走りで通り抜けようとした瞬間。
「「あ」」
目を丸くした真子と視線が絡み合う。
しまった。ここの近道は五番隊に行く時にも使える近道だったことを思い出した。昔はよく一緒にここを通り抜けていたことも。
「おはようさん。まだこの道使っててんな」
「おはようございます。今日はその、たまたま寝坊して…」
真子の視線が私の顔をゆっくりとなぞり、スッと目が細められた。伸びてきた指先が目の下をそっと撫でる。
「隈、できてんで」
「……っ」
「誰のせいだ!」そう言いたいのを飲み込んで、その手をやんわりと払いのける。
「最近忙しくて」
「へェ。昨日の俺のせいかと思ったわ」
「…自意識過剰」
「でも、昨日はなかったやん」
この男のこういうところが嫌いだ。私のすべてを見ているのではないかと錯覚するほど、些細な変化を見逃さない。
「あの後が忙しかったの」
「即帰りしてたくせに?」
「…なんで」
「飯誘いに行こうと思ったら、おらんかってんもん」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
随分昔の話とはいえ、自分から振った女を?ご飯に誘う?
「行かないよ」
「…なんで?」
「私、平子隊長とご飯は行けません」
「……だから、なんで?」
「なんで、って自分が一番わかってるでしょ…?」
「…俺らが別れてるし?」
ちゃんとわかってたんだ。私が避けている理由。
知ってて、私に構うんだ。
「……そうだよ」
「…ずっと考えとったんやけど」
一瞬だけ言葉に詰まったような素振りを見せたが、私と視線を合わせるかのように少しだけ屈んだ。その瞬間真子から香る彼の匂いが変わっていなくて胸がぎゅうっと締め付けられた。
「…より、戻さん?」
「はあ…?」
そう言った彼の瞳は忘れもしない。
あの時と同じで、真剣な眼差しが私を捉えている。
「…無理だよ」
「でも今付き合ってるやつおらんやろ?」
「だから、なんで知ってるのよ…」
「好きな子のことは何でも」
どの口が。
「ならあの時なんで別れようだなんて…」
「あん時の俺にはできんかったけど、今の俺ならお前のこと守れる」
「…どういう」
気が付けば、吐息がかかりそうなほどに顔が近い。
逃げるように一歩後ろに下がる。
「…ほんと、どういう意味?」
もう一度聞く声が、自分でも驚くほど小さかった。
始業時刻が迫っている。
これ以上ここにいるわけにはいかなかった。
「とにかく!真子とよりを戻すつもりなんてないから」
真子の顔が見れなくて「じゃあね」と俯いたまま六番隊舎へと駆けた。
遠ざかっていく私の背を見つめる真子の顔がどんな表情をしているかなんて私は知る由もない。
*
「白奈。書類持ってきたったで」
「…私に?」
受け取ってみると、明らかに私宛でもなく、誰でも受け取れるような簡単なもの。思わず眉間に皺がよる。
「これ、隊長がわざわざ持ってくる必要あります?」
「いや?白奈に会いに来るついで」
「…そうですか」
そして翌日も翌々日も。
「白奈~。これ頼むわァ」
「…これは隊長に渡してください」
「白奈、今から昼飯行かん?」
「…もう食べました」
「白奈~」
再会したあの日から、真子は毎日私に会いに来る。
本当に真子は私のことをまだ好きなんじゃないか、と勘違いしそうになるが、私の答えも変わらず「ノー」だ。
最近では昼頃になると「昼飯行こ」と誘いにくるのが億劫になっていて、今日は早めに財布を片手に執務室を後にした。
今日は魚が食べたい気分だったので、定食屋へ向かう。ガラリと店の戸を開けると奥にぽつんと座る目立つ赤色が目に飛び込んできた。
「阿散井副隊長」
「白奈さん。もう昼飯っすか?」
「そ。一緒してもいい?」
阿散井君が座っているテーブルは四人掛けの席で、彼の座っている前の椅子をひいてテーブルの端にあるメニューを広げた。
ここのアジフライはソースで食べるのか、タルタルソースだったか。タルタルソースだといいなと思いながら注文をする。
厨房から油が跳ねる音が聞こえ始めて、そわそわと料理が運ばれてくるのを、仕事の話から、くだらない話を阿散井君と話しながら待った。
「そういえば白奈さんって平子隊長と、どうなんっスか?」
「…どうもしないよ」
「あんな毎日会いに来てんのにか?」
運ばれてきたアジフライに手を合わせる。タルタルを期待していたのに、置かれたのは醤油だった。しばらく醤油さしを眺めたあと、それを手に取りアジフライにかける。「そんなことよりさ」と、無理やり話を変える。
「阿散井君はルキアちゃんと、どうなのよ」
つい昔の呼び方をしてしまったが、訂正しようとすると「別に今はいいっすよ」と言われてしまったので気楽に話すことにした。
「プロポーズ、するんでしょ?」
「するつもりだけどよォ…何て言えばいいか迷ってるッつーか…」
阿散井君は気恥ずかしそうな、なんとも言えない顔で頬をかいた。ルキアちゃんの答えなどわかりきっているのに。
「今更格好つけなくても。シンプルにいけばいいのに」
「…シンプルってーのはどういう」
私は持っていた箸を置いて、阿散井君の手を両手で握りしめた。ぎょっとする阿散井君にニコっと笑いかけて「私と結婚してください」と言ってみせた。
慌てて手を振り払われて、顔を赤らめる様子に吹き出した。
「何すんだ、アンタは!!」
「こういうのでいいんだって。どう?ドキドキした?」
「するか!!!」
「えーー?」
この二人のことを、もう何年見てきただろう。
妹と弟のように思っている私からすれば、さっさと入籍してしまって夫婦になればいいのに。そうすれば私だってもう間に挟まれることなく、日々を過ごせるが、それはそれで寂しい気もする。感情とは本当に厄介だ。
「練習でもする?言ってみてよ」
「誰が言うか!!」
「練習で100%出せないと、本番じゃ結果だせないよ〜」
「あー!うるせえうるせえ!!」
真っ赤になって否定するもんだから、つい反応が可愛くて声を出して笑ってしまう。馬鹿をやっているこの時間が楽しい。
「ほら、言ってみて!俺と結婚してください!さんはいっ!」
「誰が言うかよ!!」
「ねー、ほらー、はやくー」
その時、空席だったはずの隣の席がガタリとひかれる。驚いて隣を見れば、私の左手に重ねるように真子の手が置かれた。
突然のことに阿散井君も私も言葉がでない。
真子はその雰囲気を気にする風もなく、隣へ腰を下ろした。私の指に自身の指を絡めるように繋ぎ直される。途端に熱を持つ指先。振り解こうとするが、更に握り込まれてしまって離れそうにもなかった。
真剣な琥珀色の瞳が逃すまいとこちらを見ている。
「俺と結婚してください」
繋がれた手がそのまま持ち上げられて真子の口元に当てられる。
左薬指にかかる真子の吐息が熱い。心臓がそこにあるんじゃないかと思うほど、指先が脈打っている。
「…っちょ、ちょっと…急に何」
「いや、おもろそうな会話してんなァて思って」
左手はずっと真子の口元にあてられているまま。
「なんや阿散井が困ってるみたいやし、俺が先見本でも見せたろうかなって」
悪戯に微笑む顔が頭にこびりついて離れない。
「は、離して!」
「嫌や言うたら?」
「こういうの困る!まだ付き合ってもないのに!」
「ほな付き合うてや」
「ああっ!もうっ!」
こんな所で、人が沢山いる中で信じられない!確実に注目を浴びてしまっているし、阿散井君はポカンと口を開けて黙っている。
無理矢理に繋がれている手を解いて、まだ少し残っているご飯すら置いて「ご馳走様でした!」と言って慌てて店を飛び出した。
恥ずかしさと嬉しさがごちゃごちゃに入り混じって私の中を埋め尽くしていく。火照る身体をなんとかしたくて無我夢中で、人にぶつかっても構わずに走った。
「ひ、平子隊長…!」
「飯の邪魔してもうて悪いな。これ飯代。ここ置いとくわ」
「え、いや、いいっスよ!!」
「…ま、阿散井も頑張りやァ」
そういい残して平子はゆったりとした足取りで店を出る。口元にほんの少し笑みを浮かべて。
*
私は一人膝を抱えて、先程のことを思い浮かべては情けない声を上げる。
「はぁぁ…もう…どうしよう」
まだ真子の熱が残る指先を見つめては顔を覆った。
まだ、バクバクと心臓が煩い。貧乏ゆすりのようにゆらゆらと膝を抱えたまま、私は顔を膝にくっつけた。
「真子のやつ…」
「なんや?」
「わあああああ!?」
「やぁっと、捕まえた」
後ろから懐かしい香りに包まれる。耳元で聞こえる低い声がまるで心臓の横で囁かれたような錯覚がした。
「お前昔からなんかあったらここ来るの、変わってへんねんな」
おかげで見つけんの簡単やったわ、と笑う声がする。久しぶりに感じる真子の鼓動と温かさに視界が涙でぼやけていく。
「…真子」
「んー?」
首元にかかる真子の髪がくすぐったい。それに気が付いているのか、さらに摺り寄せてくるものだから質が悪い。
「…ほんとうに?」
「何が?」
「私のこと好き…って」
抱きしめる力が一瞬強くなり、髪に唇を寄せられる。昔真子がよく私にしていたことだ。私はこれが大好きだった。
「…この百年。ずっとお前のこと考えとった」
いつもより少し低くなった真子の声に静かに耳を傾ける。
「…元気に生きとってくれてほんまによかったわ。…惣右介がえらい俺とお前の関係気にしとったからなァ…」
「…それは別れた理由?」
そう尋ねると曖昧に、困ったような顔をするだけで私が欲しい答えは返ってこなかった。
「…私、辛かった」
「…知ってる。本間にすまんかった」
優しく私の頭を少しだけ冷たい真子の手が何度も往復する。変わらず私の心臓は煩いが、真子が触れるたびにほどけて凪いでいく。
「せやけど俺はお前のことずっと、考えとった」
零れ落ちそうな涙を食いしばっているせいで、ズキンと喉の奥が痛む。無意識に止めていた呼吸に気が付いてゆっくりと息を吐きだした。
「俺とやり直してくれへん…?」
小さく「ほんま、頼むわ」と力なく私の肩に頭を預ける真子の呟きが甘い毒のように染み渡ってくる。
「……嫌」
空いている真子の手を、正確に言えば指を握りしめた。手探りで薬指を探す。
「今すぐに結婚してくれなきゃ、嫌」
「白奈」
仕返しとばかりに真子の薬指の関節に爪を立てる。ちょっとくらい痛みを感じればいいと思った。
「絶対離婚もしない。一生私の面倒みて。この百年償って」
「…はは、当たり前やろ」
真子の少しだけ震えた指先には気が付かないふりをしておこう。
「お前がやっぱり嫌や言うて泣いても離したらんわ」
苦しいくらいに私の頭が真子の胸に押し付けられる。
「俺と結婚してください」
「……はい」
百年ぶりに抱きしめられた身体は、あの頃と同じ温かさだった。
背中に添えられた手が、ゆっくりと動く。まるで、ここにいる私を確かめるように何度も優しく撫でられる。そのたびに身体の奥がじんわりと熱をおびていく。どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
「…せや、髪短いのも似合ってるけど、もう伸ばさんの?」
「伸ばしてほしい?」
「女の子は結婚式用に伸ばすもんちゃうの?」
「今はそうでもないんじゃない?」
変わらずに抱きしめてくれている腕の温もりをもっと感じていたくてもたれかかる。短い髪をふわりと優しく風がさらっていく。
トクトクと早い真子の鼓動をまだ聞いていたくて、耳を胸に寄せた。
久しぶりに、髪を伸ばしてみよう。
愛はどこへいったんだろう。
「別れよか、俺ら」
そう言ったあなたの眼差しを、今でも鮮明に覚えている。
理由を聞くこともできた。
引き止めることだって、きっとできた。
それなのに私は、ものわかりのいい子のふりをしてそれを受け入れてしまった。夜を重ねるたびに薄れていく真子の残り香が、苦しくて。
いっそのこと早く香りがなくなればと、窓を開けっぱなしで過ごした。それでも、あなたが好きだと言った髪だけは未練がましく伸ばしたまま。
髪が腰に届きそうになった頃。
彼はいなくなってしまった。
生きているのか、死んでしまったのかもわからないまま。
あの日言えなかった言葉も。
消えない想いもぜんぶ。
全て断ち切るように、私はばっさりと髪を切り落とした。もう二度と伸ばすことはないだろう。
—————————————————————
「十三番隊へ行くのなら、これを」
渡されたのは隊長の義妹であるルキアちゃんの好物。つまりルキアちゃんへ差し入れをしてこい、ということだ。
「またですか?ご自分でお渡しになればいいのに」
彼女の為に用意されたお菓子はひっそりと隊首室の茶棚に、切らすことなく常備されている。本人から渡されたほうが絶対にルキアちゃんは喜ぶはずなのに、素直じゃない隊長は毎回私を仲介役にする。
朽木家とは長い付き合いである。
朽木家に迎えられた彼女は、緊張と不安で揺れていた。そんな彼女を隊長が心配し、気兼ねなく話せる相手として私に白羽の矢を立てた。それが、彼女と仲良くなったきっかけだった。
ルキアちゃんは知らなかっただろうけど。
今ではすっかり立派に副隊長を務める彼女だが、「今まで通り呼んでくれ!」と笑う彼女に甘えて今でもルキアちゃん、と呼ばせてもらっている。
「いつも通り私からの差し入れということでいいんですか?」
「それで構わぬ」
十三番隊に渡す書類と甘味を持って隊舎を出ようとしたその時だった。燃えるような赤い髪に、厳つい刺青。
「未白さん。今から十三番隊ですか?今晩ルキアの予定を聞いてきてほしいんすけど」
「……なんでこうもうちの上官たちは私を間に挟むかな」
副官同士なのだから自分で連絡すればいいものを。どうも六番隊の上官はルキアちゃんのことになると一気に頼りがいがなくなる。少しは間に挟まれるもどかしい私のことを考えてほしい。「わかったよ」とため息まじりに答え、十三番隊舎へと向かうために地を蹴った。
*
「失礼いたします。六番隊第四席の未白です。書類をお持ちいたしました」
執務室の前に片膝をついて、中へと呼びかけた瞬間。スパン!と戸が開かれ「白奈殿!」と満面の笑みを浮かべたルキアちゃんが飛び出してくる。
「わざわざすまないな!ささ、中に入ってくれ!」
書類を手渡した後、指定された上質なソファに身体を沈める。六番隊舎のソファもかなり上等なものだが、ここのソファも負けていない。
「これが書類。そしてこれは、差し入れね」
「こ、これは!」
隊長から預かった甘味を渡すと嬉しそうに破顔したルキアちゃんを見て、この顔を直接見られない隊長のことを思い浮かべた。
「一緒に食べましょう」と、彼女自らお茶を入れてくれる姿は今にも鼻歌を歌いそうだ。この姿を見れないなんて隊長は本当に勿体ないことをする。
「白奈殿はやはり私のことをわかってくださっているな!」
「その差し入れのこと?なにせ私には強~い後ろ盾がいるからね」
「……もしかして兄様が?」
「ふふ、ノーコメント」
私たちはお菓子をつまみながら、近況報告に花を咲かせた。二杯目のお茶を飲み終える頃には、すっかり長居してしまっていた。
「そろそろ戻らないと」
腰を上げ、十三番隊舎を後にする。
少し長居しすぎただろうか。まあ、怒られることはないだろう。ルキアちゃんパワーは我が六番隊には効果は絶大なのだから。
六番隊舎に差し掛かる寸前。
視界の端に金色が掠めた。忘れようとして、忘れられなかった色。反射的に足を止めてしまった。
「えらい久しぶりやな」
昔と変わらない立ち姿に、胸が熱くなる。
けれど、短く切り揃えられた髪も、どこかざらついて感じる霊圧も、私の知っている彼とは少し違っていた。
「……平子隊長」
「なんや、えらい他人行儀やん」
彼らが尸魂界へ戻ってきたことは、もちろん知っていた。
百年前に姿を消し、藍染惣右介の策略によって現世に潜伏していたことも、彼らが帰ってきたと同時に知れ渡った。
それでも私は、彼と顔を合わせることを避け続けていた。帰ってきたと知ったその日から、ずっと。今さら、どんな顔をすればいいのかわからなかったから。
「お前まだ六番隊におるんやな」
護廷十三隊に入隊してから、彼、平子真子が五番隊の隊長に上り詰めていく横で、私はずっと、あの頃と変わらないまま今も六番隊の四席の座に居座り続けている。
「てか、俺帰ってきてんけど」
「生きていらして、よかったです」
「…そういうのとちゃうねんけどなァ」
懐かしい声が耳に馴染む。
また話せて嬉しいと思うのに。胸の奥がざわついて居心地が悪い。
「おかえり、て言うてくれへんの?」
どの口が。
あなたに「さようなら」を告げられてからもう一世紀以上は経つというのに。
久しぶりに会ったから懐かしくなった?
だからこんなに軽く私に話しかけてくるの?
別れた後は、あんなにも素っ気なかったくせに?
「…ご挨拶が遅れてしまって、すみません」
「なんやねん。お堅くなりよって。そんなキャラちゃうやろ」
「そうでしたっけ?」
真子のことなんて思い出したくなんてなかったのに。あの日、切り落とした髪と一緒に捨てたはずだったのに。
「白奈」
名前を、呼ばないでほしい。
捨てたはずの想いが溢れてきそうで怖い。
「…仕事がありますので、これで」
名前を呼ばれただけなのに、馬鹿みたいに心臓が跳ねてしまう。これ以上、ここに居たくなくて返事を待たずに踵を返し、瞬歩で六番隊舎へ逃げ込んだ。執務室の扉を閉めたところで、大きく息を吐いて座り込む。
「未白さん?慌ててどうしたんスか?」
「…阿散井副隊長」
「え!な、泣いて!?えぇ!?」
「泣いてない!」
ぐいっと目元を拭って「ルキアちゃん今晩空いてるって!!!」と言い捨てて逃げるようにその場を立ち去った。
視界が涙で揺れるのは、生きていることが嬉しかったせいなのか。それとも声が懐かしかったからか。
*
その晩は眠れなかった。
やっと眠れたのは空が白み太陽が覗く一歩手前。
鏡の中の私は睡眠不足で目の下に薄っすらと影ができ、浮腫みでまぶたが多重になっている。こんな顔で出勤できるはずもなく、朝から蒸しタオルを作る手間が増えてしまった。
身だしなみを確認して「よし」と数回頬を叩いて、部屋を出る。
隊舎への近道を小走りで通り抜けようとした瞬間。
「「あ」」
目を丸くした真子と視線が絡み合う。
しまった。ここの近道は五番隊に行く時にも使える近道だったことを思い出した。昔はよく一緒にここを通り抜けていたことも。
「おはようさん。まだこの道使っててんな」
「おはようございます。今日はその、たまたま寝坊して…」
真子の視線が私の顔をゆっくりとなぞり、スッと目が細められた。伸びてきた指先が目の下をそっと撫でる。
「隈、できてんで」
「……っ」
「誰のせいだ!」そう言いたいのを飲み込んで、その手をやんわりと払いのける。
「最近忙しくて」
「へェ。昨日の俺のせいかと思ったわ」
「…自意識過剰」
「でも、昨日はなかったやん」
この男のこういうところが嫌いだ。私のすべてを見ているのではないかと錯覚するほど、些細な変化を見逃さない。
「あの後が忙しかったの」
「即帰りしてたくせに?」
「…なんで」
「飯誘いに行こうと思ったら、おらんかってんもん」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
随分昔の話とはいえ、自分から振った女を?ご飯に誘う?
「行かないよ」
「…なんで?」
「私、平子隊長とご飯は行けません」
「……だから、なんで?」
「なんで、って自分が一番わかってるでしょ…?」
「…俺らが別れてるし?」
ちゃんとわかってたんだ。私が避けている理由。
知ってて、私に構うんだ。
「……そうだよ」
「…ずっと考えとったんやけど」
一瞬だけ言葉に詰まったような素振りを見せたが、私と視線を合わせるかのように少しだけ屈んだ。その瞬間真子から香る彼の匂いが変わっていなくて胸がぎゅうっと締め付けられた。
「…より、戻さん?」
「はあ…?」
そう言った彼の瞳は忘れもしない。
あの時と同じで、真剣な眼差しが私を捉えている。
「…無理だよ」
「でも今付き合ってるやつおらんやろ?」
「だから、なんで知ってるのよ…」
「好きな子のことは何でも」
どの口が。
「ならあの時なんで別れようだなんて…」
「あん時の俺にはできんかったけど、今の俺ならお前のこと守れる」
「…どういう」
気が付けば、吐息がかかりそうなほどに顔が近い。
逃げるように一歩後ろに下がる。
「…ほんと、どういう意味?」
もう一度聞く声が、自分でも驚くほど小さかった。
始業時刻が迫っている。
これ以上ここにいるわけにはいかなかった。
「とにかく!真子とよりを戻すつもりなんてないから」
真子の顔が見れなくて「じゃあね」と俯いたまま六番隊舎へと駆けた。
遠ざかっていく私の背を見つめる真子の顔がどんな表情をしているかなんて私は知る由もない。
*
「白奈。書類持ってきたったで」
「…私に?」
受け取ってみると、明らかに私宛でもなく、誰でも受け取れるような簡単なもの。思わず眉間に皺がよる。
「これ、隊長がわざわざ持ってくる必要あります?」
「いや?白奈に会いに来るついで」
「…そうですか」
そして翌日も翌々日も。
「白奈~。これ頼むわァ」
「…これは隊長に渡してください」
「白奈、今から昼飯行かん?」
「…もう食べました」
「白奈~」
再会したあの日から、真子は毎日私に会いに来る。
本当に真子は私のことをまだ好きなんじゃないか、と勘違いしそうになるが、私の答えも変わらず「ノー」だ。
最近では昼頃になると「昼飯行こ」と誘いにくるのが億劫になっていて、今日は早めに財布を片手に執務室を後にした。
今日は魚が食べたい気分だったので、定食屋へ向かう。ガラリと店の戸を開けると奥にぽつんと座る目立つ赤色が目に飛び込んできた。
「阿散井副隊長」
「白奈さん。もう昼飯っすか?」
「そ。一緒してもいい?」
阿散井君が座っているテーブルは四人掛けの席で、彼の座っている前の椅子をひいてテーブルの端にあるメニューを広げた。
ここのアジフライはソースで食べるのか、タルタルソースだったか。タルタルソースだといいなと思いながら注文をする。
厨房から油が跳ねる音が聞こえ始めて、そわそわと料理が運ばれてくるのを、仕事の話から、くだらない話を阿散井君と話しながら待った。
「そういえば白奈さんって平子隊長と、どうなんっスか?」
「…どうもしないよ」
「あんな毎日会いに来てんのにか?」
運ばれてきたアジフライに手を合わせる。タルタルを期待していたのに、置かれたのは醤油だった。しばらく醤油さしを眺めたあと、それを手に取りアジフライにかける。「そんなことよりさ」と、無理やり話を変える。
「阿散井君はルキアちゃんと、どうなのよ」
つい昔の呼び方をしてしまったが、訂正しようとすると「別に今はいいっすよ」と言われてしまったので気楽に話すことにした。
「プロポーズ、するんでしょ?」
「するつもりだけどよォ…何て言えばいいか迷ってるッつーか…」
阿散井君は気恥ずかしそうな、なんとも言えない顔で頬をかいた。ルキアちゃんの答えなどわかりきっているのに。
「今更格好つけなくても。シンプルにいけばいいのに」
「…シンプルってーのはどういう」
私は持っていた箸を置いて、阿散井君の手を両手で握りしめた。ぎょっとする阿散井君にニコっと笑いかけて「私と結婚してください」と言ってみせた。
慌てて手を振り払われて、顔を赤らめる様子に吹き出した。
「何すんだ、アンタは!!」
「こういうのでいいんだって。どう?ドキドキした?」
「するか!!!」
「えーー?」
この二人のことを、もう何年見てきただろう。
妹と弟のように思っている私からすれば、さっさと入籍してしまって夫婦になればいいのに。そうすれば私だってもう間に挟まれることなく、日々を過ごせるが、それはそれで寂しい気もする。感情とは本当に厄介だ。
「練習でもする?言ってみてよ」
「誰が言うか!!」
「練習で100%出せないと、本番じゃ結果だせないよ〜」
「あー!うるせえうるせえ!!」
真っ赤になって否定するもんだから、つい反応が可愛くて声を出して笑ってしまう。馬鹿をやっているこの時間が楽しい。
「ほら、言ってみて!俺と結婚してください!さんはいっ!」
「誰が言うかよ!!」
「ねー、ほらー、はやくー」
その時、空席だったはずの隣の席がガタリとひかれる。驚いて隣を見れば、私の左手に重ねるように真子の手が置かれた。
突然のことに阿散井君も私も言葉がでない。
真子はその雰囲気を気にする風もなく、隣へ腰を下ろした。私の指に自身の指を絡めるように繋ぎ直される。途端に熱を持つ指先。振り解こうとするが、更に握り込まれてしまって離れそうにもなかった。
真剣な琥珀色の瞳が逃すまいとこちらを見ている。
「俺と結婚してください」
繋がれた手がそのまま持ち上げられて真子の口元に当てられる。
左薬指にかかる真子の吐息が熱い。心臓がそこにあるんじゃないかと思うほど、指先が脈打っている。
「…っちょ、ちょっと…急に何」
「いや、おもろそうな会話してんなァて思って」
左手はずっと真子の口元にあてられているまま。
「なんや阿散井が困ってるみたいやし、俺が先見本でも見せたろうかなって」
悪戯に微笑む顔が頭にこびりついて離れない。
「は、離して!」
「嫌や言うたら?」
「こういうの困る!まだ付き合ってもないのに!」
「ほな付き合うてや」
「ああっ!もうっ!」
こんな所で、人が沢山いる中で信じられない!確実に注目を浴びてしまっているし、阿散井君はポカンと口を開けて黙っている。
無理矢理に繋がれている手を解いて、まだ少し残っているご飯すら置いて「ご馳走様でした!」と言って慌てて店を飛び出した。
恥ずかしさと嬉しさがごちゃごちゃに入り混じって私の中を埋め尽くしていく。火照る身体をなんとかしたくて無我夢中で、人にぶつかっても構わずに走った。
「ひ、平子隊長…!」
「飯の邪魔してもうて悪いな。これ飯代。ここ置いとくわ」
「え、いや、いいっスよ!!」
「…ま、阿散井も頑張りやァ」
そういい残して平子はゆったりとした足取りで店を出る。口元にほんの少し笑みを浮かべて。
*
私は一人膝を抱えて、先程のことを思い浮かべては情けない声を上げる。
「はぁぁ…もう…どうしよう」
まだ真子の熱が残る指先を見つめては顔を覆った。
まだ、バクバクと心臓が煩い。貧乏ゆすりのようにゆらゆらと膝を抱えたまま、私は顔を膝にくっつけた。
「真子のやつ…」
「なんや?」
「わあああああ!?」
「やぁっと、捕まえた」
後ろから懐かしい香りに包まれる。耳元で聞こえる低い声がまるで心臓の横で囁かれたような錯覚がした。
「お前昔からなんかあったらここ来るの、変わってへんねんな」
おかげで見つけんの簡単やったわ、と笑う声がする。久しぶりに感じる真子の鼓動と温かさに視界が涙でぼやけていく。
「…真子」
「んー?」
首元にかかる真子の髪がくすぐったい。それに気が付いているのか、さらに摺り寄せてくるものだから質が悪い。
「…ほんとうに?」
「何が?」
「私のこと好き…って」
抱きしめる力が一瞬強くなり、髪に唇を寄せられる。昔真子がよく私にしていたことだ。私はこれが大好きだった。
「…この百年。ずっとお前のこと考えとった」
いつもより少し低くなった真子の声に静かに耳を傾ける。
「…元気に生きとってくれてほんまによかったわ。…惣右介がえらい俺とお前の関係気にしとったからなァ…」
「…それは別れた理由?」
そう尋ねると曖昧に、困ったような顔をするだけで私が欲しい答えは返ってこなかった。
「…私、辛かった」
「…知ってる。本間にすまんかった」
優しく私の頭を少しだけ冷たい真子の手が何度も往復する。変わらず私の心臓は煩いが、真子が触れるたびにほどけて凪いでいく。
「せやけど俺はお前のことずっと、考えとった」
零れ落ちそうな涙を食いしばっているせいで、ズキンと喉の奥が痛む。無意識に止めていた呼吸に気が付いてゆっくりと息を吐きだした。
「俺とやり直してくれへん…?」
小さく「ほんま、頼むわ」と力なく私の肩に頭を預ける真子の呟きが甘い毒のように染み渡ってくる。
「……嫌」
空いている真子の手を、正確に言えば指を握りしめた。手探りで薬指を探す。
「今すぐに結婚してくれなきゃ、嫌」
「白奈」
仕返しとばかりに真子の薬指の関節に爪を立てる。ちょっとくらい痛みを感じればいいと思った。
「絶対離婚もしない。一生私の面倒みて。この百年償って」
「…はは、当たり前やろ」
真子の少しだけ震えた指先には気が付かないふりをしておこう。
「お前がやっぱり嫌や言うて泣いても離したらんわ」
苦しいくらいに私の頭が真子の胸に押し付けられる。
「俺と結婚してください」
「……はい」
百年ぶりに抱きしめられた身体は、あの頃と同じ温かさだった。
背中に添えられた手が、ゆっくりと動く。まるで、ここにいる私を確かめるように何度も優しく撫でられる。そのたびに身体の奥がじんわりと熱をおびていく。どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
「…せや、髪短いのも似合ってるけど、もう伸ばさんの?」
「伸ばしてほしい?」
「女の子は結婚式用に伸ばすもんちゃうの?」
「今はそうでもないんじゃない?」
変わらずに抱きしめてくれている腕の温もりをもっと感じていたくてもたれかかる。短い髪をふわりと優しく風がさらっていく。
トクトクと早い真子の鼓動をまだ聞いていたくて、耳を胸に寄せた。
久しぶりに、髪を伸ばしてみよう。
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