『第18章』セミファイナル
和成はなにかタイミングを図っているのか、パスを出しあぐねていた。
「バイオレーションとられるまで、10秒切った。やっぱ、攻めあぐねてる…?」
コガ先輩がそう言う。
「それもあるだろうが、それ以上におそらくこれからトライすることは相当リスキーなんじゃないかな?」
木吉先輩が返し、伊月先輩が質問する。
「どういうことだ?」
「残り時間と点差を考えれば、もはやひとつのミスが命取りだ。迷いや不安はミスにつながる。つまり動くのは覚悟を決めた時だ」
その瞬間、決意したかように緑間はシュートモーションに入る。その行動に赤司君は目を見開く。
「(ボールを持っていないのに!)」
「(シュートモーションに入った!?)」
そして、秀徳の皆もシュートを待つ体制に入る。
「(何をやっている?…まさか!)」
赤司は思う。
シュートを打つその瞬間、和成がその場所ピンポイントにパスを放った。そして、緑間くんはシュートを決める。
「空中で取ってそのまま3P!?」
「ありえんのか、それ!」
秀徳以外、驚きを隠せない。
「あの高さならたとえ、先を見えてもカット出来ない。だが、難しいとかそう言うレベルの話じゃないぞ、今のは」
「決めた緑間も当然凄いが、それだけじゃない。緑間に構えた位置にどんぴしゃでパスを入れるなんて、信じられない正確さだ」
伊月先輩が驚きながらそう言う。
わたしは和成が中学時代、帝光中に負けてから練習を重ねて来たことを知っている。そして緑間くんが毎日シューティングを欠かさず人事を尽くしていることも知っている。
「形は違うけどよ。似てんな、お前らと」
「秀徳の光と影だぜ。あれは」
「そうですね」
テツヤ君が返す。
「しかし、空中でパスをもらって3P。とんでもない技だな」
木吉先輩がそう言う。
「なんでここまで温存を…」
伊月先輩が疑問を言う。言われてみれば確かに…
「と言うより、ここまでが緑間君が描いていたシナリオだったんだと思います。帝光時代、キセキの世代はその力を全開にすることは禁じられていました。大きすぎる力に身体がまだ追いついていなかったためです。お互いの手の内は知っていても、直接本気で戦ったことはありません」
「つまり、緑間もエンペラーアイを体感するのは初めてだった。そしてやはり、賭けに出なければ勝てないと悟った」
木吉先輩がそう返す。
「はい。あの赤司君に対して強力かつ効果的ですが、失敗するリスクも大きいはずです」
「けどよ、賭けたかいはあったんじゃねぇか。その証拠に…」
火神くんが言い出す。
「今までずっと涼しい顔をしていた赤司の顔色が変わった」
『緑間くんも和成も、最高のチームメイトをもったね』
赤司がボールを持ち、緑間が対峙する。
「秀徳はまだ死んでいない。勝負はこれからだ」
緑間が赤司にそう言い放つ。
「想定以上だ、真太郎。そうでなくては」
嬉しそうにそう返す赤司君。
「無駄だ、どけ」
アンクルブレイクをし、緑間を転ばせる。
「僕の命令は絶対だ」
赤司がシュートを決めようとする。
「(まだだ!…諦めるな! 倒れることなど、何も恥ではない。そこから起き上がることこそ、恥!)」
以前藍澤が黄瀬に言った言葉を思い出した。
その瞬間、緑間は赤司の後ろにいた。
「赤司ぃぃ!」
それ気付いた赤司は瞬時にシュートをやめ、パスを放つ。
「一瞬で切り替えた!? 状況判断も恐ろしく速い」
パスを受けた根武谷がシュートに入ろうとするが、大坪が止める。
「やっぱ、大坪さん最高ッスわ!」
ゴールに向かう高尾に玲央が対峙するが、高尾は緑間にパスを放った。そして、そのままシュートを決める。
「(うそでしょ…。通常での3Pでもいい場面でなんて強気…)」
63対71
「まだだ!当たれ!」
秀徳の監督が叫ぶ。
その後の秀徳の体制は―
「ここで来やがった…」
オールコートマンツーマン!
「オールコートで一気に勝負かけてきやがった!」
日向先輩は言う
「しかも、赤司には緑間と高尾のダブルチーム。このプレッシャーは」
一方、赤司君はその様子に少しため息を吐いて、一歩後ろへと下がった。
「(何やってんだお前!? そっちは自分のゴール…)」
赤司は自分のゴールにシュートを決めた。
周囲の皆は戸惑いを隠せない。
「自殺点!?」
「狙って入れたぞ。何考えてんだ…」
赤司はチームを集め、こう言った。
「僕がいつ、気を抜いていいといった。試合はまだ、終わっていない。一時大差をつけたことで緊張感がゆるんだか?たかだが数ゴール連続で決められたくらいで浮足立ったのが良い証拠だ。僅差であれば、こんな無様な姿をさらすことはなかったはず。ならばいっそ、点差なんて無くなってしまった方がましだ。少し頭を冷やせ」
(…征十郎…)
「だが、もし負けたら好きなだけ僕を非難しろ。敗因は今の僕のゴールだ。全責任を負って、すみやかに退部する。そして、罪を償う証として……両の眼をくり抜いてお前たちに差し出そう」
「(おいおい!部活のスポーツだぜ? マジで眼なんかくり抜くわけねぇだろ! なのになんだよ…今の他の奴らのリアクションは!)」
「(信じらんねぇけど、赤司ならやりかねぇ。そういう危うさが奴にはある!)」
「流石に淀みないな。洛山の攻撃は」
「赤司の一声で完全に立ち直った」
伊月先輩と木吉先輩がそう言う。
「だが、秀徳にもチャンスはある。いくら先が見えても、緑間のシュートは止められないはず」
日向先輩が言う。
そして再び、赤司と緑間が対峙する。
「残念だが、この試合は終わりだ。宣言しよう、おまえはもうボールに触れることすらできない」
「…なん、だと…?…不可能なのだよ、赤司。たとえ、お前のエンペラーアイでも俺たちのシュートは止められない!」
「確かにバスケットにおいて、高さは重要なファクターだ。一見、絶対に止められない。だが、教えてやろう。絶対は僕だ。僕には先が全て見えている。それを変えるなど、たやすいことだ」
そして和成にダブルチームがついた。
「そんぐらいしてくるくらい、分かってたつうーの。これくらいでテンパってて、真ちゃんの相棒が務まるかよ!……なめんじゃねぇよ!」
言い放つと、高尾は玲央と黛のダブルチームをかわした。
「かわした!?」
「しかも、緑間はモーションに入ってる!?」
「(完全に動き出してた…。高尾が抜くと信じてやがった…!)」
(緑間くん…和成…!!)
だからこのパスは征十郎によって止められてしまった。
なぜ止められたか簡潔に話す征十郎。
「(けど、俺の赤司のいる位置をフォークアイで認識してた。一歩速く動くくらいじゃ届かないはず!……!まさか、前半はわざとスピードを緩めていたのか!?真ちゃんもギリギリ気づかない範囲で…?)」
「まさか布石はすでにうたれていた、とはな」
緑間がそう言うと、赤司は言った。
「想定は超えていたが、想像を超えていた訳ではない。将棋でもバスケでも同じだ。いつも言っていただろう……相手に悟らせず、先を見据えてこその布石だ」
「終わりだ。真太郎」
アンクルブレイクをして、緑間を転ばせ、赤司はシュートを決めようとする。
「赤司ぃぃぃ!!」
緑間がそれを止めようと、転んだ体勢から手を伸ばす。
「改めて敬意を評する、真太郎。そして、秀徳高校。最後まで誰一人、闘志を失わなかった。…だが…届かない」
緑間が手を伸ばしたが、赤司のシュートに手が届かなかった。
試合終了の笛が鳴る。
ーーーーー眠れ、歴戦の王よ。
そして秀徳は洛山に敗退したのだった。