『第17章』灰崎と黄瀬
会場の入り口で帰ろうとしていると、青峰が立ち塞がった。
かつて仲間だった、中学のチームメイト。
俺が“あいつ”に遭遇しなければしていた行動を読んでいたのか、待ち伏せされてたのはオレの方だったってわけだ。
「………よお」
「…残念だったな、先回りしてたんだろうが、その必要はねェよ」
「…………みてえだな」
試合に負けた灰崎は、黄瀬に腹いせに仕掛けてくると思ったが、どうやらその感情は消え去ったらしい。
そんなことできるやつは、あいつしかいない。
「雫に会ったのか………いや、雫が止めにわざわざ行ったってのが正解か……考えてることはやっぱ同じだな」
「…ま、それで晴れてお前さんの出番はなくなったってわけだ。黄瀬のためにテメェの手汚さずすんでよかったなァ青峰」
「うるせーよ、……かつてのチームメイトが止めねェと、オメー止まらねえだろうからな。雫にはお見通しだったってわけだ………いや」
黄瀬以外の全員、誰か止めねぇとって思ってたんだろうな。
オレや雫だけではない。
紫原も緑間も、テツも……。そしてーーーーーー。
「…どーせ全部お見通しなんだろーよ。…救くわれたなんて思わねェ。一度は奪われたモンだ、取り返したらもう奪わせねーよ」
「……そうかい、そりゃ、よかったな」
そして灰崎は黄瀬を待つことなく、バッシュを手に持って帰って行った。
そして帰宅しようとした雫のほうも、近寄る影が一つあった。
『……征十郎』
「…灰崎に会ったみたいだな、無事か?」
なぜわかるのか?みていたのか?
そんなの愚問だ。
きっと今日の試合、いや、今回の大会で灰崎くんがいることを知っていた。
涼太くんとあたって、彼が負けて中学のときのことが事実になることもわかっていた。
そしてイラついた彼が涼太くんに手を出そうとすることも知った上で、放って置かない第三者の…かつての仲間を信じていてくれていたのか、きっと何もせずバスケを続ける選択を彼がすることも読んでいたのだろう。
どこまでも未来を見る、冷静に客観視する彼をどうやって倒したらいいんだろうか。
すべて手のひらの上で転がされているようだ。
「…雫の頭の中で思っていることが全てだ」
『…超能力でも持っているのかしら』
「灰崎に退部を勧めたのは僕だからね。責任として後の始末までしっかり考えていたさ」
『…涼太くんに負けて、逆上する彼を誰かしら止めると思っていたということ?』
その言葉に、征十郎は口元を引き上げ、笑みを浮かべた。
まるで、“その通りだ”と表情で訴えるように。
これがあの個性が強すぎるキセキの世代をまとめていた主将、赤司征十郎。
冷静沈着で、いつも未来をみている。
そして布石を打っている。それも、相手に悟らさないように。
私が誠凛に行くと決めた時に、彼はなんの未来をよんでいたのだろうか?
洛山にいくことを想定し、もう布石は打たれているのか?
これから戦うかもしれない強敵に、改めて身震いしそうになる。
『…明日はセミファイナル、征十郎は秀徳…緑間くんと和成とだね』
「もちろん応援してくれるのだろう?」
『…どっちにも勝って欲しいと思っているよ』
どっちにも勝ってほしい、負けて欲しくない。
征十郎を倒すのは、私たち誠凛でありたいから。
でも秀徳の強さ、緑間くんが征十郎に思っている気持ち、和成の中学時代負けた時からの努力を知っているからこそ、負けて欲しくない。
「僕が勝つのは絶対だ。そして、それは相手が真太郎でも涼太でも、テツヤだろうが変わることない」
『…勝利が当たり前のように言うものね』
「そして、雫を僕の元に戻すのもゆるがない事実、いずれ結果として現れるだろうね」
“楽しみにしているよ”
そう言って私の髪をすくい、口付けて征十郎は背を向け去って行った。