『第17章』灰崎と黄瀬






試合の後、なんと月バスから誠凛高校に取材したいとアポイントがあった。



みんな自然体で行こうって言っていたのに、日向先輩とリコさんは特に緊張しているようだ。



(…中学以来の取材だな…征十郎はいつも完璧に模範解答答えてたよなぁ…)



印象に残っている試合は?と聞かれ、キャプテンの日向先輩は強いて言うなら秀徳戦と答えた。


「うちはうちらしく、秀徳は秀徳らしい試合ができたと思います」


そのあと伊月さんがイーグルアイとウルグアイでかけてダジャレを言っていたりしたが、火神くんに取材対象が変わると、どれも全力でやってるだけなんで、と返す火神くん。

リコさんにも同じような質問をする。


「火神のステージがあがったと意味では、桐皇戦ですね」


そう、ゾーンに初めて入ることができ、同じ光である青峰に勝ったあの試合は、たしかに火神くんを大きく成長させたと思う。



「中学時代から、帝光の美人マネージャーで有名でしたよね?まさか誠凛高校にいたなんて、びっくりしたなぁ!……藍澤さんはどう思いますか?」


『そうですね、どの試合もみんなのステージアップには欠かせない試合だったと思います』


そして忘れられなかったテツヤくんも、火神くんと同じ返答を記者に返していた。









そして客席へ向かおうとしたとき、氷室さんがみえた。テツヤくんもみえたみたいで、火神くんにモヤモヤを伝えていた。



「ぼく、今ちょっとむかついてるんですけど」


テツヤくんが、氷室さんとの関係について、あのままでよかったのか?とそう聞く。

火神くん的には、苦渋の決断だったんだろうな…。本当は兄弟でいたかったと、強く思っていることだとおもう。
わたしは火神くんに捨てるよう言われたリングを差し出した。

火神くんはそれを見て、驚く。
捨てろと言ったはずなのにと。


『捨てるわけないでしょ?というかむしろ、あの時…捨てないでくれ、と言っているようにしか聞こえなかったけど…?』


「あの時の火神くんを否定するつもりはありません。けど、兄弟であることとライバルであること、その両方であり続ける事はそんなに難しい事ですか?」


『氷室さんだってさ、本当は兄弟としてのものを解消なんてしたくなかったはずだよ、きっと』

「ちゃんと仲直りしてください」



そして火神くんは氷室さんを追っかけに行った。



『火神くん一人でどっか行かれても困るし、着いていくね?涼太くんの試合始まるまでには戻るから!』



そしてわたしも火神くんを追いかけた。






まさか、ここで出会うはずない彼と再会するなんて、思いもよらなかった…。









「何してんだ! 誰だてめぇ!」


追いかけた火神くんを追いかけ、外で見つけた途端、火神くんの怒鳴り声が聞こえた。



「あれ?お前、さっきアツシに勝ってた奴じゃん?結構やるんだなァ」


(アツシ…!?紫原と知り合いなのか!?)



(…なんで、なんで灰崎くんが…ここに?)



アレックスさんが自力で灰崎くんから抜け出し、ほっとするが、変わらない態度に火神くんが灰崎くん相対しようするが、氷室さんが止める。


とめた氷室さんの身体にはあちこちにあざができていた。何があったんだ、とそう聞く火神くんに、氷室さんは急に絡まれたこととアレックスに手を出そうとしたのを止めただけ、そう話した。


ただの気まぐれという感じの理由に火神くんは不快感を感じざる負えない。
そして、灰崎くんは今度は火神くんに殴りかかる。寸前でよけるものの、火神はこいつはバスケを何とも思ってねぇと確信する。



『やめて!彼はわたしの仲間よ、手を出さないで………灰崎くん』



「雫!?なんでお前ここに!?ついてきたのか?」


「…へェ、久しぶりジャン?雫チャン?元気ぃ?つーかお前こそなんでテツヤと同じところ行ったわけ?もしかしてウワキ?」


「雫とも知り合い…ということは、帝光の!?」


『…バスケ、続けてたんだね』


「勘違いすんなよ?オレはただ、奪ってやろーって思っただけだぜ?」



そして灰崎くんはわたしに近づき、右手首を掴んで片手でわたしをひっぱりあげた。


「おい!てめぇ離せよ!!!」


「「シズク!!」」


『っ…だめ、火神くん…』
(手を出したら、だめ…)


「雫チャンさぁ、オレがお前と最後に話したときのセリフ、覚えてるわけェ?」




“同情なんてすんじゃねェ。今度会ったときこそ最後まで犯すかんな”





『…灰崎くん…これから試合でしょ?…アップしないと怪我するよ?』



「…はっ、テメェはいつもそうだ。いい子ちゃんで、偽善者で、傍観者だよなァ…いまでもあいつの言いなり人形なわけ?」


『…っい』


「離せって!!おい!!」


「離してもいいけどォ?力づくでやってみろよ」


『だめ、火神くん…平気だから。……っんん!』


私を少し下ろしたと思ったら、今度は顎を掴んで無理やりキスをしてきた。


「っ!!??てめえ!!」


『ふっ…っん…』



“バシっ!!!!”




急に突き飛ばされ、離れたと思ったら灰崎くん目掛けてボールが飛んできた。



「いきなり物騒じゃねーか、リョータァ」


「…久しぶりっスね、ショーゴくん。…雫っちに何してるんスか?離せよ」


灰崎くんは私を後ろから羽交い締めにしていて、いわゆる人質状態だ。試合前に何してるんだか。


「ハっ、別にリョータの女でもねぇだろ…あ、そっかァ、赤司に勝てなかったんだっけ?相変わらずお前は負け犬なのなァ」


「黄瀬、そいつと知り合いなのか!?」


「…名前は灰崎祥吾。オレが入部するまではスタメンだったやつッス。…そして、赤司っちにバスケ部を強制退部させられた選手ッスよ。実力あったけど、見ての通り暴力沙汰が絶えず、俺と入れ替わりで姿を消した。はずなんですけど?」


涼太くんは灰崎くんが戻って来たことに対して、「どういう風の吹き回しっスか?」とそう聞く。

灰崎くんは、「しいて理由を言うなら、ただのひまつぶしだ」とそう言い放った。
その言葉にその場にいた4人が驚く。

自分が辞めてから、キセキの世代というものが騒がれ始めた。だから、5人のうちの一人から技と座を奪っちまおうと思ったらしい。実力もあり、それに値する存在であるため、それは可能だと。


そして、涼太くんは一度も灰崎くんに勝ったことがなく、うやむやのまま5人目となった。そう彼は言った。





でも、あの時とはもう違うーーーーーーーーーー。




「状況はなんとなく分かるスけど、次の試合、どうしてもあいつとやらせてほしいんス。俺が責任もって倒すんで……。キセキの世代なんて名前にこだわりはない。昔、火神っちにそう言ったッスけど、それでも…あんたみたいなのにほいほいやるほど、安くうってねぇよショーゴくん」


「欲しくなったからよこせって言ってんだよバーカ…雫も、こいつはいつだって誰かのモノだろ?…奪いたくなんだよ、そーゆうのってさァ」




“人のモンって欲しくなるだろ?”





そして灰崎くんは私から離れた、ある一言を私にしか聞こえないように残しながら、戻っていった。






“あの時の言う通り、可哀想な目にあっただろ?”








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